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ポニーテールの勇者様  作者: 相葉和
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007 深夜の作戦

「はあ・・・はあ・・・」

「あの、大丈夫ですか?」

「うう・・・絶叫して発散したら、今度は恥ずかしさが込み上げてきたわ・・・」


そりゃ、選ばれし勇者とか言われたらやっぱり気分は良いじゃない?ちょっと特別感が出るじゃない?

それが蓋を開けてみたら何よ。「誰でも良かった」なんて・・・

だったらわたしで無くても良かったじゃない。

もっとマッチョでスポーツマンで、勇者にふさわしい人を召喚すれば良かったじゃない。

もう日本に帰りたいよ・・・


「あの・・・すみません、気休めかも知れませんが・・・」


男が立ち上がり、声を掛けた。

項垂れていたわたしはゆっくり顔を上げ、男に目を向けた。


「やはり貴方は選ばれるべくしてこの世界に召喚されたのではないかと思います。確かに水の精霊の結界を通り抜けるためには誰でも良かったのかも知れません。ですが・・・」


一度呼吸を整えてから、話を続ける。


「ですが、貴方は突然侵入したオレを警備兵に突き出すこともなく、こうして話を聞いてくれて、もしかしたら水の精霊を救うために動いてくれるかもしれない。もし他の異世界人だったら、オレの話など聞いてくれず、バルゴの策に乗って、オレの大切な友人を失うことになっていたかもしれない」

「大切な友人?水の精霊が?」

「はい。大切な友人である水の精霊を救って欲しい。星のためでもありますが、オレはまた、水の精霊と昔のように話がしたい。実はそれが本当の気持ちなのかもしれません」


懐かしむように目を細める。

『精霊は生活に身近な存在であり友人だ』みたいな俗な話ではなく、実はもっと深く、この人と関わっていたのかもしれない?


男は息を大きく吸い、由里に手を差し出して、言った。


「俺に協力してください。水の精霊を救って、この星を救って、本当の勇者になりませんか?」


雲が切れて星明かりが窓から差し込む。

男の顔が照らされ、その輪郭と表情がはっきりと見えるようになる。


きれい・・・


整った顔。柔らかい表情。それでいて真剣な眼。

わたしから目を逸らさず、差し伸べた手は微動だにしない。


思わず目を奪われ、見惚れてしまった。

いや、いままでいい男になんて縁が無かったし。

ちょっといい男に目を奪われるぐらい、仕方ないでしょう?


・・・でも、少しぐらいは信用してみてもいいかもしれない。

由里も手を伸ばし、男の手の上に右手を乗せる。


「まだ完全に信用したわけではないけれど・・・いいわ。乗ってあげる。わたしの名前は由里よ。出来ればもっと普通に話してほしいかな。わたしは勇者ではないのでしょう?」


わたしがニコッと微笑むと、男も応えた。


「ユリ・・・分かった。ありがとう。オレの名前は、アドル。そうだね。『まだ』勇者ではないね」

「ふふっ。わたしを作り物の勇者に仕立てたバルゴ達の鼻をあかして、本当の勇者になってやりましょう」


その時だった。

ドアがドンドンと激しく叩かれ、警備兵から声が掛けられる。


「勇者殿、大丈夫ですか?今うなり声のようなものが聞こえましたが」


もしかして、さっきの魂の叫びが遮音結界の限界を突破してしまったのかー!


アドルが急いで動き出した。何か道具を取り出し、確認している。


「ユリ、出来れば今から行動を起こしてくれないか?」

「え、今から!?」

「明日、バルゴの準備が出来てしまったら、もう水の精霊は逃げる機会を失うかも知れない。それにさっきも話したように、結界を越えるだけなら、召喚された異世界人なら誰でも良い事が分かってしまった。もしもユリが明日、不穏な動きを見せれば・・・ユリは殺され、別の人が召喚されるだけだ」


ゴクリと息を呑む。


「オレも今から行動を起こす。水の精霊の間の前にいる警備兵はオレがなんとかするので、警備兵に見つからないように水の精霊の間に来てほしい。魔力は使えるかい?」

「いいえ、使い方なんて知らないし魔力なんて持ってないと思う・・・」

「では、この魔道具を使ってくれ」

「だから魔力なんて使えないんだっては!」

「いや、この魔道具は魔力を充填済みなので、後は発動させるだけだ。この魔道具の魔石部分を隠すように握りしめると、数刻の間、姿を消す事が出来る。姿を消して部屋を抜け出すのに成功したら、水の精霊の間の前で会おう」


渡された小さな魔道具を見つめる。

不安だけど、やってみるしかない。


「水の精霊に出会えたら『あなたを助けるためにアドルに頼まれた』と伝えてみてくれ。きっと話を聞いてくれるはずだ」

「アドル、あなたは一体・・・」


再び扉が叩かれる。


「勇者殿!大丈夫ですか?確認させていただいてもよろしいですか?」


まずい、入ってくる!


「時間がない。由里。君の事はオレが必ず守る。だからオレを信じて・・・後で会おう!」


そう言うとアドルは入ってきた窓から外に出て、素早く窓を閉めた。


「いいですか?開けますよ!」


わたしはベッドから飛び降り、テーブルの水差しからカップに水を注ぎ、水を飲むポーズを取る。


警備兵が扉を開けた。警備兵はわたしを見て、目を見開いた後、中の様子を見渡す。


ふー、間一髪間に合った・・・


「えーと、ごめんなさい警備兵さん、どうも寝付きが悪くて。疲れてたのかしら?寝言も言ってしまったみたいで。喉も乾いてしまったわ。ほほほ・・・」


若干苦しい言い訳をしたせいか、警備兵さんはこちらを見ず、部屋の様子をじっと探っているように見える。


・・・窓の方を見てる?まずい。何か侵入の形跡に気付いた?


「あの、警備兵さん。・・・窓に何か?」


恐る恐る聞いてみると、警備兵さんは答えた。


「申し訳ございません・・・出来れば何かお召し物を履いていただければと・・・」


「!!!」


慌ててシャツの裾を引っ張り下げたが、時すでに遅し。

わたしは腰から下をパンツ一丁で、星明かりに照らされて立っていたのだった。


警備兵さんはわたしの痴態を見ないよう、目を逸らしてくれていただけだった。


くっ、いっそ殺してくれ・・・

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