100 閑話 名前をつけよう
ワタシは土の精霊。
色々あって、ニューロックで出会った人間に協力している。
・・・人間であってるわよね?
その人間は、なんでも異世界から召喚されてこの星に来たという。
にわかに信じがたかったが、その人間を『視た』ところ、この星に生まれた者ならば必ず持っている魔力の核を持っていなかった。
また、異世界の存在については、この星の先人達が異界の星と行き来していたという事を知識として知っているし、ちょっと前に現王がなにやら遠隔地と交信をするような大魔術を行使したことも感知している。
おそらくその大魔術は召喚魔術で、その時に召喚されたのが異世界人のユリなのであろう。
現王・・・バルゴと言ったか。
この王に周囲を騒がされるのはこれで何度目だろうか。
最初の異変は使役の魔道具から開放されたことだ。
使役の魔道具は、大精霊の力を自由に行使するために使う魔道具だ。
我ら大精霊は、この魔道具によって支配されていた。
歴代の王は使役の魔道具を使って星降りの儀式を行い、星の生命を維持してきた。
しかしある日、王都近くにある海底のねぐらで寝ている時にその異変は起きた。
突然の、使役の魔道具からの開放。
しかし、自由の身になったことに感銘は受けなかった。
事前連絡も事後連絡もなく、なぜ突然開放されたのかと、むしろいぶかしく思った。
ややあって、先王の死と、現王の即位が通達された。
即位の時に行うことが慣わしとなっている星降りの儀式は行われなかった。
なにか不穏な空気を感じたワタシは、王都から離れることにした。
土の精霊たるワタシは、地中を自由に行き来できる。
水中であっても、地面に接してさえいれば問題ない。
人間に近づかれにくいように、ねぐらを海底にしていたのはそのためだ。
しかしその海底も騒がしくなった。
人間どもの水中船がウロウロし始めたのだ。
もしかしたらワタシを探しているのかもしれないと思った。
王都にいた水の精霊は、自らも動けなくなるほどの結界を張って動きを止めた。
もしも現王が精霊をなんらかの方法で捕縛しようとしているのならば、警戒しなければならない。
とりあえずワタシは南を目指して海底を移動し、ニューロックにたどり着いた。
海底にねぐらを作ることも考えたが、海底は探索の手が伸びるかもしれないと考え、ひっそりと上陸して内陸を目指し、大地に体を模して休むことにした。
ワタシは体のサイズをある程度自由に伸縮できるし、擬態も得意だ。
擬態に関しては見た目だけでなくもっと深い部分も・・・いや、今は不要な話か。
ともかくワタシは、あまり人が立ち入らなそうな地域で丘に化けて大地に同化し、横たわることにした。
星降りの儀式が行われなくとも、星に魔力を満たしておく必要はある。
ワタシはここで星に魔力を供給しながら、しばらくのんびり過ごすつもりだった。
ところが、この土地も騒がしくなってしまった。
現王がこの地に向かって強大な攻撃魔術を放ったのだ。
せっかく、昔気に入って一緒に過ごしていた人間の男との夢を見ていたのに、叩き起こされてしまった。
ワタシは超不機嫌のまま、魔力の集まっている場所に向かって全力で向かった。
土の精霊たるもの、地中移動はお手の物だ。
そこで現王のふざけた魔術攻撃を防いだところでユリと出会い、アドルに出会った。
アドルはワタシの好みに合う、いい男だ。
アドルはユリと恋仲に近いようだったが、他人のものとなると余計に欲しくなる。
ふふっ、必ず振り向かせてみせよう。
ところで、ニューロックが現王から攻撃された理由は、ニューロックが独立宣言したこと、そしてユリが狙われていることが理由だと聞いた。
しかし、ニューロックも思い切ったものだ。
現王に真っ向から楯突く気概は好ましく思えた。
そしてユリ。
現王を出し抜き、水の精霊を連れて王城から脱出したという。
なかなかやる娘だ。
ワタシも現王の不穏な動きは気に入らないし、何より気持ちよく寝ているところを叩き起こされた恨みは晴らさねばならないと思っていた。
先日のユリとの試合で、ユリの卑怯な攻撃の前に不覚を取って試合に負けたワタシは、ユリ達に協力させられることになったが、そんなことがなくとも協力するつもりだった。
まあ、協力の理由付けとして丁度よいのでそういうことにしておく。
それにしても、ワタシを支配することもなく盲目でワタシが協力すると信じているユリは、お人好しなのか大物なのか分からない。
アドルもユリのそのあたりの人柄に惚れているのだろうか。
世間ではユリが勇者と言われているようだが、国を救い、星を救おうとしている姿は、あながち間違った評価では無いと思う。
だけどワタシも負けない。
必ずアドルをワタシに夢中にさせてみせる・・・
「ちょっと、土の精霊さん、聞いてる?」
回想に浸っていたところを現実に引き戻されてしまった。
ここはカークの館にある応接室。
綺麗な調度品に彩られた部屋には数名の人間がいて、そこには知っている顔と、今日知った顔が並んでいた。
カーク、スポーク、ノーラ、ユリ、アドル、エリザ、ホークス、エスカ、ルル、そして・・・
「ユリお姉ちゃん、土の精霊さんも動物さんになるの?」
今発言したのは、ミライという名前の子供だ。
今日初めて紹介されたが、ユリの話によると、時折恐ろしい機転を働かせる娘だそうだ。
しかし、こんな子供が?
子供だと思って、皆、油断をしすぎただけだろう。
まったく、だらしのないことだ。
「ううん、ミライちゃん、土の精霊さんは動物さんにはならないよ」
「そうなの?ユリお姉ちゃんは動物使いになるんだってみんな言ってたよ」
「誰がそんな事を!?」
傍らにデカイ鳥とデカイ四足歩行の動物を伴っているユリを見れば誰しもがそう思うだろう。
そこにワタシを巻き込まないでいただきたい。
「ごめんなさいねユリ。ワタシ、話を聞いていなかったわ。何の話だったかしら?」
「えーとですね・・・」
ユリが言うには『土の精霊に呼び名をつけたい』という話だった。
人間達の前で土の精霊と呼ぶのは体面上マズイというのが理由らしいが、別にワタシにはどうでもいいことだ。
「そんなの、好きな名前にすればいいわよ」
「そう?じゃあみんなで考えてみようか」
やいのやいのと名前の候補が挙げられていく。
「美人さんに似合う名前がいいよね」
「こう、大地の母的な名前を連想できるようなものとか」
「でも土の精霊だって安易に連想できる名前は良くないんじゃない?」
「ユリの世界で、土の精霊に名前は無かったのかい?」
「そうね・・・大地の精霊にノームってのがいるけど、それをもじってノーラとか?いや、ノーラは既にいるわね。ベヒモスってのもあるけどイメージに合わないわ」
「文字数は?あんまり長いと面倒よ」
・・・人の名前に面倒とか言わないでくれる?
「ねえ、土の精霊さんは自分で呼び名を持ってたりしないの?サラちゃんみたいに最初から自分で自分に名前を・・・」
「ユリ!うるさい!だまりなさい!」
サラ、あなたってば・・・
「じゃあ、呼び名に印象を付けるとしたらどんな感じが良い?『強そう』とか『お嬢様っぽい』とか、なにか希望はないかしら?」
「そうねえ・・・」
ワタシは少し考え、答えた。
「皆が平伏するような、豪華な名前がいいわ。高貴で、近寄りがたい雰囲気の名前がいいわ。どうかしら」
「皆が萎縮して近寄りがたいような名前か・・・エンガチョ?」
「ぶっ飛ばしますわよ」
だれが好んでゲロ吐き動物の名を名乗ると思うのか。
今それを言ったホークスとやらはあとで『見えない手』でしばくとしよう。
「ミライちゃんはどう思う?」
エリザがミライに話を振った。
ミライはバッとエリザに顔を向けた。
「子供の率直な印象を聞いてみたいわ。ねえミライちゃん。土の精霊様を見て、最初にあなたが思い浮かべた名前を言ってみてくれない?」
「ミライが土の精霊さんに名前をつけるの?」
「ええ、そうなるかもしれないわね。参考に聞かせてほしいの」
「うん、ミライが土の精霊さんを見て思い浮かべた名前は・・・」
ミライはワタシの顔をじっと見つめた。
そしてミライは、長くもなく、短くもない、そして語感の響きも良い名前を挙げたが・・・
ワタシはそれを却下した。
「・・・ダメ」
「ミライの考えた名前、ダメなの?」
「えー、いい名前じゃない。どうしてダメなの?」
周囲からも賛同の声が上がるが、ワタシは溜息をついて理由を説明した。
「その名前、ワタシが昔嫌いだった人と同じ名前なの」
「ああ、なるほど。そういうのってあるよねー」
「だから他の名前にしてちょうだい。ごめんねミライちゃん。ミライちゃんは悪くないのよ」
「うん、わかった!」
それからまた様々な呼び名候補があがったものの、決定には至らず、結局、後日ワタシが候補 の中から選ぶか、自分で提案することで落ちついた。
議題は終わり、雑談が始まった。
・・・危なかったわ。
まさか、こんな幼子に真の名を看破されるとは・・・
偶然とは思うが、確かに恐ろしい子・・・
油断していたのはワタシも同じね。
ワタシもミライには気をつけよう・・・
◇
翌日、ワタシは候補の中から『アフロディーテ』という呼び名を選び、皆に公表した。
ユリの世界では美を司る精霊のようなものの名前らしい。
実にワタシにふさわしい名前だと思う。
名前がちょっと長いので『アフロ様』や『アフロちゃん』と、短縮して呼ばれることもあるが、別に気にしない。
たかが愛称だ。
呼びやすいように呼んでもらおう。
ただ、時折ユリが笑いそうになる事があるので、それについてはそのうち聞いてみることにしよう。
5/23に次話投稿予定です。
じわじわとですが、見てくださる方が増えてきたように思います。
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