054 帰路
ヘリコプターもどき、改め、『ラプター』の初号機完成と、武器の量産を終え、わたし達は発掘最終日の夜を迎えた。
みんなのがんばりを労うため、今夜は宴会だ。
この世界でも、打ち上げはやるようだ。
今日は宿の食堂を貸切にしてもらっている。
「えー、そんなわけで、無事に目的は達しました。ユリとエスカのおかげで、色々と新しいものも作る事ができ、実に有意義な遠征となりました。これも発掘を頑張ってくれた皆さんの・・・」
「長い。早くしなさい」
エスカに茶々を入れられ、アドルが演説を中断させられる。
仕方なく、アドルが一言で挨拶を締める。
「ではみんな、飲もう!」
「おー!」
テーブルには宴会料理とお酒が所狭しと並んでいる。
お酒・・・まだこの世界で飲んでないのよね。
目の前に置かれたジョッキに目を落とす。
見た目はビールにそっくりだった。
「ユリちゃんはお酒飲めるのー?」
「エスカさん、もう飲んでますね?」
早くも顔が赤いエスカが、わたしに肩を組んでくる。
「この世界ではまだ飲んだ事がないの。初めてで楽しみだわ」
「では、ユリちゃんの飲みっぷり、見せていただこう!」
エスカにビッと指をさされる。
ため息を一つ吐いて、いざ、ジョッキに口をつける。
「おいしい!すごくおいしいわ!」
ビールに柑橘系の味をつけたような感じだ。
オクトーバーフェスでよく売られているフレーバービールを思い出す。
アルコール濃度もそれほど高くない気がする。
わたしは一気に飲み干した。
「いい飲みっぷりだね、嬢ちゃん!」
「ありがとうございます!みなさんもお疲れさまです!」
発掘チームの人達がおかわりのジョッキを持ってきてくれた。
三つも。
わたしは発掘チームの皆さんと、この遠征での出来事や身の上話などで談笑しながら、ここでの初めてのお酒を楽しむ。
「そういえばこのお酒はなんていう名前なんですか?」
「知らんのかい?ビアっていうんだ」
同じかよ!
ビールをちょっとネイティブっぽい感じで言うだけかい。
ていうか、ビール本来の英語の発音に近いのは『ビア』よね。
ならば完全一致だ。
それにしても、名前までビールならば、わたしは気兼ねなく飲めそうだ。
わたしはビールならいくらでも飲める。
若干トイレが近くなるけど。
そして、皆と一緒にじゃんじゃん飲みまくる。
しまいにこの星の有名な歌を歌い出す人が出てきたところで歌謡大会となり、わたしも調子に乗って日本の好きなアニメソングを披露して拍手喝采をいただいた。
そうして楽しい夜は更けていき、お馴染みの光景が広がっていた。
「なんでいつもみんなわたしを置いて寝てしまうのよー!」
宴会場で飲んでいるのはわたしだけとなり、周りは死屍累々の光景となっていた。
会社の宴会でも私だけケロッとしていて最後はいつも介抱する役だったり、お泊まり旅行女子会をした時も、わたしだけ淡々と飲み続けて、みんなは先にダウンして寝てしまう事を思い出した。
若い子やお酒が弱い人は先に部屋に戻って寝てしまったようだが、最後まで付き合ってくれた発掘チームの皆さんはそのまま限界を迎えたようだった。
アドルは・・・あ、向こうで白目剥いて寝てる。
見なかった事にしよう。
「よし。寝よう!おいしかった!我らを守護する精霊の恩恵に感謝を。願わくば明日も糧を賜らんことを!」
食後の挨拶をきっちりこなし、寝酒用にジョッキをひとつ確保して、わたしは宴会場を後にした。
◇
「・・・みんな、コーラルに戻る準備は、いいか・・・」
二日酔いでグロッキーなアドルが、なんとか声を絞り出して声掛けをしている。
アドルはお酒は好きだけど、結構弱いのだそうだ。
「こっちは積み終わったわよ」
「『ラプター』はメインローターだけ外して、最後尾に積んだよ!」
「すまない、近くで大声を出さないでくれ・・・」
全く、ビアぐらいでだらしがない。
アドル以外にも、頭を押さえて唸っている人達が馬車にやってくる。
「なんで嬢ちゃんは元気なんだよ・・・」
「んー、お酒が好きだから?」
「答えになってねえよ・・・」
初日の馬車移動は、多くの体調不良者を考慮して、休息を多めにして、ゆっくり移動する事になった。
大人なんだからもう少し考えて飲みなさい。
◇
二日目には皆、完全復活したようだった。
馬車の中で体調が復活したアドルに、改めてドルッケンの近くで発見した、土の精霊の話をする。
「そんなわけで、ニューロックに土の精霊様がいたのよ」
「そうか、こんなところにいたとはね。むしろ都合がいいかもしれない」
「都合がいい?」
わたしは首を傾げる。
「前に説明した通り、このニューロック領の太守は、バルゴに反対の態度を取っているんだ。バルゴを王として認めていない。だから、今回、エリザ達は太守と話をする機会を作ろうとしている」
「うん。そのためにエリザのチームが首都で活動しているのよね」
出来ればニューロックの太守とアーガスとの間に協力関係を結びたいと考え、エリザ達は首都で情報集めと、王都に知られないように水面下で、太守との交渉の準備を進めているはずだ。
「ニューロックの太守とアーガスとの間で協力関係が結べれば、バルゴや王都の軍をニューロックに上陸させない、あるいは土の精霊に近づけされないように頼めるかもしれない。そうすれば、土の精霊は、ニューロックの中央にいる限りは安全だと思う」
「なるほど。確かに」
むしろ、土の精霊がここにいる以上、なんとしてもニューロックの太守とは協力関係を結ばないといけないだろう。
しかし、噂と真逆で、もしもニューロックの太守がバルゴに与する側だったら?
その時は、土の精霊に逃げるように促すか、先にわたし達と協力関係を結んでもらえるよう交渉するべきだろうか。
こちらには水の精霊もいるから、説得には応じてくれるかもしれない。
しかしそれも間に合わない場合は・・・
「ニューロックの太守と戦う事にはならないといいね」
「どうした?ユリ。なんか考えが飛躍してないか?」
頭の中で色々と考えた結果だけがポロッと口から出てしまった。
「ユリの心配もわかる。ディーネが近くにいるから、余計に精霊が心配なんだろう?」
「そうだね。そうかもしれない」
ディーネを救った時のように、土の精霊も守りたいって気持ちは確かにある。
でも、考えてみれば、何様だって話だ。
先日、ディーネにも『精霊は自由が一番』って言われたばかりなのに。
「ユリよ。一人で抱え込むでないと言ったであろう?ユリが抱えていいのは妾だけじゃ」
「うん。抱える!すっごく抱える」
わたしは小型化して馬車に同乗しているディーネをムギュッと抱きしめた。
ああ、なんてかわいいハシビロコウちゃん。地球にお持ち帰りしたい!
アドルが生暖かい目でこちらを見ている。
・・・なんだね?アドルもディーネちゃんをモフりたいのか?
モフる、というより、バサる、という感じだけど。
「とりあえず今日泊まる宿に、エリザ達からの状況連絡が届いているはずだ。まずはそれを確認しよう」
◇
夕の鐘が鳴る直前に、わたし達は今日宿泊する町に到着した。
そのままわたし達は宿に向かい、夕食をいただく。
そして食後、わたしとディーネとエスカはアドルに呼び出された。
「エリザから連絡が届いていた。どうやらニューロックの太守との交渉ができるようだ」
「やった!良かったわね!」
「エリザ達、やるねえ」
わたしとエスカは、エリザさんの功績に賞賛の声を上げた。
「しかし、良かったとは言い切れないんだ」
「なにか条件でもあるの?」
アドルが苦々しい表情を浮かべて、わたしに向き直った。
「要約すると、『交渉してやるかわりに、異世界の勇者を連れて来い』だそうだ」
0時に次話投稿します。
じわじわとですが、見てくださる方が増えてきたように思います。
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