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ポニーテールの勇者様  作者: 相葉和
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085 閑話 ほうろうき

某日。

建国宣言を終え、バルゴの侵攻に備えて準備を進めているわたし達は、英気を養うために休憩もしっかり取るようにとカークから指示が出されていた。


そんなわけで、午前中に軍議と魔力の練習を行い、午後は暇になったわたしは、邸内をウロウロと散歩していた。


・・・たくさん戦いの準備をした。

そろばんの試作もできた。

あとは、もろもろ頑張るだけだ!


ふと邸内で、そろばんの試作を行っていた作業場に立ち寄ると、そこにはまだそろばんの制作作業をしていた時の状況がそのまま残っていた。


・・・いい加減に片付けをしないとカークさんにご迷惑がかかるね。


そろばんの玉の試作はなかなか骨の折れる作業だったが、充実感もあった。


作業台の隅には、そろばんの玉だけを作る試作専用の加工機が置いてあった。

その周りには、失敗作のそろばんの玉が転がっていた。

中には直方体の失敗作も転がっている。

こんな形ではそろばんなんてはじけないよ、と一人でニヤニヤしていると、ふとある事を思いついた。


・・・これ、再利用して、使えね?



「ねえアドル。そろばんの玉だけを作るために試作した魔道具を覚えてる?あれってもう使わないよね?」

「ああ。使わないけど、どうかしたのか?」

「ちょっと作ってみたいものがあるの。でね、それを作れるように魔道具を改造してくれないかしら?今度はそんなに難しいものではないと思うの」


わたしはアドルにそろばんの玉専用の加工の魔道具を改造してもらい、直方体の形成ができて、直方体の背面には色付けを、前面には任意の模様の記入ができるように改造してもらった。


・・・さて、ちゃちゃっと百三十六個、作りますか!

せっかくだから、二、三セット作っておこうかな。


あとは小物の加工をお願いして、サイコロも作って、簡単なルールブックも作って印刷して・・・



「まあじゃん?」

「そうです。麻雀です。私の世界で最強の、脳のトレーニングに良いゲームのひとつです」


カークの館での夕食の時間に、夕食の席に集まった皆に、麻雀というゲームをこの世界で再現した事を伝えた。


「運の要素も大きいのですが、主に読みや駆け引きを楽しむゲームです。ちょっとルールは複雑ですが、すっごく面白いんですよ!」


実はわたしは、麻雀が大好きだ。

昔、某麻雀協会の昇段試験を受けて初段の免状も持っている。

全くもって何の役にも立たないけど。


ちなみにそろばんをやる人や、そろばん塾の先生には麻雀好きが大変多い。

数字の遊びや、頭の中で確率を計算するような事が好きなせいだと思う。


わたしも幼少の頃から父さんや、父さんの麻雀仲間でもあるそろばん塾の先生方の手ほどきを受け、負けて、負けて、揉まれてきた。

高校に上がる頃には、父さん達ともいい勝負ができるようになった。

学生時代には女性でも入りやすい雀荘にちょいちょい行っては武者修行して、店舗大会で何度も優勝した事もあるし、会社の麻雀大会ではいつも好成績をおさめていたりする。

女流雀士になるという道も少しだけ考えた事もある。

そんなわけでわたしは麻雀の腕にはそれなりに自信があった。


なお、コンピューターゲームの麻雀はダメだ。

やはり人と打ちたい。

ゲームセンターでコインを入れた瞬間に、相手のCPUが『天和』と言って即負けた事を私は絶対忘れない。

やはり人と対戦して、互いに手を読み、時にはひりつくような勝負をするのが麻雀の醍醐味だと思う。


麻雀は、基本的にはトップを取りに行くゲームであるため、相手と点差が開いた場合には、逆転ができる役を目指してわざと手を崩したり、あがりを見逃したりすることもある。

そういった判断力や計算能力も必要だ。


他にも、『今この牌を捨てると他の人にあがられる可能性はどれぐらいあるか』とか、『あがれる形に一番早く近づけるには何を捨てればいいか』などと考えることで、頭の回転力を鍛えたり、ちょっとした確率の勉強にもなる。


遊びながら数字に強くなれるという点では、そろばんと一緒に麻雀もこの世界に普及させてみてもよいのではと思う。

ただ、麻雀がこの世界に受け入れられるかどうかが分からないので、とりあえず身内の反応を見て、もしも受けが良ければ、量産して売って、麻雀人口を増やしたいと思っている。


そんなわけで、皆にルールブック(役の早見表、点数の早見表など)を配り、実践してもらうことにした。


早速、今日の夕食後に希望者が談話室に集まって、体験会をする事となった。


テーブルとシーツを利用して簡易雀卓を作ると、そこに麻雀牌を広げ、点棒を配り、牌の説明、牌の並べ方、取り方、捨て方などを説明する。


わたしは皆が打っている後ろをぐるぐる回りながら、質問に答えたり、『この場合はこれを捨てるとこうなるから良いよ』といったアドバイスをしながら、皆が麻雀を覚えられるようにお手伝いをした。


最初は皆、ルールに慣れずにまごまごしたり、いろいろ間違えたりしていたが、徐々に慣れ、途中からわたしもゲームに参加して、和気藹々と楽しく体験会を行うことができた。


翌日。


「ユリ殿、今日も食後に麻雀をやろう」

「いいですよ。さてはカークさん、はまりましたね!」

「うむ。麻雀というのは実に面白いな。このような娯楽は初めてなので、面白くてたまらんよ」


カークだけでなく、アドルもエスカも、アキムもディーネも、カークの側近の人達も、みんなが麻雀を気に入り、麻雀布教二日目も談話室は大盛況だった。


・・・うん、この様子なら、麻雀はこの世界にも受け入れられそうだ。


そんな感じで、夜の麻雀の集いは連夜行われた。

上手くなってきた人にはテクニカルな戦法も教え、皆のレベルもだんだん高くなってきた。


戦いを前に何を呑気な、とも思ったが、『まともな神経で殺し合いなどやってられるか』という、戦争映画にある台詞が少し分かったような気がした。

『どんな状況でも楽しむことを忘れない』というのは大事なことだと思った。


・・・そして、ついに、恐れていたことが起きてしまった。



「では、リーチしますね」

「ユリよ、また引っ掛けリーチか。儂がいつまでもそんなものに引っかかると思うなよ」


アキムがわたしを見てニヤリと笑みを浮かべた。

アキムはすぐに麻雀の理解を深め、とんでもない読みで高い防御力と攻撃力を誇っていた。


・・・今のわたしのひっかけリーチも看破しちゃったの?

いや、三味線かもしれないけど、アキム様なら本当に読み切ったのかもしれない。


局面はオーラス(最終回)、わたしの順位は三番手。

トップはアキム。

わたしは数巡前に五索を捨てていて、テンパイ即リーチのカン二索待ち。

相手からあがれる牌を引き出しやすい『引っ掛けリーチ』というやつを仕掛けていた。

リーチ・門前混一色・チャンタ・一盃口・役牌一・ドラドラ。

出上がり倍満、ツモれば三倍満、裏ドラが乗れば数え役満も見えている、トップを穫れる逆転の一手だ。

勝負に出るしかない局面だった。


「ふーん、ユリちゃん染め手かなあ。とりあえず回しておくかな」

「妾は勝負するかのう・・・いや、この気配はちょっと良くないのう。こっちじゃ」


エスカも持ち前の賢さで、すぐに麻雀の腕が上達した。

早くも捨て牌などから場の状況を見られるようになっている。

後でアドルに聞いた話によると、エスカは暇があれば一人で麻雀の研究をしているらしい。

さすがは研究馬・・・研究熱心な人だ。


ディーネは牌が握れないかと思いきや、羽根の先から魔力を出して、上手に牌をコントロールしている。


・・・まさかハシビロコウと卓を囲める日が来るとは思ってもみなかったよ。


ディーネもエスカ同様に賢いが、それ以上に妙に勘が鋭い。

さすが大精霊様だ。


やはりこの三人は他の人達とは一味違っていた。

特にアキムは別格だった。

恐れていたこととはこの事だ。


アキムの読みの深さは、アキムの家を訪問した時の会話で理解していた。

そしてその時、わたしは誓ったはずだ。

『この人と麻雀は打たない。絶対にだ』と。

あっさり誓いを破ったけど。


とにかくこのオーラスの回、アキムがわたしに直接振り込まなくても、わたしがあがりさえすれば逆転できる。

わたしのあがり牌はまだ場に一枚も出ていない。

チャンスはあるはずだ。


「おや、ユリ、すまんな。暗カンだ」


『暗カン』とは、同じ牌が手元に四枚揃った時に、場に広げて出して置けるというものだ。

捨て牌ではなく、自分の牌として場に見せる。


そしてアキムが暗カンをしたその牌は、『二索』だった。


・・・わたしの唯一あがれる牌が全てそこにあった。

つまり、わたしのあがり目はすべて消えてしまった。


(うぎゃあああああ、なんてこったーーー!)


と心の中では暴風雨状態だが、その様子を悟られるわけにはいかない。

あくまで冷静に、何の動揺もないように見せねばならない。

わたしのリーチはまだ生きていると思わせ、皆が勝負に来ないままこの回が流れれば、一本場(次の回)に持ち越せるチャンスが生まれるのだ。


とはいえ、あがれる牌がなくなったわたしは、ただ牌を引いては捨てるしかない。


私の手番に引いた牌は、『一索』。

『二索』が全て見えているので、この牌で誰かにあがられる可能性は一応低めだ。


ははっ、まさかね・・・

わたしはそっと『一索』を捨てた。


わたしが捨てた牌を見て、アキムはパンッと手を叩くと、高らかな声でわたしに引導を渡した。


「ユリよ。それだ。ロンだ。四暗刻単騎。役満だ」

「ギャーーーー!」

「「「おおおおお!」」」


アキムの大技炸裂に沸くギャラリー。

それにかき消されるわたしの悲鳴。


わたし、やっぱりとんでもない人に麻雀を教えてしまったようだ・・・


・・・まあ、でも、麻雀はこうでなくちゃね。

強い人と打つのは楽しい。

勝つまでやったる!


そして、朝まで麻雀を打ってしまい、翌日の稼働に影響が出てしまった事で、わたし達はカークに『徹夜麻雀禁止』というルールを設けられてしまうこととなった。

実家でも言われた事がこの異世界でも言われてしまうとは思わなかったよ・・・



「ところでアキム様。四人全員が二索、三索待ち『だけ』のテンパイになって、しかもあがり牌がまだ場に残っているような状態って可能と思います?」

「む、それはどうだろうな。全員が二索、三索待ちだけで、一人でも多面待ちになってはならないのだろう?そうなると不可能ではないのか?」

「出来るんですよ。暇なときにでも考えてみてください」


出来ると言われて俄然やる気を出したアキムは、五分もかからずに正解を出した。

さすがである。



某夜中。


「ふふっ、リーチよ」

「ええっ早いよ!サラちゃん強すぎるよー!」

「どうしよう・・・何を捨ててもダメな気がするわ。これかな?えい!」

「あら、残念ね、それよ」

「ええー!?」

「えーと、『とりぷるやくまん』ね。私の勝ちよ」

「うわーん、でもサラちゃんすごい!素敵すぎ・・・」


カタッ


「うええっ!?だっ誰かいるの?ユリ!?」

「あ、ごめん、お手水に行く途中で部屋に明かりが見えたから・・・その、サラちゃん、一人で何をやってるの・・・かな?」

「なななななんでもないわよ!ちょっとこのへんの麻雀牌を片付けてただけよ!もう、出しっぱなしでしょうがないわね!」


そう言うとサラは姿を消した。


サラは一人で麻雀ごっこをやっていたようだ。

麻雀仲間に混ざりたかったのだろうが、迂闊に人前に姿を見せられないサラは参加することができなかった。

そのため、一人四役で麻雀ごっこを・・・


わたしはまたひとつ、サラの黒歴史を見てしまったようだ。



0時に次話投稿します(ストックの都合でお昼はスキップします)。


じわじわとですが、見てくださる方が増えてきたように思います。

レビュー、ブックマーク、評価、誤字指摘などいただけると大変励みになります。

よろしくお願いいたしますm(_ _)m

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