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ポニーテールの勇者様  作者: 相葉和
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077 計算能力向上計画その二

「で、由里はいつ、うちのそろばん塾を継いでくれるんだ?」

「うん、いずれはやろうと思っているけど、もう就職も決まっちゃったし、もう少し待っててほしいな」

「早く父さんに楽をさせてくれよー」

「何言ってんの。父さんまだまだ現役でしょ?今仕事をやめたら、やる事なくなって暇すぎて死んじゃうわよ?」

「由里、こら、縁起でもない事を言うんじゃない。まあ、まずはやってみたい事をしっかり頑張りなさい」


・・・でも、本当にそう思うよ。父さんの元気は、そろばん塾をやっているからこそだと思うから、まだまだ長生きしなさいよね。



「・・・夢、みてたのね」


朝、カークの館の客室で目覚めたわたしは、懐かしい夢を見ていた。

わたしの就職が決まった時に、父さんと話をしていた時の夢だ。


こんな夢を見たのは、昨日カークと『計算能力向上計画』の話をしたせいだろうか。


昨日、わたしは『計算能力向上計画』の施策として、カークにそろばんの有効性を説明し、まずは施策として実現可能かどうかを検討する許可をもらった。


わたしの実家はそろばん塾を経営している。

わたしも幼少の時から家でそろばんを習い、それなりに上達した。

日本一を決める大会に出られるぐらいには上手くなった。


そろばんを習う事で、計算能力が身につくのはもちろんだが、脳の働きを良くして、頭の回転を速くしたり、集中力をつけるなど、さまざまな効果をもたらすと思っている。

自分自身も頭の回転はそれなりに速い方だと少しは思っている。

別に口に出して言わないけど。

研究によると、そろばんを習う事で右脳の活動が活発になるそうだ。


だから、そろばんが世の中にもっと普及すればいいなと、ずっと思ってきた。

今は学習塾に押されて、そろばん塾自体もかなり減ってしまったが。


個人的には、せめて小学生の間くらいは、学習塾よりもそろばんをしっかり習わせた方が優秀な子が育つと思っている。

あくまで個人的な意見だ。

まあ、実家がそろばん塾だから、贔屓目に見てしまっているのかもしれないけど。


でも、この世界でそろばんを普及させることができれば、それはとても素晴らしい事だと思う。


・・・もしかしたら、父さんも応援してくれているのかもしれないね。


よし、がんばろう!



朝食を終えたわたしは、一旦自室に戻った。

なお、今日もディーネは、ミライと朝のお散歩に行って、自室にはわたし一人だ。


紙と筆記具をテーブルに出し、椅子に腰掛ける。

『計算能力向上計画』について、計画遂行に必要な事をまずは大枠でまとめておこうと思う。


・・・細部は後で考えるとして、多少は大雑把でいいので、まず何が必要かよね。


まず、そろばんを作りたい。

これは加工の魔道具で出来るかどうか、後でアドルとエスカに聞いてみよう。


しかし、そろばんを加工の魔道具で作れるとしても、ただ適当に作ればいいわけではない。

材質や品質も大事だ。


プラスチックのおもちゃのようなそろばんでは、なかなか上達しない。

わたしの父さんもよくそう言ってるし、わたしもそう思う。

ちなみにわたしが現役の頃につかっていたそろばんは、六桁の値段がする高級品だった。

島根県にあるそろばん製作の老舗が作ったもので、使い心地は本当に最高だった。


そんなわけで、材質と品質には出来る限りこだわりたい。

玉はツゲ玉かカバ玉のような材質のものを使いたい。

固くて重くて、そろばんの玉を弾いた時にしっかりと止まる、そのような素材が適している。

もちろん玉の形と触り心地も大事だ。

全ての玉を同じ大きさで均等にし、表面は滑らかな触り心地にしつつ、人差し指と親指の当たる所はしっかりと指先と玉が噛むように形を作らなければならない。


玉を支える芯竹も重要だ。

芯は真っ直ぐでブレず、玉に開けた穴にぴったりフィットして、球を動かした時に引っかかったり、緩過ぎて弾き飛んで戻ったりせず、ピタッと止まるように加工しなければならない。

特に煤竹という、田舎の藁葺き屋根に使っているものを使って加工した芯竹は最高級品だが、なかなか手に入らないのでひご竹を使うのが割と一般的だ。

材質が良ければ、この際、木で作っても構わないと思う。


そして、そろばんの枠は紫檀か黒檀に近い材質を使いたい。

材質の良さはもちろんだが、とてもかっこいいからだ。


そろばんはお手入れも重要だ。

基本的にそろばんは湿気に弱いので、使い終わったらしっかりと布で拭く。

ニューロックは一年中温暖な気候なので、きっと雨季には湿気もすごいのだろう。

湿気に強い素材や、湿気対策ができる加工とかあるだろうか。


欲望のままに完成品をイメージしてみた。

はたして想像通りにできるだろうか。

量産も可能だろうか。

コストは大丈夫だろうか。


サンプル品を見せるか、あるいはそろばんの製作工程をみんなで見れば説明も楽なんだけどな。

ああ、いますぐ島根県のそろばんの聖地に行って現物が見たい!


・・・まあ、一通りエスカとアドルに頑張って説明してみよう。


次に、問題集だ。

十級から順に問題集を作って、最終的には段位の問題集、そしてそれぞれの昇級、昇段試験用の練習プリントを作りたい。

級毎の難易度は大体覚えているので、後でまとめてみることにする。

問題集作りは大変そうなので、だれかに手伝ってもらわねば。


なお、試験用の練習問題や、実際の昇級試験用の問題は、桁数だけ揃えて適当に作ればいいというものではない。

例えば、問題の中で使う数字の出現数や、数字の使用箇所には、しっかりとしたルールがあるのだ。

他にもルールはあるが、最初は無理でも最終的にはそこまでこだわって作りたい。


それと、問題集とプリントの大量印刷。

印刷は魔道具でできるのかな?

これも要確認だ。


そして、一番の問題点。


「教える人の問題よね・・・」


現状、この世界でそろばんを教えられる人はわたししかいない。

そろばん教える、というのは、単にそろばんの機能を教えればいいというものではない。


繰り上がり、繰り下がりの時の指と玉の動かし方や、一の位の基準点、いわゆる『定位点』を基準に、掛け算や割り算の時に、掛ける、あるいは割る桁数によって、最初に答えを置く位置を決めるやり方など、教える事は沢山ある。


また、答えを間違えた時に、なぜ間違えたのかを教えるために、実際にそろばんをはじかせ、それを見て間違えの指摘をする指導が必要だ。


例えば『三に八を足す時に、一の位から二を引いて、十の位に一を足すところで、一の位から一しか引いてないよ』といった指導をするのだ。

このような指導がそろばんの上達には不可欠だ。


なお、『実際にはじかせて見る指導』を行う時は、大抵、そろばんをはじく子を正面から見る事になるので、そろばんの視点が逆さになる。

逆さ視点でそろばんを見ても指導ができるようになるには、それなりの指導経験が必要となる。


また、高段位や、競技大会で優勝を目指すような子のためには、より速くはじくための高度なテクニックや、数字の並びのパターンで答えを早く出せるマニアックな解法を教えたり、大会専用の練習メニューを考えて、練習の面倒をみる。

すぐには必要無いけど、指導者にはそういった情熱も必要だ。


なお、マニアックな計算といえば、そろばんで平方根や立方根を計算する事もできる。

『開法』というが、例えば平方根は『二かける二は二』といった『半九九法』を用いて求める事ができる。

できればこういった知識も持ち合わせている事が望ましい。


他にも、『読み上げ算』といって、問題を読み上げてはじかせる練習をするために、一定の速度で、はっきりと発音して数字を読み上げる練習も欠かせない。

ちなみに、この世界では発音が異なるので、必ずしもその通りでは無いが、読み方にもルールがあったりする。

例えば、『二十四円』を『にじゅうよえん』と読んではいけない。

『にじゅうよんえん』と読まなければいけないのだ。

競馬で『二十』を『ふたじゅう』と読むルールになっている事と似たようなものだ。


そろばんの先生になるための資格というものは無い。

なんなら、誰だって、いますぐにでもそろばん塾を開く事ができる。


しかし、こういった指導がちゃんとできないようでは、教えられる側は上達しない。

通っても上手くなれない塾、指導がつまらない塾では、人も集まらないだろう。


わたしだって、そろばんをはじくのは得意でも、教える側の経験はそれほど多くは無い。

実家のそろばん塾の手伝いをしていた程度だ。


『そろばんができる』と『そろばんを教えられる』はイコールではない。

むしろ全然違う。


だから、わたしが実家のそろばん塾を継ぐといっても、当面は『教えるための修行』が必要だった。


会社を辞めて、実家に帰る事にした時に、父さんとその話もしようと思っていた。

もしもそろばん塾を継ぐならば、まずは父さんにちゃんと師事して、数年間は指導方法を教わるつもりだった。


・・・しかし、わたしは実家に帰れず、なぜか異世界にいる。


そして図らずも、わたしは異世界でぶっつけ本番でそろばん塾を開く事になるかもしれないので、、その時はOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)のつもりで、わたし自身も修行しようと思っていた。


そんなわけなので、当たり前のことながら、そろばんの指導者がいないこの世界では、まだ未熟なわたしが一人で指導するわけだが・・・


さて、どうやってやろう。

やはり習いたい人を全員呼んで、一箇所に集めてやるしかないだろうか。


しかし、ニューロックは広い。

オーストラリアの五、六分の一ほどの広さだとしても、かなり広い。


習いたい人全員を呼び寄せるのは現実的ではないだろう。

わたしが現地に赴く?

一日毎に移動して教えて回っても、一周するのにどれぐらいかかるだろうか。

下手すると一周するだけで三ヶ月以上かかるかもしれない。

そうなると、三か月に一度しか指導できない。

それでは良い練習にならない。


わたしの代わりに教えられる人が育てば、各地に教室を作って教えてもらえるだろうが、そこまでの道のりはまだまだ長い。

なにか良い方法はないだろうか。


・・・まあ、考えても答えが出ない事は、全部まとめて相談だね。

わたしは一人じゃない。


とりあえず、そろばんの製作と量産から手をつける事にする。

製作の話となると、やっぱりエスカかな。


わたしは部屋を出て、エスカを探しに中庭に行った。

相変わらず、中庭は魔道具の生産工場になっている。


エスカは中庭の中央にいた。

今日も張り切って作業の取りまとめを行っており、すぐに見つける事ができた。

ルルもそばでお手伝いをしている。


「おーい、エスカさん、相談があるのだけど・・・」

「ユリちゃん!いいところに来た!この魔石の精製もお願いしていい?」


えー、またっすか!?

あんなに精製したのに、どんだけの勢いで消費してるのよ!


わたしの用事も聞いてほしいけど、恋する乙女は盲目に張り切ってるしなあ・・・


とりあえず目の前の魔石の精製を終えてから相談する事にして、わたしは魔石の精製作業を淡々と始めた。



お昼に次話投稿します。


じわじわとですが、見てくださる方が増えてきたように思います。

レビュー、ブックマーク、評価、誤字指摘などいただけると大変励みになります。

よろしくお願いいたしますm(_ _)m

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