仕事が終われば
ジェシカ達がホームへと戻ったのは、それから三日後のことである。
『虹の飛島』は、ホームに保管庫がある。
保管庫は、かつて手に入れた異界核を利用して作られた品だ。
ほぼ無制限にものが入るし、内容物は劣化しない。
採取したばかりの薬草でも、中に入れておけば、品質の劣化は防ぐことができる。
加えて、ルディランズが作った魔道具によって、遠隔からでもものの出し入れができるようになっている。
ジェシカ達が採取した薬草類は、すべてそうして保管庫に転送されていた。
だから、ゆっくりと時間をかけて採取ができるし、帰ってくるのも急がなくていい。
「ただいまー」
ジェシカが、ホームの扉を開け、中に入る。
中の掃除をしていたエリーナが顔を上げて、ジェシカを出迎えた。
「あら、お帰りなさい」
「エリーナさん」
エリーナは、『虹の飛島』のサポートチームのリーダーだ。
クランにする前。
まだ、『虹の飛島』がパーティーの集まりであるチームであった時から、ホームの管理をお願いしていた女性である。
それだけに、ジェシカ達とは付き合いが長い。
「保管庫に、結構いろいろ送ったみたいですね」
「薬草は、大体全部マルコのよ。あとは、魔獣とかモンスターだけ解体しないと」
「ふふ。トムさんが、いろいろ手を出してましたよ?」
「え? マジ? だとすると、今日は肉ね」
トム、というのは、ホームのキッチンを担当する男性だ。
食材の仕入れから、保存食の生産など、食糧関連を一手に担っている。
そのトムが解体をしている、というなら、それは料理の素材だろう。
仕事を終えて戻ってきて、おいしいごはんならテンションも上がる。
やっほう、と喜んでいるジェシカに微笑みを向け、
「ではリーダー?」
「はい?」
「汚れた体で床を汚さないように、さっさとお風呂行って、体と服と洗ってきてください」
「・・・・・・はーい」
ぴし、とホームの奥を指さされ、ジェシカは肩を落として、浴場へと向かった。
*****
「たでーま」
「あらルディ」
「お? ジェシカ。帰ってたんか」
「まあね」
ルディランズは、ホームへと来ていた。
風呂上りのジェシカが、軽装のままカップから水を飲んでいる。
「依頼帰りか」
「そういうあんた。どうなの?」
「何が?」
「依頼。なんか行ってるのかって」
「アルバイトならしてきた」
ははは、と笑う。
実際、ルディランズは、魔王討伐戦以降は、依頼は受けていない。
ルディランズとブレアの二人しかいないのもあるが、準備を整えないまま、というのは、それなりに不安があるからだ。
「それに、ブレアをちょっと討伐に出したりとかしてるぞ?」
「そうなの?」
「ああ。アガットがちょっと行ってくるっていうから、預けた」
「・・・・・・それであんた一人なの」
自分の奴隷を他人に預けるとか、どうなの、とジェシカは思うが、ルディランズはからからと笑うだけだ。
「無責任な」
「何を言うか。魔王の時のブレアの動きは見たろ?」
「あんた。知ってたの?」
「まさか。あそこまでとは思ってなかった」
実際、獣人種特有の格闘術だが、ブレアがあそこまで戦える、というのは、いい意味で予想外だった。
ルディランズは、いい買い物をした、とほくほくしている。
「・・・・・・ちょっと気になるんだけどさ」
「なんだ?」
「あの子。ちょっと重くない?」
「俺でも片手で持ちあがるくらいだが?」
「そういう意味でなく」
忠誠、と呼んでいいのかもしれないが、ブレアはこの短い間に、ずいぶんとルディランズに心酔しているように見えた。
よくなついている、ともいえる。
「何やったのよ?」
「さあ? 俺の生来の魅力?」
「それはない」
「ひでえな」
くっくっく、とルディランズは苦笑する。
ただ、
「まあ、あんまり幸福な境遇じゃないからな。そこに、原因の理解と解決をやった奴が現れれば、多少の心酔はしょうがないんじゃないの?」
「他人事ねえ・・・・・・」
「客観的な見方だろ?」
ルディランズは、肩をすくめる。
「そっちは?」
「マルコが、薬草が足りないから補充したいってね」
「ああ、薬草ね。・・・・・・あっちの森かな?」
「そう」
そうか、とうなづき、ルディランズは奥へと進んで声を上げる。
「マルコー?」
「・・・・・・なんだべ?」
ひょこ、とマルコが顔を出したのは、調合室である。
「お。処理中か」
「だべ。数多いから、手伝ってくれると嬉しいだ」
「おう。俺も、仕入れて来たのを片付けたいしな」
「ほう? 何か採ってきただか」
「いや、デニスの爺さんのとこでな。ちょっとレアなのを仕入れて来た」
「ほう。そりゃ楽しみだべ」
ルディランズと目を合わせたマルコは、にやり、と笑う。
「俺としては、魔力薬増やしておきたいんだよな」
「それもいいが、回復ポーションの在庫が少ないだよ」
「そうなのか?」
「魔王戦でなくなったのもそうだけど、やっぱパーティー編成変えたからなあ。連携の確認やらなんやらで、まだみんな怪我が多いだ」
「そうか。まあ、確かになあ」
「それに、バフ薬もだ」
「何が足りない?」
「耐性ポーションだよ。あれ、効果時間短いでな」
「・・・・・・連携がうまくいかないから、一回の戦闘時間が延びてるってことか」
「だなあ」
薬の消費状況でも、色々見えるもんだね、とルディランズは苦笑しながら、薬草の仕分けと処理の手を進めるのだった。
・耐性ポーション
使用者に、特定属性の耐性を付与するポーション。
薬草の調合だけではなく、そこに込める力の性質などでも効果が変わる。
ポーションなので、飲んで使うのが普通。
単純な薬効ではなく、魔力を使って作る、魔道具に近い。
極めて高い効果の耐火ポーションなら、マグマの中も歩けるという。
ただ、一時的なバフなので、効果時間は結構短いものが多い。
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別のも書いてます
『竜殺しの国の異邦人』
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