047 試作の完成
「で、どういう事か説明してもらおうか?」
「はい。弁解の余地もございません」
わたしとエスカはまたしても小屋で朝を迎えてしまった。
昨日の午前中の作業の遅れを取り戻そうと、夕食後に『少しだけ』の約束で残業をした。
ところがエスカが、魔石回路のモジュール化のヒントを見つけ、あれやこれやと試行錯誤を繰り返していたら、またしてもいつのまにか作業小屋で寝てしまっていたのだった。
「女の子二人が、しかも小屋の鍵を開けっぱなしで寝るなんて、危機管理もなっていない!」
「はい。仰る通りでございます」
「アドルよ、妾が監視していたから安全対策は問題ないのじゃ」
フォローするディーネに、アドルが険しい顔で視線を向ける。
お前は黙っていろと目が語っている。
やべえ、本気だ。
「ディーネ。そういう問題じゃないよな。わかるよな」
「まあ、そうじゃな。失言じゃった」
ディーネはブルッと身体を震わせ、明後日の方向を向いて歩き去る。
ディーネはあっさり屈してしまった。
これでもう防波堤もない・・・
かくして、わたしとエスカはアドルにこんこんとお説教され、半泣きしながら朝食を取った。
◇
「はあ、ユリ。お風呂っていいよなあ」
「お風呂は命の洗濯って、わたしの国の偉い軍人さんが言ってたわ」
昨日に引き続いて、エスカとユリは公共の入浴施設で朝風呂に入っていた。
・・・明日の夜はちゃんと宿のお風呂に入って、ベッドで寝よう。
心の中で反省していると、不意にエスカに問いかけられた。
「ユリ・・・アドルの事をどう思う?」
「そうね、今度は叱られないように気をつけましょうね」
「ルルが一緒に来ていれば、無理矢理にでも宿に連れ帰ってくれたかもね、って、そうじゃなくて!」
「?」
「アドルの事が好きか、と聞いてるんだよ」
「あがばっ!?」
湯船で腰が滑り、お湯が口に入った。
「アドルは、仲が良かった王子がいなくなってから塞ぎ込んでたらしくてね。しばらくは死人みたいだったそうだ」
その後、顔見知りだったホークスの手引きでアーガスに入り、生きる目標を見つけて奮闘してきたそうだ。
「でも、生きる目標ってのがさ、アレだからな」
・・・それって、バルゴを殺す事、だよね。
「流石にバルゴは昨日の先輩の話みたいに、じっくり説明して理解してくれるような相手じゃないと思うし、既に許してやれる限度は超えてる。だけどね」
エスカがお湯を手で掬い、パシャリと顔をそそぎ、話を続ける。
「アドルには、もっと別に、生きる目標ってのを持って欲しいなってね」
「別のですか」
「ユリもアドルを好きなら、ユリをアドルの生きる目標にして欲しいかなーってね」
「・・・」
わたしは顔の半分を湯船に浸けた。多分、今、わたしの顔は真っ赤だ。
わたしはアドルをどう思ってる?
アドルはわたしをどう思ってる?
アドルの心を救うためだけに好きになるのは違うと思う。
でも、わたしは純粋にアドルを・・・
「あの、エスカさん、わたし・・・」
「まあ、胸の大きさは心配すんな。アドルは大きい方が好きらしいけど、大事なのは形だ。そして心だ。ユリならきっと大丈夫だよ」
「わたし今初めてアドルに殺意を覚えたわ」
「え、何でアドルに殺意を!?」
◇
「さて、ちゃちゃっと魔石の精製をしますかねー」
「妾も手伝おう」
「あたしは昨日の『モジュール化』のテストをしてみるよ」
「精製が終わったらそっちを手伝うね!」
作業小屋に戻り、おのおの分担に分かれ、作業を始める。
コーラルに戻るための日数を考えると、ここで作業ができるのもあと五日程度だ。
少なくとも明日までにモジュール化の目処が立たなければ、従来の作り方で量産を始めないと間に合わない。
淡々と作業を進めて、昼過ぎには全ての魔石の精製を終えた。
次はエスカの手伝いだ。
「どう?エスカさん。見通しはたった?」
「ユリ・・・できちゃった!」
「本当に!?凄い!」
エスカは魔法陣の記述と魔石の並べ方を工夫して、冗長な部分を一つのパーツにする事に成功していた。
そして、他の魔石回路との連結部分に補助的な小さい魔石回路を挟み、必要な時に必要な回数だけ、機能を取り出す仕組みを作った。
詳しい構造は分からないが、ちゃんと動作しているようだ。
「凄い。モジュール化が出来てる・・・」
「ユリのおかげだよ。これは凄い発見だよ。他にも応用できるし、再利用や量産も簡単だ!」
「凄いよ、エスカさん、本当に凄い!」
「ねえ、他にも何かない?例えば効率よく同じ事を繰り返せるような仕組みとか、違う魔石回路同士をもっと便利に使える方法とか」
リクエストにお答えして、わたしは、所定の条件の時だけ実行する判定処理、所定の条件を満たす間だけ繰り返すループ処理、フラグによる状態管理や分岐処理、さらには基本の構造や処理を親の魔石回路として、他の魔石回路にも引き継がせる『クラスの継承』という概念について説明した。
何かのヒントになれば幸いである。
「うん。使えそうだよ。なるほどねえ。基本的に一方通行の魔石回路にそういった発想は無かったからね」
「ファルズの改造に使えそう?」
「使えると思う。かなり汎用的に」
それからわたしは、ファルズという銃に欲しい機能や、改善点についてエスカに聞かれた。
「エスカさん、たしか今のファルズの仕組みは、砲身に魔石を入れて、魔力を込めると魔石が飛び出して対象を撃つ、だったわよね」
「そう。基本的には風の魔石を飛ばすんだ」
エスカが現在のファルズの設計図と、構想中の新型ファルズの設計図を並べて広げながら説明する。
やっぱり毎回魔石を飛ばしてはコスパが良くないよね。
まずはそこを改善したい。
「エスカさんには前にもちょっと説明したと思うけど、砲身に螺旋状の溝を掘って・・・あ、これはもう実験済みだったわね。だったら、普通の金属の弾を飛ばすようにできれば・・・」
「つまり飛ばす弾に瞬間的に力を加えるのか・・・」
「どれだけの力で飛ばすかはこっちのモジュールで計算すれば・・・」
「対象との距離と、地面に落ちる力も考慮して・・・」
「あ、こうすれば撃った後で手軽に次の弾を装填できると思うのだけど」
「ユリ、お前天才か!?」
「いえいえエスカさんほどでは」
そんな感じで有意義な午後を過ごし、何度かテストを繰り返して、夕の鐘が鳴る前には、試作一号機が完成した。
「安全面も十分に配慮した。撃ってみて、ユリ」
「うん」
わたしは作業小屋の裏手で、作業小屋の壁に立てかけた、大きめで厚手の木の板に向かい、距離をとって立つ。
エスカとディーネが固唾を飲んで見守る。
わたしの手には試作品の新型ファルズが握られている。
元々のファルズの形状は、銃に似ているといえば似ているが、引き金はなく、筒に持ち手がついているだけの簡素なものだった。
そしてやや大きく、重かった。
わたしが片手で持つとプルプル震えるぐらいには重かった。
新型ファルズはせっかくなので意匠を凝らして、某泥棒仲間のお髭のガンマンの持っているコンバット・マグナムのようなイメージで作ってみた。
回転式シリンダーもどきもついている。
握りの中と砲身部分に魔石回路が仕込んであり、片手で普通に持てるサイズに小型軽量化する事に成功した。
魔石回路をモジュール化した事で冗長な部分を無くし、シンプルな設計に落とし込めた事による成果だ。
ちなみに鍛造や鋳造といった、通常は手間のかかる銃身の加工は、加工専用の魔道具を使って作る。
設計図と素材を加工専用の魔道具にセットして魔力を流すと、自動的に完成品が出来るのだ。
インチキくさいというか、先人の知恵がすごいというか、とにかく驚愕だ。
銃弾も同じ要領で作った。
なお、魔石のカッティングも同様で、きれいに加工する魔術具がある。
地球の宝石加工職人が見たら怒り出す気がする。
とりあえず地球の本物の銃と違って、精密な構造はいらないため、ある程度は大雑把に作ればいいというのも魔道具の銃の利点だ。
そんなわけで、初めての射撃だ。ドキドキする。
地球の銃とは理論が違う。火薬が暴発するような事はない。
・・・魔力の暴発はあるかもしれないけど。
まず、シリンダーを回転させて射出口に弾をセットする。
撃ちたい方向を見ながら銃に魔力を充填する。自動的に魔石回路のモジュールが弾を向かわせる方向と、弾に与える力を計算して、待機状態に入る。
引き金を引きながら魔力を流すと、発射の魔道具が活性化して、弾が打ち出される。
「ファイヤー!」
掛け声と共に引き金を引く。
カチッという音の直後、ボン!という音と共に弾丸が発射された。
弾は木の板に命中して食い込んだ。
「・・・やった。当たった」
「ユリー!成功だよ!やったよ!あははは!」
エスカが走ってきて、飛び込むように抱きついてきた。
初めての動作試験は満足のいく出来だった。
とりあえず試射で気がついたことを伝える。
「少し反動があるけど、わたしが使えたのだから問題ないと思うわ。でもエスカさんも撃ってみてね。普通の人がどのくらいの魔力を消費するか、わたしには分からないから」
「そうだね。あと、威力も少し調整した方がいいね。あと思ったんだけど、こういう外付けの魔石回路をつければ・・・」
この後は試射を繰り返して、改良点のフィードバックだ。
エスカと意見を出し合いながら、昔、会社で新しいゲーム開発をしていた時のことを思い出す。
こうやってみんなで試作品を見ながら、ああでもないこうでもないって意見を出し合った。
あの雰囲気をわたしはとても好きだった。
わたし、この世界に来て、今が一番楽しいかもしれない!
お昼に次話投稿します。
じわじわとですが、見てくださる方が増えてきたように思います。
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