13.誰が来ても、何も話さないぞ-ケタケタ笑いながら-
全48話予定です
日曜~木曜は1話(18:00)ずつ、金曜と土曜は2話(18:00と19:00)をアップ予定です(例外あり)
カズは司令部を出て、隊長とも途中で別れたあと、捕虜が幽閉されているという尋問室に向かう。扉の前で護衛している警備員に敬礼して[司令の指示で尋問しに来た]事を告げて中に入る。
中では、後ろ手に縛られてそっぽを向いている捕虜がいた。
「誰が来ても、何も話さないぞ」
「声で分かるかもしれないが、先程貴様を捕縛した人型兵器のパイロットだ」
となりで聞いていた尋問官が[ちょっと何を]と制止するのを、
「単刀直入に聞く。お前たちは俺たちの何を、どこまで知っている?」
と聞いたが、
「何も知らねえって言ってるだろ」
口を割りそうにはない。だが、敵の戦車から捕縛した人間だ、それほど高度に対尋問訓練は受けていまい。
「きみ、ハンドソーを持ってきてくれないか?」
カズより階級の低い尋問官にそう頼む。
「ハンドソー……? 分かりました。しばらくお待ちください」
尋問官は外の警備の人間にその旨を伝えて取りに行かせた。
「さてそれを待っている間、少し話をしようじゃあないか。きみ、名前は?」
とカズが話を振るが、
「お前らに教える事なんてない」
の一点張りである。
――まぁ、そんな感じだわな。
「そうか、じゃあ俺の話をしよう。といっても話せるのはほとんどないんだけどな。あの隊の隊長機を任されている」
横で尋問官が[あわわ]となっているのを気にせず、
「名前は……教えられないな、残念だが。きみも教えてくれないみたいだし。あっそうだ、これからちょっと試したい事があるんだ。なぁに、そんなに難しい事じゃあない」
カズの顔色が変わる。明らかに嬉しそうなのだ。
「持って参りました、中尉殿」
そう言ってカズにハンドソーを手渡す。
「これは、説明する必要のないと思う。どこにでもあるハンドソー、つまり切断機だ」
捕虜に見せる。
「外の人間を呼んできて、この捕虜を押さえつけろ」
地べたを指さしながらそう言う。言われた通り、二人立っていた警備の人間の一人を尋問室に入れ、尋問官と二人で捕虜を地面に押さえつける。
「何を、する気だ?」
「あれっ、自分からは何も言わないんじゃあなかったっけ? まぁいいや。所詮は[ハンド]ソーだからねぇ、切れ味はあまり良くないんだ。特に柔らかいものを切るときは、それはそれは苦労するよ。だけど安心していい、わが軍は捕虜のケガに関しても人道的に扱っている。義手や義足の技術はきみたち、帝国軍にも勝るとも劣らない性能を有しているんだ」
そう言いながらハンドソーの電源を確認する。チュイーンと小気味いい音が部屋に響く。
――チトセ、仕方なかったとはいえ、きみにしてしまった事に比べれば、こんなの朝飯前だよね。
押さえつけられている捕虜も、カズのその説明で嫌な予感がしたのだろう、
「離せ、悪魔どもめっ!」
とののしり始めた。その頃には尋問官もカズの意図が分かったようで、
「これは流石にマズいのでは?」
と具申するが、
「そうかい? 壊れれば直せばいい、ただそれだけの事じゃあないか」
顔に笑みを張り付けたまま、尋問官の方を向く。その姿に彼は震え上がっていた。その笑顔は、おもちゃを与えられて喜んでいるとても純粋な子供のような、だが、傍から見れば狂気にも見える、そんな表情だ。
「おい、やめろ! 条約違反で訴えてやるぞ!」
そう続ける捕虜に、無言でハンドソー近づけながら、
「なに、四か所もあるんだ。一つずつ切っていけばいいよ。ああそうだ、救護班も用意してくれるかな。とりあえず一本目を片付けたあとでいいから。それまではタオルでも当てておくから。いや、まてよ。男だから五か所かな?」
カズはケタケタ笑いながらそう言ったあと、
「さて、もしも話す気になって、話してくれるなら今のうちがいいと思うんだ。どう、話す気になった?」
その声は現場の状況に反してとても明るい。
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