8.食事タイム-三人で食事を-
全48話予定です
毎日2話更新はちょっとしんどいので、日曜~木曜は1話(18:00)ずつ、金曜と土曜は2話(18:00と19:00)をアップ予定です(例外あり)
この時間の食堂は、ひとしきり食事タイムの波も去って穏やかである。
兵士、と一口にしてみても何も全員が戦闘に出でいる訳ではない。事務職のものもいたり、待機しているものもいたりする。昼間は若干時間のズレを設けてはあるものの、やはり皆が一斉に食事を摂るわけだが、それこそカズたちのようにちょうど昼間に戦闘してました、なんてのもいる。
なので厨房は昼が終わったから後片付けして終わり、という訳にはいかない。その証拠に、もう昼も過ぎた三時を回ろうかとしている今も開設しているのだ。
この食堂、というか仮設のテント、といったほうが良さそうな施設は他の施設と比べても急造感が否めない。それはそうだ、前述のとおり一週間前までここは敵地だったのだから。今はその敵地の施設を接収して使用しているのだが、それまでは当然戦闘が行われていた場所である。残った施設のすべてが無事、という訳ではない。現に食堂はこうやってテントを使用しているのだ。
兵士は基本、男性がほとんどだが、事務職はと言えば大半を女性が占めている。だからレイドライバーのパイロットというのはそれだけ特徴的であるともいえる。少数とはいえ、最前線に女性が出ているのだから。
そして機密扱い、とはいえ同じ空間で毎日食事を摂ってればそれとなく何となく噂になるものである。
「おっ、うちのエース。帰って来たね?」
この厨房は皆が女性である。その中でもいわゆる[おばちゃん]と呼ばれる中年女性がカウンターのところにいて外、中共に仕切っている。
「お疲れ様です、カルラさん。ランチ、まだあります?」
クリスがそう聞くと、
「おうさ、もちろん。人数分でいいかい?」
と聞かれるので[お願いします]と続けて、食事受け取り用のカウンターの前でしばらく待つ。すると、見事にものの数分、いや一分足らずでで食事が[はいよっ]という声とともにトレイに乗せられて出てくる。出てくる時間も早いが、その動きは決して雑という訳ではない。熟練された者のみがなしえる早業だろう。
どうやら、今日はカレーとサラダらしい。スプーンとフォークがあるのを各自確認してから空いている席に座る。
「いただきます」
声をそろえて食事につく。
「本当に久しぶりだね、こうして三人で食べるのって。今日は天気も穏やかだから風も入ってこないし食べやすいね」
レイリアがそう言うと、
「久しぶりですね。本当はトリシャさんも一緒だとなおいいのですが」
まだその事を引きずっているらしい。
「まぁ、群れるのを極力嫌うトリシャだしな。でも、あれでチームを維持していられるのが不思議だよ」
「ほんと、それね。一緒に来ればいいのに」
「しかし、今日も無事に帰って来られたな。食事が旨いよ」
カズがそう言いながらカレーをほおばる。
「ええ、本当に」
クリスが同調する。その姿は傍から見ていると長年連れだった夫と妻、そんな感じにも見える。そう、レイリアには少なくともそう見えたのだろう。
「クリスはいつもカズと一緒に食事をしてるの?」
と聞いたのだ。その質問は純粋な疑問から出たものなのだろうが、クリスを動揺させるには十分だった。
「そ、そんな、毎日っていうほどではないですけどね、時間が合ったときはできるだけご一緒させて頂いてますよ」
と返したその[ご一緒]が引っ掛かったのだろう、
「ねぇ、クリスは男の人苦手のはずだけど、カズは平気なの?」
「え、ええ、中尉は大丈夫なんです。昔助けてもらった事があって」
クリスはカズ本人を前にして、話題が自分とカズに向けられている事に明らかに動揺しているようだ。
そこへ、
「もしかして、カズの事が好きなの?」
レイリアは本当に純粋な子だ。隠し事の出来ない子がそのまま大人の姿になったかのようなその言動に二人とも驚いた。
が、驚き方が違ったようだ。
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