067 質問と課題
「儂は、この星を作った先人達の生き残りなのだ」
アキムの話が衝撃的過ぎて、誰も声を出せなかった。
しかし、そもそもこの星を作ったとはどういうことなのか。
「ユリよ」
「はいっ!」
アキムはわたしを見て、問いかけてきた。
「この星を見て、どう思った?お前の星に似ていると、そう思わなかったか?」
「思いました。びっくりしました。あまりにも似ていたので・・・」
「やはりそうか」
それは、わたしが一番聞きたかった事だ。
この人はその答えを知っている。
心臓の鼓動がうるさいほどに速くなる。
どんな答えが聞けるのか、期待と心配で胸が張り裂けそうだ。
「理由を、教えていただけますか」
「・・・全てを話す事は禁じられている。儂がこの星で生き続ける条件として、制約の魔術によって縛られ、話せなくなっている」
なんですと?
勿体ぶって話せないとか、ひどい!
「しかし、制約にかからない事であれば話す事はできる。今はそれで我慢して欲しい。いずれは話す事ができよう」
「制約の魔術が解除されるのですか?」
「まあ、そんなところだ」
解除には条件とかありそうだし、なんかすごく嫌な予感がするので、とりあえず聞けるかどうかはわからないが、聞きたい事を聞いてみる事にした。
「この星と、わたしのいた地球は、別の星ですか?」
「別の星だ」
別の星!ここ大事!
いやーよかった。
とりあえずタイムパラドックス的な何かは起きないと思っていいようだ。
続けて別の質問をしてみる。
「わたしは、元の世界に帰れますか?」
「答えられない」
「なぜ、この世界はわたしの星と似ているのですか?」
「答えられない」
「・・・この星はどのような経緯で作られたのですか?」
「答えられない」
ダメAIかよ!人工無能か!
昔のパソコンゲームのレトロ特集で少し遊んだ『選択式』ではなく『文字入力式』のアドベンチャーゲームを思い出した。
どうでもいい話だけど、そのゲームの中で必要な『色を一回ずつ』的な文言を最初に見つけた人は本当に凄いと思う。
「ほとんど回答不能じゃないですか!役に立ちませんよ!」
「儂を役立たずというか?」
「あ、いや、そういう意味では・・・でもこれじゃ何も分からないじゃないですか」
やはり制約解除とやらをしたほうがいいのだろうか。
解除のやり方を教えてもらおうかしら。
次の質問に困ったわたしの隣で、アドルが手を上げた。
「オレからも質問していいですか?」
「構わん」
「この星が作られてからどれくらい経ちますか?」
「五百年ほど経っている」
お、ようやく『答えられない』以外の回答が。
五百年か。この星の一年が何日かは分からないけど、きっと結構な日数だろう。
アドルが質問を続ける。
「この星を救うためには星降りの儀式を行わなければなりませんが、精霊を使役する魔道具は失われてしまいました。もう一度作る事はできますか?」
「その質問には答えられるが、難しいと言えよう」
アキムが顎に手をやり、険しい顔をした。
「使役の魔道具は、この星の精霊を生み出した時に、対になるように作ったものだ。この星の精霊は、この星の誕生と共に生まれた。使役の魔道具と共に精霊を生み出したため、魔道具の影響下に置く事は容易かった」
なんか、ものすごく重要な話じゃない?
答えてくれなかったわたしの質問の方が軽い気すらするのだけど。
「今は精霊達が使役の魔道具の影響下から離れ、散り散りになっている。使役の魔道具を新たに作り、全ての精霊の協力を自力で取り付ける必要がある。もっとも、自力で協力を得られるならば、魔道具など使わずとも、星降りの儀式はできるだろう」
ごもっともだ。
自力でできないからこそ、魔道具があったのだろうし。
「本来、それこそが王にあるべき姿だと儂は思うがな」
自力で協力を取り付けてこそ王、という事か。
確かにそのほうが納得できる。
・・・すると、わたしとバルゴは、一応、王候補ということになる?
バルゴも話によれば火の精霊を従えているわけだし。
「妾からも質問じゃ」
「鳥よ。いや、水の精霊だな?」
「その通りじゃ。大した推理力じゃ」
やはりこの人とは麻雀を打たない。絶対にだ。
「妾はこの星の記憶を持っているが、なんというか、途中からなのじゃ。星の黎明期の事を覚えておらぬし、気がついた時には当たり前のようにこの星の精霊として星に精霊力を与え、人との交流をしてきた。ただ、『創造主に作られた』という意識だけはあった。古の魔道具に関する記憶も少々持っておる。そのあたりは説明できるだろうか」
「ふむ。精霊も生まれたばかりの時は、人の子と同様に、まだ自我が発達していないのだろう。ただし、親の顔はなんとなくわかる。それが創造主などの記憶ではないか?」
アキムが、おそらくは、と付け加える。
アキムにも確信がないのだろう。
「なるほど、合点がいく答えじゃ」
「儂は合点がいかない事がある。水の精霊がどうして鳥になった?」
ごもっともなご意見である。
わたしは経緯をかいつまんで説明した。
「なるほど、それでその依代になったわけか。その依代というのは、他の精霊であっても同じように作り出せるものなのか?」
「うむ。出来る」
「そうか。情報、助かる」
アキはディーネにお礼を言い、少し考えるように、目を閉じ、小声で独り言を呟き、顎を撫でている。
「あの、アキム様、わたしからもよろしいでしょうか?」
ノーラが手を上げた。
「もっと強くなるにはどうすれば良いでしょうか?」
「精進せよ」
「分かりました、ありがとうございます!」
普通の質問かよ!
答えも普通だよ!
しかも納得かよ!
「じゃあ、ミライからもいいですか?」
「いいとも。なんでも聞きなさい」
態度が違いすぎませんか?
まあ、ミライちゃんはかわいいから仕方がないか。
「アキムおじいちゃん、ユリお姉ちゃん達に、アキムおじいちゃんの力を貸してほしいの。お願いします!」
ミライがペコリと頭を下げる。
質問ではなくお願いだったが、これはわたし達もお願いしたい事だった。
アキムはそんなミライをじっと見つめてから、視線をわたしに移した。
「・・・いいだろう。ただし、二つ、課題がある」
「え、二つ?カークさんに出した問題だけじゃないのですか?」
二つ目の課題なんていつの間に追加になったのだろうか。
試験要項の改訂だろうか。
「ひとつは、カークに出した問いで間違いない。もしも解けたのであれば、その答えを聞こうか」
わたしは、先日の試験でわたしが行った方法を説明した。
「なるほどな、面白い手を考えたものだ」
・・・つまり、違うということか。
「儂が用意した正解とは違うが、合格にしても良いだろう。しかし、円柱が脆く、ただ穴が開くだけであれば、失敗したかもしれんな」
わたしもそれは考えていた。
だけど、失敗した場合の第二案も持っていた。
「別の解法も一応考えていました。聞いていただけますか?」
「聞こう」
わたしは、紙と筆記具を借りて、斜方投射、放物線運動について、説明した。
『推進力のある魔道具にくっついて飛ぶ』のではなく、『推進力のある魔道具にわたしを投げてもらう』という方法だ。
わたしだけ飛ばされるためには、足に魔道具を括り付けて押し出してもらうようにするか、魔道具は背中に背負うけど、そのまま前にすっ飛ばされるように背負い部分が外れるようにするなどの工夫が必要だろう。
つまるところ、サーカスの『人間大砲』ってやつだ。
すっ飛ばす威力は魔力依存だ。
勢いだけはめちゃくちゃつけられる。
「しかし、この方法の場合、例えばわたしと同じ体重の人形を使って、投射地点、投射角、初速度を変えて、何度か試行錯誤をして、安全に円柱の上に着地するための『パラメーター』、それぞれの値を探す必要がありました。さらに風向きなどの気象条件も関係するでしょう。わたしにはあまり時間がなかったので、検証不足では危険を伴うこの方法を試すことはできなかったのです」
「うむ。正解だ。お前はやはり頭が切れるな。もちろん、この正解を実践できるのは、それなりの魔力を一気に魔道具に流せるだけの力が必要だがな。その見極めも兼ねた問題なのだよ」
どうやら満足いただける回答だったようだ。
「ユリ師匠は本当にすごいですね。この方法であれば、わたしを実験台に使ってくれてもよかったですよ」
「そんな事はさせられないわよ。カークさんに怒られてしまうわ」
ひとまず一つ目の課題は完全クリアだね。
問題は二つ目の課題だ。
易しい問題だといいのだけれど。
「では二つ目の課題だ。これは、ユリに特別に与える課題だ」
わたしに、特別に?
どういう事だろうか。
そんな特別扱いはいらないのだけど。
アキムが天井方向に顔を向ける。
しかし、天井を見ているわけでは無さそうだ。
「・・・ここまでの話は、聞いていたな?『風の』」
「・・・ああ、聞いていた」
澄んだ声が聞こえた。
そして、突然部屋の中に風が舞い、はっきりとは見えないが、半透明の人型のような輪郭が浮かび上がった。
そしてアキムがわたしに告げた。
「此奴は風の精霊だ。お前には風の精霊と戦ってもらう」
お昼に次話投稿します。
じわじわとですが、見てくださる方が増えてきたように思います。
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