10.トリシャの考え事-先制攻撃-
全48話予定です
日曜~木曜は1話(18:00)ずつ、金曜と土曜は2話(18:00と19:00)をアップ予定です(例外あり)
その日はゼロツーが先制攻撃をする手はずになっていた。
レイドライバーのスコープ越しに敵の姿を目視している。射程圏内に入って、友軍の布陣が完了したら中央に護衛されている指揮車を射撃、隊列が崩れたところで友軍の戦車群が一斉射撃を行う。そんな段取りである。
と、同時に彼女は過去の事を思い出していた。
トリシャは孤児院の出身である。十歳で入った、当時には三十人以上いたであろう子供たちも、彼女がそこを出る事になった五年半余りで自分を含めて九人になっていた。他の子たちがどうなったか、彼女は知らないでいた。知っているのは、レイリアとクリスが一緒の部隊になったという事である。彼女たちとは同じ孤児院の出身なのだ。
そう、そこの孤児院の全員が軍に入隊したのだ。
「他の六人はどうしているのかしら」
ふとそんな事を呟いた直後、
「……ロツー! おいっ、聞いてるのか、トリシャ・エカード!!」
聞きなれた男の声がする。はっと我に帰れば、すでに敵指揮車の通過を見逃してしまっていた。慌てて狙いを定めるが、前線は既に接敵状態にある状態だ。
――しまった、油断したわ。
遅れた分、挽回するのにトリシャは躍起になっていた。友軍に当てないように接敵してくる戦車群を一つずつ着実に倒していく。
だが、トリシャはこの状況に違和感を覚えていた。
――おかしい、数が合わないわ。確か事前のミーティングでは一個大隊クラスと聞いていたんだけど。
この前線は、先日の戦闘で落としたも同然であった。敵車両軍は、逃げる算段でもしたのかと思っていたのだが、残存する兵力をこの、崖が後ろにある地点一点に集め、そこから攻勢に打って出ようとしたのだ。先陣とこちらの戦車群、双方が打ち合いになっていたところ、じわじわと敵が崖のほうに後退し始めた。
「バカめ、もうあとがないというのに」
そんな戦車隊の、誰とも知れない声をインカム越しに聞きながら、
――やはり、何かがおかしい。数もそうだが、布陣が。
「誘おう、と、してい、る?」
と考えがそこまで声に出たところで、トリシャはライフルのスコープ越しに少しなだらかな崖になっている稜線上にかすかな[揺らぎ]のようなものを見た。急いでモードを昼間用のサーマル(熱源探知)に切り替えると、
――熱源!?
「ゼロゼロ、両翼の崖の上、多分だけど敵の半数近くはそこにいるわ! 前回と同様、これは陽動よ!」
そう言うとライフルを[多分ここ]と思われる場所に撃った。と同時に火の手が上がる。
「なんだって!? コマンドポストこちら……」
「こちらの兵装では間に合わない、そちらで何とか出来るか?」
直ぐに言葉を変えた[無理]という返答が来る。
「了解、何とかしてみる。高射砲部隊で戦車隊を守りながらの撤退を進言するが」
「伝達する、とりあえずは当面の敵戦力の打破を願いたい」
つまり、時間を稼げ、という訳である。
――二度も同じ手に乗っしまったわ。
たちまち敵戦力がホログラムを解いた。ゼロツーの言う通り、両翼の崖の上から戦車群が砲身を目一杯下げてこちらを狙いながら一斉射してくる。上からの攻撃だ、こちらの戦力の戦車には圧倒的に不利である。現にその一斉射でこちらの車両の何台かが火を噴いた。
「ゼロツー、弾倉変更だ。炸薬散弾を使うんだ、出来るだけ広範囲に当たるように。右射線を頼む。ゼロワン、あの打ち方だ、敵は一車線しか稼げない、左側の線制圧を試みろ。動かなくさえしてしまえばいい。障害物になってくれる。ゼロスリーは左射線を同じく援護。俺は前方の敵車両軍を抑え込む」
とは言ったものの、見事にやられた。相手は地の利を生かして、ちょうど挟み撃ちになっているわが軍の上から砲撃をかましてくる。正面は、といえばゼロツーが出遅れた為、余り戦力を削れていない。
でもやるしかないのだ。
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