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第二話

 オーヴェンを逃した現場で2班のメンバーと合流し、現場での痕跡の回収を行ったが、上がった証拠は件の転移魔法と見られる魔法の残滓と切り落とされたオーヴェンの片腕だけだった。ヘレナが失踪した現場からは魔法の残滓のみしか見つからず、これ以上の長居は無意味と判断し現場から撤収した。

 俺は今回の件の報告のためマトリを統括する王に謁見を行っていた。


我が王国の王は聡明であると広く国民に知られ、支持も厚い。現在は特に治安維持と農耕、漁業に力を入れており、国民だけでなく、安全な生活を求めて外国からの移民もあり、それが国家の繁栄に寄与している側面が強い。この社会情勢がある以上、王家に直属で仕えるマトリは、治安の維持に尽力しなければならない。


「……それで、この報告書にある通り、奴隷商オーヴェンは貴様でも復元不可能だった転移魔法を使って逃亡したのだな」


「はっ、斬撃と魔法を使って迫撃しましたが、怯む様子もなくこちらの雷属性についても対策がされており、まるでマトリとの接触がシナリオ通りといわんばかりのしたり顔でした……一介の奴隷商がとてもじゃないですが、あの転移魔法を復元できるとは到底思えません。何らかの組織とのつながりがある可能性が極めて高いと考えます」


「ふむ……まあ、当然といえば当然か。……当初は侯爵令嬢を奴隷として売るためにただ攫ったのだと騎士団は判断しておったが、どうやらマトリに仕事を振って正解だったようだな。これで研究が捗るだろう?」


 そう、犯罪全般を取締まるのは騎士団の役割であり、それは魔法犯罪も同様、騎士団の管轄となることが順当な流れ。だが、マトリはマトリは魔法犯罪取締部の名を冠しているが、行っていることは犯罪捜査や取締りだけではない。それらに加えて魔法の解析・研究を行い、国力の増強を図る狙いがある。というか、もともとの組織の成り立ちとして、王国の魔法研究の最先端を担っていた機関が未知の魔法の使用された現場の痕跡を解析するフィールドワークから転じて魔法が絡む犯罪の捜査を担うようになったのが正しい。未知の魔法が使用される現場は人々の思惑や欲望が絡み合う犯罪現場であることが多く、研究を中心とした機関が現場に足を運ぶことは危険が伴うことや、取締りを行う権限などの体裁を整えるため、名前を魔法犯罪取締部としているのだ。つまりマトリは公では治安維持組織として知られているが、研究機関としての側面も有している。



「はっ、現在も魔力の痕跡を元に3班が解析を進めております。ただ、もともと解析力に長けたヘレナを3班から2班に配置を換えて間もないタイミングで連れ去られてしまい、研究機関としてのマトリの解析力はかなり下がっている現状です。痕跡の解析は古代魔法であることもあり、より時間を要するかと」


「よい。転移魔法の解析が進み、自由にその行使が可能になれば王国の国益になる。貿易だけでなく、軍事としてもな。……当面の間は騎士団からの魔法関連事件の捜査依頼の数を減らすよう伝えておく。だが、騎士団が対応できない魔法犯罪についてはこれまで通りマトリに対応をしてもらう。仮にも犯罪の取り締まりを主体とした組織であるからな」


「はっ、必ずや転移魔法を解析し、王国に貢献してみせます」


「うむ。それでだ、先ほど侯爵令嬢の誘拐について、ただ奴隷として売るためではなかったのではと言ったが、オーヴェンの裏でつながっている組織が意図して誘拐を指示した可能性もありうる。侯爵令嬢の何らかの能力や知識を求めて犯行を行ったというのも十分にある。そしてそれは此度の接触で攫われたヘレナも同様にだ」


「はっ、留意して捜査にあたります。それと、ヘレナに関しては場合によっては拷問などによって王国の魔法研究の情報が洩れる可能性が懸念されます。もし万一、裏で糸を引いている組織が他国とつながっているとすれば、事によっては戦争にまで発展するかもしれません。ましてや今回の事件で使用された転移魔法が外国に広まりでもしたら、これまで地理の恩恵をあやかっていた我が国が侵攻の標的となることも考えられます。……私の不手際でこのようになってしまい申し訳ありません」


「そうだな。だが、国を護るのは王の務めでもある。侯爵令嬢やヘレナを失ったことは確かに我が国にとって大きな損失であり、失態だ。それでもな、エドガーよ、過ぎたことをいつまでも悔やんでいても仕方がない。研究についても今後マトリが今まで以上の成果を上げればよいというもの。一度失ったとて此度オーヴェンが利用価値を見出して侯爵令嬢やヘレナを攫った可能性が充分にある以上、生存している可能性に賭けて今は動くしかあるまい。万が一機密が漏れ出た場合はそれ相応の対応をせざるを得ないし、国防については備えておくことに越したことはない。だが、それについては貴様が考えることではない。マトリとして貴様はできることを全うせよ、エドガー。今後に期待しておる」


「はっ、お心遣い感謝いたします」


「では、引き続きマトリとしてよろしく頼むぞ」


「はっ、失礼いたします」


 俺は王に頭を下げ、謁見の間から退出する。


 我が国の王は国民の評価通り聡明である。マトリは国力の増強を最たる目的として王家直属で構えられた特殊な部隊。現状、王が大々的に治安維持に徹して政を行うのは、我が国の国力が乏しいことにある。それでいてなお、外国から侵攻をされることなく国として繁栄できているのはひとえに国境が険しい山、あるいは海流の入り乱れた海に囲まれているといった立地条件に恵まれているからに過ぎない。王家は代々、それを理解したうえであえて貿易に力は入れず、治安維持による移民の受け入れと、移民が持つ知識や技術の国民への継承といった非常に地道な積み重ねによって今日を迎えている。


 だが、長い年月をかけて培われた世界の均衡は、転移魔法の実現と普及によって崩されることは目に見えている。今回の事件は、それだけに重要性が高い。何としてでもこの国の未来を護らねばならない。


 俺は王城を足早に移動し、魔法の解析を進める3班のもとへと向かった。

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[良い点] 執筆お疲れ様です。頑張ってください!!! [気になる点] 一応作家の端くれ故気になったところを指摘させていただきます。 諸説はありますが、! や? の後は空白にすること、三点リーダーは………
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