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ポニーテールの勇者様  作者: 相葉和
32/206

032 上陸

「ユリ、そろそろ起きよ」

「うーん・・・、あ、はっしー君」

「違うぞ、ちゃん決めたであろう?」

「あ、えーと、ウン、は要らなくて、ディーネちゃん」

「その通り、ディーネちゃんじゃ」


先日、わたしの裸(ただし魔力で作られた精巧なニセモノ)が見られた事件の後、さらに、わたしの機嫌が直った後で、皆で水の精霊さんの呼び名を決めた。

なお、アドルとだけはまだ口を利いていない。


「いい加減、許してやってはどうじゃ?アドルだけにそんな態度ではかわいそうであろう?」

「もちろん分かってはいるのよ?分かってはいるのだけれども、どうしても感情がね・・・」

「乙女心じゃのう」


ちなみに精霊の名だが、はっしー君は却下されたので、それ以外で「ハシビロコウ」からもじって考えようとしたが、この世界の言葉では馴染みが無い言葉の取り合わせだそうで、思い浮かばず。


次の候補として、わたしの世界での水の精霊の名前を聞かれた。

現実にはいないけど。

とりあえずファンタジーアニメなどを参考に考えた。


乙女の姿で現れることが多い水の精霊の名前が『ウンディーネ』だと答えたところ、少し略して『ディーネ』に決定した。

水の精霊との繋がりを仲間内だけで共有できる点でも良い名だそうだ。


そのディーネは、『ベッドの上のわたしの隣で』ちょこんと座っていた。

依代は、サイズがある程度自由に伸縮できるらしく、今はスモールサイズだ。


ちなみに依代に分離できた後でも、私は魔力が使えている。

水の精霊さんを支配している影響で、わたしと魔力のパスが繋がり、魔力の核を半分ずつ分け合っているような感じだそうだ。

元々わたしが魔力の核を持っていないせいもあって、反発もなく、親和性が高いらしいが、よく分からない。


「今日はスラッジ諸島に上陸する日であろう。ミライはもう起きて食堂に向かったのじゃ。ユリもそろそろ起きて準備せよ」

「はーい」


半舷上陸(前半後半で半数ずつ上陸して、交代で休息する)の前半組と一緒に下船するわたしとディーネは、今日と明日、スラッジ諸島の島の一つであるライラ島にて、エスカというアーガスのメンバーを迎えにいくミッションを頼まれている。


エスカは、アーガスの魔道具製作の専任担当で、マッドサ・・・魔導具作りの天才だそうだ。

魔道具作りが得意なアドルも一目置いている存在らしく、この船の武装や、さまざまな武器を考案したのもエスカとアドルらしい。


そのエスカを迎えに行くわたしは、前後半の枠組みではなく、停泊中はずっと上陸して、ミッションを終えれば出航まで自由行動となる。

迎えにいく道中も自由行動みたいなものなので、ちょっとお得感もある。


ただし、このミッションは、アドルと一緒に行動することになっていた。

うう、気まずい・・・


「だから早く仲直りしておけばよかったのじゃ」

「だけど、ディーネちゃんが楽しそうに話しているのを邪魔するのも悪いと思って・・・」


言葉が通じるようになった水の精霊改め、ディーネは、姿は変われど、ようやくアドルとの再会を果たし、楽しそうに毎日お喋りをしていた。


そんな二人をわたしの機嫌ごときで邪魔をしたくなくて、わたしは魔力の練習に集中し、心置きなく話をさせてあげていた。

おかげてわたしもそれなりに魔力の扱いには慣れてきた。


「ユリの心遣いには感謝するがの。出発前までには仲直りされよ。アドルも反省しておったからの」

「反省なんて。アドルが悪いなんて全然思ってないし」


わたしだって分かってる。

不可抗力だし、本物が見られた訳では無いし。


でも正確に描かれたわたしの裸のデッサンが見られたと仮定すれば、それって結局本物を見たのと変わりがない気がするしで・・・


ああ、もう、わたし、お子ちゃまだ・・・

わたしは二十二歳なのよ?

もっと大人の余裕な態度で振る舞うべきだわ。

エリザさんを見習わなきゃ。


「よし。普通に接する!とりあえず着替えて、ご飯を食べよう!」


バッとシャツを脱いだところで、部屋のドアがバンッと開かれた。


「ユリお姉ちゃん、ご飯なの!」

「あの、ユリ、この間はごめ・・・ん・・・」


今度こそ本物を見られた。



ユリとアドル、そして食堂に集まっていた皆が、固唾を飲んでミライを見守っていた。


「ごめんなさいなの。ちゃんとノックをしなかったミライが悪いの」

「いいのよミライちゃん、こういうのは不可抗力っていうの。気にしなくていいよ」

「ミライのせいで・・・ミライのせいで、ユリお姉ちゃんとアドルがまた喧嘩するの」


食堂でご飯に手もつけず、ミライはめちゃくちゃ涙をこらえて、猛烈に反省している。


わたしを見る皆の視線が痛い・・・

『早くミライちゃんをフォローするんだ』という視線だ。

言われずともわたしだって分かっている。


「ミライちゃん、本当にもう大丈夫だから。アドルももうごめんなさいしたし、わたしも許してるから。そうよね?アドル?」

「うん、そうだよミライちゃん。オレは心の底から謝った。ユリも許してくれた。だからほら、喧嘩なんかしないよ」


ミライが上目遣いで二人の様子を伺う。


「本当に、もう、喧嘩しない?」

「「喧嘩しない」」

「絶対?」

「「絶対!」」


ミライが一呼吸分の間を取る。

わたしも思わず息を止める。


そしてミライは盛大に溜息を吐き、そして、笑顔を見せた。


「わかったの!ミライも機嫌を直すの!」


ふうううううううう。

固まっていた食堂の空気が一斉に動き出したかのように、皆、安堵の表情で息を吐いた。


ミライちゃんの機嫌が直ってくれてよかった!


「うちの娘、本当にミトレに似てきたなあ・・・」


それ、喧嘩の仲裁や、怒りをそらす時に使う手なんだ、と調味料の交換をするふりをしてわたし達のところにやってきたドルフがコッソリ教えてくれた。


「ユリよ。もしかしたら、ミライの方が一枚上手だったのかもしれんのう・・・」


喧嘩の仲裁を見事にコントロールしたというのか?

ミライ恐るべし・・・


「あの、アドル?」

「え、何、かな」


わたしもちゃんと言わないと気が済まない。


「わたしもごめんなさい。八つ当たりだって、分かっていたの。だけど、何というか、色々恥ずかしくて。だから、ごめんなさい!」

「オレの方こそ、無神経でごめん!」


二人で頭を下げあい、互いに謝り続ける。


「お二人さん、二人が熱くても、飯は冷めちゃうから、とっとと食べてくれよな」


ドルフに言われ、ミライも、食堂の皆も大笑いした。

わたしとアドルは真っ赤な顔のまま、黙々と食事をいただいた。



スラッジ諸島は、幾つもの島からなる地域の名称で、イスカータ領の南東に位置するらしい。


今回はその一つのライラ島に上陸する。

スラッジ諸島の中では三番目に大きい島だそうだ。


ライラ島に到着し、半舷上陸の前半組は、休暇のために上陸した。

後半組は物資の補給と船の整備を開始する。


ちなみにドルフは食事の準備以外の時間は、ミライと自由行動をとって良いことになっている特別行動組だ。


「じゃあ、行ってくるね!」

「ユリお姉ちゃん、ディーネちゃん、アドル、行ってらっしゃい!」


ミライに見送られて、エスカの住処へと向かう。

道順はアドルに任せて、わたしとディーネはついていくだけだ。


「ねえ、ユリ。聞いてもいいかな?」

「何かしら?」

「ミライちゃんの事で、少し、気になってることがあって」

「?」


アドルが気にするミライの事って何だろう。

ミライの魔力操作練習の進み具合の話だろうか。


アドルがすこしだけ苦い顔をして、気になる事とやらを話す。


「ミライちゃんは、ユリは『ユリお姉ちゃん』、エリザは『エリザさん』もしくは『エリザお姉さん』、ホークスは『ホークスさん』て、呼ぶんだよ」

「うん。それで?」

「オレだけ、『アドル』なんだ」

「・・・」

「ディーネも『ディーネちゃん』だろ?なんかオレだけ、違わないかな?」

「・・・」


ミライちゃんの中で、何かしらの基準で格付けしているのかどうかは、わたしにも分からなかった。


0時に次話投稿します。

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