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ポニーテールの勇者様  作者: 相葉和
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076 計算能力向上計画その一

昨日、カークからこの国の新しい施策を考えてほしいと言われたわたしは、午前中に魔力の練習と演説内容の検討を行い、午後、カークの執務室へと向かった。

国の施策として何をするか、私が考えた案を説明するためだ。


ちなみにディーネは、ミライと一緒に、お散歩(ただし敷地内のみ)に行っている。

ミライの遊び相手に引き摺り出されたともいうけど。


カークの執務室に着き、扉をノックして声を掛けると、入室を促された。


扉を開けて執務室に入ると、執務室の奥の壁に貼ってある私の横顔を意匠した国旗が目に飛び込んできた。


・・・ここにもあったか。早く慣れないと。


本当にデザインは素敵なんだけどねー

いっそ、顔と頭の輪郭をなくして、ポニーテールだけの絵にしてしまえば・・・

いや、それでは意味が全くわからないか。

首都高を走っていると見える某ビルの上に乗っかっている、(自粛)の形にも見えないことはない、あの金色のオブジェを連想してしまった。


・・・あれは泡を意匠したオブジェですよね。

ビール好きですから、もちろん存じ上げております。


とりあえず、本題本題。


「失礼します。こんにちは、カークさん」

「ごきげんよう、ユリ殿。すまない、まだ参考になる資料は文官から届いていないのだ。もう少し待ってくれ」

「いえ、大丈夫です。施策ですけど、わたしなりに考えてみました」


私はカークの謝罪に首を振り、私が考えたプランについて説明を始めた。


「この国の人達は、便利な計算機の魔道具に頼りきりで、ご自分の頭で計算するということをあまりしていないようです」

「まあ、計算機があるからな」


それよ、それ。

皆、『そこに山があるから』みたいな言い方をするのよね。

もちろん計算機を使う事を完全否定はしないけど。


「そこでカークさん。わたしは、わたしの国で培った、計算能力向上のための施策をしてみたいと思うのですが、どう思いますか?」

「うーむ・・・」


カークはしばし悩んだ後、私に質問した。


「計算機でできることを、計算機を使わずにできるようにする、という事に、利益が結びつかないのだが、それについてはどう考える?」


まあ、そうですよね。

わからなくはないです。


「一応、一般的というか、経験則でもあるのですが、計算能力の高い人は、頭の回転が速い人が多いです。また、勉学に関しても、頭の良い人が多いですね」


実際、そろばんの有段者は、頭のいい学校に行っている人が多かった。

頭の回転が速い人も多く、考える力や、発想力も高い印象だ。

受験においては、数学や物理で計算にかかる時間を短縮できる、という利点もあるのだろう。

もちろん全員がそうだとは限らない。あくまで傾向である。


「そして、計算能力の練習の過程で、集中力が身につきます。記憶力もよくなる傾向があります。これは仕事をする上でも役に立つと思うのです」

「それはユリ殿自身に当てはめて考えた結果か?」

「わたしはそこまで自惚れていないですよ。一般的な話です」


カークはさらに悩み、未だ結論を出せずにいる。

何かもうひとつ、背中を押せる要素が欲しい感じだろうか。


「・・・例えば、この領地って、文官の採用はどのように行なっているのですか?」

「主に他薦や血縁だな。実際に実力を見て決めたりする事もあるが、あまり人数が来ても困るので、よっぽどの実力者や、既に他方で仕事の実績があるものについては、実力をみるような事はする」


公務員試験的なものは無くて、何かしらコネが無いと厳しい社会ということね。


「例えば、採用基準に『計算能力の試験を設ける』という事は可能でしょうか。例えば一定基準の計算ができたものは採用する、と言った具合です」

「だいぶ手間がかかるのでは無いか?それこそ一人一人見ていられないだろう」

「いえ、『採用試験問題』というものを作って、採用を希望する者に一斉にやってもらうのです。そして採点して、合否を決めます。その方法ならば、推薦や血縁のない人でも、文官採用の機会を得られるし、判定も平等です。合否結果を出すにしても、それほど時間はかかりません」


カークが三度目の長考に入った。

そして、考えがまとまったのか、意見を述べる。


「・・・新しい国の、人材登用の方法の一つに用いるのであれば、建国宣言の時が一番良いだろうな」


お、少し乗り気になった?


「ユリ殿が考える、役人として採用しても構わないと考える基準に相応しい計算能力はどれぐらいだろうか」

「そうですね・・・」


最初は初段認定あたりにハードルをおいた方がいいかもしれない。

何桁だったっけな・・・

この際、昔と今の段位試験の基準と混ぜて、さらに少しアレンジしてもいいかな。


「えーと、掛け算であれば六桁かける五桁程度の計算、割り算の場合は答えが五桁か六桁になる計算、見取り算なら十桁の揃いで十口の問題ですかね」

「ユリ殿が何を言っているかわからん。紙に書いてくれ」


わたしは紙に問題例を書き、それぞれについて説明した。


「は?これを頭でやれというのか?ユリ殿の星の人達は化け物か!?」

「いや、わたしの星でも全員ができるわけでは無いですし、この問題は、基本的には『そろばん』というものを使って自力で計算します。使わなくてもやれる人はいますけど。これとは別に、そろばんを使わずに頭だけで行う、暗算問題もあります」


わたしは暗算の問題例も追加で書く。


「・・・これを解ければ採用か。まあ、やり方を覚えれば、時間をかけて答えを出せる者はいるかもしれんな」

「え?時間がかかってはダメですよ。それぞれ規定の問題数があって、規定時間以内に回答を出して、規定数以上を正解しないと合格にはなりません」


『大体このぐらいの時間内で、このぐらいの正解数が必要』という説明を行うと、カークは『こいつ何言ってんだ?』という顔をした。


「そんなことができるわけないだろう!二桁程度の計算しかできぬ者達ばかりなのだぞ」

「はい。これができるようになるには、個人差はありますが、すごく早くて三年、中には十年以上かかる人もいるでしょう。ですから、時間をかけて学ぶのです。新しい教育として」


・・・三年でできる子なんて本当にごく僅かだろうな。

いい先生がついて、やる気と素質と、ものすごい練習量が無ければ無理だ。

この世界では特に厳しいと思う。


その時、カークが、鳩が豆鉄砲を食ったような顔で、わたしを見た。


「えーと、カークさん、どうかしましたか?」

「今、なんと言った?」


え、わたしの発言のどの部分だろう?


「えーと、三年から十年ぐらいの教育が必要、と言いましたけど」

「・・・それだよ、ユリ殿」

「どれですか?」

「教育だ」


教育ならいいの?

教育といえばなんだ?

若手育成だろうか。


あ、わかった。そういう事?

少し頭の中で整理してから答える。


「・・・将来、頭の回転が速く、集中力があり、記憶力も良く、国を支えるための有能な子供を育成するために、計算能力向上のための教育を、『国が後ろ盾となって』国民に推奨する。特に計算能力が優秀な人材は文官として採用する、というのはいかがですか、カークさん」


カークが正解とばかりに、ニヤッと笑う。


「子供の育成に関する施策は、国を挙げての施策にはもってこいだ。やはりユリ殿は頭の回転が速い」


そして、教育にかかる準備や費用については、ある程度、国で負担する。

なにしろ国としての施策なのだから。


国民側としても、義務ではなく、あくまで『推奨』なので、やってもやらなくてもいい。


そんな感じで大筋をまとめると、カークから指示が出された。


「ユリ殿。早速、実践計画をまとめてほしい。教材や学習方法の準備の仕方についてもユリ殿にお任せする。むしろユリ殿でないと無理だ。あまり日数がないから大変だとは思うが、とりあえず大枠の計画でいいので、作ってみてくれ」

「分かりました。ありがとうございます、カークさん」


いよっしゃあ!

この星でそろばんを普及させてみせるぜ!


「ところで、その、『そろばん』というものはどういうものなんだ?魔道具では無いのだろう?」

「はい、えーと、要するに計算機ですね」

「は?計算機を使わずに計算ができるように教育をするのに、計算機を使うのか?意味がわからん」


わたしがそろばんの説明を『計算機のようなもの』と言ってしまったばっかりに、話がややこしくなってしまった。

言葉選びとそろばんの説明、もっと慎重にすればよかったよ・・・


「確かにそろばんは計算機ですけど、これは自分の指で計算の操作をして、自力で答えを出すためのものなのです。計算機のように自動的に答えが出てくるものではありません」

「しかし結局は、そのそろばんというものを使わないと計算ができないのだろう?」

「いえ、そろばんを使って計算の練習をする目的は、そろばんを使わないで計算するためなんです」

「・・・ますます意味がわからん」


その後、そろばんの絵を書いたり、計算の実演をしたりしつつ、どういう理屈で計算能力が向上するのかを説明し終えた時には、夕方になっていた。

疲れた・・・


0時に次話投稿します。


じわじわとですが、見てくださる方が増えてきたように思います。

レビュー、ブックマーク、評価、誤字指摘などいただけると大変励みになります。

よろしくお願いいたしますm(_ _)m

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