表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/197

後のこと

「ほっほっほ。青いのう」


 デニスは、並べられた薬草束を分類し、整理しながら、笑う。

 そんなデニスに、カーテンに隠された影から若い男の声がかかった。


「新人には優しくしてやれよ。じいさん」

「何を言うか若造。損はさせとらんぞ?」

「よく言う・・・・・・」


 若い男の声は、呆れたように息を吐いた。

 その手元で、かちゃかちゃと音がするのは、何か器具を動かしているからだろう。


「商人に直接採取物を売買しちまうと、協会での功績としては評価されない。新人なら、多少安くなっても協会に売った方が、後々いいことは多いってのに」

「ほほ。買い叩いておらんだけ、儂は優しいじゃろ?」


 好々爺のような笑みで、穏やかに笑うデニスだが、


「買い叩きもいいところじゃねえか。一本だけ、レア薬草混じってたろ」

「ほう。相変わらず、よい目じゃのう? 『百識』。カーテンの裏からでも見えておったか」


 薬草の分類を終え、

 ふ、とデニスがカーテンを開けると、その奥の空間で、並べられた試験管の列に目を向けるルディランズがいた。


「どうじゃの?」

「だめだな。結果のばらつきが大きすぎる。魔力の定着率がばらばらにすぎて、結果が安定してない」

「ふうむ。やはり、エリナシの調合比率の問題かのう?」

「溶媒に使っているクェル油の方じゃないか? あれ、鉱物油だろう? 成分に魔力の蓄積性質があるんじゃないだろうか?」

「ほう」

「それが、調合過程の加熱処理の時に、変質して、魔力の蓄積量が変わって、効果を不安定にしている、とか?」

「なるほどのう・・・・・・」


 二人で実験結果について、あれこれと言い合い、記録を取っていく。

 ルディランズがどうしてここにいるか、と言えば、端的に言うと、アルバイトである。

 『魔眼』を使えるルディランズは、場合によっては、測定機械を使うより詳細で多様なデータを観測することができる。

 デニスは以前から、ルディランズのその力に目をつけて、こまごまとした実験の計測を頼んでくるのだ。

 ルディランズとしても、一般には流通しない希少な薬草なんかを分けてもらえるので、基本的に快く協力している。


「しっかし、新人相手にあこぎな商売すんなよな」

「何を言うか。儂はもう引退した身じゃぞ? 老い先短い身で、老後のか細い蓄えからようよう依頼を出しとるんじゃからな」


 よよよ、と泣き崩れたような動きをするが、ルディランズからしてみると、とても嘘くさい。

 まあ、わざとそういう風に見えるようにふるまっているんだろう。

 デニスは、薬師としての功績は、多少ポーションの流通を解消した程度の話だが、商会の主としては、かなりのやり手である。


「本気でやったらかなわんから、俺は、さっさと行くとするよ、と」

「ほほう。そうかの」


 適当に、必要な薬草をいくらかもらって、ルディランズはデニスの工房をあとにした。



*****



「エレナさん。もらってきました」

「はい。確認しますね」


 依頼書をエレナに提出すると、エレナはそれを受け取り、内容を確認する。


「はい。問題ありません。それでは、報酬です」

「やった!」

「どうします? 今全部持っていきますか?」

「半分ください」

「はい」


 冒険者協会では、報酬を預かっておいてくれる。

 銀行は別にあるし、そちらへ送金することもできるが、使うときまで預けておく、というやり方でも問題ない。

 冒険者協会に協力している店舗なら、冒険者協会に預けてある報酬から、支払いもできる。

 ただ、現金を別に持ってきて預ける、というのはできない。

 あくまでも、依頼の報酬を一時的に預かっている、というていである。


「そういえば、他には何か採取してこなかったんですか? もしよければ買い取りますが」

「あ。それなら、依頼主の方で買い取ってくれました」

「・・・・・・あら」


 エミリーが笑顔で答えたので、エレナは驚いて、思わず口に手を当てた。

 その仕草と表情が気になったのか、エミリーが不安げな様子で、エレナに問いかける。


「あの、何か、問題ありますか?」

「ああ、いえ。問題か、と言われると、なんとも・・・・・・」


 ううん、とエレナは言葉に迷う。

 一応、冒険者が商人と直接交渉をすることに関して、冒険者協会から介入することはできない。

 そういった直接交渉で、安く買いたたかれようが、あるいは、高値で売りつけられようが、それは全部冒険者の自己責任だ。

 ただ、


「ちなみに、いくらでした?」

「ええっと・・・・・・」


 買取金額などを伝えると、エレナはやはり、ううん、と微妙な顔で首を傾げた。


「何か?」

「いえ。大体相場通りだなあ、と。冒険者協会で売却すると、手数料が引かれるので、その分だけ高く売れた、と見ることもできますが・・・・・・」

「じゃあ、お得じゃないんですか?」

「ただ、冒険者としてなら、協会に売ってくれた方が功績扱いになるので、長い目で見るとお得なところもありますねえ」

「え」


 エミリーは、がん、とショックを受けている。

 それを見て、言葉を飲み込んだ。

 デニスは常識人ではあるが、それはそれとして、商人でもある。

 例えば、採取してきた薬草類の中に、見分けがつきにくいレアな薬草があったとして、何も言わずに薬草の値段で引き取るくらいは、やりかねない。

 間に冒険者協会が入っているならともかく、直接の交渉の場合は、これも自己責任、である。


「それに、直接交渉の場合、買いたたかれても文句は言えません。デニスさんは、今回相場で買い取ってくれたみたいですが、すべての相手がそうしてくれる、とは限りませんからね?」


 この程度にとどめておく。

 あまり深入りしても、結局はロクなことにならない。


「むむ・・・・・・」


 どっちがいいのか、というのを、自分の頭で考える、ということが大事だ。

 だから、


「とにかく、依頼はこれで終わりです。お疲れさまでした」

「・・・・・・はい」


 エミリーは、どこか納得いかない顔をしつつも、頷くのだった。

・素材の性質

薬草に限らず、この世界で採取できる素材、というのは、大なり小なり環境の影響を受け、様々な性質を持つ。

鉱物類の場合は、近くに竜種が住んでいると、その竜種の影響を受けた力を得る。

作中に出ているクェル油、というのは、鉱物油だが、近くにある鉱物の属性の影響を受けるため、採取した地域や地層の状況によって、さまざまな性質を持つことがある。

こういった性質の変化はどんなものにでもあるため、均一な品質の素材を手に入れる、というのは、非常に難度が高い。

一定の品質で採取するために、栽培技術を確立したり、錬金術などで性質そのものを均一化する研究も進められている。

一方で、こういった性質のばらつきを見切って、狙った効能の品を作り出すことこそ、生産職の腕の見せ所、ともいえる。



------------------------------------------------------------------

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


別のも書いてます

『竜殺しの国の異邦人』

https://ncode.syosetu.com/n0793he/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ