073 コーラルに向かう船上にて
アキムの家を出発したわたしとアキム達は、お昼の鐘が鳴る前にはアドル達が待つ町に到着した。
この町には宿屋が一軒しか無いので、とっとと宿屋に向かう。
すると、外でトレーニングをしていたノーラを見つけた。
ノーラもわたし達に気が付き、駆け寄ってきた。
「ユリ師匠、おかえりなさい。夕べはお楽しみでしたか?」
「ただいまノーラさん。それ、挨拶みたいに使うのはやめなさいね」
ノーラの案内でアドル達がいる場所に連れて行ってもらう。
既に宿は引き払って、お茶処のようなところで待っているそうだ。
お茶処の近くまで行くと、テラス席のような、野外の席に座っているミライとアドルの姿を見つけた。
アドル達が座る席のテーブルには、魔石が幾つか置いてある。
アドルがミライの魔力トレーニングをしてくれていたのかもしれない。
ミライとアドルは、わたし達を見つけると、駆け寄ってきた。
「ユリお姉ちゃん、おかえりなさい!えーと、『夕べはおた・・・』」
「言わせないわよ。ただいま、ミライちゃん!」
後でミライにはその挨拶を使わないようにちゃんと言っておこう。
なお、ミライとノーラにその挨拶を教えたディーネは、わざとらしく明後日の方向を向いて羽根づくろいをしている。
「ユリ、おかえり。体はもう大丈夫なのかい?」
「ええ、もう大丈夫。アキム様のおかげよ。それにこの通り、アキム様にはちゃんと連いてきていただいたわよ」
アドル達に元気な姿を見せ、安心してもらう。
アドルは昨夜の喧嘩腰の態度から一転、アキムにしっかりした言葉遣いでお礼を言った。
「礼には及ばん。さっさとコーラルに向かうとしよう」
アキムの提案ですぐに港に向かい、港で待っていてくれた船長さんにアキムを紹介した。
アキムの名前は知らなくても、その存在だけは有名なようで、船長さんは快くアキムを迎えてくれた。
船に乗り込むと、すぐに出航となった。
今日の海は穏やかで潮流も良いため、往路よりも早くコーラルに到着できるそうだ。
◇
わたし達は船の後部デッキに集まり、話をしていた。
よく晴れ、気持ちの良い風が顔を叩く。
「すると、風の・・・じゃなくて、サラさんも、今一緒にいるって事か。味方になってくれるなら心強いな」
「ええ、とっても。今はアキム様に協力してついてきてくれているのだけど、いつかはちゃんと戦って勝って、わたし自身が協力してもらえるように頑張るね」
船の上でアドルとそんな会話をしながら、わたしは今後の事を考えていた。
・・・二週間後には、ニューロックが独立、建国を宣言して、バルゴに宣戦布告をする。
そうすれば、バルゴは必ずニューロックを攻めに来る。
他の領地の太守はどうするだろうか。
わたし達に協力してくれるだろうか。
敵対して、ニューロックを包囲しにくるだろうか。
これって戦争になるんだよね。
本当に守れるの?
わたしなんかで力になれるの・・・?
「ユリ、険しい顔になっている。何を考えている?」
不意にアキムに声をかけられた。
「アキム様、その、わたし、今後のことを考えていたらちょっと怖くなって・・・」
「まあ、無理もない。しかし、お前は新しい国の象徴となるのだから、お前が不安に思うと、国民も同じく不安になる」
アキムは船が進む先、コーラルの方角を見つめながら、昔話を始めた。
「かつて、とある男が、国に反旗を翻した。敵は強かった。そして、仲間達は決して強くなかった。しかし、皆はその男を信じて敵と戦った。大変な犠牲が出たが、男達は勝利した」
・・・それってアキム様がこの星に来る前にクーデターを起こした話だよね。
「男は常に自信にあふれた顔をして、必ず勝てると言って仲間を鼓舞し続けた。そして戦いに勝利する事ができた。しかし、実際は、男はずっと怯えていたのだ」
・・・アキム様も怖かったんだ。
今は少し気持ちがわかる気がする。
「しかし、自分が弱音を吐いてしまっては、皆の士気に影響が出る。男は心に仮面を被って、皆に強がってみせた」
・・・わたしにもそれをやれというのですか?
「ユリよ。弱音を吐くなとは言わない。お前にはその男よりも信頼できる仲間達が多くいる。アドル達には弱音を吐け。そして頼れ。だが、国民や兵士の前では、仮面を被らねばならない時もある。それは分かるな?」
「・・・はい、分かるつもりです」
一国の大将が頼りにならなければ、みんな不安に思うし、不満も出るだろう。
わたしが生まれた国でもあてにならない政治家がたくさんいた。
似たような事は経験しているつもりだ。
「だったらいっそのこと、開き直ってしまえ。皆で手を尽くして、その結果が駄目だったら、もう仕方ないではないか、と笑い飛ばせばいい」
「そんな!わたしのせいで負けたら皆が犠牲になるのに、笑ってなどいられませんよ!」
「やはりそんな考えに囚われていたのだな」
アキムがニヤッと笑う。
「お前は国の象徴となり、それに賛同してくれた者達を率いる事になる。だが、その責任をお前が一人で背負う必要などないのだ」
そんなつもりは・・・いや、思っていた。
わたしは会社員時代から、『責任者は責任を取るためにいる』と考えているし。
わたしがその責任者の立場ならば、わたしが責任を取るのが当然だ。
それがごく当たり前だと思っている。
アキムが話を続ける。
「一緒に戦ってくれる者達を信じよ。お前一人の力で勝敗を分けると思っているのか?思い上がるな。力を貸して、力を借りろ。皆で等しく責任を分け合い、そして」
アキムはわたしに向き直り、一呼吸入れて、話を締めくくる。
「勝利を皆で等しく分かち合うのだ。勝利の栄光は皆一人一人のものだ。ユリだけのものではない。それは負けた時も同じだ。お前を信じてくれた者達と等しく敗北を共有しろ。それができなければ、お前は心から味方を信じていなかったという事だ」
目から鱗だった。
わたしが奮起してバルゴに勝利する為には、わたしの力が必要なのは間違いないと思う。
でも、負けた時に『わたしのせいで負けた』と思い、一人で責任を背負う事は、勝利した時に『わたしのおかげで勝った』と一人で勝ちを独占する事と同じだと言っているのだ。
勝ちの栄光も、負けの責任も、みんなで等分。
それができないで『みんなを信じる』とか、都合の良い事を言う資格などない。
わたしは、憑き物が落ちたような気分で、アキムに笑顔を向けた。
「アキム様、ありがとうございます。なんか妙にスッキリしました。わたしが国の象徴としてやるべき事がわかったような気がします」
アキムは満足そうに頷いてくれた。
一緒に隣で話を聞いていたアドルも、優しい顔でわたしを見ている。
『分かったらもっと頼れ』と顔に書いてある気がした。
・・・本当の意味でみんなを信じよう。
そして、わたしを信じてくれる人に、わたしも全力で頼ろう。
「ところで、アキム様。わたし、みんなの前で建国の時に演説をしなければならないのですけど、さっきのアキム様の言葉、パクっていいですか?」
「『ぱくって』とは『盗用する』という意味と判断したが、参考にするのは良いが、全てを『ぱくって』使うのは無しだ」
わたしの言葉でみんなに伝えなきゃいけないですよね、そりゃそうですよね。
「ユリ師匠なら大丈夫ですよ。きっと皆にも想いが伝わると思います」
ノーラがわたしを激励してくれた。
「ありがとうノーラさん。よかったらノーラさんも一緒に、演説内容を考えてくれるかしら?」
「私は演説をしている師匠をしっかりとお守りします。ご安心ください」
自分には自分の役割がある、とノーラは言い切った。
「ミライはお手伝いするよ!」
「ふふっ、ありがとうミライちゃん。頼もしいわ」
噂によると、ミライは思い悩んでいたアーガスのメンバーの相談に乗り、見事に悩みを解決した実績があるらしい。
子供の素直な心が、大人の心に響く事はよくある事だ。
演説の内容が決まった時には、先にミライに一度聞いてもらおうと決めた。
「ユリよ。よかったら儂も手伝ってやろう。儂の言葉をパクリ過ぎるのはよくないが、パクった言葉が自分のものになっていれば良いのだ。ユリがただ言葉をパクるだけとは思わぬが、ユリがパクって使う言葉にはパクられただけの理由があるはずだ。パクられるべき言葉は遠慮なくパクりなさい」
「アキム様、言葉の応用力は素晴らしいですが、あまりアキム様が『パクる』を連発しないでください。言葉が似合いません・・・」
お昼に次話投稿します。
じわじわとですが、見てくださる方が増えてきたように思います。
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