035 勝負
わたし達は酒場の中に入った。
普通に酒くさい。
若干薄暗い店内に入ると、奥の方で、陽気に酒を酌み交わす大柄な男達がいた。
「頭目、この連中です」
「ああ、エスカに用事があるというのはお前らか」
「お前達も被害者か?ざまあねえな」
頭目と呼ばれた男『二人』は、飲み屋の奥の席で、並んで酒を飲んで盛り上がっていた。
とりあえずエスカの件について話を聞くことにしたが、この男達、わたしが思っていたような『ワル』では無かった。
「俺は、この島で腐っている連中を集めて、酒場の手伝いとか、力仕事とかをあてがっていたのよ」
なんでも、孤児上がりで、堅気な商売にもつけずに暴れたり迷惑をかけているやつらに声をかけては、就職先を探したり、自分の持っている仕事を手伝わせたりしていたそうだ。
なにそれ、めっちゃいいヤツじゃん!
「まあ、半ば無理やり『頼み込んで』仕事を出させたり、女に取らせた客がなめたマネをしたら半殺しにしてやったりと、多少、力でねじ伏せる事もやるけどな」
夜の町でお仕事をする女性も斡旋していたのか。
でもこの世界の風俗に詳しくないわたしがその事に口を挟むべきではない。
「だがな、だんだん仕事の口が減って来たのよ。脅しをかけて仕事を出させようにも店側に断られるし、時には用心棒みてえなやつが出てきて、話は平行線か、その場で殴り合いよ」
思うように仕事が回せなくなり、このままではまた町に迷惑をかける連中が増える。
そう思って、裏を取ることにしたらしい。
「そうしたらこいつが裏で手を引いていたわけだ」
「そいつは、お互い様だけどな!」
互いに指をさしあって、どっと二人で笑う。
何が面白いのか分からない。
とりあえず話を聞き進め、要約するとこうだ。
仕事が取れなくなった背景には、別の集団がこちらの仕事の斡旋を阻止している事が分かった。
こちらも健全(?)な働き口確保の為には引き下がるわけに行かず、ついに抗争に発展するに至った。
エスカに武器を作らせ、全面戦争を起こすつもりだったが、互いにエスカの家で爆発に巻き込まれて負傷し、一時休戦。
双方の負傷者と、加害者であるエスカを連れて、片方のチームが拠点にしていたこの酒場に来たという。
せっかくなので頭目同士で話をしてみると、実はお互い、ゴロツキ共の仕事の斡旋をするために奮闘していただけで、駒の取り合いでブッキングし、互いに向こうが職の斡旋を妨害していると勘違いしていただけだった。
「つまり、俺達は最初から争う必要などなかったと言う事だ」
「では、その事に気が付かせてくれたエスカさんには感謝ですね?」
「お嬢さんよ、それとこれとは、ちょっと話が違うな」
丸く収まってめでたしめでたし、じゃないのか・・・
エスカは前金をもらっているにも関わらず、頼んだ仕事をしなかった。
そのため、エスカはその落とし前をつけなければならないそうだ。
くそう、無駄に筋は通っている・・・
「前金と違約金、それに怪我人の治療代。全部合わせて三百万トール。耳を揃えて払うか、俺達のために稼ぐまでは帰してやらん」
三百万トールって、たぶんそれ大金よね。
ルルさん、青くなってるし。
アドルは・・・そうでもない?
むしろ払う気だったようだ。
「三百万相当のものでもよければ、オレが代わりに払う。だからエスカを解放してくれないか?」
「ほう?お前、エスカの男か?」
「いや、仕事仲間だ。急ぎの用事があって、あまり時間がかけられないんだ」
頭目達が、どうするか協議している。
しかし、アドルさんてば、太っ腹だ。
魔道具か魔石で支払う気だろうが、ポンと三百万相当を投げ出せるのが凄い。
頭目達の協議が終わった。
「断る」
「え?なんで?」
「支払い義務があるのはエスカだ。楽して解放などしてやるものか」
くっ、変なところで律儀というか、偏屈というか・・・
しかし、頭目が条件を出してきた。
「だが、俺達と何か賭けをして、お前らが勝つか、楽しませてくれたら、話に乗ってやってもいいぞ」
なんですと?
「お前らもエスカを解放するために金を払うだけではなく、それに見合うものを行動で示せ。そういう事だ」
もう一人の頭目も同意見のようだ。
賭けをして、勝つか、『楽しませる』?
最悪、負けてもいいって事かな。
わたしも質問してみる。
「つまり、賭けをして、わたし達が勝てば勝った分を差し引いた金額を渡してエスカさんを返してもらう。全額分を勝てば、ただでエスカさんを返してくれる。賭けに負けたら、負けた分と三百万を渡せば、エスカさんを返してくれる。そういう事?」
「えーと、ちょっと待ってろ・・・」
頭目同士と、取り巻きが集まって再び協議する。
わたしの説明、難しかった?
でも解釈的には多分合ってるよね?
「待たせたな。お前のいう条件でいいだろう。賭けは何をする?決めていいぞ。面白そうなら乗ってやる」
賭けか・・・
わたしはしばし考える。
正直、この人達は、失礼だけどそれほど頭の回転は良くない気がする。
『何となく勝敗が運に見えるけど、わたしに有利な賭け』は何かないだろうか・・・
賭けの題材に鳴るようなものがないか、ざっと店内を見回す。
・・・あれは、串?
バーベキュー肉のような料理に使う串だろうか。
厨房にたくさんの鉄の串が束ねて置かれている。
「あの串を使いましょう。借りてもいい?」
「いいだろう」
わたしは串の束を持ってきて説明する。
若干重かった。
「いい?この串の束、何本あるか分からないけど、この串を使って賭けをしましょう」
「五十本だ。きっちり数を揃えて置いている」
「あら、そうなのね」
・・・見た目はアレでも地味に几帳面なのね。
まあ、とりあえずは本数が違っていても構わない。
わたしはルールを説明する。
「串を互いに取っていき、最後の一本を取った方の負け。一度に取れる本数は三本まで。自分の番では必ず最低一本は取らなければいけない。串を取るまでに考えられる時間は十を数える間だけ。スピード勝負よ。三回勝負をして、二回勝った方が勝ち、よろしくて?」
「初めてやる遊びだな。いいだろう」
「賭け金は・・・三百万でどう?」
周囲がざわつく。
わたしは、ただでエスカを返してもらうか、さらに倍の支払いか、そう持ちかけているのだ。
「・・・おい、大丈夫か?六百万はオレもきついぞ?」
「ユリよ、妾を売ろうとか思っていないじゃろうな?」
「うう、負けた時は私が体で・・・」
ちょっ!アドル達も信用してない!?
せめてもう少し応援してよ!
まさか身内もざわついていたとは・・・
「面白い!いいぞお嬢ちゃん。痺れるねえ!乗った!もう後には引けねえからな!」
「ふふっ。先手は譲るわ。どうぞお先に」
わたしは余裕ある態度で先手を譲った。
・・・内心はドキドキだよ!
先手は譲っちゃったし。
でもこのぐらいのリスクは背負わないとね。
先を譲ったのは考えさせないためでもある。
さあ、勝負よ!
勝負が始まった。
「ふむ。ではまず数を減らそうか。三本だ」
頭が三本と宣言して、三本取る。
「そう。じゃ、わたしは二本」
間を置かず、わたしは二本取って横に置く。
「・・・ならば俺も二本だ」
「ではわたしも同じく二本」
「・・・次は一本にするかな」
「ではわたしは三本にするわね」
淡々と宣言を繰り返し、串の本数が減っていく。
わたしは冷静に、集中して、数を宣言して串を取る。
エスカの事だけではなく、三百万もかかっているし、負けるわけにはいかない。
そして頭目の手番で・・・
「・・・二本取る・・・あっ!」
「では、わたしは二本取って、残りは一本。わたしの勝ちね」
残り五本で頭目が串を取る番になり、頭目は二本を取った。
頭目は二本を取って負けたが、頭目が一本取ろうが三本取ろうが、わたしは最後の一本を残せる形となる。
一回戦はわたしの勝ちだ。
続いて二回戦だ。これで勝てばわたしの勝利となる。
「待て!」
頭目が開始を止める。
このゲームに慣れているわたしは、止められる理由にだいたい予想がついている。
「串の本数を倍にしていいか?あと、一度に取れる本数を三本までではなく、四本までにしたい」
「百本で、取れるのが四本までね。一応そちらからの条件なので、念のため串の本数は数えてもいいですか?」
「構わん」
追加された串を揃えて本数を数える。
間違いなく、串が百本ある事を確認する。
串の本数や、一度に取れる本数が増えれば運の要素が強くなる。
・・・と思うのが素人の考えである。
この手のルール変更を提案する人は大抵そうである。
『攻略法を知っている人』以外は。
「では二回戦、先ほどは先手をお譲りしたので、今度はわたしからでもいいかしら?」
「いいだろう。始めてくれ」
「では四本取ります・・・」
・・・この時点でわたしの勝ちだ。
頭目が乗ってくれてよかった!
ふう、わたしの心臓、まだドッキドキだよ。
三本勝負にして、最初の一戦は負けても残りの二戦で勝つつもりだったから、ストレートに連勝できて、本当によかった!
まだ二戦目が始まったばかりだが、わたしはわたしの勝ちを確信していた。
これは、ニムゲームといって、れっきとした『必勝法のある』ゲームである。
一山から一度に取れる個数に制限を付けて石を取る『石取りゲーム』。
三つの石の山を作り、同じ山からは好きなだけ石を取っていい『三山崩し』。
最後の石を取ったら勝ち、最後の石を取らされたら負けなど、ルールのバリエーションは色々あるが、今回はその中でも単純な、『最後の石を取らされたら負けの石取りゲーム』にした。
『自分の手番が終わった時に、石を何個取った状態になっていればいいか』さえ分かれば、あとは毎回その状態をキープすればいいだけだ。
『先手必勝』か『後手必勝』かも、石の総数と取れる条件で分かる。
あとは間違えさえしなければ良い。
今回は石ではなく串だけど。
なお、一回戦目は『先手必勝』だったが、わたしはあえて相手に先手を譲った。
相手が知らない、わたしに有利なゲームに参加してもらうための、言わば初回サービスだ。
わたしの中ではこの瞬間だけが本当の『賭け』だった。
二回戦目は、百本の串で、一度に四本まで取れる事になったわけだが、この場合も『先手必勝』で、自分の手番の時に、四、九、十四、十九・・・九十四、九十九の串を取った状態になっていればわたしの勝ちだ。
もっとも、数がどれだけ増えようが減ろうが、逆算して計算するだけだ。
計算式も知っている。
仮に、十万本の串で一度に三百六十五本を取れるルールだとしても、先手で初手に八十一本を取れば勝ちが確定する。
わたしはその計算を瞬時にできる。
だって、わたし・・・珠算十段を持ってるから。
かくして、わたしの連勝で頭目との勝敗は決した。
お昼に次話投稿します。




