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ポニーテールの勇者様  作者: 相葉和
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003 勇者?何かの間違いでは

「どうだ。私の言葉が分かるだろうか?」


 わたしはなぜか、話しかけてきた鎧男の言葉が唐突に分かるようになった。


「はい、あの・・・分かります!」

「おお、言葉が通じるようになったな。長らく使っていない骨董品のような魔道具だったが、無事に使えたようで何よりだ。その装飾品は言語理解の魔道具なのだ。発動する事で伝えたい言葉を、相手の理解できる言語に変換する事ができる。逆もまた同じだ。そのまま身につけておくと良い」


(こっちの言葉も通じた!?これもネックレスの効果なの?凄いな、このネックレス・・・高いんだろうな)


 コレがあれば「社内の公用語は英語だけ」みたいな外資系企業への再就職とか、通訳の仕事も出来るんじゃないだろうか、と思ったが、それ以上に気になる単語があった。


(ちょい待って。今、『魔道具』って言った?このネックレスが『言語理解の魔道具』って言ったよね?)


 『魔道具』という単語の意味はなんとなく分かる。例えば『シェフの気まぐれメニュー』という言葉からは、どんな料理かは分からないものの、それが『食事』だということは分かるというニュアンスに近い。魔道具の原理は分からないが『魔力によって力を発揮する何か』ということだけは漠然と理解した。


「はい、身につけておくようにしますが・・・あの、ここは一体どこで・・・あなた達は誰ですか?」

「そうだな。順に説明せねばならないな。私はこのエコリーパスの王、バルゴだ。よろしく頼む、異世界の勇者殿よ」


 そう言うとバルゴは、わたしの前でゆっくり片膝を付き、左手を胸に当て、目線の高さをわたしに合わせてじっと見つめてきた。わたしの心の中まで見透かすような、バルゴの鋭い眼が少し怖い。

 そういえば、跪くという行為を生で見たのは初めてかも知れないと思った。いつかは素敵な男性に跪かれて、指輪を差し出される求婚を受けてみたいと思ったりしているが、それはとりあえず置いておく。そんな事よりも、気になる単語が目白押しで、どこから突っ込めば良いか分からない。


「エコリー・・・なんですって?そんな国ありましたっけ?王様?何でそんな偉そうな人がわたしに?てか、異世界?誰が勇者ですって?」


 なので、とりあえず全部突っ込んだ。しかし、わたしの返答を聞いてもバルゴは何も答えず、じっとわたしを見たまま動かない。


(どうしようこの空気。なんか気まずい・・・あ、もしかして目をそらしたらほうが負けっていう・・・いや、どこのヤンキーだよ!)


 などと考えていると、バルゴが立ち上がり、豪快に笑い出した。


「ハッハッハ!さすが勇者殿。私の目を見て萎縮するどころか平気で返答を返してくるとは、大したものだ」


(いや、普通に怖いけど、疑問だらけのままのほうが怖いというか、萎縮してる場合ではないというか・・・それにしてもこの人、ずいぶんと自信過剰?まあ、王様ならそんなもんかな・・・)


 わたしは一呼吸してから、再び質問した。


「あなたが一国の王だと言う事は理解しました。俄に信じがたいことですが、とりあえず受け入れます。ですが、勇者って何ですか?わたし、最近無職になったばかりの非力な女子ですよ?人違いでは無いですか?」

「いや、間違いではない。貴方は選ばれ、この星を救う為に召喚されたのだ。とりあえず説明がしたい。場所を変えよう。ついてきて欲しい」

「・・・はあ。分かりました」


 わたしは自分が置かれた状況の把握のためにも、バルゴに従うことにした。バルゴはローブ集団と鎧男達にも指示を出すと、通路に向かって歩き出した。


「護衛騎士は勇者殿を護衛するように!」

「はっ!」


 未だ何一つ疑問が解消されないどころか「星を救ってほしい」というパワーワードがまたひとつ追加されていた。



 わたしはバルゴに引率される形で、護衛騎士達に囲まれて薄暗い廊下を歩いている。小窓から見える外の様子から、今は夜だという事が分かる。通路を照らしているのは、壁にほぼ等間隔で並んでいる弱い照明だけだ。


(この灯り、火ではなさそうだね。でも電気でもなさそうな?この言語理解の魔道具みたいに、灯りも魔道具の一種なのかな?そういえば王がいるという事は、この建物は城なのかな?)


 キョロキョロと周りを見ながら歩くわたしは、おのぼりさんか、不審者にしか見えないだろう。社会人時代のように、営業トーク感覚で、隣を歩く護衛騎士に色々と尋ねてみたいとも思ったが、真剣な面持ちで歩く騎士に話し掛けるのは、護衛騎士という職務を考えたら任務妨害行為かもしれないと思い、やめておく事にした。

 それに護衛騎士たちは時折わたしに鋭い視線を送ってくる。きっとわたしが逃げようとしたり、妙な動きを見せたら、それを阻止するために警戒しているのだろう。そう思うと、なんか話す気持ちも失せてくる。そんなわけで、おとなしく付いて歩いていくと、扉の前で足を止め、護衛騎士に「こちらにどうぞ」と扉の中に入るよう指示された。


「ではまず、この国について説明いたしましょう」


 案内されたのは、豪華な装飾が施され、高級そうな置物や綺麗な絵画が飾ってある応接室風の部屋だった。重要な人物を招いて話をするために使うVIPルーム、という感じの場所だ。

 わたしは入口から向かって右手側にある、豪華な装飾の椅子に座るよう案内された。入口正面の、さらに装飾過剰な椅子にバルゴが座る。わたしとちょうど直角の位置になる感じだ。そして入り口から左手側、つまり、わたしの正面の位置には護衛騎士隊長が座った。その護衛騎士隊長が、わたしに説明をしてくれるようだ。


「申し遅れましたが、わたしは護衛騎士団長のフラウスです。王の側近であり、この城の騎士団の総隊長でもあります」


(やっぱりここは城だったのか。薄々そうだろうとは思っていたけれど)


 護衛騎士隊長のフラウスはバルゴより少し年上だろうか。壮年期を過ぎてもなお、屈強な戦士というイメージがしっくりくる。誠実で真面目そうな顔つきで、顎髭がダンディだ。


「ではフラウスさん。よろしくお願いします。さっそくですが、帰り方について教えてください」

「いや、帰られては困るのですが!?」


(ほほう、護衛騎士団長、なかなかいいツッコミをするじゃないですか・・・)


 だが、帰りたいのは本心だ。少なくとも、明日は無職になった解放感で実家でグータラする予定だった。得体の知れないこんな場所に来る予定など全く無い。


「ゴホン・・・まずは、エコリーパスの現状について説明させていただきます」


 残念ながら手ぶらで帰らせてくれる気はないようで、フラウスはさっさと説明を始めた。


 曰く、エコリーパスとはこの星の名前であると同時に、この星の単一国家の名前でもある。この星は精霊の力の恩恵によって成り立っており、精霊の力がバランス良く働く事で、資源や作物が豊富に産み出され、人々は豊かな生活を送る事が出来ていた。

 しかし数年前に突如、精霊の力のバランスが崩れてしまった。理由は分からないが、一部の精霊が凶暴化してしまい、精霊力の恩恵が激減してしまったのだそうだ。バランスの崩れが災害を引き起こしたり、作物の成長に影響を及ぼしているという。


「既に、天災による被害や、少ない食糧を巡って抗争が勃発している地域もあります。このままでは民が死に絶え、国は存続できなくなり、やがて星が死ぬ事態を招くでしょう」

「それは大変ですね」

「飢餓だけではありません。この星の産業や、工業を支える魔石の産出にも影響が出ております」

「魔石ですか?この魔道具を作るためのような?」


 わたしはネックレスの装飾部分を触りながら質問した。


「仰るとおりです。魔石は火を起こしたり、動力を生み出すといった単純な用途の他にも、高度な魔術の行使にも利用します」


 魔石は精霊の種類に応じて様々な種類があり、種類に応じた効果を発揮するという。

例えば火の精霊の働きによって、土地や火属性の魔物から火の魔石を採取する事ができる。そして火の魔石を使うことで火を起こしたり、一時的に力を増大するような効果も生み出すことができるそうだ。他にも、種類の異なる魔石を組み合わせる事で、様々な魔術を行使できるという。


「精霊は眷属も含めると無数に存在するとも言われていますが、大精霊と言われる、すべての根幹を司る精霊の凶暴化が今回の厄災の元凶です」

「なるほど、なんとなーく状況は分かりましたが、それを、わたしになんとかしろと?対処方法なんて、全く見当がつかないのですが・・・」

「はい、仰るとおりです。それに対処方法は、ある程度の目処が立っております」

「そうなんですか・・・でも、目処が立っているならば、ご自分らで対応した方が早いのではないですか?精霊の何たるかも知らないわたしより、よっぽど確実と思えますが」


わたしの問いにバルゴが答えた。


「無論、まずは我々で試みた。だが、出来なかったのだよ」

「はあ。だとすると、尚更わたしに解決できる話には思えないのですが・・・」

「そう思うのも無理はないな。ではさっそく試してみようではないか。今から」

「え?」


今から?何を試すって?

3/18 体裁などを修正しました。

2023/12/31 体裁等修正

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