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ポニーテールの勇者様  作者: 相葉和
23/206

023 不穏な空気

墓所からの帰り道もミライと手を繋ぎ、一緒に家路を急ぐ。

夕の鐘がなる前には帰宅する予定だったが、既に鐘は鳴ってしまっている。

誘拐で通報されてはたまらない。

しないとは思うけど、絶対はない。


墓所からミライの家まではそれほど遠くはない。

陽が落ち切る前には、無事に家に帰り着くことができた。


「父様、ただいま!」


元気よく扉を開けて、ミライが家に入る。

既にドルフは帰宅しており、娘とわたしを迎え入れてくれた。


「やあ、よく帰ってきたね・・・」


ん?なんか目が泳いでる?

遅くなったから心配したのかな?


「ごめんなさいドルフさん、わたしが市場で催し物に参加したせいで少し遅くなっちゃいました。これ、お世話になったお礼です」

「父様、ユリお姉ちゃん凄かったんだよ!」


わたしがバックパックからお礼の品をテーブルに置いてる間に、ミライはドルフの足にまとわりついて、わたしの勇姿を話す。


・・・恥ずかしいので程々にしてね。

お金が欲しかっただけなんだよー。


「ミライ、後でゆっくり聞くから、少し待っててな」


ミライちゃんを宥めすかすと、ドルフさんが少し困ったようにも見える笑顔を浮かべて、わたしに向き直った。


ドルフは神妙な面持ちでわたしを見ている。

すこしだけ全身がぞわっとした。


「ユリさん、昨日は色々あって聞き忘れてしまったのだが・・・国民証を見せてくれないか?」

「え、国民証ですか?」

「ミライも持ってるよ!」


ミライがどこからともなく銀色の小さなカードを出して、ひらひらと見せる。


う、これって国民証とやらを見せられないとまずい流れ?


「・・・お持ちで、ないのですか?」

「えーと、遭難した時に無くしたかも・・・ほほほ」

「無くした、ですか・・・」


ドルフの顔がさらに険しい顔になり、残念そうに溜息をつく。


どうしよう。なんかまずそう。逃げとく?


(ユリよ)

「なに?今、避難注意報発令中よ(超小声)」

(家の周りに人の気配がするのじゃ。どうもこの家を包囲しようとしている感じがするのじゃ)

「・・・ありがとう。避難警報に格上げするわ(超小声)」


「ユリさん!」

「はいっ!?」


ドルフのいきなりの大声に驚く。

反射的に返事をしてしまった。


「そうですよ!やだなあ、それですよ!ユリさん、ちゃんと国民証を持ってるじゃないですか!(大声)」


いや、わたしは何もしてないし、何も出していない。


『外にまで聞こえるほどの』大きな声でドルフが何度も、わたしが国民証を持っていることをアピールしている。


そして、合間合間にドルフは、表情と口パクと身振りで「合わせろ」と言ってるようだ。


・・・そういう事ね。


「はい!なーんだ、この国民証の事だったんですね!やだなあ、もちろんありますよ!(大声)」


わたしも話の調子に合わせて、大きな声を出す。

ドルフさんが安堵の顔を浮かべて頷く。


「ユリさんの国民証の確認もできたことだし、夕食の準備でも始めよう!ミライ!魚の燻製を持ってきてくれ!(大声)」

「分かったの!」


ミライがタタタタッと奥に走っていく。

ミライの姿が見えなくなったところで、ドルフさんがわたしに近づいてくる。


「ユリさん、申し訳ないが、今すぐにこの家を出てくれ」


囁き声でわたしに懇願する。


「なんとなく事情は察しました。わたしは手配か何かされているのですね。買い物のふりでもして、ここを出ようと思います」

「そうしてくれると助かる。本当に申し訳ない。裏口から浜辺に出られる。裏口から出て、浜辺沿いに逃げるといい」

(ユリよ。ドルフの言う通りじゃ。今なら裏は手薄じゃ。そのまま海の中に逃げよ)

「また海中散歩ですね・・・」


小声で打ち合わせを済ませると、わたしは手早く荷物をまとめて、ドルフにお礼を言う。


「ではドルフさん。短い間でしたが、大変お世話になりました。このご恩は必ずお返しします」

「気をつけて。精霊様の加護があらんことを」


・・・精霊様はわたしの中にいるんだけどね。

ミライちゃんにさよならは言えなかったけど、きっとまた会えるよね。


わたしは裏口から飛び出し、海を目指して走ろうとした。

しかし、相手の方が上手だった。


「どこへ行く、小娘」


裏口を出たところで、一人の鎧姿の男が待ち構えていた。

城で見た警備兵と似たような格好だが、少し格上の装備に見える。

隊長的な立ち位置だろうか?

わたしを睨みつけ、ドスの効いた声でわたしを牽制する。


(妾を欺くとは小癪な。気配遮断の魔道具か?味な真似を)


・・・なるほど、腕も魔力もあるってか?

たぶん、ものすごくまずい状況よね。


「どこへ行くのかと聞いているのだ」

「ちょっと買い忘れたものがあるので、市場に行くところなんです。急ぎますので、失礼しますね!」


男を無視して九十度転身、全力疾走を試みる。

あんな重そうな装備をしている男より、わたしのほうが身軽で速いはずだ。


しかしわたしは派手にすっ転んだ。

何かに足を取られたようだ。

痛かったけれど、転んだ場所は砂浜の上なので、特に怪我はない。


足元を見ると、鞭のようなものが巻き付いていた。

そのまま鞭の出元を目で辿ると、目の前の男の手に行き着いた。


「買い物の前に、国民証を見せてくれないか?そうしたらすぐに解放してやる」

「・・・」


他の兵士らしき連中も騒ぎを聞きつけて集まってくるのが見える。

万事休すか・・・


「・・・ひとつ、教えてもらっても良いかしら?」

「・・・なんだね、勇者殿?」


今、勇者って言いました?

くっ、完全に事情を知ってる!?


「なぜわたしがここにいると分かったの?」

「ふん。そんな事か。懸賞金目当ての通報だよ」


わたしが昨日ここに上陸した時、わたしを見ていた人が他にもいたらしい。

怪しい格好の女がドルフの家に入るのを見たが、別に興味もなかったので、普通ならばそのまま忘れるような事だったろう。


しかし、今日の昼頃に、王都管理区全土に向けて布告が発せられたという。

怪しい奴を見かけたら通報せよと。

懸賞金も出すと。


「そして、善良な臣民が通報してくれたと言うわけだ。各地で通報はあったが、どうやら当たりを引いたのは俺だったようだな」


バルゴめ、無駄に有能かよ!

でも良かった。ドルフさんやミライちゃんが通報したわけじゃ無いってことだ。


・・・まあ、ミライちゃんが通報して、わたしの行動を監視するために同行をしていたのなら、逆にたいしたものだ。


どうしよう。今更だけどシラを切ってみる?

多少の時間稼ぎにはなるかもしれない。

時間を稼いだところで打開策は見えないけど。


「・・・わたしはただの詐欺師よ。さっきの家の人を騙して、金を奪おうとしただけなの。国民証は無くしちゃったわ。ごめんなさいね」

「その発言がお前自身を追い詰めているのだ。この世界の事を知らぬ異世界の者よ。国民証はな、『無くす事などあり得ない』のだよ」


な、なんですとー!?

さっきミライちゃんがいきなり国民証を出して見せてくれたのはそういう事?

つまり魔力依存ってことか・・・


まだ魔力の扱い方を知らない子でも国民証くらいなら魔力で出せるとか?

あ、もしかしたら胸のペンダント?


まあ今はそんな事はどうでもいい。

問題は、ろくに時間稼ぎすらできなかったという事だ。


「ところで、勇者殿よ。お前はあの家の者に匿われていたのではないか?お前を匿った場合、連座で処刑しろという通告も出ている」


「!!!」

頭から血が引いていく。

わたしを助けてくれた父娘を巻き込むなんて、絶対にさせるわけにはいかない。


「・・・さっきも言ったでしょう?あの家はわたしに騙された被害者であって、無関係よ。捕まえるならわたしだけでいいでしょう?」


わたしは完全降伏を決めた。

ミライ達は絶対に巻き込まない。

わたしがこのまま大人しく捕まればいいのだ。


しかし、事態はまだ収まらなかった。


「ユリお姉ちゃんを離して!」

「ミライちゃん!?」


ミライが裏口から叫んでいた。

わたしがいなくなった事に気がついて、探しに来てしまったのだろうか。


倒れ込んでいるわたしを見て、ミライは今にも泣きそうな顔をしている。

そして、ミライは手に持っていた魚の燻製を投げ捨て、裏口を出てわたしに走り寄った。


「ミライちゃん、来ちゃ駄目よ!」

「構わん。やれ」


私の叫び声の後に低い声が続き、警備兵が動く。


わたしは、まるでスローモーションを見ているかのように、ミライが槍で背中を貫かれる姿を目の当たりにし、絶叫した。

お昼に次話投稿します。

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