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〜 プロローグ 〜 真夏の雪
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夏の朝に窓を開けると雪が積もっていたので子犬のように嬉しくなって外へ駆け出すと、まだ誰の足跡もついていない雪の上は発泡スチロールが降り積もったみたいに温度がなくて、じめる空気の蒸し暑さも、ギラる太陽の熱光線も、攻撃を受け流すように夏の猛暑が通用しない無表情なその雪はいたく凛の気に入って、家家の屋根まで覆い隠されたまっ平らな世界には地平線が産まれていたので、彼はたぶん、絢音を探しに歩き出したのだと思う、眩しく青い空と、絶望的な雪のあいだを、めざして。