012 説得
「あの・・・アドルさんって、先王の息子とか、そういうのでは無いのですか?」
「アドルは道具屋の息子じゃ」
「では、実は道具屋の息子と見せかけて、先王の隠し子設定とか・・・」
「父は道具屋の店主、アドルはその店主の息子で間違いないぞ。父親はもう他界していたと思うがな」
アドルはそのまま父の後を継いで、城下町で道具屋を経営しているらしい。
崩れ落ちそうになる膝を気力でカバーし、衝撃の、いや、普通の事実を受け止める。
「先王には王子がいてな。同年代のアドルとは親友だったのじゃ。気さくな先王と王子は、アドルをよく城に招き入れては、王子とよく遊んでいたのじゃ」
「それ!そういうのを早く教えてくださいよ!」
「其方、せっかちじゃのう・・・」
とりあえず繋がりは分かった。
何かきっかけかは分からないが、王子と仲良しであれば、多少は事情通でも不思議ではない。
道具屋の暴走でなくて良かった。
「アドルは魔道具を作る技術に長けておってな。天才と言ってもいいじゃろう。王子もアドルと同じくらい聡明な子で、気が合ったのじゃろう。妾も魔力と魔石の関係にはそこそこ詳しいからの。王子とアドルはよくここに来ては、妾と遅くまで魔道具の研究の話で盛り上がったものじゃ」
あ、道具屋ってそういう。正式には『魔道具屋』って事かな。
水の精霊とアドルの関係もようやく分かった。
三人は仲良しさんだったようだ。
「アドルが城の結界に侵入できたのも、自作の魔道具によるものじゃろう。あるいは王子と仲良しじゃったから、あらかじめ城の結界に小細工をしていたのかもしれぬな」
「ここに来るまでに無くしちゃいましたけど、アドルさんがくれた姿隠しの魔道具のおかげで、わたしはここまで来れたのです」
「そうか。姿隠しの術は難しい。さすがはアドルじゃな」
水の精霊はそう言うと、再び懐かしそうに目を細める。
・・・会わせてあげたいな。アドルに。
「アドルさんもきっと貴方に会いたいと思います。貴方を解放する方法を教えていただけませんか?」
水の精霊はしばし考え込むそぶりを見せ、悔しそうな表情でゆっくり口を開いた。
「妾はバルゴに敗れたのじゃ。おめおめと逃げ出し、ここに引きこもったのじゃ」
確かにアドルもそう言っていた。しかし、強いとは言え一介の人間に大精霊が簡単に負けるものなのだろうか?
「バルゴは、どんな方法を使ったのかは分からぬが、火の精霊を従えておった」
「ええっ!?」
「それに気が付かなかった妾は遅れを取った」
炎の精霊といえば、水の精霊と同じく、大精霊だったはずだ。バルゴは一体どうやって炎の精霊を従えたのだろうか。この世界の事をまだよく知らないわたしには全く想像もつかないが、水の精霊の物言いから察するに、かなり稀有な事なのだろう。
「バルゴが炎の精霊を使うと最初から知っていれば、もう少しやりようはあったかもしれぬ」
「だったら今度は油断せずに対処できるじゃないですか。アドルさんとも協力すればなんとかなるかも」
「妾は敗れたのじゃ」
間髪入れず、少し強い口調で水の精霊が答える。
「バルゴを倒せたとして、それからどうなる?人はまた争うのであろう?妾から親しい人を奪い、妾や他の精霊を利用しようとする。もう懲り懲りじゃ・・・」
そう言い切ると、水の精霊は沈黙する。
・・・だいぶメンタルをやられちゃってるようだね。精霊を立ち直らせる方法なんて分からないよ・・・
「あのう、精霊さん?」
「なんじゃ?」
「少し、わたしの話を聞いてくださいませんか?」
わたしがこの世界に召喚され、ここに来るまでの事を話してみる事にした。
召喚された時の事。バルゴに依頼された事。アドルに寝込みを襲われた事。
姿隠しを使ってここまで来た事。思い出せる限り話をする事にした。
「バルゴにね、言われたんです。わたしは選ばれし勇者なんだって。少しだけ舞い上がっちゃいましたよ」
「・・・」
「でも実は異世界人ならば誰でもよかったんです。何も知らないわたしは、バルゴ達に乗せられるままに、あなたを隷属するための魔道具を使わされる所だったんです」
水の精霊は目を瞑って腕を組み、わたしの話を黙って聞いている。時折、指をトントンと動かし、何か考えているようにも見える。
「・・・そうしたら、アドルさんが夜中に突然やってきたのです。寝ているわたしに、ものすごく臭い何かを嗅がせて叩き起こしたのです。毒殺されるのかと思いましたよ」
「・・・ぶっ」
笑った?今笑った?
笑顔のほうが綺麗だなあと思いながら、私は話を続ける。
「・・・アドルさんは貴方を解放するため、わたしに熱弁を奮いました。『信じられないかもしれないけど、信じてもらえるように頑張ります』って、そう言いました」
「まったく、アドルは・・・」
水の精霊が優しく微笑む。
ちょっと幸せそう?いい表情だよ!
「・・・わたしはアドルさんを信じてみる事にしました。アドルさんは最後まで、わたしがここに来るために奮闘してくれて・・・わたしがこの部屋に入った時、アドルさんは警備兵に追い詰められていましたが、私に『行け』と。そう言いました」
水の精霊の表情が翳る。アドルを心配しているのだろう。
「何もできなかったわたしも悔しい思いです。でも、アドルさんはきっと生きていると、わたしは信じています。もしかしたら捕まっているかもしれないけど、きっと生きてる。そう思うのです」
「娘よ。結局何が言いたいのじゃ?」
わたしは息を吸い込み、水の精霊に向けたプレゼンの締めくくりに入る。
「わたしはアドルさんを助けたいです。あなたも、本当はきっとそうなのでしょう?でもあなたはこの星の人を見捨てると言った。バルゴに負けたからではなく、この星の人に絶望したからと。そう言いました」
「・・・うむ。その通りじゃ」
「ならば、この星の人ではなく、わたし個人に力を貸してくださいませんか?正直、わたしはわたしの星に帰りたいだけで、まだ来て一日も経っていないこの星には、なんの思い入れもないのですよ」
「其方・・・一体何を言っている!?この星がどうなっても良いと言うのか!?」
「だって、水の精霊であるあなたが諦めた時点で、どうせこの星の命運は決まっているのでしょう?だったらいいじゃないですか。わたしが自分の星に帰るため『だけ』に、貴方の力を貸してください」
「・・・」
水の精霊が絶句する。
わたしは水の精霊に笑顔を向け、最後の畳み掛けをした。
「もしもわたしを手伝ってくれるなら、お礼に、あなたの望む事を、わたしも手伝ってあげますよ。例えば『アドルさんを救う』とか」
水の精霊が目を見張る。組んだ腕を少し緩め、手が宙に浮く。
わたしのプレゼンが終わった。
あとは水の精霊がどうするかだ。
「・・・くっ・・・くくくっ、あっはっはっは!」
水の精霊はひとしきり大笑いをすると、わたしに優しい目を向けた。
「其方、大した詭弁家じゃのう。さもなくば強欲かの?妾の力を個人で使いたいなど、バルゴと同じではないか?」
わたしは首を振って答える。
「私はあなたを使役したいのではありません。あなたに協力してほしいだけです」
「ふふっ。同じ事じゃ」
しかし満更でも無い笑顔を見せる。
「・・・のう、娘よ、ひとつだけ、条件を追加してはくれまいか?」
少しモジモジしながらわたしに問いかける。
なんか可愛い。
「条件ですか?なんでしょう」
「もしもアドルを無事に救い出せた時は、アドルの望みを叶える手伝いもして欲しいのじゃ」
「アドルさんの望みですか?構いませんけど」
水の精霊は一息入れると、イタズラが成功したような顔をわたしに向けて、条件を言う。
わたしがその条件を受け入れるのを確信しているかのようだ。
「・・・もしもアドルが『星を救いたい』と望むなら・・・妾はもう一度、人を信じて見ようと思うのじゃ」
そう言うと、水の精霊は、今までで一番素敵な、とびきりの笑顔を見せた。
次話投稿が失敗していたので、2話連続掲載します。




