063 エスカのやる気
昼食を取りながら、カークから午後の予定について打診された。
「ユリ殿、そしてディーネ殿。すまないが午後は少し時間をくれないか?」
「はい、構いませんよ」
どうせ暇してたし。
建国の挨拶の内容もまだ出来そうにないし。
「建国後の国の防衛について話をしておきたい。出来れば大精霊様のお力も借りたいと思っている」
「うむ。心得た」
建国して、バルゴに宣戦布告をしたら、当然ながらニューロックは攻撃されることになるだろう。
そのための防衛手段を練ろうという話だ。
一応、わたしにも考えがあるので、擦り合わせをしたいと思っていたのでちょうど良い。
打ち合わせにはエリザとアドルも同席する事になった。
「カーク殿。よろしければもう一人、追加で同席させてもよろしいですか?」
エリザがカークに提案する。
「構わないが、どんな人物だね?」
「アーガスの、魔道具開発における第一人者です。腕は特級品ですよ」
◇
午後、アーガスのメンバーがカークの館に集まった。
ホークスが今後の事を話すために皆を連れてきたのだ。
わたしはエスカを迎えに行くため、アーガスのみんなのところにやってきた。
「ユリちゃーん!心配してたよ。無事でよかったよー!」
エスカがうっすらと涙を浮かべて飛びついてきた。
「エスカさん、心配かけてごめんね。わたしは大丈夫よ」
「なんだかユリちゃん、大変な役回りをするのでしょう?ホークスから少しだけ聞いたわよ。あたしも協力するからね!」
エスカも笑顔で協力を約束してくれた。
アーガスのみんなもわたしの肩を叩き、握手をして、わたしを応援してくれた。
・・・よし。頑張らなきゃ。
「それでね、エスカさん。これからニューロックの防衛について、太守のカークさんと話をするの。エスカさんも一緒に来てくれない?」
「分かった、任せなさい!太守にもあたし達の発明品した武器の素晴らしさをガツンと教えてやりましょう!」
◇
エスカを連れて、指示された会議室に入った。
エリザ、アドル、カークと側近の人達は既に席で待っていた。
ノーラも入り口付近に立っている。もしかして護衛の役割だろうか?
「カークさん、お待たせしました。エスカを連れてきました。エスカさん、こちらが太守のカークさんよ」
「ようこそ、話はエリザとアドルから聞いた。アーガス随一の頭脳なんだってね。歓迎するよ、エスカ嬢」
カークが席を立ち、エスカに近づくと手を差し伸べる。
エスカも手を・・・差し伸べない?
「エスカさん?」
不穏に思ってエスカを見ると、わなわなと固まっている。顔が紅潮してる?
・・・まさか、カークさんが実は親の仇とか、はたまた生き別れになった父とか、そーゆーのじゃないだろうね?
「エスカ嬢?」
カークも首を傾げてエスカを見る。
しかたなくカークが手を伸ばして固まっているエスカの手を取り、握手をした。
「よろしく頼む、エスカ嬢」
「ふぁいっ!」
エスカがテンパったまま、テンパった返事を返した。
・・・会議に参加させて、大丈夫かな?
ひとまず全員が席に座り、会議が始まった。
主に、海上防衛の話と、バルゴの軍を迎え撃つ為の武器に関する情報交換だ。
こちらから王都を攻める話は今はしない。
まずは防御を固め、ニューロックの人々の安全を守ることが先決だ。
「わたし達が作った『ラファルズ』という武器がありますが、応用すれば、大砲のようなものにできると思います。それで敵の船を迎え撃つ事ができます」
「ニューロックは島のため、周りが全て海に囲まれている。そのため、軍船の技術は発達しているが、全方位をカバーするのは少々難しい」
「海上での防衛ならば、妾の力も貸せよう」
「敵の発見を早める必要がありますね。海の警戒はディーネちゃんができると思いますけど、今後、わたし達が島から不在になった時のために『レーダー』のような高性能の探索装置を・・・」
色々意見を出し合い、わたし達からの技術提供や、ニューロックの軍船の配置、海上防衛の具体策などについて構想を固めていった。
「エスカ嬢には、技術部門のリーダーとして、我が領地の技術者にアーガスで開発した技術を教え、武器の量産と、新兵器の開発に取り組んでほしい」
「承知しました。お任せください」
「今の説明の中には出てきていない武器もあると思う。使えそうなものがあれば提案して量産してくれ。必要なものはこちらで用意する」
「承知しました。お任せください」
会議が始まればエスカも平常を取り戻したようで、カークからの依頼に淡々と返事を返した。
イエスマン過ぎるところがちょっと気になるけど。
ガツンと教える気概はどこかに飛んでいってしまったようだ。
おおむね意見を出し終えると、カークが立ち上がり、宣言した。
「建国宣言、および宣戦布告は二十日後。十の月の初日に行う。それまでに皆は準備を急いでほしい」
・・・二十日後か。結構厳しいね。
でもやらなきゃね。
カークはそう言うと会議を閉会し、全員、一時休憩を取ることとなった。
その後はまた夕の鐘が鳴るまで、各々の役割に取り掛かる事になる。
カークとその側近が退出し、会議室にはわたし達アーガスのメンバーと、ノーラだけが残った。
緊張の糸が切れたのか、エスカが机の上に突っ伏した。
「ねえ、エスカ、一体どうしちゃったの?」
カークと挨拶を交わした時から、エスカの行動は異常だった。
皆も心配してエスカを見ている。
「・・・惚れたの」
「え?」
エスカがガバッと起き上がる。
「あたし、カーク様に一目惚れしちゃったのよ!」
カーク様、だと?
「こんな事、生まれて初めてよ。全身に魔力が迸ったわ!顔。声。あたしを『エスカ嬢』と呼び、エスコートしてくれる仕草。全てがあたしの理想の人よ!」
「「えーーーっ!」」
エリザとアドルが驚きの声をあげる。
「男より研究が好きだと言い張ったあのエスカが・・・」
「悪いけどエスカと恋話が結びつかない・・・」
エリザとアドルが揃って首を振っている。
とても信じられないといった仕草だ。
だけど・・・
盛り上がったり、驚愕しているところに水を差すようで申し訳ないが、一応、エスカに言わないといけない事実があった。
「エスカさん。人を好きになるのはとても良いことよ。でも、カークさんには娘さんがいらっしゃるわ。既に結婚なさっているのよ」
わたしは扉の横に立っているノーラに視線を送った。
エリザとアドルもその事を思い出したようだ。
つまり、所詮は敵わぬ恋だ。
視線が自分に集まったことに気がついたノーラがニコッと微笑み、家庭の事情について教えてくれた。
「お母様は私が小さい頃に病気で亡くなりました。お父様には再婚話がよく来ておりますが、気が進まないようで全て断っており、今は独り者です。エスカさんがお望みであれば、お父様とお話ししてみてはどうでしょうか?」
エスカがノーラを見た。
そして静かに頷くと、今度はわたしのほうを振り向き、わたしの両手を包むように握りしめる。
「ユリちゃん、あたし頑張ってみる!このお仕事であたしをアピールして、カーク様のお嫁さんにしてもらう!だからユリちゃんも協力して!」
「ええ、うん、そうね、わたしもできる限り協力するわ・・・」
エスカの迫力に押されて協力を約束してしまった。
「ところで、ノーラさんはエスカがお父上と再婚する事になっても構わないのかい?」
アドルが何気なくノーラに聞く。
「お父様が誰と結婚しようと私は構いません。お父様には、早く妻を迎えてほしいと思っております。私がエスカさんをお義母様と呼び、私に弟か妹ができる日を楽しみにしておりますよ」
ノーラがエスカにニッコリと笑いかけた。
エスカは鼻息も荒く、やる気と闘志が漲ったように見えた。
わたしはみんなに力を貸すと決めたんだ。
だからエスカさんの恋路にも力を貸そう。
・・・わたしにできる範囲で。
お昼に次話投稿します。
じわじわとですが、見てくださる方が増えてきたように思います。
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