056 太守の館
ホークスと一緒に太守の館へ行く事になった。
一緒に行くのは、わたし、アドル、ディーネだ。
エスカと他のアーガスのみんなは残りの馬車と一緒に、船の場所まで移動して荷物を積み込んでもらうことになった。
船の場所はホークスが教えてくれた。
船の移動先は太守が管理している、領地専用の船着場らしい。
そういう事であれば、おそらく悪いようには扱われていないだろう。
もちろん、船を逃さないようにガッチリと拿捕されていたり、罠の可能性も考えられなくはないが、だったらホークスがエスカ達を船に向かわせるとは思えなかった。
なお、エスカには、いざという時にラプターを飛ばしてわたし達を助けてもらう役割もお願いしておいた。
「エリザが先に太守の館で待っている。俺達が着き次第、交渉開始だ」
「なんだか話が急だな。それにホークス、お前、疲れてないか?顔色も悪いぞ」
たしかに、ホークスは疲れているように見えるし、あまり元気もなさそうだ。
「まあ、そうだな。ちょっと、心労だな」
「何があった?」
アドルがホークスに、何があったのか話すよう促す。
「つまるところ、エリザは、人質だ」
「なんだって?」
曰く、太守は『異世界の勇者』の存在を独自の情報網で知っていたらしい。
そして、交渉に来たエリザの集団に同行している可能性が高いと考え、カマをかけたという。
話に引っかかってしまったエリザも、中途半端に隠し通すぐらいならと、それを認めた。
そして太守から、交渉の場に『異世界の勇者』を連れてくる事を条件として交渉できる事になったが、実際、連れてきた者が本当に異世界の勇者なのか、誰も判断のしようが無い、という話になった。
もしかしたら嘘の情報で太守が謀略に嵌められるかもしれない、と考えたらしい。
・・・そりゃ、『そうです。わたしが異世界人です』と言っても、簡単に信用してはくれないわよね。
召喚現場にいたならともかく。
そこでエリザが、『必ず異世界の勇者を連れてくるから、それまでわたしをここで勾留してほしい』と、自ら人質に買って出たという。
もしも違う者を連れてきたら刑に処して良い、とも。
「つまりエリザは、それだけ本気で、本当の話だ、という気概を見せる事にしたんだよ」
「だから、お前がそんなに憔悴してるのか」
ホークスはエリザの恋人だ。
心配で仕方ないのだろう。
「ホークスさん、ごめんなさい。わたしのせいでエリザさんが・・・」
「やめてくれ、嬢ちゃん。エリザが自分で決めた事だ。嬢ちゃんは悪くない。むしろ、来てくれてありがとう。エリザの信念にかけても、嬢ちゃんを悪いようにはしないと誓うよ。それとも、もうアドルに誓われたか?」
「おい、ホークス、そういうのは・・・」
「はい、誓われました」
「ユリ!?」
・・・ホークスさんも、エリザさんも、本気でこの交渉を成功させたいんだと思う。
わたしは、交渉がどうあれ、必ずエリザさんを助けたい。
ホークスさんを安心させたい。
だから、わたしもちゃんと応えたい。
「アドルに誓われました。どんなことがあってもわたしを守ると。必ず生きて返すと。なんなら一緒に全力で逃げ出すと。ですからその時は、エリザさんもホークスさんも一緒ですよ」
ホークスは目を見開いてわたしを見た。
そして一度目を瞑り、拳に力をいれ、意を決したかのようにゆっくり目を開くと、ニッと笑ってわたしに応えた。
「分かった。必ず!」
◇
太守の館に到着した。
・・・敷地がめちゃくちゃ広い。
敷地の塀がどこまで続いているのかよくわからないぐらいに広い。
それにお屋敷。
城とまでは言わないが、これまたデカイ。
掃除が大変そうだ。
ホークスが門番に話をすると案内役がやってきて、わたし達についてくるように指示した。
案内に従って園庭内を馬車でついていく。
やがて、豪華な入口の前に着くと、馬車から降りるように指示された。
馬車を降りる前にアドルがわたし達を見回し、注意を促す。
「ここから先は油断できない。いいか、ユリ。ディーネ。絶対にオレから離れないように。ホークスもだ。いいな」
「うん、分かった」
わたし達は館の執事のような人に案内され、太守の館へと入っていった。
わたし達の後ろには騎士のような人が数名ついてきている。
わたし達が変な事をした時に押さえるためか、逃さないようにするための監視かは分からないが、今は大人しくついていく。
小さな客室で少し待たされた後、再び執事についてくるように言われ、館内を歩いていく。
通されたのは、謁見室のような広間だった。
部屋の左右の壁には屈強そうな騎士と、文官のような人達が並んでいる。
しかし、なんだかお隣同士でおしゃべりしたりしてて、緩い雰囲気だ。
広間の正面には立派な椅子があり、今は誰も座っていない。
おそらく太守の座る椅子だと思うが、太守はどこにいるのだろうか。
「お前が『異世界の勇者』か?」
「うわっ!」
いきなり後ろから男に声をかけられた。
心臓がバクバクする。
アドルが慌ててわたしの前に立ち、男との間に立った。
アドルの前には、軽装だが身なりの良さそうな男が立っていた。
「ハハッすまん。脅かすつもりでは無かったのだ。本来なら椅子に座って迎えねばならんのだが、近くで見たかったものでな。不作法を許してほしい」
「はい!許しますっ!」
話の感じだと、どうやらこの男がニューロックの太守のようだ。
わたしは緊張とびっくりで変な回答をしたかもしれないが、大目に見てくれているようだ。
壁際の騎士達も軽く笑っている。
・・・この男がエリザさんを捕らえている。
わたしをここに連れてくるために、エリザさんが自ら犠牲になって・・・
エリザを取り返すために、いかにしてこの男と交渉しようかと考え始めたところで、すぐにその考えは無駄になった。
「エリザをここへ」
太守は広間の隅々まで響くような声でそう言うと、奥の扉が開かれ、先ほどの執事に案内されてエリザが入ってきた。
エリザは拘束のようなものはされておらず、外傷もないようだ。
エリザは広間に入ったところで立ち止まり、太守に一礼した。
「あの、太守殿。アタシは・・・」
「エリザ殿。其方の仲間の者達が迎えに来たのだ。まずは合流すると良い」
太守に促され、エリザがゆっくりとわたし達の所に歩いてくる。
わたしもエリザの方に歩いて行き、エリザの間近まで行くと、エリザの手を握った。
「エリザさん!大丈夫でしたか?ひどい事、されませんでしたか?」
「ああ、ユリ。アタシは大丈夫だ。太守も、この館の使用人も良くしてくれた」
「そうですか・・・では」
スパーン、と広間にいい音が響いた。
わたしは力一杯、エリザの頬を引っ叩いた。
エリザは叩かれた頬をおさえて、驚愕で固まっている。
「エリザさん、馬鹿じゃないですか!?なんでわたしの為に命を張ってるんですか?エリザさんはアーガスの大切なリーダーなんですよ!ホークスさんだって心配して、今にも死にそうな顔になってるじゃないですか!わたしの為に命をかけてどうするんですか!そんなやり方、みんなが許してもわたしが許しませんよ!馬鹿じゃないですか!?馬鹿なんですか!?もう、馬鹿あ・・・うわーん!」
わたしは言いたい事を言って盛大に泣いた。
エリザが無事でほっとした反動もあってか、子供のように泣いた。
わたしの為に死ぬ事なんてまっぴらごめんだ。
エリザはわたしを抱きしめ、掠れ声でわたしに謝罪した。
「ユリ、ごめん。本当にごめん。もう、こんな事しない。たぶん」
「たぶんじゃいやだあ!でも無事でよかった・・・ううう・・・」
きっとエリザはわたしでなくても、自分の命で助けられる命があれば投げ出す覚悟を持っているのだろう。
『たぶん』とはそういう事だと理解した。
理解はしたけど、認めはしない。
エリザの覚悟を、わたしは分かっているつもりだ。
でも、少なくとも、わたしの為に命を投げ出すような真似はもう二度としてほしくない。
ひとしきり泣いて落ち着くと、ゆっくりエリザから離れる。
「引っ叩いてごめんなさい。でもお願いします。わたしのためにこんな真似は二度としないでください」
「・・・分かった。この痛み、忘れないよ」
エリザが頬をさすりながら、わたしに笑いかけた。
「お見事だ、勇者殿」
太守がわたし達の元に歩み寄ってきた。
「誤解されないように言っておくが、元々俺はエリザの命を取ろうなんて思っていない。だが、エリザの心意気を汲んで、このような形で交渉の場を設けさせてもらった。それにしてもだ」
太守がわたしの方をじっと見る。
「勇者殿がこれほどまでに懐の深い人物だとは思わなかった。自分で勇者と名乗っていると聞いた時にはどんな奴かと思ったものだが、想定していた人物とは良い意味で違ったようだ。其方、胸は小さいが、器は大きいようだながへっ!」
わたしは反射神経で太守の頬も平手打ちしていた。
0時に次話投稿します。
じわじわとですが、見てくださる方が増えてきたように思います。
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