12.捕虜の尋問を-どこまでが[やりすぎ]なのか分からんけどね-
全48話予定です
日曜~木曜は1話(18:00)ずつ、金曜と土曜は2話(18:00と19:00)をアップ予定です(例外あり)
帰ってきたレイドライバーのパイロットを待っていたのは、賞賛ではなかった。一般兵、それも多分肩の記章からして砲兵であろう兵士が、
「ミハエルは、ミハエルは死ななくても済んだ命なんだ。先制攻撃さえ成功していればミハエルは……」
そう言って泣き崩れる。他の兵士も口には出さなかったが同じ気持ちなのだろう。カズたちの事を一斉に睨みつけている。
「指摘の事は事実だ、謝罪する。だが……」
と頭を下げようとしているカズを指差して、
「そもそも、何で俺たちがお前らと一緒に組まなければならないんだ。エースなんだか何なのかは知らないが、新型兵器っていうだけで格好の弾の的じゃあないか。それに先制攻撃が上手く行ってさえいれば、死ななくてもいい人間はたくさんいたんだ!」
と食って掛かろうとしている。だが、誰一人としてそれを止める人間はいなかった。
「何を……」
レイリアが反論しようとするが、カズが止める。
「彼らだって多数の犠牲者が出て気が立っているんだ。それに彼の言っている事は間違いではないだろ? 現にトリシャのミスで戦火が予定より早く開いてしまったんだ。それは紛れもない事実だ」
そう言ってなだめる。
そんな中、
「やめたまえ!」
見かねた戦車隊の隊長と思われる人が止めに入る。
「こんな奴らがエースなんですか!?」
と今度は隊長に食い下がるが、
「お前たちの気持ちはよく分かるが、彼らがいなければ挟撃されて全滅していた。その挟撃を見抜いたのも彼らだ。その点に関しては、逆に俺から礼を言う。よくぞ全滅から救ってくれたな」
逆に頭を下げられる。その行為にあたりがざわつく。
「隊長!」
「黙れ! 少し冷静になれ、馬鹿者! 彼らの失態だけ挙げて、功績には目を向けないのは馬鹿者のする事だ」
その強い口調にざわめいていた声が静かになる。
――流石、年長者は違うな。
確かに初めの一撃は失敗した。そのまま接敵してしまったのだから。だが、挟撃されている事に気付いた。それの両方とも、やったのはトリシャだ。
そのトリシャは、というと[もう慣れました]と言わんばかりに、無表情に無言を貫いている。彼女にも言いたいことはあるのだろう、だがここは軍隊だ。個人の意見はほぼ無視され、団体行動が最も重要視される。それを嫌というほど叩き込まれている彼女だからこそ何も言わないのかも知れない。
だが、静まったのを見てか、トリシャがカズと一緒に戦車隊の隊長の前まで来て、
「この度は誠にすみませんでした」
と頭を下げた。
そのトリシャにカズは、
「心配するな、責任を取るのが俺の仕事だ」
そう言葉をかけた。その言葉に、
「きみも、立派な[隊長]をしているんだな」
と戦車隊の隊長に握手を求められた。
「すみません、犠牲を出してしまって」
その手を握り返す前に再び謝ると、
「このくらいにしておこう? 誰だって統率を乱したくはないだろ?」
手を差し出してくる。カズはそれを握った。
「さてと、俺も彼もこれから司令部に出頭する。いいか、これで先程の戦闘の話はチャラだ。皆分かったな?」
そんな隊長を横目に、
「もし居づらいようならパイロット待機室にいなさい。トリシャは一緒に来るように」
「はい、隊長」
そう言うと、戦車隊の隊長とカズ、それにトリシャの三人で司令室を目指す。
「失礼します」
ドアの前で声をかけると、
「入りたまえ」
そう返事が返ってくる。
「ただ今出頭しました」
そこにはここの部隊の総司令、副司令と参謀、それに関係者が数人いた。
「では、報告を聞こうか」
そう言いながらカズを指名する。
「はい。先制攻撃はゼロツーのミスで失敗、そのまま戦隊戦に突入しました。その際、同じくゼロツーが両翼に布陣している敵戦力に気が付き迎撃。あとは各レイドライバーが戦車隊の支援をしつつ後方に後退。その間に挟撃部隊をせん滅、その後、正面の敵を撃破。レイドライバー隊には損害は出ましたが、行動不能になる機体はありませんでした。私からは以上であります」
「戦車部隊はどうだね?」
司令が聞くと、
「はっ。初撃の支援がなかったのは確かに痛かったではありますが、レイドライバーの機動力がなければ我々は全滅していたでしょう。両翼はほぼ彼らだけでせん滅ですから。損害については決して軽微とは言い切れませんが、それでも大半がこうして返って来られました。数で言いますと、大破三、中破四であります」
戦車隊の隊長はどうやらカズたちの戦力を買ってくれているらしい。カズは思わず目を配って少し頭を下げる。
「他には何か?」
と司令に言われ、戦車隊の隊長は[特には]と言っている中、
「実は司令、気になる事が一つ」
とカズが続ける。
「何だね?」
「戦闘終息後に捕虜を捕縛したのですが、その捕虜が[レイドライバー]という名前を呼んでいたのが気になりました。我々の存在は知られてこそいれど、名前を知られているというのは由々しき問題か、と」
司令は[ふーむ]と一言つき、
「わが軍から出た捕虜から聞いたのではないのか……」
とまで声を出したところでその顔色が変わる。
――そう。
「お察しのとおり、わが軍はこの戦線では今まで捕縛されたものはおりません」
それはレイドライバーがこの地区の戦線に実戦投入された事に由来している。損耗が著しく減っているのだ。殉職した者は皆が戦車群に属するものであり、車両同士が接触する事なく砲撃により殉職していったのだ。そして、生身の兵士は戦闘終息後の制圧にしか投入されていない。
つまり、捕虜になりようがないのだ。
「情報が洩れている、と?」
「可能性の一つとして考えるべき事案と思いますが」
「だとするとこれは……」
と言葉を失う司令に、
「つきましては小官が、捕縛した捕虜の尋問に当たりたいと思うのですが、許可願えないでしょうか?」
司令はまた一息ついたあと、
「許可する。ただし、きみ以外の他のパイロットの同席は認めないものとする。どこでまた情報が洩れるとも限らないからな。それと、カズ中尉」
[はい?]と、少しばかりとぼけた感じで返事を返すカズに、
「やりすぎるなよ、一応条約の建前があるからな」
「はっ、了解しました」
――どこまでが[やりすぎ]なのか分からんけどね。
全48話予定です