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 アタシ達五人は、ノリンさんを先頭にして夜の森を進んでいく。もう月明りも頼りない程に深く森林の中に入りこんでいるというのに周りの景色がよく分かる。吸血鬼とは、やはり夜に生きる種族なのだと改めて実感した。


 しばらくは黙々と歩いていたのだが、その内にフィフスドル君が口を開いた。


「ところで、ノリン」

「なんじゃ?」

「いつの間にか貴様を先頭にして歩いているが、どこに向かっている?」

「近くの町か村じゃい。何をするにしても人気のあるところに行かんとな」

「え? でも何でノリンさんはこっちに町があるって分かるの?」

「あるという確証はない」

「当て推量だったのか!?」

「いや。根拠はあるぞい」

「ん~? どんな?」


 チカちゃんに尋ねられたノリンさんはピンっと自分の右を指さした。


「さっき城から逃げ出した時、出口の脇に川が流れていた」

「それが?」

「川は今向かっている方向に流れている。それが根拠じゃ」


 アタシ達は全員が顔を見合わせた。頭の中でイコールが繋がらないのだ。


 更にかみ砕いて説明してもらうようにお願いする。


「城の維持には当然、金や人や食べ物がいる。全容は知らんがあれだけ大きな城であれば城下に町がなければ成り立たん。物を運ぶのは近い方がいいからの」

「それで?」

「城というのは、まず防御を真っ先に考えて作る。あの城も川沿いに造って四方の内、一つを潰していた。そして往々にして界隈でも高い場所に築くものじゃ。守りやすく攻めにくいからのう。ともすれば町は必然的に城よりも低い場所にある。だからさっきから坂を下っとる」


 アタシは何となく話の先が見えてきた気がした。


「水は生活の基本。人はまず水場の近くに住処を求める。更に言えば城の連中は水を穢されるのも嫌がるじゃろうからな、川上に町があるとは考えにくい。今のところ一番可能性の高い方向に歩いているという訳じゃ」

「はえ~なるほど~」


 チカちゃんは感嘆の声を出した。それはアタシも同じだ。この状況でここまで冷静に分析できているノリンさんの株がまた一つ上がった。


 その時、フィフスドル君がちょっと面白くなさそうな顔になっている事にアタシは気が付かなかった。


「…しかし、ナナシはともかく三人は流浪や野良仕事とは無縁の生活をきたようじゃな。そもそも平らな地面しか歩いた事がないのではないか?」

「そんな事も分かるんですか?」

「うむ。三人ともまるで山歩きに慣れておらん」

「確かに…あんまり運動はしてないかな」

「チカもこんなに草の上を歩いたことなーい」

「外を移動するときは乗り物だろう、普通は」


 するとアタシはふとした疑問が浮かんだ。そして思ったままの事を口にした。


「あれ? でも吸血鬼なんだから飛べばいいんじゃないの?」

「歩くより飛ぶ方が体力使うんだよ。後どのくらいで着くか分からないから、歩いてるのが一番マシ~」

「なるほどね」


 そんな会話をしつつ、やはりノリンさんを先頭にしてアタシ達は歩き続けた。それから一時間くらい経った頃だろうか。


 アタシ、チカちゃん、そしてフィフスドル君の順で徐々に足の動きが鈍ってきた。やっぱり森の中、しかも坂を下っている訳だから体力の消耗が尋常ではなかった。反対にノリンさんとナナシ君は疲れ知らずというくらいペースが変わらない。


 そろそろ休憩が欲しい…。


 なんて思ったタイミングでノリンさんが小休止を申し出てくれた。すごいな、この人。めちゃくちゃこっちの様子を気にしてくれているみたい。


「今思ったんだけど、普通に川沿いとか道なりに進んだ方が良かったんじゃないですか。わざわざ森じゃなくて」

「城の連中も同じことを思うだろう。あの怯えようだ、吸血鬼が四人も野に解かれたと思ったら血眼になって探すはず。町に繋がる表街道を通るのは悪手」

「ほう、その通りじゃ坊主、中々の達見」

「ふふん。当然だ…それはそうと坊主は止めろ!」

「あ、おい。ナナシ、あまり遠くに行くでないぞ」

「ワカッタ」

「僕の話を聞け!!」


 休憩中だと言うのにボーイズは元気な事この上ない。


 アタシとチカちゃんは大人しく木を背もたれにして息を整えていた。


「ああ、疲れた~」

「本当にね。チカちゃんせっかく可愛い服着てるのに」

「架純さんだって」

「アハハ…アタシはどっちかというと服に着られてるんだけどね」

「ま、そういうドレスは見た目が大事で機能性はないもんね~。動きにくいし。しかもコルセットもしてるんじゃない?」


 アタシは少し驚いた。こんな服、向こうの世界にいた時はつけたこともなかったから、着てみるまでまるで勝手が分からなかった。けれどもチカちゃんはそうではないらしい。少なくともこのくらいのドレスを着た経験があるらしい。


「チカちゃんって、結構なお嬢様だったりするの?」

「あ~。実家は…ま、お金持ちかな。何百年って金融業をやってたから」

「へえ。ウチは普通のサラリーマン家庭だよ」

「サラリーマンっていうのが何なのか分からないけど」

「チカちゃんのいた世界…ヱデンキアだっけ? どんなところなの?」

「う~んとね。なんて言っていいか分からないけど、とりあえずこんな森はないよ」

「え? 森がないの?」

「自然公園みたいな森林とか街路樹はあるけどね。もう世界中の隅から隅まで手が入っていて、自然は残ってないの。全部どっかのギルドが整備を担当してて~。世界が一個の街になってるって感じ。だからこんなに人気のないところって初めて」

「…想像もつかないけど。面白そう」

「ふふっ。できれば香澄さんも案内したいな。帰れるんだとしたら、自由に行き来できたりしたら面白いのにね」

「アハハ。そうだね」


 そうしてチカちゃんの故郷の話を聞いていると、カサカサと音がした。


 見れば猫になったナナシ君がアタシに近づいてくるところだった。ナナシ君はそのままアタシに擦り寄ってくるので、思わず抱きかかえてモフモフムニムニしてしまう。すると呟くように言った。


「どうかしたの? ナナシ君」

「ムコウ。アカリミツケタ」

「え!?」


 その声はフィフスドル君とノリンさんにも届いていたようで、すぐにアタシ達のところに集まってくる。


「ソコノイワ。コエタトコ」

「でかしたぞ、ナナシ。恐らくはそこが町じゃろうて」


 この町が近くにある。


 そう聞いただけで全員の疲れが吹っ飛んだ。


 猫ナナシ君を先導にして、駆け足気味でその岩とやらを目指す。チカちゃんとフィフスドル君に至ってはもう空中に浮かび上がってしまっていた。ずるい。


 すると飛ぶ事できず、山歩きにもなれていないアタシが必然的にビリになってしまった。置いて行かれないように駆け足になったが、四人は例の岩に差し掛かった辺りで止まってくれたので追いつくことができた。


 ひょいと四人の背中から前の景色を展望する。


 すると森を抜けた先の麓に鮮明な明かりを灯す、大きな町の姿が目に飛び込んできたのだった。


読んで頂きありがとうございます。


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