16.中尉は家族は-この隊を、国を頼んだぞ-
全48話予定です
日曜~木曜は1話(18:00)ずつ、金曜と土曜は2話(18:00と19:00)をアップ予定です(例外あり)
「ええ、一般整備士と上級整備士ですよね」
一般整備士というのは、いわゆる今まである整備士の事を指す。例えば自動車の整備士や戦車の整備士、ヘリの整備士などがそれに該当する。
対して、上級整備士という資格が存在する。この資格を取るにはは少なくとも二種類以上の車両の整備が出来る、という条件がある。例えば自動車と戦車、といった具合である。更には様々な方面の知識、例えば医学や薬学、看護学、医薬品、農耕や畜産……。それらの中で二種類以上の知識を一定以上習得したと国に認定されて初めてなれる資格である。
「そう、俺は上級整備士として主にヘリの整備にあたっていたんだが、二年ほど前かな、声がかかったんだよ[もっと複雑なものを整備してみないか?]とね。まぁ、多分俺が専攻していたのが精密機器の取り扱いと看護学だったのが関係しているんだろうな」
「それでこの部隊に? ご家族は?」
そう言ってからカズはカクテルを口にする。
「そう言う事さ。家族は今は別々に暮らしいてるんだ。あっちはあっちで軍に務めているからね」
そう言ったキーガンの表情は少しだけ暗いように見える。それはこの部屋の照明の光量のせいなのか、あるいは何か別の事情でもあるのか。
「そうだ、中尉は家族は……って機密事項だったな、すまん」
「ええ。ですが、母がいます。しばらく会っていませんが」
そういうカズの表情も少し暗い。
「会っていないというのは、もしかして[会えない]のか?」
言葉じりが引っ掛かったのだろう、キーガンがそう聞いてくる。
「お察しのとおりですよ。母は今も日本にいます。もっとも、今は日本という[国家]はありませんが」
カズば母と二人暮らしだった。だが、レイドライバーの前身となる研究に携わっていた為、日本に駐屯していた国から半ば接収に近い状態で他の研究者とともに渡航したのだ。
その時に当局から言われたのは[家族の事は諦めてくれ]だった。日本政府も、何も黙って接収されるがままになっていた訳ではない。研究者の家族を[保護]という形で人質にしたのである。
カズは悩んだ。それはそうだ、誰だって唯一の肉親を人質に取られ[日本に残れ]と言われれば。
だが、カズは渡航の道を選んだ。それは苦渋の決断でもあった。家族を、ある意味捨ててこの地に来たのである。
「ま、まぁ何だ、人には聞かれたくない話もあるしな。それより、この戦争はレイドライバーの投入で勝てるのかな? もちろん性能を疑っている訳ではないが」
カズに配慮したのだろう、そう言ってキーガンは話を変えた。
確かにキーガンの言う通り、レイドライバーの性能は疑うまでもない。現にこの地まで一週間で落とせたのだから。だが、レイドライバーといえど一兵器に過ぎない。大局を見ればそれを危惧するのは当然だろう。
「そうですね、研究も進んではいるのですが。とりあえずの四体ですから。これが軌道に乗れば、もう少し色々なコストの面でブラッシュアップ出来れば、十分勝機はあると思いますよ。今はまだ発展段階ですね」
「確か、中尉はこの兵器の第一人者だったな。とりあえず、って事はまだ秘策でも?」
「ええ、今も研究所の所長をしてますよ。秘策ですか、そうですね、今の四体が第一世代だとしたら?」
不思議な笑みを浮かべながら語り掛けるカズに、
「第二、第三世代がある、と?」
「そこからはご想像にお任せします、とだけ」
そう言ってバーテンに三杯目を注文する。
「そ、そうだな、それ以上は聞かないでおくよ」
そのあとは各戦闘の話やレイリアのリミッターの件などで盛り上がった。
「少し飲みすぎましたかね」
とカズが切り出すころにはお互い二桁に乗る酒を飲んでいた。
「ところで大尉、今は何時でしょうか?」
との問いに、
「あぁ、今は……午前一時五分だな」
少し酔っているのだろう、焦点の合わなそうなその目でキーガンが自分の腕時計を見て答える。
そんな二人の会話に少しだけ間が開いたところに、
「中尉」
そんなキーガンが改まってカズの方を向く。
「何でしょうか?」
笑みを浮かべて聞くカズに、
「この隊を、国を頼んだぞ」
「ええ、お任せください。でも」
カズは一区切り置いたあと、
「大尉も、ですよ。頼りにしてますから」
そう続けたカズの、その瞳はとても悲しそうに見えるのだ。
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