044 魔石の精製
魔石採掘日の初日。
予定通り、採掘組は所定の採掘現場に向かい、わたしとエスカとディーネは魔道具の加工場所に向かった。
エスカは魔石の入った大袋を台車に載せて運んでいる。
これは船から持ち出して馬車で運んできたものだ。
ディーネが物珍しいのか、すれ違う人達に奇異な目で見られるが、わたしは気にしない。
ディーネちゃんの素敵な姿に見惚れるといいよ!
エスカに案内されて歩くこと数分、すぐに加工場所に到着した。宿から近場なのはありがたい。
「小屋ですね」
「小屋だよ」
加工場所は、下町の工場よりも少し小さめの建屋、という印象だ。
平屋の一軒家で、やや天井は高そうだ。
側面にある大きな扉がなければ、貸別荘と言われても違和感がなかったかもしれない。
この、搬入・搬出用と思われる大きな扉があるため、工場やガレージという印象の方が強い。
エスカが預かってきた鍵で小屋の扉を開け、中に入る。
作業小屋の中はまさに下町の工場という感じで、作業台や工具、何に使うかよくわからない魔道具と思われる装置などがある。
設備はそれなりに整っているようだ。
なお、この作業小屋は、作業期間中ずっと、わたし達だけで使って良いらしい。
「こういう、グループ単独で占有できる建屋のほかに、もっと広くて大きい、他のグループと共同で使える施設もあるんだけど、あたしらが作るものがちょっとアレなので、あまり人に見られたく無いからね」
ちなみに共同施設は割安らしい。
貸切ができる作業小屋はお高めだが、知らない人に邪魔をされないし、技術を盗まれたりもしない。
閉館時間も無いので、好きな時間に好きなだけ使用できるというメリットもあるそうだ。
また、小屋には鍵をかけられるので、小屋を借りている期間中はそのまま物を置いておくこともできる。
貴重品はなるべく持ち帰るけどね。
早速エスカが作業台の上に、持ってきた魔石をジャラジャラと広げる。
さまざまな色の魔石がある。
複雑な模様の魔石もある。
エスカは作業台に出した魔石を選り分け、いくつかの山にした。
だいたい色の違いで分けたようだ。
魔石の山を作り終えたエスカがわたしに向き直る。
「ユリに最初にお願いしたいのは、この魔石から、雑多な魔力を追い出してほしいの」
「魔力を追い出す、ですか」
「そそ。出来るだけひとつの属性に寄せた魔石にしてほしいんだ。属性の偏りでざっくりと分けておいたので、魔石に含まれている属性の中で、一番多い属性だけを残して、他の属性は抜いて欲しいんだけど・・・ディーネちゃん、やり方は知ってる?」
「うむ。任せよ」
「ではお願いね!」
説明それだけ!?
まあ、ディーネちゃんが知ってるならいいか。
エスカは別の作業に取り掛かるようだ。
わたしはわたしの役目をやることにする。
「ディーネちゃん。やり方を教えてくれる?」
「うむ。では、やりやすそうなものから始めようかの。その青系の石の山を使うのじゃ」
わたしは青系の石の山をぞぞっと手前に持ってくる。作業台のそばに椅子を持ってきて、石の山の前に座る。
「青系は、水の属性の魔力を多く含んでおる。ユリは水の魔力には慣れておろう?」
「まあ、むしろ他の属性はよく分からないね」
ディーネが器用に羽根を使って、青くてくすんだ色の魔石を山から一つ転がし、ディーネの目の前に置いた。
ハシビロコウが石遊びをしているようで、とてもかわいい。
「まず、魔石を探るような感覚で、魔石に魔力を少し流し、魔石からの魔力の反発を感じよ。最も多いと感じる魔力の属性を感覚で見るのじゃ。そして、違うと感じる魔力の属性があれば、弾き飛ばすように魔力をぶつけるのじゃ」
弾き飛ばす、ね。
今までずっと練習していた、魔石に魔力を流すのとは違う感じ?
「船で魔力の使い方を練習してた時は、アドル達に借りた魔石に魔力を流したり、船の動力に魔力を充填したりしていたでしょう?あれとは違うの?」
「あれは、魔石に魔力を流して、魔石そのものを活性化させるというものじゃ。今回は、魔石の中に魔力を充填するのではなく、魔石の中にある属性を探り、見つけたらそれを弾き飛ばす感覚じゃ。充填ではない」
言葉の意味はなんとなく分かった。
だが、できるとは言っていない。
ひとまず、ディーネが実践して見せてくれる事になった。
羽根で魔石をチョンと触る。
やはり仕草がかわいい。たまらない。
「では、見ているのじゃ」
しばらくすると、魔石の色が鮮やかな青色になる。
「このぐらいで良かろう。多少、他の属性の魔力が残るのは仕方がない。慣れてくれば純度も上がる」
「なるほど。とりあえずやってみる」
とにかく実践あるのみだ。
わたしもくすんだ青色の魔石を取り、目を瞑って魔石に触れる。
石の中を探るイメージで魔力を軽く流す。
魔石からの反発を感じる。
一番多いのはこの属性の魔力・・・
使い慣れている水の属性だ。
これ以外の魔力は、弾き飛ばす・・・
むむっと力を込め、感覚だけを頼りに魔力の選別をする。
そして、いらないと思う属性の魔力に、おはじきを指先で飛ばしてぶつけるような感じで、わたしの魔力をペシペシとぶつけるイメージをする。
大体できたかな、と思って目を開ける。
目の前に真っ青な魔石が出来上がっていた。
「おおお、できたよ、ディーネちゃん!」
「うむ・・・できてはおるな。初めてにしては純度も高い。ただ・・・」
ディーネの歯切れが悪い。
何か煮え切らない点があるようだ。
わたしがいきなり上手にできたので面白くないとか?
いや、ディーネちゃんはそんな子じゃない。
「ユリよ。この魔石で試してみるが良い」
ディーネが別の山から、赤い色の魔石を転がしてきた。
同じように魔力を流して、雑多な魔力を排除してみる。
出来上がったのは、紫色に近い魔石だった。
「あれ?なんで?」
「やはり。思った通りじゃ」
ディーネは何かに気がついていたらしい。
理由をお聞かせいただこう。
「ユリよ。雑多な属性の魔力を弾き飛ばす際の魔力が強すぎたのじゃ。ユリの魔力は水の魔力じゃから、水の魔力が石に残ったのじゃな」
「ぐぬぬー。なるほど」
つまり、一の魔力を弾き飛ばすために二の魔力をぶつけてしまったため、余計な一が残った、という事か。
加減が大事だね。
「多少、別の属性の魔力が残ってしまうのは構わぬゆえ、優しく弾き飛ばすと良い」
「分かった。やってみるね。アドバイスありがとう!」
「うむ。礼には及ばんよ」
とりあえず加減を覚えるため、青系統の色の石ではなく、違う色が濃い石の山から片付けることにした。
青系統は水の属性だから、手加減なしでバシバシやれば良いだけだし。
何度もやるうちに慣れ、そこそこ上手くなってきた。
速度も上がり、順調に魔石の在庫を片付ける。
ディーネも手伝ってくれて、お昼の鐘が鳴る頃には、作業台に出ていた石は全て精製済みとなった。
「・・・ユリちゃん?もしかして、これ全部終わったの?」
「はい。終わりましたよ」
エスカは自分の作業に一区切りをつけ、わたしをお昼ご飯に誘いにきたのだが、精製が終わっている石の山を見て驚いていた。
急なちゃん付けにわたしも驚いているけど。
わたし、また何かやらかした?
「・・・確かに、雑多な魔力は抜けているわ。品質も十分すぎるわ」
「という事は、問題なしですね。良かった!」
「問題ないけど、ある意味問題というか・・・」
エスカは何か煮え切らない点があるようだ。
ディーネに続き、またこの展開ですか?
よろしい。話を聞こう。
「この作業、明日中くらいまでかかると思っていたの。魔力豊富で、作業に慣れている人でも、丸一日かかる量よ。ユリの非常識ぶりには驚かされっぱなしだわ。あはは・・・」
エスカが呆れた顔で笑った。
「あはは・・・」
この世界の普通なんて知らないですし。
比べたこともないですし。
わたしも笑うしかなかった。
0時に次話投稿します。
じわじわとですが、見てくださる方が増えてきたように思います。
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