17.主任、トイレに行ってきてもいいですか?-腕につけているものをよく見せてください-
全48話予定です
日曜~木曜は1話(18:00)ずつ、金曜と土曜は2話(18:00と19:00)をアップ予定です(例外あり)
捕虜から情報を聞いたカズの姿はレイドライバーの格納デッキにあった。
カズとヤマニとキーガンの三人で、残存勢力の掃討に関してレイドライバーの兵装について話をしていた。そんな中ふと、
「主任、トイレに行ってきてもいいですか?」
キーガンがヤマニにそう問いかける。
「ああ、行ってこい。ただし、終わったらすぐ戻るんだぞ」
「了解しました」
そう言ってキーガンは整備ドックを出ていった。
それから間もなく、
「じゃあ、ヤマニさん」
カズかそう言うと、曇った顔つきのヤマニが、
「そうだな、行くか。違うといいんだが……」
ともらす。そして二人で、あるところに向かう。
一方キーガンはというと、いつも使っているトイレの裏側に回っていた。そこで辺りを見回して誰もいない事を確認してから、左腕にしている時計のリューズを引っ張った。すると文字盤が跳ね上がり、中から通信機らしきものが顔をのぞかせる。それに向かってキーガンが話そうとしたその時、
「そこまでです、キーガン大尉」
キーガンがはっと後ろを振り返って見ると、そこには銃を構えた警備兵と、ヤマニとカズが立っていた。
とっさに左手首に手をやると数回さすって、
「ど、どうしたんだ? 警備の人間まで連れて来て」
明らかに動揺している。
そんなキーガンにカズは、
「その、腕につけているものをよく見せてください」
あくまで冷静にそう告げた。
「腕にって、時計くらいしかつけていないが」
「その時計を見せろ、と言っているんですよ」
カズのその声は変わらない。キーガンは動揺を隠しきれずに、それでも、
「嫌だ、と言ったら?」
と聞いた。その答えは、
「貴方ならもうお判りでしょう?」
「何故、俺が疑われた?」
「それは、まさに貴方のしているその腕時計ですよ」
とカズが言う。
「こんなの、どこにでもある腕時計だと思うが?」
キーガンは聞き返す。
だが、
「以前、貴方と手洗いをご一緒した事が何度かありましたよね? 手洗いをする時、貴方は決まって腕をまくり上げて二の腕近くまで洗われる。整備士の仕事だ、どうしても油まみれになるから仕方のない事だと、私も最初は思っていました。しかし」
カズは時計を指さしながら、
「ある時[もしでしたら洗っている間は私が預かりましょうか?]という問いにかたくなに拒否されていましたよね? [性能のテストだ]と」
「まさか、それだけで俺を疑おうとしているのか?」
もっともである。
しかし、
「それだけではありませんよ。私が[すみません、今何時ですか?]と尋ねた時、貴方は時計を見ずに[六時半までいかないくらいだ]と仰ってましたよね? 軍隊というのは時間に厳密な組織です。普通の兵士は時刻を確認してから相手に伝えるのが通例です。そしてその日、お酒をご一緒しましたが、帰る頃にもう一度時間を聞いた時には腕時計に目をやり何時何分まで答えておられましたね? 流石にそれはバレますよ。そして別の日に」
そう言うとキーガンの、時計をしている方の腕をつかみ、
「時計がいつも同じ時間を示しているのを見つけてしまいましてね」
文字盤をコツコツと指でつついた。そう、カズはそこまで細かく見ていたのだ。
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