帝都の裏組織
アビロア、という都市は、治安がいい。
帝国の各都市のすべてと比べても、抜群に治安がいい。
ここまで治安が良くなったのは、ここ数年の話だ。
理由はいくつかあるが、それは省く。
ともあれ、治安がいい。
例えば、裏町を女子供が一人で出歩いても、さらわれたりすることもない。
ただ、だからといって、裏組織がいない、というわけではない。
その組織が、とてもよく統制されている、というだけだ。
もっとも、だからこそ発生する、反抗勢力、というのもいる。
*****
「でえ? なんだあ? にげられたってえ?!」
「ひい・・・・・・!」
酒に焼けた、呂律の怪しいだみ声。
だが、そこに込められた怒気に、報告を上げた男はすくみ上る。
「ああ、しょうがねえなあ! おい?」
男を詰問していた声の主が立ち上がる。
その手から、酒瓶が投げられ、壁にぶつかって割れた。
「じゃあ、見つけてこいよお! なあ、おおいっ!!」
「ひい! はい!! はいぃっ!!」
「たくよお・・・・・・」
ばたばたと逃げていった部下たちを見送って、新しい酒瓶を手に取り、煽る。
口の端からばたばたと酒の雫が垂れるが、気にするそぶりもない。
「つかえねえええ」
「仕方ないさな」
「ああ?」
部屋の影から聞こえた声に、だみ声の主は目を向ける。
そこにいたのは、糸目で細身の男だ。
「ホワイトかあ? 何しにきたあ?」
「せめて、同格が来たときくらいは酒を置きませんか? ドリンク」
「おれのうちに勝手にきといてえ、勝手なこといってんじゃねええ」
「・・・・・・勝手、ですかねえ?」
やれやれ、とホワイトと呼ばれた糸目の男は、首を振る。
「まあいいです。それより、貴女、何を追っているんです?」
「ああ?」
うるさいねえええ、と、どん、と床へと酒瓶をたたきつけ、その巨体は立ち上がった。
それは、ブクブクと膨れ上がった、肥満な女だ。
腹周りだけで、糸目の男を十人は束ねるほどにある。
身長に至っては、糸目の男の倍ほど。
決して小さくはないはずの部屋が、ドリンクと呼ばれた女が立ち上がっただけで、ぐっと狭くなった。
「おれのシマで取引してたもんを、勝手に持ってたやつがいるんだよお! おれらの商売、舐められたらしまいだろうがああ!!」
その咆哮にも似た大声に、びりびりと部屋が震えた。
「ああ、なるほど。それで・・・・・・」
「それより、てめえこそ、何しにきやがったああ?!」
「その、貴女の部下が、私のシマで騒いだので、文句を言いに来たんですよ」
「ああん?」
「といっても、よほど慌てていたのか、私の店の女を何人か突き飛ばして、怪我をさせてしまったくらいですがね」
「そいつは、悪かったねえ? あんたのことだあ。もうとっつかまえてんだろお? 好きにしていいよお」
「ええ。許可をいただけた以上は、好きにさせていただきますよ」
それより、とホワイトは、背中に隠していた酒瓶を一つ、ドリンクへと投げた。
「おお。すまないねえ。めーわくかけたのは、こっちだってのにい」
「構いませんよ。上に、もう十樽ほど持ってきてあります。受け取ってください」
「でえ? ただ、酒持って来たってえわけじゃああ、ないだろおお? なんのようだあい?」
「これでも、私は同格である貴女とは、それなりに仲良くしておきたいのですよ。シマも隣同士ですしね」
「ああ?」
「貴女の探し物ですが、どうやら帝都を出たようですよ?」
「・・・・・・そうなのかいいい?」
「ええ。実は、もう一つ、その貴女の探し物ですが、どうも、私のところにも砂をかけていったようでしてねえ」
「ああ、そうかあい? で? そいつらあ、どこへ?」
「帝都を出た後、どうやらアビロアへと向かったようです」
「あびろあああ?」
ホワイトは、顔をしかめた。
「厄介な土地ですよ」
「ああ、面倒だねえ」
よっこらせ、とドリンクは立ち上がる。
「じゃあ、いくとするかあ」
「おや、行くのですか?」
「言ったろお? おれらの商売は、舐められたらしまいなんだよおお!!」
「・・・・・・わかりました」
ふう、とホワイトは道を開ける。
「貴女のシマは、私のところで面倒を見ておきますよ」
「ははあ! 好きにしなあ!? 帰ってきたときに無くなってたって、かまやしねえよお」
どうせ、
「また、取るしなあ!!」
がっはっは、と笑いながら、壁を壊し、ドリンクは部屋を出ていった。
*****
「やれやれ・・・・・・」
ドリンクが開けていった穴を見て、ホワイトは嘆息する。
「そんな恐ろしいことはしませんよ」
あれで、腕っぷしだけで、この一帯をまとめている女だ。
個人での戦闘力なら、おそらくは帝都の裏組織全体の中でも、随一。
ホワイトとしては、配下全員の力を合わせても、ケンカしたくない相手である。
「さて・・・・・・」
部屋から出ると、ホワイトの配下がそこに並んでいた。
「よし。では、指示は事前に出した通りだ」
「はい」
「わかっていると思うが、ここは、荒らすなよ?」
「いいんですか?」
「やめろ。他はともかく、あの女だけは敵にするな。被害が馬鹿にならん」
「はい」
ホワイトは、部下たちを散らし、
「・・・・・・さて、しばらく、荒れますかねえ」
やれやれ、とため息を吐いた。
・都市の治安
帝国の裏組織の多くは、大体非合法組織。
ただ、存在することによって、都市内部での犯罪の統制も行われており、それによって保たれている秩序もある。
この裏組織の質によって、都市の治安の質が変わる、と言ってもいい。
裏組織の質が悪いなら、表通り以外はひどいことになる。
都市の統治者は、これらの裏組織をいかにうまく制御するかが、都市の運営の腕の見せ所、となる。
ちなみに、アビロアはかなり特殊で、選帝侯である『金鎧』のジャン=ルイがいるため、そこらへんはかなり無茶が効くこともあって、裏組織はかなりきれい。
ジャン=ルイによって、超法規的な手段で汚い裏組織は根こそぎ壊滅しているため。
なお、その調査の裏には、とある『魔眼』を使う冒険者の活躍があったとかなかったとか。
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別のも書いてます
『竜殺しの国の異邦人』
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