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ポニーテールの勇者様  作者: 相葉和
69/206

069 アキムの提案

「由里は大きくなったら、何になりたいんだ?」

「わたしは、お父さんの後を継いで、そろばん塾をやるの!」

「よく言った!聞いたか母さんよ。由里が後を継いでくれるってよ!」

「あんまり期待しない方がいいわよ。由里はなんでも手を出すけど飽きっぽいんだから」

「わたしは日本で一番そろばんが上手い人になって、それからお父さんのお仕事をお手伝いして、すごいそろばん塾を開くの!」


・・・でも、日本一にはなれなかったんだよねー。


そろばんの練習は続けたけど、高校に入ってからは学校が面白くて、部活も面白くて、そろばんの練習も疎遠になったし、結局違う仕事に就いた。


あーあ。続けていたら、もっと違うミライがあったのかなあ?


あれ、ミライ?

ミライってなんだっけ?

ミライちゃん?


「ユリお姉ちゃん?ユリお姉ちゃん?」


あ、ミライちゃんだ。


「ユリお姉ちゃん起きた・・・アドル!ノーラお姉ちゃん!ディーネちゃん!ユリお姉ちゃんが起きたよー!」


ミライちゃんが叫んでる。

みんなを呼んでるのかな。


あ、ミライちゃん泣いた。

ぐえっ!重いよミライちゃん・・・

ここは、どこ?

木の家?

わかった。アキム様の家だ。


ああそっか。わたし、負けたんだっけ・・・




わたしはアキムの家のベッドで寝かされていた。

小綺麗で、人が使った形跡が感じられないシーツと掛け布。

装飾品のない、簡素で小さな部屋。

おそらくアキムの寝室ではなく、客人用の部屋のようだ。


バタバタと足音が聞こえて、アドル達が部屋に入ってきた。


「ユリ、気がついてよかったよ」

「師匠、心配しました。ううう」

「ユリお姉ちゃあん・・・ひっく」


アドルが安堵の表情でわたしを見ている。

ノーラは半ベソだ。

ミライはひっくひっく言ってる。


ディーネちゃんは・・・そうだ!


「ディーネちゃん、怪我はない?一緒に竜巻に巻き込まれたでしょう?羽根もげてない?」


ハシビロコウの美しい羽根に傷でもついたら大変だ。

わたしは慌てて目だけでディーネの体を見た。


「ユリよ。妾の依代の体は外傷などすぐに治せる。自分の心配より妾の心配が先とは、ユリらしいのじゃ」


あ、そうだ。

竜巻以前にわたし、首から血がピューってなってたんだ。


恐る恐る首を触った。

手の甲で傷を負った付近を撫でてみるが、傷らしいものは無かった。


「ユリの傷は妾が治癒した。失われた血は回復できないので無理に動かぬ方が良い」

「そっか、いつもありがとうね、ディーネちゃん!」

「礼はいらぬよ。妾のせいでユリは負けたのだからの」


ディーネのせい?

なんで?


「妾はユリと風の精霊の戦いに割り込んだ。ユリが飛ばされぬとも、反則負けじゃ」

「そんなこと関係ないよ!ディーネちゃんがわたしを助けてくれなかったら、わたしは多分そのまま死んじゃうか、何もできずに飛ばされて、結局負けてたでしょう?」

「いや、ユリが何か起死回生の一手を考えていたら、妾はそれを邪魔した事になる」

「ないない。そんなもんなかった。『ギブアップ』だったよ」


わたしは最初に風の精霊の竜巻を受けた時に、『吹き飛ばす系の攻撃をしのげれば勝ち』だと、勝手に思っていた。

別の手段で攻撃をされるなんて、思ってもみなかった。

わたしの浅慮のせいだ。


「だからディーネちゃんは命の恩人であって、勝負の結果を気にやむ必要はありません。わかりましたか?これは命令です」

「・・・うむ。心得た」


ディーネの表情が和らいだように感じた。

まあ、勝負には負けたけど、ディーネもわたしも無事ならばそれでいい。


「ごめんね、アドル。わたし負けちゃった。アキム様に協力してもらえなくなっちゃった」

「いいんだ。ユリが無事だったんだ。それ以上の事はないよ」

「まったくですよ師匠。あの後のアドル殿は見ていられませんでしたよ」

「ノーラさん!?ちょっと、やめっ!ぐえっ!」


アドルが慌ててノーラの口を塞ぎに行くが、華麗にノーラに組み伏せられてしまった。

さすがニューロックで一、二の実力を持つ格闘家だ。


アドルは、吹き飛ばされたわたしに駆け寄り、ディーネが治癒をかけている横で大粒の涙を流しながら、わたしに情熱的な求愛の台詞をかけ続けたそうだ。


一命を取り留めた事を確認すると、今度は風の精霊とアキムに食ってかかったという。

なぜ致死性の攻撃をしたのか、そこまでやる必要はあったのか、オレの大事な女になんて事をするんだ、今度はオレが相手だこの野郎、と、それはそれはものすごい猛抗議で、アキムも風の精霊も引き気味だったという。


「・・・いや、ユリ。ノーラさんの説明はだいぶ脚色されているから。全てを信じてはいけない」

「あ、そうなのね・・・」


ノーラの拘束から逃れたアドルは、ノーラの説明について一部異議を唱えた。

わたしはノーラの話を聞いて、ちょっとドキドキしてしまった。


・・・でもまあさすがに脚色されてるわよね。

どのへんが脚色された所なのかはわからないけど。

あれ、わたし今ちょっと残念だと思った?

いやいやそんな事ない。

まったくノーラは話を盛りすぎなのよ。


「起きたか、ユリ」


アキムが部屋に入ってきた。

アドルがアキムを睨みつける。


「何の用だ」

「ここは儂の家だ。儂の自由だろう?」


アドルは丁寧な言葉遣いをせず、アキムを敵認定しているかのような態度だ。

どうせ協力も得られないし、別に構わないかな。


アキムがわたしに体の容態について聞いた。


「ユリ。体調はどうだ」

「えーと、血が足りないのであまり動くなと言われました。特に気分が悪いような事は今のところはないです」

「そうか。明日までここで休んでいるといい。栄養のつく食事と薬も出そう。おまえ達は先に町の宿に帰るがいい」

「ユリを一人で置いていけるか!」


アドルが血相を変えて抗議するが、アキムは静かに受け流した。


「悪いようにはせぬ。それに気が変わった。儂はおまえ達に協力する事にした」

「ええっ?」

「良いのですか?」


アドル達が驚きの声を上げた。

わたしも驚いたが、意外すぎて声にならなかった。


「それとな、ユリには大事な話がある。お前達には聞かせられない話だ。それにこの小屋は狭い。全員が泊まれる部屋は無い。だから帰れと言っている。明日の午後にはユリと儂で町に向かうから、そこで待っていろ」

「・・・信用していいのか?」

「儂は嘘はつかない。言えない事は言わないだけだ」


そう言われても『はいそうですか』とはならないよね。

アドルはまだ悩んでいる。

ノーラは・・・あ、考えてなさそう。


その時、ミライがしっかりした口調で、アキムの提案を受け入れる意思表明をした。


「ミライはアキムおじいちゃんを信用しようと思います」

「ミライちゃん!?」


アドルが再び驚きの声を上げた。


「アキムおじいちゃんは、ユリお姉ちゃんに大事な話があると言いました。それに今ユリお姉ちゃんは動けません。アキムおじいちゃんに任せたほうがいいと思います」


淡々と語るミライ。


スパッと割り切れるあたり、ミライはすごいね。

子供だし、難しいことはあんまり考えてないのかもしれないけどね・・・


わたしはベッドから上半身を起こし、ミライの全身が見れる体勢になった。

そして、気がついた。


・・・違う。

ミライはすごく我慢して言ってるんだ・・・


ミライは、手を固く握り、そして軽く震えてい

た。

拳を強く握りすぎて、筋肉が痙攣しているような状態だ。

ぐっと歯も食いしばっていた。


・・・わたしを残していく事が心配で無いはずがないんだ。

ミライもきっとわたしと一緒に居たいはずなんだ。


だけど、アキムはわたしにしか話せない事があると言った。

ミライだけなら残っても良さそうな気もするけど、ここでミライがアキムを信用して町に戻ると言えば、アドル達もそれに従うと考えたのなら・・・

それにわたしはどのみちまだ動けない。

だから、たとえ嫌でも『信用するしかない』と決めたのだとしたら・・・


こんな小さい子が、歯を食いしばって自分に言い聞かせている。

わたしの考えすぎかもしれないけど、やはりミライはすごい子なのかもしれない。

だったら、わたしも覚悟を決めよう。


「アドル、わたしは大丈夫。必ず明日、アキム様と一緒に行くから、みんなで町に戻ってて」

「本当に大丈夫か?」

「うん。大丈夫。ミライちゃんもありがとう。わたしはミライちゃんの気持ち、ちゃんと分かっているよ」


そう言って、わたしはミライの頭をやさしく撫でた。


ミライが驚いたような顔でわたしの顔を見ると、ちょっとだけ涙を浮かべて笑顔で頷いた。


お昼に次話投稿します。

じわじわとですが、見てくださる方が増えてきたように思います。

レビュー、ブックマーク、評価、誤字指摘などいただけると大変励みになります。

よろしくお願いいたしますm(_ _)m

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