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ポニーテールの勇者様  作者: 相葉和
66/206

066 御仁

朝食を宿でいただいた後、わたし達は、この星の成り立ちを知るというお爺さんの住処に向かって出発した。


アドルはあまり調子が出ていないようだ。

青い顔をして、地図を見ながら先をノロノロ歩いている。


「まったく、大事な日の前日に深酒とは、なってませんね」


アドルがノーラに叱責されている。


「いやあ、あまりにビアが美味しくてね。面目ない」

「そうよ、あれは美味しすぎたわ。仕方ないわよ」

「ユリ師匠、ずいぶんアドル殿の肩を持ちますね。やはり夕べはお楽しみだったのですか?」

「ビアを楽しんだだけよ!」


誤解されてはたまらない。

そこはしっかり否定しておく。


道中、みんなと気ままな会話をしながら歩く。

歩みが進むにつれ、話題の内容はごく自然に、これから会うお爺さんについての話になった。

お爺さんは、カークの館で行われた三つの試験のうちの、最後の試験を考案した人だ。


「しかし、ユリ師匠の、あの最後の試験の解決方法は本当にお見事でしたね」

「いやー、苦し紛れだったんだけどね」


わたしは最後の試験で、円柱を一気に動かして魔石を転がり落とした。


でも、もしも魔石が転がる形状ではなかったら?

魔石が円柱に固定されていたら?

円柱を押しても外壁に穴が開くだけで動かせなかったら?


その場合、わたしの解法は不正解だ。

しかし、あの時、もうひとつの解法も考えていた。

もしも『円柱だるま落とし作戦』が不正解と言われたら、もうひとつの解法について、言葉で説明しようと思っている。


「そろそろ着くぞ」


少し遠くに、ログハウスのような家が見えてきた。



開けた空き地の端のほうに、お爺さんの家はあった。

大きめのバンガローという印象だ。

個人宅であれば少し持て余すくらいには広そうだ。

入り口に近づくと、中からは何か生活音のようなものが聞こえてきた。

件のお爺さんとは限らないが、どなたかはご在宅のようだ。


わたしは扉をノックして、扉越しにお伺いを立てた。


「すみません。ニューロックから来ました、由里と言います。どなたかいらっしゃいませんか?」


しばらくすると、鍵が開けられる音がして、扉が開かれた。


「ニューロックからだと?まあ、近いうちに来るとは思っていたが。入るがいい」


来ると思っていた?

どういう事?

カークが事前に連絡したのだろうか。


わたし達は家の中に案内された。

内装もログハウス風で、壁や床の木目が美しい。

玄関を入ってすぐはリビングのようで、中央に木の机、その周りにはソファーとウッドチェアー、そして椅子がわりの丸太が並んでいた。

リビングの奥にはいくつか扉が見えた。

部屋数も多いようだが、他に人がいる雰囲気はない。

一人で住んでいるのだろうか。


暖かい雰囲気の内装だが、棚や床の端のほうには色々なものが雑多に置かれていた。

何に使うのかはさっぱりわからないものばかりだが、アドルとディーネは目が釘付けになっているようだ。


「すごい・・・魔道具が沢山ある」

「うむ。純度の高い魔石が多く使われている。おそらく高度な魔術を使える魔道具ばかりのようじゃな」


そうなんだ。

やっぱり凄い人なのかな。


アドルとディーネの会話に気がついたお爺さんが、怪訝そうに顔を向けた。


「なんだ、そこの鳥。お前は喋れるのか」

「あ、この子はディーネちゃんと言って、わたしの・・・」

「お前には聞いておらん」

「はい、すみません」


・・・いきなり怒られてしまった。


「妾か?うむ。喋れる鳥、ディーネちゃんじゃ」

「・・・そうか。珍しい鳥だな」


お爺さんはそう言うと、既に興味がなさそうにリビングの奥に行き、お茶を用意し始めた。


・・・気難しそうだな。


とりあえずお爺さんが戻るまで、皆、無言で待った。


お爺さんからお茶をいただき、アドルが代表してお爺さんにわたし達の自己紹介をした。


「オレ達は王都からニューロックに来て、カーク太守の紹介でここに来ました。オレはアドル。王都管理区の出身です。こちらは、ユリ、ノーラ、ミライです。それと・・・鳥のディーネですね。あの、恐れ入りますが、ご老大人の事はなんとお呼びすればよろしいでしょうか?」

「儂か?好きに呼べ」

「好きにと言われましても、お名前を聞かせていただけると・・・」

「好きにしろと言ってるだろう!」


うう、怖ェ!

初手から困った・・・


その時、鼻をすする音が聞こえた。


「うっうっ、おじいちゃん、ミライ達が嫌いなの?ミライは会ってすぐに嫌われちゃったの?おじいちゃんに会うために、遠くから頑張ってきたんだよ・・・」

「ミライちゃん!?」


ミライが目に大粒の涙を浮かべている。

今にも声を出して泣き出しそうだ。


「なっ!そんなことはないぞ!・・・ないよ。お嬢ちゃん、大きな声を出して悪かった。おじいちゃんはミライの事を嫌ってなどいないよ。だから、ほら、泣き止みなさい」

「うっうっ、本当に?」

「本当だとも」

「なら、お名前、ミライに教えて欲しいの。わたしはミライ。おじいちゃんは?」

「儂の名はアキムだ。アキムおじいちゃんだ」

「ありがとう、アキムおじいちゃん!おじいちゃん、優しいね!」


ミライが手で涙を拭い、笑顔でアキムに応える。

アキムもホッとした笑顔を見せた。


悪い人じゃなさそうだな。

しかし、ミライちゃん、恐ろしい子・・・

まさか計算じゃあるまいな?


最近のミライちゃんの動向を見ていると、全てが計算済みなのではないかと思えてくる。

・・・怖いから考えるのはやめよう。


「では、アキム様。お話を伺っても良いでしょうか。わたしは由里と申します」

「お前達はその名で呼ぶな!」

「え、でもさっきは好きに呼べと」

「・・・」


アキムはちょっと不機嫌になったように見えたが、すぐにニヤリと口元を歪めた。


「ユリよ。お前はそこそこ頭の回転は早いようだな。・・・さすが異世界人といったところか?」

「え?ご存知なのですか!?」


アキムはお茶を口にし、わたしの問いに答えた。


「ああ、知ってるとも。いや、今確認した、と言うのが正しいかな。カマはかけさせてもらったがな」


アキムはもう一度お茶を飲み、解説を続ける。


「起こった事象をひとつずつ吟味し、積み重ね、可能性を考える。新しい事実が増えたら、再度吟味し、不可能は消し、新しい可能性を追加する。それを繰り返す。わかるか?」

「えーと、なんとなくわかります」


例えば、異世界からの召喚があった事をなんらかの方法で知ったとして、その後で王都で反逆者が突然現れたり、そこから逃げたり、ニューロックから人が来たりなんだりのさまざまな事実を繋げて、推理に推理を重ねた可能性の一つが、今の解、と言うことでは無いだろうか。


かいつまんでそれを説明すると、満足そうにアキムは頷いた。


「その通りだ。やはりお前は頭が切れるな」


このおじいさん、只者では無いどころが、とんでもないね・・・

某小説の、椅子に座ったまま事件を解決する人みたいだ。


あと、この人とは麻雀を打たないほうがいいと、どうでもいい事を思った。


「それに、水の精霊が城から解放されたのだろう?それもある筋から確認が取れている」

「はい、その通りです」


あ、素直に答えてしまったけど、シラを切ったほうが良かった?

まあ手遅れだけど。


「そしてお前達は、『ニューロックに来て、カークの紹介で』と言った。ニューロックの領民ではないただの旅の者が太守であるカークと会い、理由もなく儂を紹介するとは思えん。であれば二人の娘のうち、一人が異世界から召喚された者である可能性は高い。さしずめそちらの娘はカークの娘ではないのか?」

「はい。わたしの父はカークです。よく分かりましたね」


ノーラが簡潔に答えた。


やべえなこのジ・・・お爺さん。

どちらかが忘れているのでなければ、ノーラとこのお爺さんは会ったことも無いのだろう。

そいつを当てるとは。


「しかし、異世界からわたしが召喚された事を、アキム様はなぜご存知なのですか?」

「召喚の魔術具が使われた事を知ってるからだよ。使われるとわかる仕組みになっているのだ」


・・・今、なんかさらっとすごいことを言わなかった?


アキムが立ち上がり、テーブルから魔道具を持ってくる。


「この魔道具は、簡単に言えば、召喚の魔道具が使われると反応する仕組みだと思ってくれれば良い。まさか破棄したはずの魔道具が残っていたとは思わなかったがな。こいつが倉庫の奥で光っていたのを見て驚いたわ」

「なぜ、そんなものを持っているのですか?」


アキムは魔道具を置き、椅子に座り直すと、静かに語った。


「召喚の魔道具は我々が作った。そして」


私たちは息を呑んで、言葉の続きを待つ。


「儂は、この星を作った、いわゆる先人達の生き残りだからだ」


0時に次話投稿します。

じわじわとですが、見てくださる方が増えてきたように思います。

レビュー、ブックマーク、評価、誤字指摘などいただけると大変励みになります。

よろしくお願いいたしますm(_ _)m

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