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ポニーテールの勇者様  作者: 相葉和
112/206

112 アコニールに向かう道中で

なだらかな丘陵地帯、緑豊かな森林の間を軽く舗装された道を馬車が走っていく。

ライオット領の太守に面会するために首都アコニールに向けて出発したわたしたちは、港からすぐ近くにある町で乗合馬車に乗り、最初の中継点となる町まで移動していた。

予め、膝乗り程度のサイズに小さくなってもらっていたディーネとサラも、御者の好意で馬車の客席に一緒に乗せてもらっていた。

・・・家畜扱いされなくてよかったよ。


乗客が少なかったというのもあるが、物珍しい動物に興味もあったらしく、道中でちょいちょい質問を投げられたが運転に集中して欲しい。

乗り合わせた他の客も動物好きで、ディーネとサラは容赦なく撫でられたり抱っこされたりしていた。


目的の町には夕方遅くに到着した。

馬車から降りる時、御者にディーネとサラを気持ちよく乗せてくれたお礼にと乗車代に色を付けて渡したところ『そんなつもりで乗せたんじゃねえ、しまっとけ!』と怒られた。

純粋な好意を踏みにじるようなことを後悔してシュンとしていると、それを見かねた御者からひとつ提案された。


「お礼ってことならよ・・・もしもアコニールで宿を取ることがあれば『黒豚亭』ってところに泊まってくれねえか。夫婦でやってる小さな宿屋なんだが、そこのおかみは俺の妹なんだよ」

「『黒豚亭』ですね、美味しそうな名前で覚えやすいです。ありがとうございます!」


照れくさそうにこめかみあたりを指でひっかきながら反対の腕で手を振る御者に別れを告げ、わたしたちは町に向かった。

今日はこの町で一泊して、アコニールへは明日到着する予定だ。

動物も一緒に宿泊ができる宿を探すのに苦労するかと思いきや、一軒目で即見つかった。

後で聞いたが、小型の動物であれば粗相の後始末さえちゃんとできれば、どこの宿でもわりとそのへんは大雑把・・・大らからしい。


「この領地って、やっぱり気さくでいい人が多い感じですよね」

「そうね、アタシもそう思う。でも入領管理官みたいな人もいるから過信は禁物ね」


夕食とお風呂を終えたわたしとエリザ、そしてディーネとサラは宿の食堂でアドルを待っていた。

一応、明日の行動予定についてすり合わせをするためだ。

・・・ついでに一杯飲みますけどね。

なお、今回はすんなりとアドル用の個室と女子用の二人部屋を押さえることができた。

ロップヤードでの一悶着は二度とごめんだ。


「別にアタシは個室でもいいのよ?」

「エリザさん?怒りますよ?」

「なんだ?もう盛り上がってるのかい?」


ちょうどアドルが地元のお酒とおつまみをお盆に乗せてやってきた。


「なんでもないわよ、アドル。さ、飲みましょう!」

「ユリ、明日もあるんだからほどほどにな」

「はーい」


ライオット領の地ビール、もとい、地ビアは爽やかなフルーツの匂いが心地よく、少しの苦味と強めの炭酸で喉の爽快感もたまらない、最高の味だった。

気温も高めのこんな夜に、キンキンに冷えた美味いビアを飲んだら思わず『犯罪的だ』と言いたくなる気持ちも良くわかる。


「なにこれ、めちゃくちゃ美味しい!」

「ニューロックのビアも美味しいけど、こっちのほうが好きかもしれないな」

「そうね、美味しいわね・・・さて、ユリはいいけどアドルはお酒に弱いから、先に話を済ませるわよ」


エリザの仕切りで、明日の行動予定についての話を始める。

基本的な行動方針、太守にどこまで話をするか、わたしの正体をバラすタイミングなど、一応細かいところまで話をしたが、あまりガッチリ決めても想定通りに進むことはないので大枠にとどめ、あとは臨機応変という感じにはなっている。

なお、会談の後は領主がちょっとした宴と、館に部屋を用意してくれるそうなので、当日の宿泊場所の心配は無さそうだ。


「あとは、明日の移動についてね。馬車を使う?それとも歩く?」


この町から首都アコニールまでは、馬車で行けばあっという間に着く。

朝食を終えてからかなりゆっくり出発しても、昼前には着いてしまうだろう。


「きっとアドルは二日酔いだろうから、朝はゆっくりして、それから徒歩で向かってもいいのではないかな?」

「オレはそんなに飲むつもりはないよ。ユリこそ大丈夫かい?」


まだジョッキ三杯しか飲んでないのに、失礼な。


「全然大丈夫よ・・・そうね、わたしは歩いて行きたいかな。自然豊かな土地だし、ゆっくり見て行きたい。そろばんに使えそうな木があるかもしれないし」

「ユリの頭の中はそろばんの事ばかりじゃの」

「私も歩きたいわ。ここ、田舎具合がロップヤードに似ていて少し懐かしい感じがするのよね」


ディーネとサラも同意してくれた。


「わかった。明日は徒歩で首都に向かおう。あまり早く到着しても迷惑だろうし、昼食を済ませてから訪問することにしよう」

「うん。じゃあ話も済んだことだし、おかわりを・・・」

「やっぱりまだ飲むんだね・・・」



翌日。

美味しいお酒でエネルギーチャージしたわたし達は、朝食を済ませて早めに宿を出ると、予定通り徒歩で首都アコニールに向けて出発した。

アコニールまでは街道沿いに進めば良いそうで迷うこともない。

順調に行けば、昼の鐘を少し過ぎたぐらいには着くはずだ。

順調に行けば・・・


歩き出してから一時間ほど経ち、高い木々に囲まれた林道に差し掛かったときだった。


「ユリよ」

「ディーネちゃん、どうしたの?」

「囲まれているのじゃ」


その一言で察したわたしは、アドルとエリザにも小声で状況を伝え、立ち止まって周囲を警戒した。

エリザとアドルは手を魔道具の武器に添えて、いつでも使えるようにしている。


「ディーネちゃん、サラちゃん。飛び道具を無効化できるようにしておいて」

「承知したのじゃ」

「分かったわ」


立ち止まって動かないわたし達にしびれを切らしたのか、隠れているのがばれたと判断したのか、数名の男達が林の中から現れて前方に陣取った。

そのまま通り過ぎるわけでもなく、明らかにわたし達を見て足を止めている。

男達の身なりは多少汚らしく、顔は目だけを出して布で隠していていかにも盗賊といった風体だ。

手には剣や飛び道具のようなものを持っている。


「ユリ、後ろにもいるぞ」


アドルに言われてチラッと後ろを見る。


前には五人、後ろには三人。

林の中にもまだ隠れていそうだ。


エリザが前にいる男達に声をかけた。


「あなた達、アタシらに何か用?」

「・・・武装解除して投降しろ。手荒な真似はしたくない」

「・・・あなた達、盗賊にしては変ね。金目当てではないの?・・・もしかしてアタシ達の素性を知ってるのかしら?」

「・・・盗賊だ。有り金をすべて出してもらおうか」


エリザに指摘されて取ってつけたような金銭要求をしてきた自称・盗賊の男達。

胡散臭すぎる。

・・・いいや、やっちゃおう。


「アドルとエリザさんは後ろを。サラちゃん、二人についてあげて、わたしはディーネちゃんと前を。飛び道具は気にしなくていいけど林から伏兵が出てきたら無理しないで」

「分かったわ」

「前は任せた」


てことで先手必勝。

わたしはディーネと前に一歩進み出て、声を上げた。


「エリザ、アドル。行くわよ。揺れるから気をつけて!」

「ええ!・・・はい?」

「何だって?」


わたしは震脚の要領で右足を前方に踏み出した。

ドオンという音と共に足が地面に軽く陥没すると同時に、前方に向かって地面に亀裂が走り、道路はめくり上がって地面が炸裂した。

これはニューロックから出発する前に新たに習得した、土の精霊の魔力を利用して作った技だ。

わたしの中の土の精霊の核の魔力を利用している。

技名はまだ無いけど、土遁の術とか、地球割りとか、パワーゲイ・・・いや、手じゃなくて足技だし・・・いいや、後で考えよう。


「うわあああああ!」

「いててて、何だ、何が起き・・・ぐはっ!」


揺れる大地と割れてボコボコの地面に足を取られて動きが鈍くなった盗賊に、わたしは間髪を入れずに追撃し、一番近くにいた盗賊の男に浸透勁もどきの打撃を加えた。

わたしお得意の、魔力の塊を触れた相手の体に叩き込む技だ。

そのまま続けてさらに二人を倒したが、その間に首領格っぽい男ともう一人が体制を立て直して、斬りかかってきた。

しかしガタガタの地面に足を取られてうまく動けない男達の斬撃はぶれぶれで、まともに剣を振れていなかった。

わたしは軽いステップで一度後ろに引いて斬撃を躱し、ディーネに合図した。

ディーネは直径三メートルはありそうな巨大な水の塊を召喚すると、男達に叩きつけるように放出した。

首領格の男は水に当たった衝撃で吹き飛ばされたが、もう一人の盗賊は地面と水に挟まれる感じで大量の水の洗礼を鼻と口に受け、一瞬で溺れて気を失っているようだった。


「あとこっちはボスだけ・・・アドル達は?」

後ろを振り向いて確認すると、既に四人の盗賊が地面に転がっていた。

さらにエリザが鞭のような武器で一人を拘束し、反対の手ではラファルズを構えて盗賊達に向けていた。


・・・おお、カッケー。女王様って感じ。

それにラファルズも使っていてくれて嬉しい!


ラファルズは、元々この世界にあった『ファルズ』という銃のような武器を、わたしとエスカが一緒に改良して小型化・性能強化した武器だ。


後ろの敵の人数が増えているところをみると、林の中に隠れていた奴らだろうか。

サラとアドルの姿が見えないので、さらに林の中へ追撃に行ったのかもしれない。


そんな事を考えていたら、わたしのすぐ近くで破裂音が聴こえた。


「ユリよ。油断するでない」

「ありがと、ディーネちゃん!」


どうやら敵の遠隔攻撃をディーネが水の魔術による防御で防いでくれたようだ。


「・・・何なんだ!お前はっ!」

「え、わたし?」


わたしは盗賊の首領格に銃のようなものを向けられ、睨みつけられていた。

距離は五メートルほど離れているだろうか。

ずぶ濡れで水をポタポタ垂らしながらこっちを見ている。

・・・やっぱりこの世界の銃もどきは水を浴びても使えるんだね、とどうでもいいことを考えた。


「お前・・・まさかニューロックの勇者か!?」

「・・・」


こいつ、馬鹿丸出しだ。

この質問で、わたし達がニューロックから来たことを分かっていて襲ったと白状したようなものだ。


「確かにわたし達はニューロックから来ましたけど、勇者様は来ていませんよ。でもなんでわたし達がニューロックから来たのだと知っているのですか?背後には誰がいるのですか?」

「・・・」


今度は向こうが沈黙した。

とりあえず生け捕り決定。


「ディーネちゃん、わたしに防御をお願い!」

「承知したのじゃ」


わたしは荒れた土の上をホップステップと軽く跳び上がりながら進み、男に近づいた。


「なっ!?来るなっ!」


盗賊の首領格はわたしに向けて銃を撃ち、続けざまに投擲ナイフのようなものも投げてきたが、わたしには一発も当たらなかった。

正しくは直撃コースだったけれども、攻撃は全て弾き返していた。

なお、さっきから荒れた地面をわたしが好き放題に動けているのは、実際には地面に足をつけているのではなく、歩いているふりをして軽く飛んでいるためだ。

わたしは軽快なステップでそのまま盗賊の首領格に肉薄し、ニコッと笑いかけた。


「ふふっ。チェックメイトですわ」

「ちぇっく・・・なんだって?」


わたしはキョドる男の目の前にスッと右の掌を出した。

男は慌てて顔をガードするが、わたしの狙いはそっちではない。


・・・本来ならばここから金的をするのが護身術だと、破天荒にまかりとおっている人の漫画で教わったけどね。


わたしは左手に少し魔力を集め、男のみぞおち付近を狙って魔力弾を撃ち込んだ。


「げへええ・・・」

「うわ汚っ!」


いい所にモロに命中したのか、男は汚物を吐きながらもんどりを打ってひっくり返った。

頭を地面に打ち付けてしまったが・・・死んでないよね?


「ユリよ。もう少し加減を・・・」

「えっと、今のは不可抗力もあったというか、まだちょっと慣れてないというか、あはは・・・」


一応、息はしているようだ。

気絶しただけで済んで良かったよ。


アドル達のほうも無事に片付いたようで、最終的に十人の自称・盗賊が捕縛された。



「で、どうするよ、これ」

「全員連れて行くのも骨が折れそうよね・・・」


自称・盗賊を全員縛り上げたものの、輸送する手段が無い。


「手っ取り早いのは、さっきの町に戻って馬車を手配するか、警吏を連れてくることだよな」

「でも、できれば大事にしたくないよね。万が一こっちが捕まるようなことがあったら嫌だし」


わたし達はニューロックから来ているため、ここで身の上を保障されるかどうか分からない。

問題を起こしたことが知られれば、国交交渉にも問題が出るかもしれない。


「仕方ない。林の中に連れて行って、尋問だけして放置しようか」

「後から追ってこないかな?」

「そうだな。足を折って頭だけ出して埋めておくか?運が良ければ誰かに助けてもらえるだろう」

「あはは・・・」


その後、粗相をした首領格の男をもう一度水洗いして目を覚まさせた後、アドルとエリザが尋問を行う事になった。


「ちょっと刺激的なことをするので、ユリは道の反対側の林の中で森林浴でもしててね」


と、エリザがとても素敵な笑顔で言ったので、わたしはその指示に素直に従ってしばし待った。

待っている間、ニワトリが首を絞められるような声が聞こえたけど、多分気のせいか、ライオット領にいる動物の啼き声だろう。

木々の間からこぼれる陽の光と、木陰の涼しさがとても気持ちいい。

木にもたれかかって座り、両脇にいるディーネとサラを手で撫でる。

平和な日常って素敵だわ。



尋問を終えて戻ってきたアドルとエリザに盗賊共から引き出した情報を聞いたが、あまり有益な情報はなかった。


「結局、黒幕は分からなかったよ。あれだけやってもなかなか口を割らない。いい根性してるよ」

「・・・何をしたのかは聞かないわよ」

「あいつら、金で雇われただけだと言い張っているわ。『ニューロックの工作員がライオット領に不利益を与えに来た』と説明されたのですって。アタシ達が来ることを知っている奴が背後にいる事は間違いないと思うわ」

「となると、太守、もしくは太守に近い人が関係しているかもしれないわね。あとは、あの入領管理官あたりかな?」

「それにあいつら、やっぱり本業は盗賊じゃないと思う」


これは推測だけど、とアドルが付け加えた。


「もしかすると正規の兵士か傭兵じゃないかな。武装解除だの投降だのと盗賊が言うには似つかわしくない」

「根性も座っていたしね。ただの盗賊ならばあの拷も・・・尋問で、泣いて命乞いしてるわよ」

「・・・何をしたのかは絶対に聞かないわよ」

「そんなわけだから太守に会うこと自体、危ないかもしれない。警戒しすぎるぐらいに警戒していったほうがいいと思う」

「館での宴中に何か盛られたりするかもしれないわね。館に宿泊なんて論外。アタシは御免だわ」

「そうだな。宿は町で取ろう。で、用事が済んだらとっとと帰る。それでいこうか」


ひとまず、太守、もしくは太守の周りにわたし達をよく思っていない奴がいる、という推測を本線にして、わたしたちは首都アコニールに向けて再び移動を開始した。




「ところで、あの自称盗賊さん達は、そのまま林の中に置いてきたの?」

「ふふっ。どうなっているか聞きたい?」

「ちゃんと死なないようにはしてあるよ。いや、『死ねないように』かな」

「えーと・・・やっぱり聞かないことにします」




7/4に次話投稿予定です。


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