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失った音

 あれはいつ頃だっただろうか。大楽の本家に連れてってもらった時、よく俺にじいちゃんがある家系について教えてくれたこと。それは俺と関係している家系のことでその家系図も見せてくれたっけ。でもあの当初は古臭い本だったしなんて書いてあるのかわからなかった。

 でもはっきり覚えているのはその家系の家の名前。確か鈴条すずじょう家って書いてあったような気がする。何でそのことを思い出したんだろう。


 誰かが俺を呼んでいると目を開けたら、ここはどこだと周囲を見渡した。祓音師の格好をした人たちがいっぱいいて、近くには不貞腐れた静瑠っちと父さんがいる。それで何で俺は拘束されているのかがいまいち理解できない。


「起きる前に処分すべきだったな。災いを齎し大楽の妻を奪った気分はどうだ?」

「は?何言ってるんだよ。母さんを殺したのは音神だろ?」


 俺が言うと祓音師たちは笑い出し何がおかしいんだよと、動こうとしたら静電気が流れ痛みが走る。中央の一番上に座っている人が言ってきた。


「お前は音神の子だ。同類なんだよ。親も子も罪に罰する。よって死罪と決まっているんだ。ここで祓う。覚悟はいいか?」

「ちょっと待った!」

「なんだ?」

「俺はいいとして静瑠っちと育て親の旋律は外せ。じゃなきゃ俺はこれを外してお前をぶっ飛ばす。それくらいできるだろ?」


 黙り込みもしかしてこいつが静瑠っちの兄なんだと悟った。そうじゃなきゃここにいるわけねえもんな。

 早くしろよとイライラしていると更に上にある空席のところから人が現れる。

 待ちなさい君たちと透き通る声に一同お辞儀して、静瑠っちの手が頭に乗り、思いっきり地面につけられた。頭を上げなさいと言われると手が離れるが顔面が凄いことになってそうだ。


「皆、急ぎは禁物。遅かれ早かれでやっていると祓音師に影響が及ぶのは皆が一番にわかっているのではないのかな?どうだと思う葉言静哉はことしずなり

「……仰る通りです」

「そうだよね。音神は決して許されない人物。しかし子は罪をまだ犯してはいない。先ほどは皆を守ってくれて感謝するよ、音神奏汰。いやもう真実を明かすべきだと私は思う。鈴条奏汰すずじょうかなた、君の本当の名字だ」


 俺があの鈴条家の人間とその人を見ていると、そんなはずがないと反論をしている静瑠っちの兄。他の人たちもまさかあり得ないと言い出す。


「皆、一旦落ち着こう。私は今、奏汰と話していることを忘れないで」


 その人が言うと一同が喋らずに無言となり、静まったところでその人が語り始めた。


「鈴条家はあることが原因で腹を括り命を落としたとも言える。それが何だかわかるかい?」


 鈴条家が命を落とした原因。じいちゃんはそのことについては何も教えてはくれてなかった。何だろうと考えているとその人は無理しなくてもいいと俺に教えてくれる。


「奏汰の実父が何をしているかわかっているかな?」

「音霊と手を組んでいることと関係しているんですか?」

「そう。音神災人はペンネームのようなもの。鈴条家の息子が音霊と手を組んだことで鈴条家は命を絶った。なぜ息子は音霊と手を組んだと思う?」


 実父である音神が音霊と手を組んだわけ。俺が出した音に関係しているとなれば、その音が使えないことで音霊と手を組んだとしたらどうだろうか。


「鈴音の音が使えなかったから音霊と手を組んだのでしょうか?」

「私もそれが原因で手を組んだと認識しているんだ。でもね音神がやっている行為は犯罪。一般人を巻き込み人を餌として、音霊に与えている。それが絶えない限り本来の祓音師の役目が果たせないでいる。そこで奏汰に頼みたいことがあるんだ」

「頼みたいこと?」

「音神災人を倒してほしい。音神災人を討てば皆は奏汰を認めてくれる」


 涼しい顔立ちを見てしまうと不思議な感覚になるも、はいと元気よく返事をした。


「わかったね、皆。それとこれ以上奏汰を虐めないであげてほしい。奏汰は鈴条家として今後動いてもらうからね。それじゃあ奏汰、また会おう」


 またまた静瑠っちが俺の頭を押さえて地面に突きつけられる。普通にお辞儀ぐらいできるわと、いなくなったのか静瑠っちの手が離れた。

 顔面に大きなたんこぶできてそうだなとゆっくりと顔を上げると、凄い不愉快なオーラーを出しながら、縛られていたものが解除される。これも音の一つだったのかと立ち上がり今後について命令された。


「俺たちはまだお前を認めたわけじゃない。天海あまみが言うから俺たちは従うまでだ。ただ妙なことをすればどうなるのか覚えとけよ。鈴条は下がっていい」


 拘束しておいて何がさっさと帰れだと一発静瑠っちの兄に殴りたくても一礼してここから出た。

 そしたら唄が待っていてよかったと俺に抱きついてくる。


「どうした唄」

「だって、だってあの後、祓音師がやって来て奏ちゃんを拘束してたから怖かったの。何もされてない?大丈夫?」

「まあ一応まだ生かされているようなもんだよ。そうだ、唄。じいちゃんってまだ生きてる?」

「その言い方はやめてあげなよ。うん、いつも元気に祓音師としてやってる。おじいちゃんに何か用なら連絡しておくけど」


 あの頑固じじい長生きしてるんだなとじいちゃんの言葉を思い出したことで、鈴宮家のことを知っておきたいって思い始めた。


「俺から直接、じいちゃんに会えるか聞いてみるよ。それよりさちょっと付き合ってくれる?」


 何と俺から離れこそこそと話すとわかったと唄は行ってもらい、俺はスマホを取り出して陽介に連絡をとってみる。

 あの後どうなったのかは知らないけど、とにかく情報を入手しなくちゃならない。

 陽介出ないじゃんと切って俺は本部を出た後、大声で陽介の名前を叫んだ。これでわかるだろうと家方面へ歩いていたらスマホが鳴りみると陽介からだった。


「陽介、早く出ろよな」

『もう平気なの?』

「まあ一番お偉い人にまた助けられてもらったようなもんだよ。それよりさ、俺ん家に来れるか?」

『わかった。未佳と皐月にも伝えとく』


 サンキューと言いながら電話を終え自宅へと入り、自室へと入ってクローゼットにしまっていた段ボールを取り出す。

 さっき唄に聞けばよかったなと確か本家の連絡先が入っている手帳どこやったっけ。

 ガサゴソと探していると懐かしいものを見つけた。それは初めてのコンクールで金賞をとった表彰状と写真だ。未佳も写ってると後で見せてやろう。それを出して手帳を探すと見つけた。

 この手帳に確か大楽家の連絡先が書いてあったはずとペラペラめくると見つける。

 じいちゃん出てくれるかなとスマホを操作しながら連絡をとってみた。

 お手伝いさんとかいるから誰かしら出るだろうと鳴らしていると、はい、大楽本家ですと女性の声が聞こえる。なんか緊張感がありながらも俺は奏汰ですと答えた。


「お爺様はいらっしゃいますでしょうか?」

「お待ちください」


 俺は普通にお爺様と昔呼んでいたからそう言ってしまったけれど通じただろうか。少ししてばっかもんといきなり怒られ耳が痛くなるわ。


「じいちゃん、相変わらず元気そうだな」

『わしはいつも元気じゃよ。唄の叫び声で気づいたわい。大丈夫か?』

「……大丈夫じゃねえよ。俺や唄に父さんの目の前で母さんは殺された。そのショックがまだ残ってる。守れたはずなのに守れなかったこの悔いが一生とれないんじゃないかって気がしてさ。じいちゃん、俺……どうすりゃあいい。母さんに恩返しちゃんとできたかな」


 スマホを耳に当てながらベッドに座り、涙を堪えながらじいちゃんの言葉を聞く。


『そばにいるだけでも良い、何かをプレゼントするのも良い、感謝のことだけでも良い。恩返しというものは形様々に存在する。奏汰はよう頑張った。成長し苦難の生活であったじゃろうが、奏汰なりの恩返しは音美に届いておる。大丈夫じゃ。何か一つでも親孝行してくれただけで、親は満足するんじゃからのう』

「ありがとう、じいちゃん。少し気持ちが楽になったよ。母さんの葬式が決まったらさ聞きたいことがあるんだ。時間作れそう?」

『そうじゃのう。葬式の最中は忙しいじゃろうから前日時間を作ろう』

「うん、わかった。忙しいのにごめんな。じいちゃんの声聞けてよかった。ありがとう」

 わしもじゃよとじいちゃんが言いその後身体には気をつけてと伝え電話を切る。母さん、ごめんとベッドにそのまま倒れ、少しの間だけ堪えていた涙が止まらなかった。

 

 唄と陽介たちを集め俺ん家のリビングで今後どう対処するか話し合いをしているとインターホンが鳴る。誰だろうと画面をみると宅配らしき人で今開けますと伝え玄関を開けた。

 何が届いたんだと思えば宅配というより業者でこれをリビングに運ばせてもらいますねと勝手に上がる。やべえ、散らかしっぱなしだと、どかしてとみんなに協力してもらいながらスペースを作りそこに置いてもらう。

 ここにサインをお願いしますと言われたため、えっと静瑠っちのハンコと玄関にあるハンコを押し業者が帰られた。


 却下されたのにまさか買ってくれるとは思わず、リビングに戻ってピアノに触れる。

 いい音色だとピアノの椅子に座り一曲奏でてみた。やっぱりピアノの音はいいと奏でていたら、俺のスマホが鳴り誰だと思っているとメールで母さんの葬式の日付が確定したメールだ。


「ごめん、奏ちゃん。本家に来なさいってメールが来てる」

「おう。わかった。俺が行かなくても平気?」

「平気だよ。それじゃあ先輩たち失礼します」


 ぺこっとお辞儀した唄は本家へと向かう準備をするため寮へと帰り、静瑠っちがまだ戻って来ないためさっきの続きを話し合うことにした。


「それで音神やその……弟が現れたら撤退したほうがいいよな」

「あの時点で弟くんは何もしてなかったけど微かに術を唱えていたのは確かだ。でも静音とは違うような音」

「あたしも奏汰の弟くんらしい子に会った時、違和感を感じたんだよね。違う音があの子の周りに鳴ってた」

「うん。私も感じたよ。弟くんのことを守っているような感じだった。子守唄のような音色」


 確かに俺も聞いたしそばにいたからその音色は覚えてる。ピアノでその音色を出してみるとそれだよと三人が一斉に答えた。ヒーリングミュージックに似ているような音色。それを聴いていないと何かが起きるとかもしれない。もっと弟について聞いておくべきだった。


「弟の件は後にして音神やそれ以外の者に接触した場合は攻撃はせずに音霊だけを倒そう。それでも増えるようなら撤退するとかは?」


 俺たちが考えてもその作戦はうまくいかないと思う。俺がいるから余計にみんなが狙われやすいし、静瑠っちや父さんから全生徒に呼びかけるだろう。


「陽介の言う通りなるべく音霊だけに集中しよう。それともし危険だと感じたら俺が囮になるから逃げてほしい」

「静瑠さんが許すはずないよ」

「そうだよ。囮になるだなんて」

「僕は賛成かな。まあその前に静瑠さんたちが助けに来てくれると思うからね」


 ピンチの時は助けに来てくれると俺らは信じ、静瑠っちが帰ってくるまで談笑していた。



 母さんの葬式の前日、俺と静瑠っちは大楽家の本家へと来ている。相変わらずでけえ家とだなと玄関の前では唄と父さんが待っていてくれた。


「じいちゃんは?」

「縁側で待ってる。静瑠、ちょっといいか」


 父さんは静瑠っちとどこかへと行ってしまい、唄がじいちゃんのところに案内してくれる。ばあちゃんが亡くなってから来てはいなかったけど、昔と変わらない静かな場所だな。進んでいくと縁側で優雅にお茶を啜りながら庭を眺め猫を触っている。


「おじいちゃん、奏ちゃん来たよ」


 唄がそう言うと猫を離し隣へ来いと言われたから隣に座り、食べるかと団子を勧められたから一串いただく。


「何か聞きたかったんじゃろう」

「うん。俺の本家について、詳しく知りたいんだ」


 そうかとお茶を一口飲むじいちゃんは口をつぐんでしまい、俺に教えたくないことでもあるのかな。

 小鳥の鳴き声だけが聴こえ、そう簡単には教えてはくれそうにないかと、諦めようかなとじいちゃんを呼ぼうとしたら口が開いた。


「すまぬがわしが知っていることは奏汰と弟が鈴条家であることだけじゃ。本当は鈴条家の歴史についての書物はここに保管されておった。しかしのう、葉言家が全て管理をすると言い出して全て引き渡してしまったのじゃ」

「じゃあ葉言家に行けば知れるの?」

「難しいじゃろう。葉言家が襲撃された時、蔵に保管されていた書物全てが焼かれたと言っておった」


 ならしょうがないかと団子を食いぼうっと庭を見ているとじいちゃんがあることを語ってくれる。


「奏汰の母である奏恵は物静かな子じゃった。祓音学園でも班から離れ、単独行動を行なっていると報告が上がってな。そんな時じゃ、音神と出会い奏恵は取り憑かれるように音神と行動をしていた」

「え?音神って生徒だったの?」

「一応鈴条家の子じゃったからのう。祓音学園では優秀に動いておった。しかし音神は突如姿を消し音霊と手を組み、そして我が愛娘まで奪いよったのじゃ。いくら捜しても奏恵の居場所を突き止めることが不可能じゃった。そんな時、音美が奏汰を抱いてここに来た。奏恵と会ったとな」


 捜すことも不可能だった実母と母さんは会い、そして俺を託した理由。


「奏恵は死を覚悟して身体が弱い弟と一緒に死ぬつもりじゃったんじゃろう。じゃがそれを止めたのは音神じゃ。ようわからんが殺さず今も生かされている。生きているうちに奏恵と奏汰の弟、奏人を救わなきゃあかん。それはわかっておるな?」

「わかってる。その前にじいちゃん、聞いてもいいか?」

「奏人の周りに流れる音色じゃろう。あれはわしたちには触れさせない音じゃよ。音神が生み出した音色じゃ。触れられるのは音神と奏恵、それから音神が許している人物のみじゃ」


 音神が許す人物のみか。俺もその一人に含まれているのかわからないけど、またもし弟に会えるのなら弟に触れてみよう。

 そして翌日、遺体のない葬式が行われ母さんの葬式が始まった。


 ⁑


 屋敷に戻り反抗期になるとは思いもしなかったが、一番厄介な音美を消せたことで今回は見逃してやろう。ただ連れて帰ると言ってしまったことで奏人は悲しむ。

 さてどうするかと奏人の部屋に入ったら音霊を生み出す音の練習をしていた。まだ形はスライム状態でありながらもいい音霊が生み出せそうだ。


「父さん、お帰りなさい。やっぱり無理だったんだね」

「すまない、奏人。今度は首輪をつけて連れてくる。そうだ。奏汰には友達がたくさんいる。そろそろ奏人も友達を作ってみないか?」 

「でも僕、この屋敷から出ると発作が出ちゃう」

「大丈夫、いい学校を見つけたんだ。そこに転入してみないか。そこは、祓音師を嫌う学校でもあり音霊師の学校でもある」

「本当に?」

「最適な環境だから発作は起きない。一度見学しに行ってみるか?」

「行ってみたい」


 興味津々で何よりだと奏人に笑顔を向けて話をつけてくると言い奏人の部屋から出る。可愛い息子をこれ以上閉じ込めさせるのも環境に悪いから早急に作り上げた学園。

 祓音師に見捨てられた子や行き場のない子をかき集めた子が大勢いるからな。そんな子達を音霊師とさせることであの忌々しい天津を倒せる。あいつだけは絶対に許さない。


「嫌太郎」

「……はい」

「余計なことはするなよ。葬式が終えたらすぐ合宿が行われるそうだ。合宿所に乗り込み奏汰を奪って来い。ヘマはするなよ」


 嫌太郎に行ってもらい俺は奏恵のところへと行った。

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