043 ドルッケンへ
ノーラを気絶させて勝ってしまったわたしは、ノーラが気がつくまで傍らで待っていた。
念の為にディーネも呼んで、わたしのそばに来てもらっている。
自警団の人からは『何だこの鳥は?』という視線を向けられているが、気にしない。
ノーラはまだ気絶しているが、自警団の人が魔道具による簡単な治癒を行ってくれたので、まもなく目を覚ますだろうとの事だ。
程なく、ノーラが目を覚まし、起き上がってわたしの顔を見た。
まだ状況がよく分かっていない感じにも見えるので、わたしからそっと声をかけてみた。
「すみません、ノーラさん。大丈夫ですか?」
「ええ。ちょっとまだ背中が痛むけど、大丈夫よ」
わたしはディーネに目で合図してから、ノーラの背中に手を触れた。
わたしの手から青白い光が出て、ノーラを包み込む。
「・・・これは、癒やしの魔術?」
「ええ、動かないでくださいね」
わたしはノーラに癒やしの魔術をかけている。
・・・ように見えているが、実はディーネがわたしの体に触れて、私を通してノーラに癒やしをかけていた。
自警団の人たちがたくさんいるところで、得体のしれないでっかい鳥が治癒魔術を使うのを見たら騒ぎの種になるかもしれないと思っての対策だ。
わたし、賢い。
「あの、ユリさん、あなた、魔道具無しで魔術が使えるの?」
「え!?いやいや、ちゃんと魔道具持ってますって!服の中にあるので見えないだけです。おほほほ・・・」
「ふーん・・・」
わたし自身が騒ぎの種になるところだった。危ねえ・・・
治癒をかけ終えると、ノーラは体を軽く曲げ伸ばしして、異常が無いことを確認すると、私にお礼を言った。
「ありがとう、ユリさん。痛みが消えたわ。それと、あなたがあの男達を倒した事を認めるわ」
「あ、はい。そういえばそんな話でしたね。ありがとうございます」
すっかり忘れてたよ。
なんか複雑な心境だが、認めてくれたので良しとしよう。
「はあ。それにしてもあなた頑丈過ぎない?どんな鍛え方をしたらそんな体にできるの?」
「あはは・・・えーと。気合い?」
「つまり、秘密ということね」
「え、いや、違います。そんなつもりではなくで、説明が難しいというか・・・」
ノーラがジト目でわたしを見ている。
『水の精霊の御力を取り込んでいるため魔道具無しで魔術を行使して闘いました』なんて説明できるわけがない。
正々堂々、己の肉体だけで闘ったノーラに対して、反則な気がするし。
「でもまあ、あなたも魔道具を使って戦っていたのでしょう?」
「え?あなたもって!?」
「わたしは身体加速を使ってたわよ。ほら」
ノーラは履いてる靴を指さす。
靴の外側に小さな魔石が並んでいた。
これが身体加速の魔道具なのだろうか。
「武器や飛び道具を使わないだけで、魔道具を使わないなんて言ってないわ。それはあなたも同じでしょう?」
「ええと、まあ・・・あはは」
わたしの気苦労を返せ!
魔道具を使って身体強化するのは当たり前なのか。
じゃあ昨日の男達は?
「そういえば、昨日襲ってきた男の人達は魔道具を使ってなかったような気がします」
「魔力を使いながら闘うには集中力もいるし、余計に疲れるし、素人には無理よ。まあ用心棒さん達は筋力増加の魔道具なんかを使ってたみたいだけど」
捕まった時に、持ち物から押収されたそうだ。
全く気がつかなかったよ。
「そういえばユリさんは、魔石の発掘に行くのよね?お金のため?」
「はい。まあ、たぶんお金の為でもありますけれど」
「だったら私に雇われない?お給料、はずむわよ」
「はい?」
唐突にスカウトされてしまった。
アドルに視線でヘルプを送る。
「あー、ノーラさん、すみません。ユリは大事な仲間なんです。魔石発掘も、お金だけが目当てでは無いのです」
「お金以外の目的?ふーん。あなた達ってもしかして・・・」
マズイ、なんかバレた?
今、わたし達が反バルゴ派の『アーガス』だとバレたら面倒な事になるかもしれない。
変な汗が出る。
「あなたたち、付き合っているかしら?」
そっちかーい!
違う汗が出た。
アドルも力が抜けたように、返答する。
「いえ、付き合ってないです・・・」
「あら、違うのね。だったら、そうね・・・」
ノーラが少し考え、ウンウン、と頷いている。
「私、ユリさんに、いえ、ユリ師匠にお願いがあります」
え?ユリ師匠?
誰が?
ノーラは立ち上がって姿勢を正すと、わたしに頭を下げ、弟子入りを志願してきた。
「ユリ師匠。私はあなたに弟子入りしたい。私はこのニューロックで最強の格闘家だと思っていました」
間違いなく強かったですよ?
わたしのエセ格闘術と違って。
「しかし私は負けました。私は調子に乗っていました。やはり世界は広い。あなたの教えを受けて、さらに強くなりたい。そう思いました」
いやいや、教えられることなんて無いです・・・
いつのまにか言葉遣いも丁寧になってるし。
「だが、今はユリ師匠にはやることがあるとの事。それが済んだら、ニューロックの首都、コーラルに来て私を訪ねて来てはくださいませんか。もちろん全力でおもてなしをさせていただきます。そして、私に格闘の極意を教えていただきたく思います」
極意?極意って何!?
にわかのわたしに何を教わるというのか。
しかし、ノーラの真剣な態度に対して、無碍に断るのも悪い。
本気で強くなりたいと思っているのだろう。
・・・天狗の鼻をへし折られた時の気持ちは、私も分かるし。
「えーと、とりあえず、魔石発掘が終わって、時間があったらでいいですか?」
「もちろんです。是非ともお願いします」
ノーラがまた頭を下げる。
『行けたら行く』みたいな、飲み会の返事のような返答だが、ノーラは了承して、帰っていった。
なんだかまた厄介事が増えてしまった気がするが、とにかくわたしの嫌疑は晴れた。
ようやくわたしは開放され、やっと魔石発掘をする町、ドルッケンへ向けて出発することができた。
・・・あれ、そういえば、ノーラさんってコーラルのどこにいるのさ?
居場所を聞き忘れた。
◇
ドルッケンに到着したのは夕方近くだった。
出発の遅れを取り戻すために結構すっ飛ばしたようで、馬も疲れているようだ。
なお、ディーネは快調に飛ばす馬車との競争に燃えたようで、馬車の隣を走ったり、飛行練習も兼ねて低空飛行で飛んだりしていた。
「良い運動になったのじゃ。今度はユリを乗せても安定して飛べると思うのじゃ」
「あんまり高いところは飛ばないでね」
「うむ。妾も高い所はまだ苦手じゃ」
・・・まあ、楽しそうでなによりだわ。
わたしもハシビロコウに乗って飛べるのは楽しみだ。
本物のハシビロコウでは絶対に体験できないからね。
ドルッケンで宿泊する宿に到着し、アドルが宿の人に到着を知らせに行った。
この宿は、わたし達の作業期間中は貸切状態だそうだ。
ただ、食堂は宿泊客以外でも使えるそうで、町の人も食事にくる事があるそうだ。
そのため、一応会話には気をつけることにする。
なお、宴会などをやる場合には、事前にお願いすれば食堂も貸切にしてくれるそうだ。
宿の部屋割りの後、夕食となった。
夕食の席で、翌日からの予定についてアドルから説明が行われた。
「明日から採掘作業に入るが、エスカとユリは魔石の加工場所の整理と、加工に使う魔石の準備と、作る魔道具の検討をしてほしい。ユリはエスカから作り方を聞いて手伝ってくれ」
「うん。分かった」
「その他のメンバーは採掘に行く。二日目以降は採掘の様子を見ながら人数を調整しようと思う。みんな、よろしく頼む」
魔道具作り、楽しみ!
エスカとアドルは、魔道具作りのエキスパートだって聞いてる。
ディーネも詳しかったはずだ。
「ねえ、エスカさん。魔道具作りには魔石回路ってのを使うのでしょう?」
「そうだね。魔石には、昔から決まっている基本の組み合わせがあって、その組み合わせで魔石同士を繋げる事で特定の効果を発揮するんだ。さらにそれらを互いに組み合わせて、魔道具に仕上げるんだ」
魔石を組み合わせてある効果を発動できるようにしたセットを、さらに色々な他のセットと連結していくことで魔道具が出来上がるというイメージだろうか。
魔道具がひとつの装置だとして、魔石回路はICを搭載した基板だと考えるとしっくりくる。
「昔から決まってる基本の組み合わせって?」
「この星の先人が残した資料があってね。それに載っていたんだ。なんでもこの星の成り立ちにも関わっていた人らしいよ。もちろん、その後の研究によって新たな発見や新機能も見つかっている。大抵は発見者が秘匿にしたり、売ったりしているけどね」
そう言えばエスカも、ライラ島で魔道具を作って売って、生計を立てていたんだっけね。
しかし、この星の成り立ちに関わっていた人の資料なんて、どんだけ昔の物なのだろうか。
まあ、その人達の資料のおかげで魔道具の文化が発展したんだとは思うけれど。
「あとはそうだね、魔石の属性の品質を高めたり、同じ魔石回路を連結する事で、威力を上げたりも出来るよ。ただしその分、魔力を多く使う必要もあるんだけどね」
抵抗を下げて直列に繋ぐ事で、豆電球がより明るく光るようなものだとわたしは解釈した。
「ユリは向こうの世界の、あたし達が知らない知識を持っているから、さらに新しい発見があるかも知れない。楽しみにしてるよ」
エスカが悪い笑みを浮かべる。
あ、これ、この町にいる期間中は絶対逃さないって目だ。
ちゃんと睡眠時間取れるかなあ・・・
まあわたし自身、ハマると昼夜を問わず手を動かしちゃうほうだけど。
「とりあえずユリはあたし達よりも魔力が豊富だから、最初にやってもらいたい事は決まってる。その辺は明日話すね」
「うん、分かった!」
「作業がアドルと離れ離れで寂しいとは思うけど、我慢してね」
「そんな気遣いは不要です!」
お昼に次話投稿します。
じわじわとですが、見てくださる方が増えてきたように思います。
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