六話 彼のスマホが盗られそうです
六話 彼のスマホが盗られそうです
風呂場に得が入ってきた。
「先輩、私のスマホ、弁償してくださいよ」
今まで要が聞いた得のどの声よりも低かった。
「俺は何もしていない」
そう言うと顔を踏まれた。得は靴を脱いでいたのでそれほど痛くはないが、精神的にダメージが来る。
「小人が壊したんでしよ。先輩が飼っている小人が」
飼っていると言われ、要はカチンと来た。エスパーダはペットではない。その表情の硬さが足を通じて伝わったのか、得は訝しがる顔をする。
「何? 怒ってるの?」
得は足をどけた。
「当たり前だ。人の家に来て、縛って、訳のわからないことを言って……。怒らないほうがおかしい」
要は怒っている本当の理由を伏せた。まだエスパーダとの親密な関係はバレていないのだ。こちらから情報を出すべきではない。
「先輩は小人のことを知ってたはずよ。それに私達が来ることを知ってた気がする」
想のことは知らないはずだが、得は核心に近付いている。
「私達の対応に迷いがなかった。だいたいアポなしで突撃すると、人は驚いて冷静な対応が取れないもんなの。そこを撮るのが面白いのに」
「最低だな」
「再生回数を伸ばすのには人の生の感情が良いのよ。普段の仮面を外した生の表情が」
「それでなんでうちに」
「小人を目の前にしたマリの可愛い驚き顔に、ファンはいいねを押してくれる。なのに私のスマホが燃えちゃった。弟達は自分のスマホ可愛さに、撮影に使おうとしないし」
「俺は燃やしてない。園田さん達に縛られてるんだから」
「だから先輩のスマホを使うの。割っても、燃やしても罪悪感ないもん」
スーツのポケットからスマホを取り出し、後ろ手に縛られた要の手に近付けて指紋認証も突破、さらに自分の指紋も登録している。
「先輩、ゲームやってるんだ。異界大戦」
アプリのラインナップだけでも見られると恥ずかしい。
「写真は……っと」
要はエスパーダの写真を消すのを忘れていたことを思い出し、動こうと試みる。しかし無駄な努力だった。それどころか得に何かあると悟られてしまった。ニヤリと笑っている。
得がスマホの画面に親指でタッチしようとすると、鮮血が飛び散り、スマホが風呂場の床に落ちた。
「いった……」
得の親指の付け根にかすかに金属製の塊が飛び出ていた。エスパーダが撃った弾丸だった。