038 地図の検証
わたしが見ているこの世界の地図は、地球の世界地図にそっくりだった。
細部は違うような気もする。
でも地球の世界地図を細かく覚えているわけではないので、なんとも言えない。
国名は書いていない。
国境線らしきものは引かれているが、わたしの知っている国境線ではない。
でも、大陸の形はほぼ同じだと思う。
震える指で地図をなぞる。
アメリカ大陸、そして南アメリカ大陸がある。
右に行ってグリーンランド、イギリス、イベリア半島、下にヨーロッパ、アフリカ大陸。
さらに右に行けばロシア、インド、中国、東南アジア地域のインドネシア諸島、南にオーストラリア、ニュージーランド。
そして・・・日本。
ユーラシア大陸の東側。わたしの知っている位置に日本がある。
「日本・・・日本だよ。この地図はいったい何なの!?何なのよ、アドル!」
日本を指さしながら、アドルに詰め寄る。
狼狽しているわたしにアドルが驚いている。
「何って・・・世界地図だよ。何をそんなに驚いているんだ?」
「驚くわよ!この地図は地球の地図よ。わたしの世界の地図と同じなの。ここは異世界じゃなかったの?わたしは地球にいるの!?」
「とりあえず落ち着け!落ち着いて話をしてくれ」
皆が集まってくる。
わたしは椅子に座らされて、お茶を飲んで落ち着くように促される。
お茶を飲み、落ち着いたところで、わたしはゆっくりと話を始めた。
「・・・この地図、わたしの世界の地図と同じなんです。完全に同じかと言われると、細かいところまでは覚えていないので絶対とは言いませんが、知っている大陸や地形、配置は同じなんです」
「なんだって?どういう事だ?」
それはわたしが聞きたい事だ。
もしもここが異世界ではなく、実は地球だとしたら?
でも文化は全く違う。
地球には当然、魔力や魔道具なんて無い。
実は魔力は科学の進歩?
『進んだ科学は魔法と区別がつかない』とかいうやつだろうか。
いや、そんな事では説明できない事だってたくさんあった。
もしかして、タイムトラベル?
もしも異世界召喚ではなく、時間を超えて召還されたのだとしたら?
だったらここは過去?未来?
過去に魔力の文化が発展して、そして絶滅した?
でもそんな歴史や遺跡を見たことも聞いたことも無い。
形跡が残らないくらい遥か昔の事なの?
それとも未来の世界?
科学文明が滅んで、魔力の文明になった?
・・・疑問しか出てこない。
それに考えても正解なんて出てくるわけがない。
怖い。すごく怖い。
異世界ならば、なんとなくだけど、元の世界に帰れる気がしていた。
でもこれがタイムトラベルだったとしたらどうだろうか。
わたしはSF小説やアニメで、色々と中途半端な知識がある。
たぶんそのせいもあって、色々と余計な事を考えてしまう。
例えば、今が過去ならば、わたしの行動が未来を改変するかもしれない。
例えば、今が未来ならば、わたしのいる今の時間と、元の時間の時間軸はパラレルワールドとなり、本当の元の時間軸の世界には戻れないかもしれない。
「わたし、帰れないかもしれない・・・」
嫌な予言を自分で口走ってしまった。
それぐらい、今は不安と恐怖でいっぱいだ。
体も少し震えてきた。
「ユリ。ひどい顔になっているぞ。一旦部屋に戻って、休んでこい」
エリザが声を掛ける。
「こことお前の世界の地理が似ている理由はわからん。もしかしたら物凄い偶然かもしれない」
偶然にしてはあまりに似過ぎているが、絶対に偶然では無いという確証もないのは確かだ。
「ニューロックの近くに、この星の歴史に詳しい御仁がいたはずだから、こっちの用事が済んだら訪ねてみるといい。噂では星の成り立ちから知っているとか。その御仁と話ができれば何か手がかりが掴めるかもしれない。だが、今は休め。命令だ」
「・・・分かりました。部屋に戻ります」
わたしは部屋に戻り、ベットに横たわった。
頭がオーバーヒートするのではないかと思うぐらい、一気に色々な事を考えたせいか、気絶するように眠りについた。
◇
「ユリよ、夕食の時間じゃ。起きれるか?」
「うーん・・・ディーネちゃん。おはよう。ありがとう、起こしてくれて」
わたしは夕の鐘まで寝ていたようだ。
グッスリ寝ていたようで、頭はスッキリしている。
寝て休んだおかげか、今は一人で考えたって仕方がないと、ようやく割り切れた。
とりあえず、ご飯を食べよう。
食堂に入ると、既に食事中のアドルとホークスを見つけた。
話をするために近くに座る。
「ユリ、大丈夫か?」
「うん。心配かけてごめんね。もう大丈夫よ」
アドルが食事の手を止めて、心配そうにわたしを見る。
わたし、かなり狼狽しちゃったからね。
「あのね、アドル。食事の後でいいから、もう一度地図を見せて。それで、各領地について、知っている事を教えてほしいの」
「分かった。わかる範囲でよければ教えるよ」
「俺も手伝おう。アドルより多少は詳しいと思うぞ」
ホークスも手伝ってくれるらしい。
わたし達は手早く夕食を終えると、艦橋に向かった。
「ます、王都管理区はここだ。小さいけど、一応世界の中心で、精霊の力が最も集まりやすいんだ。王城があって、水の精霊を助けて、オレ達が出航した場所でもある」
アドルが指をさした場所・・・日本かよ!
わたしは日本から日本に召喚されたのか。
やっぱりタイムトラベルなのかな?
「エコリーパスの始まりの地とも言われているんだ。ここから世界が始まったんだってよ」
ホークスさんが補足してくれる。
エコリーパスとはこの星の名前で、この世界の名前でもあると聞いている。
日本が『始まりの地』などという御大層な位置付けになっているとは。
日本、いったい何をした?
「王城は東京あたりだったんだね。ナーズがこのへんてことは、静岡の沼津あたりかな」
なるほど、そのあたりなら漁師の街でも頷ける。
ナーズと沼津は語感もなんとなく似ている気がする。
たまたまだろうけど。
「ナーズの近くに富士山・・・大きな山があるでしょう?わたしの世界では霊峰、神様が住む山みたいな感じでパワースポットというか、元気をもらえる場所みたいな感じで特別視されていたのだけど、この世界はどうなの?」
「山?そんなの無いよ。その付近は多少の高低差はあるけど、大きな山はないな」
なんですと?
あれ、そういえばわたしも富士山を見た記憶がない。
沼津あたりなら富士山がはっきり見えてもおかしくないはずだ。
それに、ミライのお母さんのお墓に行った時に小高い丘に上ったけれど、富士山らしきものはなかったように思う。
まさか日本だと思わなかったので、富士山の存在を意識していなかった可能性もあるけど。
「王都管理区の中央島には山らしい山は無いね。北の方のブルスマには山があるけど」
ホークスが王都管理区、つまり、日本列島を指でなぞりながら説明する。
中央島、つまり本州には山がないようだ。
飛騨山脈も奥羽山脈も無いということか。
なお、ブルスマの位置は北海道だ。
「ブルスマは寒いですか?もしくは寒い時期はありますか?」
「ブルスマも王都と同じで特に寒い事はないな」
ふーむ。色々違いが出てきた。
気候は長い年月で地軸の変動とかで、変わる事があると聞いた事がある。
しかし、富士山や山脈については説明がつけられない・・・気がする。
地形がここまで似ていて、山が無い事なんてあるだろうか?
やはり、地球のようで地球ではないのかも知れない。
「わたし達は王都から海を南下しているのですよね。立ち寄ったイスカータ領のスラッジ諸島と、目的地のニューロック領はどこですか?」
「イスカータ領はここ。ライラ島はここだ」
なるほど、イスカータ領はインドネシア諸島あたりだった。
インドネシアの島の位置や名前まで覚えていないのでピンとこないけど、位置関係は分かった。すると・・・
「ニューロック領はここだ」
ホークスが指をさした場所は、予想通り、オーストラリアの位置だった。
「つまり・・・コアラに会える!」
「コアラ?そんな動物や魔獣は聞いたことがないぞ」
わたしはコアラがどんな動物かを説明したが、思い当たる動物はいないという。
くっ、コアラはいないのかよ!
ニューロックにはがっかりだよ!
0時に次話投稿します。




