3.あっ、キレたな-この戦場は勝ったのだ-
全48話予定です
毎日2話更新はちょっとしんどいので、日曜~木曜は1話(18:00)ずつ、金曜と土曜は2話(18:00と19:00)をアップ予定です(例外あり)
そうしているうちに、先程の一発は計測弾なのだろう。弾道修正されたであろう一斉射撃が飛んで来る。
「みんな散開しろ」
カズがそう言う前に既に皆が行動に出ていた。幸いにも機動力はこちらに分がある。直撃はその場にいたカズとクリス、それぞれが避けられていた。だが、数十両の一斉射撃である。ちょうど皆より後ろ、つまり敵に一番近かったゼロワンは肩と脇腹に一発ずつ喰らってしまったのだ。
「この、よくもやったなぁ!」
――あっ、キレたな。こうなると手が付けられないんだよな。
レイリアは一言放つと、隊長のカズが彼女に次の指示を出す前に敵車両軍に向かって突っ込んでいた。
「ゼロワン、それは無茶ですよ!」
クリスがそう付け加えるが、もう聞いてはいまい。手当たり次第にマシンガンを発砲している。
「ゼロツー!」
カズが指示を出すが、
「あんな深くに突っ込まれてはゼロワンに当てかねない。中心部の狙撃は無理よ、無理」
そう言いながら側面に展開しようとしている車両を狙撃で仕留める。が、いかんせん数が多い。カズ、クリスが追うが、乱戦の様相を呈してきた。
「ゼロワン、一旦引け! 聞いてるのか?」
「よくも、よくもこのあたしに当てたなぁ!」
どうやら弾を、それも自分たちの持つ兵器からすれば旧世代の兵器から喰らったのが癪に障ったのだろう、こちらの無線も聞いていないようだ。
――こりゃ参ったな、何とかして立て直さないと。
「ゼロスリーは右側に、ゼロツーは左射線を頼む。俺はゼロワンをカバーする」
「了解」
そろった声がインカム越しに聞こえる。
確かに機動力はこちらに分があるとはいえ、この数である。主砲以外の弾もゼロワンを集中砲火していた。そのうち何発かは実際に被弾している。レイドライバーは、前述のとおり人型をしているので機動性は圧倒的である。だが、装甲に関しては、その機動性を確保する故の代償として軽装である。
実際にゼロワンが被弾した肩の腕はほとんど自由が利かない状態になっており、脇腹の銃創も姿勢制御に支障をきたすようになっていた。そこへ、大小様々な弾丸の洗礼である。カズがサポートに回る頃には足や背中にも被弾しており、自慢の機動力も沈黙失われつつある。
「レイリア! 一度引けって! 俺がカバーするから」
思わず名前で再度声をかけるが、
「……くも、やったなぁ、よくもあたしに当てたなあ!」
そればかりを繰り返すのみである。
それを見かねて、
「レイリア、リミッターだけは外すなよ」
と言ってから、カズは[あっ、しまった]と思う。
沈黙しかかっていたゼロワンの機体は、息を吹き返したのだ。いや、息を吹き返したというよりは、人間でいうところの最期の力、というやつか。自分の機体に群がるようにしていた車両群を次々に、しかも的確に砲塔を狙って射撃し始めた。しかも特筆すべきなのはその速度である。沈黙寸前だったその機体とは別のものではないかというような機敏な、しかも的確な動きをしたのである。
――バカ、本当に外しやがって。あとでヤマニさんにどやされるぞ。
そんな事を考えながらカズはゼロワンの背後のカバーに入る。だが、その的確さは、キレている人間にしては圧倒的である。おそらく、リミッターを外すというのが身体的な運動能力や射撃補正能力も上げるのだろう。
ゼロワンが突入して十分経つかどうか位で戦闘は終結した。
敵戦力は全滅、おそらく生存者もこの様子ではいないだろう。実際のところ、車両群から這い出してくるような人影もない。的確な射撃のせいもあるが、それほど各車両からは勢いよく炎が上がっている。敵の新兵器と呼べる、件のシートとやらもこの炎上では持ち帰る事は出来ないだろう。
対して、こちらの損害は、レイリアの乗るレイドライバーのみである。
元々戦場から距離のあるゼロツーは別として、カバーに入ったゼロゼロ、ゼロスリーへの損害はほとんどない。確かに、各レイドライバーとも若干の流れ弾を喰らったが、主砲の直撃弾を喰らって行動不能になる、というほどではない。だが、レイリアの機体はあちらこちらに弾が当たっており、立っているのがやっとである。
「ったく、無茶しやがって」
ゼロスリーへ周りの警戒を指示して、カズは自分のレイドライバーから降りてレイリアのもとに向かう。途中、案の定というべきか、レイリアの機体は膝から崩れてその場にへたり込んでしまった。胴体のコックピット部分の脇にあるスイッチを操作して、操縦席にコンタクトする。プシューっと音を立ててハッチは開放し、中で内股でへばっているレイリアが見えた。どうやら完全に腰が抜けているようである。
「あ、カズ……ゼロゼロ。ごめんなさい、レイドライバー壊しちゃった」
やっと我に返ったのだろう。今まで自分がやった事に謝罪をする。
「レイリアはさ、ちょっと無茶しすぎだ。もっと周りを見ろよ。クリスや俺もいただろう。俺たちは四人で一個集団だ、つまりひとつの単位なんだ。それを……まあいいや、とりあえず帰投するぞ」
「了解です」
そう言うと、レイリアはハッチを閉めた。
「ゼロツー、合流だ。ゼロワンの片側持ってくれ。もう半分は俺が抱えるから。ゼロスリーは引き続き周辺警戒を頼む」
「えーっ、何で私が敗軍の将を助けなきゃならないのよー」
インカム越しに明らかな不満の声が聞こえてくる。
「敗軍の将じゃあないだろ? ちゃんと仕留めたじゃあないか。まぁ、軍事機密をこんなにしちゃったけどさ。それにきみの武装では周辺警戒できないでしょ?」
「だからぁ、それが問題なんでしょ? それに、やろうと思えばハンドガン持ってるんだし出来ますぅ」
もっともである。
が、
「怒られるのは俺の仕事だから。なっ?」
むー、といううめき声の後、
「了解ぁーい」
と返ってきた。
とりあえず、何はともあれこの戦場は勝ったのだ。
全48話予定です