083 制裁準備
ニューロックの建国宣言から三日。
世界中にも放送されたニューロックの建国宣言の様子は、各地で波紋を呼んでいた。
表面上は否定的な見解や反発が多いように見えたが、それはいわゆる建前で、実際のところは現在の王政に表立って不満を言えなかった者達のほうが多く、ニューロックを賞賛したり、水面下で支援を行う動きも出てきていた。
しかし当然ながら王都では、ニューロック建国に対して『厳正な措置』を取る動きを見せていた。
すなわち、国家転覆の愚行を働いたニューロックに制裁を加えるべく、軍事行動を取ることが決定していた。
かくして、王と関係領地はニューロック制圧に向けて動き出していた。
王城にいるバルゴ王の元に現れたのは一人の男だった。
「ご無沙汰しております、バルゴ王」
「フェイム。久しいな。グレース領の様子はどうだ?」
「かつて、バルゴ王が統治していた頃と変わりません。ひとえに王のご威光のおかげかと」
フェイムは現在のグレース領を治めている太守だ。
グレース領は、王都管理区の西にある大陸の北側を領しており、土地は広く、人口も多い。
王都管理区とも近い場所にあった。
一年中気温が低めのグレース領だが、寒さを利用した産業や作物の収穫が盛んであることと、北側の海に出没する大型魔獣の退治をするために海軍が充実していた。
『王都の剣』の異名を持ち、王都に危機が訪れた際にはすぐに駆けつけられる高速の軍船を多く有していた。
そして、グレース領は元々バルゴが太守を務めていた領地でもあった。
バルゴが王に即位した後、腹心の一人であったフェイムをグレース領の太守に任命して統治させていた。
そのため、グレース領は『王の意向をよく汲んだ統治』が行き届いているという特徴があった。
「王都は相変わらず暑いですね。グレース領とは大違いです」
「そうだな。俺はグレース領の気候はあまり得意ではなかった。だがいずれグレース領も暑くなるかも知れぬぞ」
「はあ。それは一体どういう・・・?」
フェイムの疑問には答えず、バルゴは本題を切り出した。
フェイムを呼んだ理由、それはニューロックへの武力制圧のためだった。
「ニューロックへの制裁はお前に任せる。潰してこい」
「お任せください。連絡をいただいた時は嬉しさで震えましたよ。すぐにニューロックを制圧し、王に歯向かう不届きな首謀者共を王の御前に連れて参りましょう。生きている保証はありませんがね」
「お前は昔から血の気が多いからな。だが構わん。存分にやってこい。フラウス、あれを」
バルゴが王都管理区の騎士隊長であるフラウスに声をかけると、フラウスは部下の騎士に指示して、台車を使ってやや大きめの魔道具を持ってこさせた。
「フェイム、この魔道具を持っていけ。起動すればどこでも俺と通信ができる機能に加えて、お前の船を守る機能がある。奴らには水の精霊が味方についている可能性が高い。これがあれば、水の精霊の攻撃からお前を守るだろう」
「それはそれは・・・なんと素晴らしい。ありがたく頂戴します。もはや勝利しか見えませんな」
「戦況は逐一報告しろ。ニューロックを制圧した暁には、グレース領の飛び地としてお前にニューロックもくれてやる」
「はっ!必ずやご期待に応えてみせましょう」
フェイムは王の御前から下がると、部下に魔道具を運搬させ、王城の軍港に向かった。
◇
フェイムは自分の旗艦に乗り込むと、バルゴ王から賜った魔道具を艦橋に設置させた。
魔道具を見たフェイムの部下からは怪訝そうな目と共に疑問の声が上がった。
「フェイム様、これは一体なんですか?」
「バルゴ王からの賜り物だ。今回のニューロック制圧作戦で役に立つとの仰せだ」
「なるほど、さすがバルゴ王ですね。それで、こちらの状況ですが、先ほど食糧と武器、弾薬の補給を王城の補給庫から賜りました。海上で待つ他の船の分も軍港に入れた船に分散して積んでありますので、海上で分配する手筈となっています」
グレース領から出撃した軍船、八十隻。
この星の領地で第二位の艦隊数を誇るグレース領から、領地防衛のために残っている軍船と、首都から遠方にある地域を守る軍船を除く、残りの軍船の全てが出撃しての軍事行動だった。
遠距離から攻撃できる大砲を有する軍船、陸地を制圧するための強襲揚陸船、水中からの攻撃も可能な駆逐船、その他、補給船等を含む多様な船で大艦隊を構成していた。
「フェイム様、出撃の準備はできております」
「よし、海上で補給物資の分配を終えた後、ニューロックに急行して叛徒共を討つ。ニューロックまでの所要日数は?」
「十日ほどかと」
「よし。では出撃だ。新年にはグレース領に別荘地ができるぞ」
グレース艦隊はニューロックに向けて進軍を開始した。
◇
王城では、バルゴがフラウスと護衛を連れて、王城の魔道士団の儀式の間を訪れていた。
儀式の間は、大掛かりな魔術を行う場合に使う広間で、由里を召喚した場所でもある。
現在、儀式の間では、召喚の魔道具の他に別の魔道具も置かれており、それぞれに魔道士が数名ついて作業をしていた。
「それで、召喚の魔道具は起動できないままか?」
バルゴが魔道士団の長に召喚の魔道具についての状況を聞いていた。
「はっ。魔力をいくら注ぎ込んでも、起動の兆候すら現れなくなりました。前回の召喚で壊れてしまったか、あるいはバルゴ王が仰っていた通り、外部からの妨害かもしれません」
(・・・どうだ、火の精霊よ)
(ああ。恐らく起動を妨げられている。今は動かせそうもないだろう)
(そうか。わかった)
「バルゴ王、いかがされましたか?」
目を瞑り、口元を押さえて動かないバルゴに、魔道士団の団長が心配そうに声をかけた。
「いや、なんでもない。召喚の魔道具については引き続き調査をせよ。例の魔道具の方はどうだ?」
バルゴは召喚の魔道具ではないほうの、別の魔道具に目を向けて質問した。
「はっ。そちらの魔道具ですが・・・現在、魔力の充填量は約半分程度です。既に魔道士数名が倒れるほどですが、満充填には至っておりません」
「何人倒れても構わん。続けろ」
「はっ!」
あまりにも大量の魔力が必要な魔道具の充填に、城の魔道士でも充填には苦労しているようだった。
バルゴは、火の精霊に命令して魔力の充填を行えば早く済むだろうと考えたが、その考えは早々に破棄した。
バルゴは火の精霊の力を完全に掌握している訳では無かった。
「・・・できない事はないが、最後の手段だな」
「バルゴ王?何かおっしゃいましたか?」
「いや、なんでもない。気にするな。戻るぞ、フラウス」
バルゴは儀式の間を出て、玉座の間に向かって歩き始めた。
フラウスと護衛騎士もバルゴの後を追って、儀式の間を後にした。
◇
その頃、ニューロックのカークの館の談話室では・・・
「ねえ、ディーネちゃん。バルゴって火の精霊を使役してるじゃない?」
「うむ。そうじゃが、それがどうかしたかの?」
わたしは談話室で、午後の会議を終えて休憩をとっていた。
今日はニューロック防衛における、精霊の力を使った防衛方法の組み込みについてカーク達と話をしていた。
そのため、風の精霊の協力を得ているアキムも同じ会議に出席した後、わたしと一緒に休憩して、お茶を飲んでいた。
「わたしの世界では、『火は水に弱い』みたいな感じで、属性の強さの位置付けがあるのだけど、この世界ではどうなの?」
由里の問いにディーネは即答した。
「確かに火は水で消すことができるが、強すぎる火に対しては水の方が消されてしまう。相性の良し悪しは多少あっても、結局は魔力の強さがものをいうのじゃ」
「なるほどねー。じゃあやっぱりわたしがもっと強くならないといけないんだね」
「そうじゃな。とりあえず風の精霊、もとい、サラちゃんの風の刃の攻撃を防ぐ程度は出来るようにならぬとな」
ディーネがアキムに目を向けた。
実際はアキムではなく、その近くにいるサラを見ているのだろう。
わたし達の話を近くで聞いていたアキムがディーネの視線を拾うと、わたしにアドバイスをくれた。
「魔力を使う時、魔力の核を意識しているか?」
「はい、アキム様。ディーネちゃんにいつもそう言われていますので意識はしています」
「よろしい。では、魔力の核から魔力を取り出したら、全身を巡らせて、その魔力をふたたび魔力の核に戻す感じで、魔力を循環させてみなさい」
「魔力を循環、ですか」
試しに魔力を手のひらに集めてから、核に戻そうとしてみた。
・・・難しいなこれ。
「ユリよ。魔力が手から流れ出てしまっておるよ」
「うん。そうなのよ。ディーネちゃんはできる?」
「妾達は存在自体が魔力みたいなものじゃ」
「あ、さいですか」
参考にならなかった。
「アキム様、何かコツはありますか?」
「最初は魔力の核に近いところで魔力を循環させてみるがいい。慣れてきたら距離を増やしていけ。そして、普段から意識せずとも魔力を全身に巡回されられるようになるのが理想だ」
「呼吸法みたいなもんですかね」
とりあえずちまちまと体内で魔力の巡回をさせてみることにした。
あ、肝心なことを聞いてない。
「アキム様、この練習でどんな効果があるのですか?」
「魔力の循環速度が早くなれば、一度に放出できる魔力の量が多くなるし、放出速度も上がる。魔力の核が成長するようなものだと思って良い。個人差はあるがな」
なるほど、魔力の核を常に動かす事で核を成長させて、おまけに潤滑を良くして魔力をドバッと使えるようにということか。
すごくいいアドバイスをいただいた。
さすがアキム様、頼りになる。
アキム様の魔力もすごいし、サラちゃんもいるし、なんかニューロックが攻め込まれたとしても負ける気がしないね。
「よし。たくさん練習して、今度こそサラちゃんに勝ちますね」
「うむ、精進せよ。そういえば、先の相性の話で言うと、サラは火と相性がやや悪い。中途半端な風は火の勢いを強めるからな。そんな理由もあって、儂とサラではバルゴと対峙しにくいのだよ」
その時、しゅるっと風が舞った。
そしてサラがうっすらと姿を現した。
「べっ別に火なんて怖くないし!負けないし!だいたい火の精霊はいつも『お前なんか興味がない』みたいな態度で気に入らないのよ。何よちょっとカッコいいからってお高く止まっちゃって、少しは私を・・・」
「サラちゃん?」
「サラ?」
「!!」
余計な事まで口走ってしまったサラは、部屋の中で突風を巻き起こして再び消えていった。
・・・サラちゃん、実は火の精霊に気があるとか?
精霊に恋愛事情とかあるのか知らないけど。
まあ、それならばなおさら早いとこバルゴから解放してあげないとね。
しかし・・・
「どうします?これ」
「儂が謝罪しておく。気にするな」
サラが起こした突風のせいで、談話室の調度品が派手に飛ばされたり壊されたりしてしまった・・・
何してくれてんだよ・・・
お昼に次話投稿します。
じわじわとですが、見てくださる方が増えてきたように思います。
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