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ポニーテールの勇者様  作者: 相葉和
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004 水の精霊

「まず、勇者殿にお願いしたいのは、水の精霊の凶暴化を解消することです」


 フラウスが今回のミッションについて話を始めた。


「まず、水の精霊について簡単に説明しますと、水の精霊は、大地に水の恩恵を与え、作物の成長にも大きく関与します。雨期になれば、大地に恵みの雨を降らせるなど、天候にも影響を及ぼします」


 わたしは頷きながら説明を聞く。そのへんは想像の通りだ。


「また、光の精霊ほどではないにしろ、回復や浄化の作用にも影響するほか、魔石同士の魔力の連鎖や循環効率、変性、融合などにも影響を及ぼし、医療や産業を支える柱となります」


 少し話が難しくなってきたものの、回復力にも長けていることは分かった。


「魔石回路においては、水の属性を適所に設定することで火の魔石の威力調整を行ったり風の魔石の効果を増幅して、構築した魔術具の魔石回路に適切な・・・」

「あの、ちょっとすみません。そのへんからもうサッパリわかりませんので、もう大丈夫です」


 魔石回路とやらに興味はあるが、もっと余裕がある時に、頭を整理してからぜひ聞いてみたい。今は最も重要な部分について聞かねばならないと思う。


「つまり、その水の精霊力が無くなってしまったせいで、農作物の収穫にも影響がでて、国民がご飯を満足に食べられないと。そういう事でしょうか」

「厳密に言えば完全に消えたわけでは無いのですが・・・そうですね。水の精霊力を細々と食いつぶしているような状態をお考えください。おっしゃる通り、いずれ農作物の収穫にも影響が出ることでしょう」

「なるほど。食糧事情に問題が出るのはゆゆしき事態ですね」


 水の精霊の凶暴化をなんとかしなければならないことは分かった。だが、それをわたしがどう対処すればいいのだろうか。


「実は・・・水の精霊は、この城にいるのです」

「は!?精霊って捕まえられるものなの!?」

「ええ、まあ。捕まえるという表現が適切かどうかは判断しかねますが」


 なんだか煮え切らない回答が気になるところだが、水の精霊が城にいるのであれば、さきほどバルゴが「今から試そう」と言ったのも頷ける。


「でも凶暴化しているのですよね?それって結構危ないんじゃ・・・」

「凶暴化した水の精霊は、現在、結界の中にいます。それも二重の結界の中に。一つはこの城の守りにも使っている結界、もうひとつは、水の精霊自身が張っている結界です。その二つ結界の中で、水の精霊は現在、活動を停止しています」


 凶暴化した水の精霊を城におびき出し、城の結界で捕らえた状態で凶暴化を解除しようとしたものの、水の精霊もただやられるのを是とせず、自らも結界でガードして籠城戦を決め込んだらしい。


「はあ。水の精霊も悪あがきしますねえ」

「でも、決して悪い精霊ではないのです。凶暴化する以前の水の精霊は、前王とも良好な関係だったと聞いていますので・・・」

「フラウス。現にこの勇者殿はこの城の結界に阻まれることなく、この場に存在している。水の精霊の凶暴化の解除を行うための準備はできていないが、少し試すことは出来るのではないか?」


 バルゴの問いにフラウスが頷く。そのまま続けて、バルゴが城の結界について説明した。


「そもそもこの城の結界は、我や、結界に入ることを許可された者しか入ることができない。それなのに、勇者殿はなぜ、この城の中に入っていられると思うか?」

「えーと、それは、わたしが召喚された時にすぐに許可をいただいたとか、そういう事ではありませんか?」

「許可など与えていない」

「では、外からは入れないというだけで、いきなり城内に現れたわたしは対象外とか?」

「いや、無許可の者は城の中に存在できない。すぐに外に弾き飛ばされるか、あるいは死ぬことになる」

「・・・」


 許可を貰わないと入れない城内。しかし、許可されていないわたしはなぜか平気でここにいる。一体どういうことなのかと考えようとしたが、すぐさまバルゴから回答が得られた。


「つまり勇者殿は、結界の力などに阻まれることなく、この星を救うことができる、選ばれた者だということだ!」


 バルゴは背景に「ドン!」という文字と集中線がセットで見えそうな物言いで、わたしを指差した。「選ばれた者」だなどと言われると、なんとなく嬉しいものはある。だが、なぜわたしが「選ばれた者」なのかは全くピンとこない。ただ単に「たまたま適性があった」みたいな事だろうか。


「それで・・・選ばれたわたしは、何をすればいいんですか?」

「城の結界の影響を受けずにこの場にいる勇者殿ならば、水の精霊の結界にも阻まれることなく、水の精霊本体に近づくことが出来るのではないかと考えている。そこでまず試して欲しい事は、水の精霊の結界を越えられるか否か、ということだ」


 わたしであれば水の精霊に近づけるかもしれない、ということは分かった。分かったけれど、その程度で勇者呼ばわりされる事には違和感しかない。だが、今はそれよりも重大な問題がある。水の精霊の結界の中に入れるのがわたしだけということは、誰もわたしの護衛として一緒についてくることができないということだ。結界の中には、凶暴化した水の精霊がいる。つまり・・・


「あの、わたしが水の精霊の結界の中に入れたとして、それからどうすれば良いのでしょう?世界に影響を及ぼせるほどの精霊で、しかも凶暴化した精霊ですよ?人なんて簡単に殺せちゃうぐらい強いのでしょう?魔道具のあるこの世界ですから、何か有効な武器とかがあるのかもしれませんが、所詮、わたしは非力な女子です。ワンパンで死にますよ?・・・もしかしてわたし、『水の精霊の生贄となって精霊の怒りを鎮め、後に世界に平和をもたらた勇者として語り継がれた』みたいな使い方をされるんですか!?」


 人身御供にされるのではないかという疑惑をぶつけてみたが、フラウスはそれを否定した。


「『ワンパン』が何かは存じませんが、倒す必要はありません。凶暴化を解消するための魔道具がございます。勇者殿は水の精霊の結界内に入った後、その魔導具を水の精霊の近くに投げ入れてくれるだけでよいのです。それで水の精霊の凶暴化を鎮めることができます。そうすれば、水の精霊は自らの結界を解き、我々との交渉にも応じてくれると考えています。ただ、魔導具への魔力の供給には時間がかかるため、用意できるのは明日となります」


 そもそも倒されてしまっては水の精霊力を失うので困る、とフラウスが付け加える。そんな事、わたしにできるわけがないので杞憂ではあるが。


「今、水の精霊は、自らの結界内で休眠状態になっていると思われます。そして力を蓄え、いずれ城の結界を破るために行動すると推測します。そうなる前に、凶暴化を解消せねばならないのです」


 城の結界が破壊されれば王の命も危ない。王都が破壊されるようなことになれば、政治の中枢は機能しなくなり、国は混乱をきたすだろう。そんな状態で水の精霊が暴れまわりでもすれば、いよいよこの星の命運が尽きるとフラウスは語った。


「話は理解いただけたと思う。今から城内にいる水の精霊の場所へ案内する。ついてきて欲しい」


 バルゴの言葉に頷いたわたしは、再び護衛騎士に囲まれながら、水の精霊のいる場所に向かって、城内の廊下を移動することになった。




 廊下を歩いているわたしの後ろ姿を、物陰から一人の男が強烈な視線を向けていたが、誰もそのことに気付かなかった。



2023/12/31 体裁等修正

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