新しい音霊
葬式が終了し一週間後に合宿が行われ俺らは今森の中で静瑠っちが作り上げた問題を解いていた。しかしトラップが仕掛けられており時々トラップに引っかかってしまう。
班で行動しているおかげで助け合いができ助かっているが、明日から単独行動で動いてもらうと言っていた。
それに音霊がいることもあってどっちを優先するかが大事となる。だから問題を解く番と音霊を倒す番に振り分けている。俺は未佳と一緒に問題を解いていた。
「東にはド、西にはドじゃあ中央は何ってどう言う意味?そこに静瑠さんがいるってあるけど」
「あちこちには木に音符の記号が書かれてある。それを辿っていけば……」
音楽に関わってそうな気がするけどなと周囲を見渡してみると、木々には全く同じ音名ドが書かれてある。そうかと地図マップを広げてみたら、建物や森に海岸に音名が書いてあった。
つまりだ。東のドは海岸、西のドは森を示しており、中央の位置はファの旅館とソのカフェの間にある、何もないところにいるはずだ。そのことを伝えそこに行ってみることにした。
それにしても音神と立ち向かうために厳しい訓練かと思えばこんな謎々を解いてばかりだ。しかも担当の先生を探しだせという謎の訓練。
森を抜けて旅館とカフェの間のところに行ってみるとそこには静瑠っちの姿はなかった。てっきりここかと思ったんだけどな。そしたらやあやあと背後から静瑠っちが現れる。
「開始してから三十分五秒ってところかな。まあうちの姪っ子や他の子達はまだなぞなぞに解けてはいないらしい。さてと一番早かったD班には次のことをしてもらいたいんだけど、ちょっと待ってて」
どくどくな音楽が流れ静瑠っちがスマホを取り出し誰かと連絡をしていた。誰と喋ってるんだろうと気になりながらも、待っていたら海岸の方から爆発音が聞こえる。何かあったのかと海岸の方に目を向けていたら静瑠っちから指示を受ける。
「次のことを変更して海岸に階級五、四が出現したらしい。直ちに海岸へと行き階級を撃破すること」
はいと俺らは返事をして海岸へとすぐに向かった。階級三以上の音霊は入れないようになっているから安心ちゃ安心かもしれない。
海岸が見え浜辺に到着した時点で俺らは驚愕し言葉を失うほどだ。
音霊同士が飲み込みあっている。まだ俺たちしか来ていないことで誰一人音霊にやられることはないだろう。
「陽介、静瑠っちに報告。やべえことになりそう」
「うん。すぐ連絡する」
他のクラスの子たちがやって来る前に俺たちでなんとかしねえと想像したくないことが起きそうだ。
鞘から剣を抜き倒そうとしたら、違う道から他のクラスが来ちまった。
「音霊みっけ。他のクラスよりも先にやるぞ」
「普段の音霊とは違う!今すぐ避難しろ!」
「手柄を先に取ろうってか?ふざけんなーー」
俺たちに威嚇してきた男子一人が一瞬で消え、男子の班だった子たちの周りには血飛沫がかかっている。それにより女子たちが悲鳴を上げ、未佳と皐月は口元を押さえているも限界が来て吐いてしまっていた。
電話を終えた陽介はとにかく撤退するよう言われたらしく、俺たちは引き返すと同時に静瑠っちと会う。
「状況は?」
「音霊同士が飲み込みあってた。飲み込み合うことで階級が上がるんじゃねえの?俺たちはどうすりゃあいい?」
「とにかく僕がいた場所にクラスメイトが待ってるかもしれないから事情を説明後、理事長の指示に従って。僕は応戦に加わるから」
了解と伝え俺らは静瑠っちがいた場所で待機することになった。無闇に動かない方がいいよなとそわそわしながら到着したクラスメイトに事情を説明していく。
階級三以上入れないことが分かったから飲み合って強化したのか。それはまだ把握できてねえけど未佳が出席をとり全員いることで、旅館にいるであろう父さんの元へと急ぐ。生徒は待機命令だから動きたくても動けない。
旅館の前では他のクラスもいるけれどさっき会った子達は待機している先生に説明をしていた。まさか生徒一人がやられるとは思わなかったことだし、俺が動いていればきっと助かったはずだ。
上の人になんか言われそうだなとうずうずしてしまうも、父さんがやって来て全生徒に今起きていることを説明している。こんなことが起きるだなんてショックだったよな。
合宿中は常に警戒を怠ってはいけないって、静瑠っちに注意されてたから俺らはすぐ判断ができた。
でも普通にあの子達は平気だろという感覚でいたから狙われたのか。それとも煩わしい男子の言葉でやったのかは定かではない。
ただ音霊は俺を見つけるとダゲヅミと言って、襲いかかっていたが今回だけは違った。ただの音霊だから俺がいたとしても何も起きなかったのか。
考えていると生徒はこの場が収まるまで旅館内で待機命令が出て俺たちは旅館の中に入るが足が止まる。
また一人、また一人目の前で死なれるのはごめんだと、陽介に呼び止められたとしても海岸へと戻った。
やっぱり腑に落ちない。音霊が俺に注目してくれていたら守れたんだよ。どうしていつも俺は判断が遅いんだと走って行くと祓音師が怪我を負っていた。
失いたくはないと剣に二本指をつけ唱えた。
「高音砕連六!」
剣に色がつき俺は音霊を倒して行く。消えろ、消えてくれと願いながら高音が鳴り響いた。
どうしていつもの音霊じゃねえんだよと八つ当たりで攻撃をしていたら音霊が逃げて行く。逃さねえからと音霊を捕まえると、音神とは違う印を発見した。なんだこの印とよく見ていたら音霊自身が爆発する。
音神が出す音霊ではなかったから俺を見つけても俺を捕まえようとはしなかったってことになる。静瑠っちに怒られてしまうも、印について聞いたら静瑠っちも分かっていたらしい。だから今回、俺が対象ではなく、生徒を恨む誰かがやった行為ではないかと推測された。
まだこの付近にいるかもしれないと先生たちがこの島を捜索に当たり俺は旅館へと戻る。あの印について音神に聞きたいけれど音神と連絡は取れないよな。
この前は非通知になっていたし、誰かから借りたやつなのかもしれない。だとすればこの鈴に何か意味があるのかと鈴をチリンと鳴らしてみた。そしたらなんと音神の声が聞こえる。
『どうした、息子よ。パパが恋しくなったのか』
「ちげえよ。さっきの音霊はなんだ?お前が出す音霊と少し違った。まだ他にも敵がいるのか?」
『ほう。どんな印だった?』
「小さな葉っぱが円状になっていて、真ん中は花の印だった。お前と関わってないのなら、今こうして話していることは伏せておく」
『なるほどな。あまり深く関わるなと言いたいところだがそうもいかない。一つ提案がある』
なんだよと答えると音神は少し笑ってこう言われた。
『奏人と会ってくれるなら合宿の邪魔をさせないよう伝える。もし拒否するならもっと襲えと伝えるがどうする?』
関わってるんじゃねえかと悩んでいると、陽介たちがムスッとこっちを見ていた。やばっ音神と繋がれることは伏せておきたいけど、そういや陽介特級二を持っているし常に俺の声を聞いてる。陽介には伝えたほうがいいけど、未佳と皐月にはまだ教えないでおこう。
返答はせずそのまま陽介たちと合流したら未佳に怒られてしまった。反省してますと態度で現していると、唄が唄の班を連れてこっちに来る。
「奏ちゃん、よかった!」
「うわっ」
いきなり抱きついてきて男子と陽介が羨ましそうな目つきで見てきた。これはさすがに男子たちが嫉妬するからと、離そうとも離れずにいる。参ったなと頭を掻き本当はやりたくないけど頬を優しく抓った。
「離れて」
「嫌だって言ったらどうするの?」
「もう昔じゃないんだからさ。それに男子たちが焼きもち焼くから離れよう」
ぷうと頬を膨らませて奏ちゃんの馬鹿と唄は違うところへと行ってしまわれる。唄は相変わらずだなと、今だに俺を羨ましそうに見ている陽介であった。
待機命令が解除されたのは夕方となり、音神の仲間もいなかったことで夕飯となり班ごとで食べているがなぜか隣に静瑠っちがいる。てっきり先生同士で食べるのかと思っていた。そこは無視して談笑していたら静瑠っちが拗ねて来た。
「僕もその会話に混ぜて」
「なんで俺らの班と一緒にいるんすか?他の班は先生ついていない」
「ひっどーいとかは言わないけど、先生と仲良くないんだよね。職員室とかは生徒に気づかれないよう接してるけど、こういう場は生徒と食べるのが基本って思ってるからこうしてるってわけさ。合宿中で仲を深めたいじゃん?あれと同じようなもの」
どうせ先生と仲が悪いから逃げてきただけでしょと思うのだが、あえて俺らはそこを触れないでいる。それは転入してしばらく経った頃、静香が教えてくれた情報だ。
静瑠っちは実の葉言家の人間ではないと自ら静香に言ったことらしい。ただどこの家の子なのかは誰も見抜けず、言霊を出せることで葉言家に招かれ養子として育てられた。
武器を持たなくても言葉だけで、音霊を倒せるのはそういう意味らしい。
葉言家にとってはいい養子だと他の者には見えていた。しかし他の者には明かしていない真実が実在している。
静瑠っちが葉言家に来るたびにいつも下働きをさせられているそうで、間違っていればお手伝いさんが当主の兄である静哉に報告し酷い仕打ちを受けているそうだ。無論、寝る場所は本家からだいぶ離れたボロい小屋。
葉言家が襲撃されたことを知った時の静瑠っちは焦ることもなく帰ることはしなかった。襲撃後が終えた頃に静瑠っちは帰郷し、静瑠っちは葉言家から出ていったということになる。
それを聞いた時、俺だったらその家族から縁を切って見つからないところへと逃げていた。それなのに静瑠っちは葉言家をすぐに出なかった理由はまだ明らかになっていない。いつかそのことを俺らに教えてくれるんじゃないかと信じ待っている。
「それで君たち、どこへ行こうとしてるの?」
「大したことじゃねえよ」
「ふうん、まあいいけど悪さはしないようにね。ごちそうさま。部外者は退散します」
席を立ち食べ終わった食器を持って退散していく静瑠っちだった。ふうと吐息が同時に溢れ静瑠っちごめんと三人に合図を送り俺も食器を片付け返却口に食器を渡し旅館へと出る。うまくやってくれよ、陽介、未佳、皐月。
俺はさっきのことを陽介たちに明かし夕飯後、森へ来いと音神に言われたから先生の目を掻い潜り森へと急ぐ。
森へと入りどこから来るんだと周囲を見渡していると月の光が射す方角に車椅子を押す音神が現れた。弟、奏人の制服にある校章に俺の目を疑う。
「兄さん、会ってくれてありがとう」
「どういうことだよ。なぜ奏人が……」
胸に手を当てながらにっこり微笑んでいるも身体全身が凍りつくような笑みを浮かべている。
「僕の名前、覚えててくれて嬉しいな。僕ね、ずっと兄さんに会いたかったんだよ。でも会いたくても会えなかった。どうしてだかわかる?」
「それは……」
実母のことについてじいちゃんが言っていたことが頭に過ぎる。
〝奏恵は死を覚悟して身体が弱い弟と一緒に死ぬつもりじゃったんじゃろう〟
それと関係しているのかと奏人を見ると片方だけ口角が上がり俺に言い放った言葉。
「母さんは父さんによって音を仕組んだ。それによって母さんが僕に何をしたのか覚えてない。正直僕は母さんを今でも憎んでて殺したいぐらいだよ。僕が弱いからってあの家からでると発作を起こさせる音をかけた。だから母さんなんか大っ嫌い。好きなところもいけない。今でも発作が出そうで恐怖に溺れてる。だからさ簡単に殺すのはどうかなって思って、思いついたんだ。兄さんと再会させた後、父さんが仕掛けた音を解除して苦痛を存分に味わせて死んでもらう」
「それ本気かよ。だって実の母親だぞ。お前がこうして生きていられるのも母さんのおかげでーー」
「うるさい!あっ」
いきなり苦しみだし車椅子から落ちてしまって、行こうとしたら音霊に囲まれちまう。
「今日はここまでだ。また連絡する」
まだ聞きたいことがあるのに音神の気配がなくなって音霊も消えてしまった。
奏人に本当のこと言うだなんて卑怯じゃねえかよ。奏人と一緒に死のうとした実母もどうかと思うがよっぽど音神の力を受け継いだ子が悪さしないようにと言う願いがあったから。
だったらなぜ健康でいる俺は大楽家の子として育ててもらう必要があった。俺は産まれちゃいけない存在の子なのにどうして俺はここに立っている。
母性で俺たちを産んでも音神からは逃げられないと確信したから、俺たちを引き離しいつ殺されようとも覚悟を持っていた。
ただ今も生かされているという理由の一つが、さっき奏人が言ったことが本当ならば俺は絶対に捕まるわけにはいかない。
突っ立っていたらぽんぽんと肩を叩かれ誰かと思えば寝巻き姿の静瑠っちで完全にバレてんじゃねえか。
「なるほどね。弟と接触するために僕を監視していたってわけか」
「これには訳があって」
「わかってるよ。音神も一応父親だ。奏人がやった行為には見えなかったけど、奏人の仲間が今回起こした張本人。それも含め奏汰に要求を持ちかけた。まあ今回の合宿にはもうあの音霊が現れないことを祈るよ。さっ怒られる前に、旅館に戻るよ」
静瑠っちに背中を押されて俺と静瑠っちは旅館へと戻った。
あれから一週間、音神が言う通り音霊が現れず、合宿中はスムーズに動けたことが奇跡のようなものだった。誰にも邪魔が入らず、問題を解いたり、体力がつくようになってきている。
後もう少しで合宿が終えそのまま新学期に入るから、それに向けての勉強もしなくちゃならない。
個人戦で誰が先に静瑠っちのところに行くかってなっているが、さっきから同じところをぐるぐる回っているような気がする。一番乗りは陽介だろうけれど負けちゃいけないよな。
静瑠っちがかけた音の仕組みを解除し静瑠っちのところに行くことになっている。俺の読みだとやっぱりこっちなんだよなと歩いていたら音霊が出現した。
階級五と四かと音を剣に込める前に、誰かが助けてと聞こえた。この島じゃない別の場所かと考えている余裕はなく音霊が襲いかかってくる。
森の中だし炎は危ねえからから砕で攻撃をしたほうがいいな。指を二本剣につけて音を込める。
「高音砕連三!」
刃の色がオレンジ色に染まり音霊を倒してみると、また修復し始めてよく観察してみたら校章が入ってやがる。なんでだよと校章の部分に斬ろうとしたが刃が通らない。やばっ。やられると思った瞬間のことだった。
バスケットボールが音霊の印に当たり消えていき、余計にわかんねえぞとバスケットボールを拾おうとしたらバスケットボールが消えていく。
誰かが助けてくれたのは確かだけど見た感じどこにもいねえから、とにかくこのことを静瑠っちに伝えねえとな。静瑠っちの音も消えていることだし森を抜けて旅館に向かった。
⁑
間に合ってよかったけど、一歩遅かったら奏汰は危なかった。もし間に合わなくても僕が助けに行ってたけど、あんな短期間で習得するとは見事なものだ。
「本当にこれでよかったの?奏汰と楽しい学校生活が送れたのにさ」
「いいんです。奏汰と会うのは今度行われる大会にびっくりさせます。この前はあんな態度取っちゃってすみません」
「僕は慣れてるから平気さ。祓体学院はどうだい?」
「まあ音楽よりかはこっちの方が向いてるってわかったし、これでよかったんだと思います。戦い方は違えどこうやっていつか奏汰と一緒に戦いたい。それが今の目標かな。静瑠さん、そう言えば例の件、調べて入手してきました。さっきの音霊、やっぱり音神と繋がってます」
すっと渡された資料を受け取りペラペラとめくる。さすがは祓体学院の生徒にしておいてよかったよ。
「ありがとう。引き続き何か分かり次第、教えてほしい」
「はい。それじゃあ俺も旅館に戻らないと班がうるさいんで」
僕にお辞儀をして去って行った子は、一度死んだはずの一宮剣雅。あの子は嫌太郎に音をかけられ死亡したかとも思えた。しかしそれをすぐ見抜いた僕は、事情を説明するといい返事をしてくれて祓体学院に転入推薦を送っといた。
ただそこはいつどこで死ぬかわからない任務が多く含まれているため、死んだことにしとけば家族が巻き込まれることも防ぐことができる。それを望んだのも剣雅自身が決めたことだから廃工場で死んだことにさせた。
プルルルルとスマホが鳴りみると早速奏汰からで応答しながら僕も旅館に戻ることにした。