036 ルルの覚悟
頭目との賭けに勝ったわたしは、エスカの開放を要求した。
すこしゴネられるかもしれない、と思ったけど、そんなことはなく、頭目はすぐにエスカを開放して、店内に連れてきてくれていた。
「いやー、すまなかったね。助かったよ!」
ニパッと笑う丸眼鏡の女性、エスカは、酒場の奥の従業員休憩所のような所で縛られ、監禁されていたらしい。
既に拘束は解かれている。
監禁中のエスカは、特に乱暴なことをされることもなかったそうだ。
なお、エスカのほっぺたが赤みを差しているが、叩かれたりした訳ではなく、さっきまで床に顔をつけて寝ていた跡らしい。
お気楽なのか大物なのか分からない。
「ルルにも心配かけたね。ゴメンね」
「エスカさーん。ううう・・・」
エスカにしがみつき、ずっと泣いているルルに、困り顔と照れ臭い顔の中間をしながら、エスカはポンポンとルルの背中を優しく叩いている。
そんなわたし達の様子に、頭目は虫でも払うように手を振って、エスカの開放をはっきりと宣言した。
「俺の負けだからな。約束だ。エスカを連れていきな。お代はいらねえよ」
「ありがとう、頭目さん、あなた、意外といい人よね」
「意外とは余計だ。俺はいい奴なんだと。だが次は負けねえからな!」
頭目がニヤリと笑って、わたし達を送り出す。
ふふっ。次は三山崩しで潰して差し上げますよ。
わたし達は気の良いゴロツキ達の酒場を後にした。
なお、その後のライラ島では、頭目達が手を組み、正式に職業斡旋センター的な施設が開設されて、島の人材活用に大いに貢献したという。
◇
「とにかくエスカ、本当に無事でよかったよ」
「手間かけさせちゃってゴメンね。で、この人とこのでかい鳥は?」
わたしとディーネを指さす。
「えーと、まあ、新しい仲間だよ。事実上、エスカを助けてくれたのはこの人だ。詳しい事は後で説明する」
「えー、別に今だっていいじゃん。気になるし」
「そう言われてもなあ・・・」
アドルがチラッとルルの姿を見る。
部外者がいては話しにくい、と暗に言っているのだ。
エスカが助け出された時には大いに喜んだルルだが、今はあまり元気がない。
エスカがこの地を離れてしまうことを知っているからだろう。
エスカだけは、一人、脳天気な口調で、ルルに声をかけている。
「ルルにだったら話しても大丈夫だよ。ねえ?」
「はい、いや、でも私は・・・それに、これからもうエスカさんは行ってしまうのですから、わたしはもうお側にはいられませんし・・・」
「?」
ルルの返事に、エスカが首を傾げる。
あれ、手紙を読んでない?
「エスカ、ニューロックに向かうから一緒に来いって連絡したよな?」
「あの手紙なら読んだよ。だからあんたがここにいても別に驚いていない」
ではなぜ首を傾げる?
エスカがルルに質問する。
「ルル、出かけるから荷物を準備してって言ったよね?」
「はい、ここに持ってきました」
ルルは大事に抱えていたお出かけバッグを差し出して中を見せて、エスカの着替えや道具などが入っていることを見せる。
それを見てエスカが首を振る。
「あたしのじゃない。ルルのだよ」
「はい!?」
ルルが目をまんまるくして仰天の声を上げる。
「一緒に行くから、準備しとけって、そう言ったんだよ」
「「「はい!?」」」
今度はエスカを除く全員で唱和した。
「エスカ。その事、エリザやホークスは知ってるのかい?」
「いや、伝えてないけど、大丈夫かなって・・・」
「いや、大丈夫じゃないだろ」
ひとまずわたし達は町の通りの喫茶店に場所を変え、テラス席でお茶を飲みながら、ルルの今後についてどうするかを相談する事にした。
どうやらエスカはアーガスのメンバーの誰にも相談せず、ルルを無断で連れてこようとしたらしい。
「いいかいエスカ、オレ達がやろうとしている事は安直に口外できないし、無関係な人に強要も出来ないんだ。なにより秘密を守れないと、どこから情報が漏れてみんなが危険な目に遭うかも分からない」
「危険な目に遭うのはこれから先もずっとじゃん?」
「そういう意味ではなく、内通とか、裏切りとか・・・」
アドルの言うこともわかる。
でもそれを言ったら今のクルーの中にも同じ事が言えるんじゃないのかな?
「ねえ。今船にいるクルーは、絶対に内通したり裏切ったりしないの?」
「しないよ」
言い切られた!?
「えーとそれは、例えば魔道具でクルーに制約をかけたりとか、そういう事?」
「そんなバル・・・酷い事はしないよ」
バルゴみたいな、と言いかけたらしいが、一応公共の場なので自粛したようだ。
「・・・船に乗っているのは、みんな、奴のせいで故郷を追いやられたり、親や大事な人が殺された人達なんだ。だからみんな、覚悟を決めて乗っている。裏切ったりしない」
「一応聞くね。絶対に?」
「絶対に、だ。一応オレも言うけど、理論上の絶対じゃない。お互いを信じている事が前提の、絶対なんだ。もしも裏切り行為があれば、それは敵に洗脳や支配された時だ。そうなる前になるべく自害する事をみんなも覚悟している」
「分かったわ。ごめんね、疑うような事を言って。わたしも信じるね」
ルルは何やら重たい話に萎縮してしまったようだ。
かなりの覚悟がなければ連れていけない事は理解したのだろう。
「・・・ルルなら大丈夫。あたしが必ず面倒を見るし、もしも何かあれば・・・わたしがルルを殺すし、あたしも責任取る」
エスカがアドルに真剣な面持ちを向ける。
ルルも真剣な眼差しでアドルを見ている。
覚悟を決めているのはルルも同じだ、という意思表示に見えた。
「お前一人の問題じゃないと言っているんだ、みんなが・・・」
「じゃあ行かない!」
「じゃあ行きます!」
エスカとルルが同時に真逆の事を叫んだ。
「ルル!?」
「私も覚悟を決めます。必ず秘密を守ります。エスカさんのために生きると決めたんです。だから連れて行ってください!私が信用できないと思うならば、今ここで私を殺してください!」
ルルは命をかけてでも、本気でエスカについていく覚悟を決めたようだ。
「・・・ルルさん、覚悟は立派だよ。だが、ここには二度と帰れないかもしれないんだよ?」
「私は孤児です。この島に未練なんてありません。むしろ辛い記憶ばかりです。エスカさんのお陰で私は救われたのです。私はエスカさんの為なら何でもします!」
ルルはそう宣言して、エスカに微笑んだ。
エスカの眼鏡越しにみえる目は、すこし涙ぐんでいるようにも見える。
「ルル、そこまであたしを・・・」
「エスカさん、私は悪い事はまだ出来ないけど、きっと覚えます!だから連れて行ってください!」
どこの箱入りお姫様だよ!
わたしたちは泥棒じゃないよ!
いや、国を奪おうとしている泥棒とも言えるかな?
いやいや、先に泥棒をしたのは向こうだ。
ちなみにわたしはお髭のガンマンが好きだ。
「・・・わかった。エリザに相談してみるよ」
「アドル!」
「アドルう、やっぱお前、いいやつだな!あたしは信じてたよ!」
「ただし、オレ達は、悪い奴らじゃない。そこは間違えないようにね」
ルルは涙を浮かべて頷いた。
◇
「ん、いいよ」
「軽っ!」
船に戻り、エリザに相談したところ、一秒で採用が決定した。
「エスカの助手も必要だしね。なにしろエスカはズボラだから、エスカの身の回りの世話をしてくれるならむしろ助かる。とはいえ、船内のクルーとして扱うから、クルーが汚した服の洗濯や、船内の掃除も頼む。それがお前の仕事だ」
「はい!」
ルルは、船内の掃除・洗濯担当、兼、エスカの助手として正式に採用された。
とりあえず半舷上陸二日目は、ルルの荷物と、エスカが他に回収しておきたい荷物を取りにいくのを手伝うため、エスカの半壊した家と船を往復した。
たいした休暇らしい休暇も取れずに、ライラ島での上陸は終わった。
0時に次話投稿します。




