075 魔石精製大会とアキムの魔道具
この星の人達の計算能力が低い事を再認識したわたしは、計算能力向上計画について考えてみる事にした。
が、とりあえず目先の用事を済ませなければならない。
「とりあえずユリちゃん、あそこの荷車に積んである魔石の精製をお願いできるかな」
荷車に目を向けると、かなり膨大な量の魔石が山盛りに積んであった。
ドルッケンで発掘した魔石を精製した時の総数と同じくらいの量はあるんじゃない?
「エスカさん、あの量を、いつまでに?」
「できれば、その、今日中に・・・」
・・・マジっすか。
あの時よりも魔力の扱いは上手になったと思うけど、この量はしんどそうだ。
「できるだけ頑張ってみるね。あとでディーネちゃんも来ると思うし」
「ごめん、助かるよ!手の空いてる人にも手伝ってもらうから!」
遅い時間に昼食を食べたので、お腹は空いていない。
わたしは早速、魔石精製の作業に取り掛かった。
淡々と魔石の精製を行い、一割程度を終わらせたところで、ディーネが来てくれた。
・・・あれ、アキムさんも一緒?
「ユリよ。魔石精製の助っ人を連れてきたのじゃ」
「儂も手伝ってやろう」
わたしがエスカに魔石の精製を頼まれている事を知っているディーネちゃんは絶対に手伝いに来てくれると思っていたが、まさか一緒にアキムも連れてきてくれるとは思わなかった。
これはありがたい。
「アキム様、大変助かります。この量はちょっとしんどいので・・・」
「なんの、構わんよ。では、サラ。頼む」
サラさんにやらせんのかーい!
まさかのサラに丸投げかよ、と思ったけれど、ちゃんとアキム自身も手伝ってくれた。
ちょっとホッとした。
わたしと手空きの作業者さん、そこに元国王と水の精霊と風の精霊という豪華メンバーの参戦により、ものすごい勢いで魔石の精製は進んだ。
アキムは現役時代に使役の魔道具を使えていただけに、豊富な魔力を持っているようだ。
さすが初代国王である。
サラは、まだ知らない人に姿を見せるわけにはいかないので、姿を消したままアキムが左手に持った魔石を精製しているようだ。
ハタからみたら、アキムがめちゃくちゃ凄い勢いで両手で精製しているように見える。
手空きの作業者さん達は、目を丸くしてアキムの様子を見ていた。
アキムは軍師か、幹部的な立場になる人だと思うので、実力を見せて箔付けをするという意味ではちょうどよかったかもしれない。
陽が落ちてからは、中庭に灯りを入れてもらい、終盤に差し掛かった頃にはエスカ達も参加し、みんなで作業する事、約四時間。
全ての魔石の精製が終わった。
「終わったー!」
「ユリちゃん、ありがとう!すごく助かったよ!」
エスカがディーネとアキムにもお礼を述べ、魔石精製大会は無事に閉幕した。
仕事を終え、わたしとディーネが部屋に戻ろうとした時、アキムに呼び止められた。
「ユリに見せたいものがある。儂の部屋にちょっと寄ってくれ」
◇
わたしとディーネはアキムについて行き、アキムがカークから提供された客室に入った。
アキムの部屋の間取りは、わたしの部屋とほぼ同じだった。
まあ、そう変わり映えするものでも無いだろう。
「とりあえずそこに座っていてくれ。今出すのでな」
わたしは椅子に座り、アキムを見た。
アキムは、ロップヤードのアキム宅から出発する時にディーネに運ばせた袋の中から、何やら変わった道具を取り出した。
・・・たぶん魔道具だよね?
用途はわからないけど。
アキムは取り出した魔道具らしきものを机の上に置いた。
脚が六脚ある台座のようなものの上に、真っ黒い箱が乗っている。
箱はよく見ると少しだけ透明感があった。
目を凝らしてみると、箱の中には魔石が詰まっているように見えた。
おそらく魔石回路だろう。
「ユリ、この魔道具はな、送還の魔道具だ」
「送還の・・・という事は!これでわたしは・・・」
「慌てるな」
アキムが興奮するわたしを制した。
「正しくは送還の魔道具の『部品』だ。おまけにこれも作りかけなのだよ。昨夜、お前が寝た後で、家にあった部材で作ってみたのだよ」
話によると、この魔道具はまだ完成品ではない上、完成しても、さらに同じようなものがあと三つ必要だという。
「ユリを元の異世界の座標へ送り還すには、方角に加えて、異世界への座標も同調させなければならない。そのために四つの魔道具が必要なのだ」
つまり、X軸、Y軸、Z軸の座標と、次元に対する軸の座標も加えて、四つの軸を同調させる必要がある、といったイメージだろうか。
「さらに起動には膨大な魔力が必要となる。おいそれと使えるものではない。一つを起動するだけでも、そのへんの奴らが束になっても無理だろう」
燃費悪っ!
でも、わたしが王都の城で召喚された時にも、わたしの周りにはたくさんのローブの男がいた。
召喚も送還も、おそらくベテラン魔道師が大人数でやっと動かす事ができるレベルなのだろう。
「なるほど、そうなのですね。でも作れる事が分かってよかったです。完成にはどれくらいかかりそうですか?」
「問題はそこなのだ。極めて高品質の魔石が大量に必要となる。それを集めるのが大変なのだ」
また魔石発掘に行かないといけない?
しかし、極めて高品質の魔石ときたか。
「一応聞きますけど、さっき、中庭で精製した魔石の品質ではどうですか?」
「あの山の中に、十個あるかどうかだな」
「やっぱりそうですか。そんな気はしてました」
金食い虫の魔道具め・・・
その時、サラがフワリと姿を現した。
そして、アキムの説明を補足してくれる。
「私は風の魔石なら高品質のものを作れるわ。ディーネも水の魔石なら高品質のものを作れるでしょう?」
「うむ。作れる。それはユリにもできるのじゃ」
「でも、それだけじゃ足りないのよ。火も土も光も闇も必要。全然足りないわ」
満遍なく、一通りの属性が必要ということか。
確かに集めるのは大変そうだ。
アキムが続きを話した。
「手持ちの高品質な魔石をかき集めた結果、とりあえず魔道具の部品一つ分はあったので、できるところまでは作り上げてきた。この作りかけの魔道具について言えば、先ほど中庭で精製した魔石を少し貰えば完成するだろう」
アキム様、資産家だな・・・
てか、これ一つ作るのに一体幾らかかるのだろうか。
後で請求されたら怖い。
「では残りの三つ分の魔道具も作るために、高品質の魔石集めをしなきゃいけないわけですね。魔石集めは大変そうですけど、光明が見えた感じで嬉しいです」
「うむ。一応ユリだけには話しておこうと思ってな。建国の旗印になるユリが少しでも希望を持って、その役目を果たせるようにな」
アキムの配慮を嬉しく思った。
日本に帰るための希望の欠片が、この目の前にあるのだ。
俄然やる気が出た。
「ただし、この話は念の為、まだ内密にしておくように」
「何故ですか?」
アドル達にも話しては駄目なのだろうか。
「未完成とはいえ、お前が元の世界に帰る為の魔道具がここにあると知れば、お前を元の世界に帰したくないと思う人間が、この魔道具を奪うか、破壊しにくるかもしれん」
「なるほど・・・」
仲良しの従姉妹とその両親が実家に遊びに来た時に、従姉妹とずっと遊んでいたくて、従姉妹の両親の靴を隠した事を思い出した。
もちろん、バレてめちゃくちゃ怒られたけど。
「この話は、ユリ達が全てを成し遂げてから話そうかとも思ったのだが、お前が途中で投げ出して帰ろうとする事はないと思ったのでな、ユリの景気付けに使うことにしたというわけだ」
アキムがニヤッと笑った。
・・・景気付けと同時に、釘も刺してますよね。
でも信用してくれているって事でもあるんだよね。
もっとも、アキムに釘を刺されるまでもなく、途中で帰るつもりはさらさらない。
もはや私だけの問題ではないし。
「しっかり元気をいただきました。アキム様、ありがとうございます」
「うむ、頑張るがいい」
わたしはサラにもお礼を言った。
「サラちゃん、情報ありがとう。風の魔石が必要な時は協力してくれると嬉しい。それと、さっきは魔石の精製を手伝ってくれてありがとう。すごく助かったよ!」
「べっ別ににあんたのために協力したんじゃ無いんだからねっ!」
睨んだ通り、やはりサラはツンデレ属性だった。
お昼に次話投稿します。
じわじわとですが、見てくださる方が増えてきたように思います。
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