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ポニーテールの勇者様  作者: 相葉和
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080 王都からの通達

木材問屋でそろばん試作のための木材とおがくずを大量に買い(支払いの宛名はカーク)、カークの送迎から戻ってきた馬車に乗って、わたし達はカークの館へと戻った。


これからそろばんの試作を行う事を告げるためにカークの執務室へ行くと、カーク達はなにやら慌ただしく動いていた。

わたし達の入室に気がついたカークが、状況を説明してくれた。


「今日の夕の鐘が鳴った時に、王都から全国民に向けた緊急の通達を行うとのことだ。そのため、伝達の魔道具を使って事前に領民全員にむけてその旨の連絡と、各町の長には、王都からの一斉通達を中継するように伝える準備をしているところだ」


伝達の魔道具は、町の要所や家の中で、領地内の連絡や放送を受信できるものらしい。

王都からの一斉通達の中継については、また別の準備が必要なようだ。


とりあえず王都からの一斉通達はわたし達も聞くとして、とりあえずそろばん試作の作業をするために、カークから作業に使っていい部屋を一つ借りた。


わたしの用事は済んだので、カーク達の邪魔にならないように執務室からとっとと退散して、作業をするための部屋に向かった。



「ではユリちゃん、作業分担しよう」


わたしとアドルとディーネ、そしてエスカは、そろばんの試作をするために借りた部屋に集まった。

まずはそろばんの玉だけに注力して試作をしてみることになった。


「あたしとアドルは、そろばんの玉を作るための専用の加工の魔道具を作る。これは普段使っている加工の魔道具を改造して、おがくずの加工に特化させて、さらに精密さを高める改造を施すわ」


わたしはコクリと頷き、そちらの作業は丸投げでお願いした。

難しい魔道具の製作については専門家に任せたほうがいい。


「ユリちゃんとディーネは、おがくずと塗料の配分をいろいろ作っておいて欲しいの。そろばんの玉の重さはだいたいどのくらい?」


そろばんの玉一つの重さは二グラム前後くらいかな?

う・・・そういえばこの世界の重さの単位って何?


とりあえず、エスカが持ち込んだ魔石の中から、参考になりそうな小さい魔石を拾い上げてエスカに見せた。


「たぶんこの魔石と同じくらいの大きさなんだけど、素材は木になるからもっと軽いわよね。それと真ん中に穴が開くからさらに軽くなると思う」

「んー、じゃ、とりあえず品質の確認を先にするために、少し大きめで作ろうか。後で分量を少なくして調整すればいいしね」


そう言うとエスカは、秤のようなものを持ってきた。


「これでおがくずを計って、カバンの木とユートの木のおがくずの重さの合計が二十カロンになるように試料を作って。ユリ、ディーネちゃん、お願いね」

「うん、分かった!」

「任せよ」


重さの単位が『カロン』という事もわかった。

ちなみに秤を使ってみた感じだと、一カロンは一グラムぐらいのようだ。


・・・さて、どのくらいの組み合わせ数を用意しようかな。


「ねえ、エスカさん、試料の組み合わせだけど、どのくらいの種類が欲しい?」


既に加工の魔道具の改造に着手しているエスカに聞いてみた。


「まあ、細かければ細かいほどいいからねえ。一カロンずつ刻んでみたら?あ、塗料も混ぜるんだよね、塗料も一カロンずつ、二十カロンまで試せるように用意してくれる?」

「いやいやいやいや、それはキツいでしょう。三百八十個も作らなきゃならなくなるわよ」

「そなの?」


おがくずの組み合わせのパターンは、カバンとユート、それぞれの分量が一カロンと十九カロン、二カロンと十八カロン・・・十八カロンと二カロン、十九カロンと一カロン、という組み合わせで十九種類だ。


そこまではいいけど、塗料を一カロン単位で二十カロンまで試すとなると、用意する試料は、十九かける二十で三百八十だ。

用意するのも試作をするのも大変な数だ。


「塗料の量の種類はとりあえず五つぐらいにして、一番よさそうな出来になった量の付近で再調整しませんか?」

「わかった、ユリちゃん。それでいいよ」


話がまとまったところで、わたしとディーネは、せっせとおがくずの山を作っていった。


おがくずの組み合わせを記した紙の上に、計ったおがくずを乗せていき、十九種類かける五の、九十五個のおがくずの山を作り上げた。

全員、くしゃみ厳禁だ。

ディーネには羽ばたきにも気をつけてもらった。


こちらの作業が終わって間もなく、そろばんの玉専用の加工の魔道具の試作も出来上がった。

まずは参考に、適当な量の試料でお試し加工をしてみた。


・・・できあがったものは、キャラメル大の、見事な直方体の木片だった。


「あれ?形成がうまくいってないな。魔石回路を間違えたかもしれない」

「ちょっと待っててねユリちゃん。すぐ直すから!」


そんな感じで何度かのバグ修正と試行錯誤を繰り返して、一応、そろばんの玉に形成できるようになった。

ここからは九十五パターンの試料を使って試作開始だ。


一回の加工処理はすぐに終わる。

必要なのは魔力だけだし、たいした魔力量でもない。


片っ端から加工を行い、全ての組み合わせで試作を終えた。

そこから良い出来の試作をピックアップし、試料の微調整を行い、ついに最適と思われる組み合わせの候補が見つかった。


「この試料の組み合わせが一番いいと思うの。触った感じもしっくりくるし、硬いし、色も良いわ」


出来上がった試作のそろばんの玉は、こげ茶色で、若干光沢があり、カバ玉のような仕上がりになった。

しっかりした硬さもあり、安定してはじけそうだ。


・・・まさかこの世界でカバ玉に出会えるなんて!

カバ玉モドキとはいえ、感動だ。


わたしの言葉を聞いたアドルも一安心という感じで、次の工程の話を始めた。


「よし、配分はそれで行こう。次は枠と芯竹を作るけど、玉と同じ配分でいいかな?硬さに問題がなければ、同じほうが都合がいい」

「うん。たぶん大丈夫だと思うよ」

「とすると、次はもうそろばんの設計図の作成と、その設計図を元にそろばんを作るための加工の魔道具の作成だね。魔道具は改造で済むとはいえ、流石にすぐには作れないから、早くても明日だな。むしろ設計図の方が大変そうだ」


アドルとエスカが、設計図と魔道具のどっちを担当するか、目だけで牽制し合っていた。


「エスカ、オレは魔道具を・・・」

「アドルはさっき、魔石回路を間違えまくったから、設計図の担当ね!」

「なっ!エスカ、そりゃないよ!」


分担は二人に任せるとして、部品ができたら、そろばんの組み立ても必要だ。

工作が上手な人たちにお願いして、人海戦術で量産したい。

あの木材問屋のプロの方々にお願いしてもいいかもしれない。


・・・そういえば、そろばんの製作途中でやる、『玉入れ』。

あれ、楽しいんだよなー。


そろばんの枠の片側に芯竹をすべてつけて固定したら、そろばんの玉がたくさん入っている箱にそれを突っ込んで、何度か掬うようにシャカシャカ振ると、芯竹にそろばんの玉がセットされるという、玉入れ作業。


わたしもそろばん製作体験で実際にやってみたことがあるが、なかなか上手にはいかなかった。

しかし、プロの職人さんがやると、それはもう見事にすべての芯竹に玉が綺麗にセットされるのだ。

職人技恐るべし。


この世界でもそれが体験できると思うと、今から楽しみだ。


・・・という話をアドル達にしたところ、二人揃って首を傾げられた。


「組み立てなんてやらないよ。そろばんの設計図どおりに一気に加工するから、完成品がそのまま出来上がるんだよ」


なんですと!?

シャカシャカしたかったけど、組み立ての手間が省けた方が絶対にいいから、シャカシャカは諦めよう・・・


「ところでユリちゃん。そろそろ夕の鐘が鳴る頃だと思うよ。今日の作業はここまでにして、カーク様の執務室に行かない?」


エスカのいうとおり、陽も傾いてきた。

部屋はそのまま借りっぱなしでよいそうなので、軽い後片付けと掃除だけして、今日の作業は切り上げ、カークの執務室に向かった。



カークの執務室に行く途中で、カークの側近のスポークに会い、カーク達は大きめの会議室にいる事を告げられた。

わたし達もそちらに行くように指示され、会議室に向かうことにした。


会議室に入ると、既にカークと側近達、それにエリザ、ホークス、アキムも待機していた。

壁には大きめの、白いスクリーンのようなものが貼られている。


とりあえず夕の鐘が鳴るまで、そろばん製作の進捗について話をする事にして、現時点での成果を説明をしているうちに、夕の鐘が鳴った。


「始まるぞ」


カークが何やら机の上にある魔道具を操作している。


そして、白いスクリーンが一瞬歪んだように見えた後、徐々に人の姿が浮かび上がってきた。


うわ、この顔、久しぶりに見たよ・・・


スクリーンには、バルゴと、護衛騎士団長のフラウスが映し出されていた。


これはどうやら、投映の魔道具らしい。

遠隔地でも映し出せるこの魔道具を使って、王都からの一斉放映をできるだけ見るようにと、カークは各町の要人に準備の要請をしていたそうだ。


各領地の人々は、投映の魔道具が設置してある場所や、町長が集会所などに魔道具を用意して、付近の人達が集まって視聴するらしい。


スクリーンの中に映るバルゴと、放送開始の挨拶のようなものをしているフラウスに、わたしの目は釘付けとなった。

今、会議室内に会話は無く、映像の中のフラウスの声しか聞こえていなかった。


「・・・それでは国王より、緊急の通達についてお話しいただきます。バルゴ王、どうぞ」


投映の魔道具が映し出す映像の中で、フラウスが下がり、王が前に出た。


「・・・国民よ」


バルゴの話が始まった。


「現在、エコリーパスは重大な危機に瀕している。各地で天候の悪化や作物の不作、魔獣の増加など、様々な問題が出始めている。顕著に影響が出ている領地の民は特に身近に感じているであろう。このままでは、エコリーパスの存続すら危うい状況になる。今、エコリーパスがこのようなひどい状態になっている理由は、この星の柱である大精霊の御力を授かる事ができなくなってしまった事に起因する。星降りの儀式が行えないのもそのためだ。そして、この状況を引き起こした原因は、異世界からこの星に紛れ込んだ者が、大精霊の御力を盗もうとして起こした策略によるものだ。・・・」


「なんだと!?ひどい言いがかりだ!」

「まずは落ち着いてバルゴの話を聞け。王に先手を打たれてしまったが、これは想定内だ。こちらがやることは何も変わらない」


アドルが激昂するが、それをカークが諌め、続きを聞く。


「・・・その異世界人は自らを勇者だと名乗り、私を迎合しようとした。しかし、私はその目論みを看破していた。私は異世界人が大精霊の御力を盗もうとした事を防ぐことはできた。しかし、異世界人の所業によって大精霊を怒らせる結果となり、この星は精霊の御力を授かることができなくなってしまったのだ。その後、異世界人を捕縛しようとしたが、狡猾な異世界人はまんまと逃げおおせてしまった」


「ユリちゃん、狡猾だってさ」


エスカがこちらを見てニヤッとした。

でもわたしはそれに構うことなく、スクリーンを見続けた。


バルゴの演説は続く。


「・・・できれば王都管理区内でかたをつけるつもりだったが、異世界人は既に王都から脱出したものと考えられる。この世界に害をもたらす異世界人をこれ以上野放しにしてはならない。必ずその異世界人を捕らえ、大精霊の御前に跪かせて断罪させ、大精霊のお怒りを鎮めなければならない。そこで、各領地の全ての民へ勅令を与える」


全員が固唾を飲んでバルゴの勅令に耳を傾ける。


「異世界人を捕らえて、我が前に連れてくるのだ。手段は問わない。死んでいても構わん。この星に仇なす憎き異世界人を連れてきた者には、思いのままの栄誉と褒美を与えよう。情報だけでも構わん。確かな情報にはそれなりの褒美を与え、王都の軍も協力して異世界人の捕縛に乗り出す事を約束する」


そしてバルゴは話の続きをフラウスに任せ、わたしの容姿や当時の服装の特徴、現時点で推定される逃亡範囲などについて説明した。


「・・・以上で緊急通達を終わる。皆の協力を期待する」


映像が消え、スクリーンは元の白い背景色に戻った。


「ユリ・・・」

「ユリ殿・・・」

「ユリちゃん・・・」


皆が心配そうにわたしに声をかける。


わたし自身はというと、あまりの衝撃に、声すら出せなかった。


だって、これって・・・

こんなことって・・・


エリザも心配そうな顔で、私の肩に優しく手を乗せた。


「ユリ、わかっていた事だと思うが、これがバルゴのやり方だ。だがアタシ達は決してお前をバルゴに渡すような事はしない。だからユリもこれまで通り力を貸してくれ。そして共にバルゴを倒そう」


しかし、わたしにはエリザの話がほとんど耳に入っていなかった。


だが、肩に置かれた手のおかげで、頭は現実に戻り、衝撃からも立ち直った。

そして興奮が襲ってきた。


わたしは会議室の皆を見回し、笑顔で高らかに言った。


「みんな!これだわ!この魔道具で、そろばんの『オンライン授業』ができるわ!そろばんをみんなに教える方法、解決したわよ!」


わたし以外の全員が脱力した。




0時に次話投稿します。


じわじわとですが、見てくださる方が増えてきたように思います。

レビュー、ブックマーク、評価、誤字指摘などいただけると大変励みになります。

よろしくお願いいたしますm(_ _)m

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