静瑠っちの娘と遊園地
剣雅の一件が終了しその数週間後、期末テストも終え春休みが到来しようとしている時に事件が起きた。
「これやばくない?」
「これはやばいな」
「どうするの?」
「隠蔽してもバレる」
俺たちは過ちを犯してしまったとも言えるだろう。今、冷蔵庫にケーキが四つ入った箱を見つけ食べたのである。普通に談笑しながら食べていたら、陽介が箱に何か書いてあると言われ俺たちはみた。そしたらこう書かれてあったのだ。
絶対に食べないでね、食べたら死刑だよ。By静瑠。
それを俺らは食べてしまったことにより、しかもそれは有名店のケーキ屋さんで、期間限定のものらしいと未佳が教えてくれた。
そのケーキがなんと昨日完売したことで買いに行くにも行けないってやつだ。静瑠っちは嫌だ嫌だと言いながら会議へと出席中である。
「正直に言うしかない」
「嫌だよ。だって静瑠さん、怒ると鬼以上に怖いんだよ」
「私は正直に食べちゃったこと伝えたほうがいいと思うな」
「俺は別のケーキを誤魔化して置いておくけどな」
家にあったものだったからてっきり食べていいものだと、認識していた俺が食べようと陽介たちを誘ってしまったからだ。
こういう時、頼りになりそうな人って誰かいるかなと考えていたら救世主が現れる。
「お邪魔する、奏汰。静瑠さんがまだ会議中とのことを聞いて、これを渡してもらえるか?」
「ちょうどよかった、後藤さん!一つ頼みたいことがあるんだけど」
「なんだ?」
かくかくしかじかと説明すると後藤さんは顔を真っ青にし、なんかあったのかなと待っていたらこんなことを言われる。
「奥様にも言われて店へと訪れたんだが、期間限定の日程内に来ないのが悪いと追い出されてな。別のケーキを買って帰ったらこの役立たずとそのケーキを投げられる羽目になった」
「奥さん?」
「静瑠さんには兄がいて兄の奥さんがケーキ好きなんだ。それに静瑠さんの娘さんを養子としているから、あまり会わせてはくれないって言ってたよ」
正月の時に言われたのはそういうことだったのかと納得したけれど、ケーキの食べかすを放置するわけにはいかない。
後藤さんも駄目なら他に頼める人って父さんかな。父さん色んな人とやり取りはしているし、有名店のケーキ屋さんともやり取りはしているだろう。
よし、そうとなれば新しく支給されたスマホで父さんに連絡しようとしたら、唄からかかってきたのだ。
「どうした唄?」
『奏ちゃん、ごめん。今の聞いちゃったんだけど、そのケーキなら今お母さんが入院している病室にちょうどあるよ』
「マジで?」
『マジで。それでお父さんも聞こえてたらしく持って行きなさいって言ってくれたの。まあどのみち静瑠っちに聞かれてると思うけど持って行くね』
「唄、神!よろしく」
スピーカーにしていたことで陽介たちもホッとした笑みを浮かべ一つくれないかと言い出す後藤さん。
「それを決めるのは静瑠っちですけど、待てますか?」
「少しぐらいなら待てそうだ。ただお嬢をお迎えに行かないと静哉様に怒られる」
「まだかかるならその本家に」
「それはだめだ!」
いきなり焦り始める陽介で俺らは顔を合わせ、どうしたと聞くと陽介が教えてくれる。
陽介は一度だけ静瑠っちの本家にお邪魔したことがあるらしいが、大楽家の悪口を言っていたそうだ。
なぜなら大楽家と葉言家は祓音師でツートップでもあり常に競い合っていることもあるらしい。それで音神を仕留めるのは葉言家だと言っているから俺が行けば大事になるそうだ。
ふうん、そういうことかって俺の正体は既にバレてるんじゃねえのか。だってじいちゃんとばあちゃんに何度か会ったことあるしな。
「静瑠さんが帰って来るまで待っていただけることはできますか?待てないなら今回は諦めてください。お願いします」
陽介が珍しく頭を下げてお願いするだなんて珍しい。よっぽど静瑠っちに両親や兄弟を会わせたくない気持ちが伝わる。
「わかった。今回は諦めて帰る。すまなかった。それじゃあそれは静瑠さんに渡してくれ」
俺に紙袋を渡し帰られた後藤さんを見送った後に、唄がケーキを持ってきてくれたのだ。ケーキを冷蔵庫に戻し、これで一件楽着だと俺らはハイタッチする。
「ありがとう、唄。仮はちゃんと返す」
「いいよ、いいよ。それより春休みがないのが残念だよ」
嘘でしょと女子二人がスマホを取り出して学園アプリで確認をしている。そういやちょろっと夕飯食べている時に聞いたような気がした。
なんか音神が頻繁に動き出したことで春休みを使い、全生徒が合宿に行くとかどうとか。それで今その会議が行われているんだったっけ。
静瑠っちのスケジュールは大体把握して置いてちょと言われたから、カレンダーに入れている。基本静瑠っちがいなくても外出はいいらしいが、音神と遭遇したら危険が伴うためあまり外出は控えてと言われた。
なぜなら剣雅の一件で俺が寝込んでいる間に静瑠っちが激怒をしたらしい。止めるのに必死だったと父さんが言ってたな。
そんで新しいスマホは静瑠っちと買いに行き、俺が選んだのを契約してくれたのだ。嬉しいことに画像もパソコンからとってくれたことで剣雅との思い出は消えることはない。
俺も学園アプリを開いて確認してみるとやっぱり春休みはない代わりに合宿することになっている。どんな合宿になるのかはよくわからんでも、合宿すれば多くの人を救えるよな。剣雅の死は無駄にはしないためにも頑張らなくちゃならない。
「最悪。嘘でしょ。せっかく友達と遊ぼうと思ったのに」
「遊ぶ気満々でいたのにな。残念」
「僕はあってもなくても静瑠さんと一緒に行動しているから別に気にしてない」
「どんだけ静瑠っちが好きなんだよ」
「尊敬しているからこそ、一緒に行動するまでだよ。これ常識」
「はいはい。陽介の静瑠っち愛はもう聞き飽きたよ」
みんなに笑われ赤っ恥になる陽介は太鼓のように俺の背中を叩き始め、怒んなよと逃げると陽介が追いかけて来た。
リビングで走り回っていたことで、飾ってあった置き物が振動により落ちる。やべえと取ろうとしたがガッシャーンと割れてしまった。
あっと女子三人が大声を出しふんとそっぽを向く陽介。俺が責任かと自分に指で指すと女子三人はうんうんと頷いた。
「陽介にあんなこと言うからでしょ」
「からかうのはよくないと思う」
「奏ちゃん、どんまい」
「僕を馬鹿にするからこうなるんだよ」
ケーキの次が置き物を壊すだなんてと頭を抱えながらどうしようと考えていたら、たっだいまーと静瑠っちが帰って来ちゃった。
とにかく隠そうと破片を拾うまえに後ろから圧を感じ恐る恐る振り向く。鬼の仮面を被ったような顔つきでごめんなさいと土下座をした。
「僕のケーキの次は大事な置物を壊すだなんて悪い子だね」
「ごめんなさい!」
「土下座で済む話じゃない。これは僕の姫がお小遣いで買ってくれたもの。弁償できるわけない。だけど百円ショップで買ったやつだけどね」
いつもの顔に戻って危ないからと俺をどかし破片を拾い集めてくれる。ぐずんとしていると静瑠っちが拾いながらあることを言われた。
「明日、姫と一日だけデートなんだ。会わせてあげるんだからケーキを買って来いって、義姉さんが言うから用意してた」
「あれでも後藤さんも買いに行かされたって言ってたよ」
「あれは嫌がらせだよ。僕が雇った人だから僕と同類なようなもの。それでも何も言わずに姫の護衛をしてくれる。だから会わせてくれる日は家族と過ごしてもらいたいから明日はいない。そこでだ」
何か嫌な予感しかしないと静瑠っちが破片を拾い集めたところでこちらを向き、俺らは静瑠っちに言われる前に頷いたのだ。
そして当日。
「お父様!」
「可愛い姫」
娘さんを抱っこして高い高いをしとても喜んでいる静瑠っちの娘さん、静凪ちゃんはとても笑顔だ。
俺らはなぜかスーツの格好をしながら警戒心を出す。静凪ちゃんは葉言家の娘でもあるため、たまに狙われることもあるらしい。
だからいつも後藤さんが静凪ちゃんと一緒にいるのだ。ただ静凪ちゃんは静瑠さんの性格が受け継がれているせいで、厳しく育てられていると後藤さんから聞いたことがある。
それにしても俺ら目立ちすぎじゃねえかって言いたいぐらいだわ。だってさスーツ着ながら武装しているし一般人に二度見され通報されるんじゃないかって冷や冷やする。ただ警察の方は静瑠っちのことをよく知っているらしく、通報されたとしても平気なのだそう。
遊園地に来ている俺らは普通に遊びたい気持ちが半分ありながらも二人の護衛をする。
『そっちは異常ない?』
「今んとこな。ただ陽介感じてるよな」
『まあね。この遊園地に音霊がいる。静瑠さんも気づいているだろうけど静凪ちゃんを優先してるからね。未佳、皐月、少し様子を見てきて。音霊がいるのはおそらくお化け屋敷付近だ』
了解と俺と行動をしていた未佳が皐月と一緒にお化け屋敷方面へと行ってもらい、俺は陽介と合流し静瑠っちのそばに寄った。何も起きなきゃいいんだけどなと周囲を見ながらメリーゴーランドに乗り始める静瑠っちと静凪ちゃん。
俺も遊びてえよと動き出し俺らを見つけて楽しそうにはしゃいでいる。静凪ちゃんが手を振り、俺らも手を振ってあげるとスマホが鳴った。
誰だと確認してみるとまた非通知からで、また誰かが音霊や嫌太郎に襲われているんじゃと思い出てみる。
「はい」
『楽しそうだな、奏汰』
「なんで俺の連絡先知ってんだよ」
『それは別にいいだろう。父親が知る権利はあるはずだ。それよりもうすぐ誕生日だろう?何が欲しい?』
「そうだな。お前がいなくなればいい」
『寂しいこと言うなよ。まあいい。静瑠に伝えとけ。奏汰の誕生日、奏汰自身に選択させる。奏汰が選んだ選択肢にどっちにつくかお前次第だとな』
どう言うことだよと言いたかったが切りやがって、陽介がどうしたという顔で俺を見ていた。陽介にも聞こえなかったとしたら、きっと音で制御していたことになる。音神は何がしたいんだよ。
「奏汰?」
「音神からだった。俺の誕生日に何かが起きるらしい。俺が選んだ選択肢にどっちにつくか静瑠っち次第だってさ。どう思う?」
「奏汰が選んだ選択肢によって静瑠さんがどっちにつくか。まさか音神の仲間になるか、今まで通り祓音師のままでいるかってことなのかもしれない」
「よくわかんねえけど先に音霊を祓うのが先だ。未佳と皐月大丈夫かな」
俺と陽介は耳を澄まし未佳と皐月の声を聞き取ると普通に談笑している声だ。今のところは大丈夫そうだなと、メリーゴーランドが停止し静瑠っちと静凪ちゃんが戻って来た。
「女子二人は?」
「音霊が付近にいるからその調査に行ってもらってます。この後はどうしますか?」
「お父様、風船が欲しい」
「風船?」
やや遠くに着ぐるみを着た人が風船を持って子供たちに風船を渡している。静凪ちゃんは静瑠っちの手を引っ張って行かれ、俺たちも動いた瞬間に雑音が聞こえた。
「静瑠っち!」
「わかってるよ」
静瑠っちは二本の指を立たせて静瑠っちが音を込めている間に俺と陽介は風船を離せと子供たちに伝える。着ぐるみを着ていた人は風船を離した。そいつは指を鳴らしたことで風船をまだ持っていた子たちのがパンっと割れ、音霊が子供や子供を庇った親が音霊の口へと入ってしまう。
間に合わなかったと言わんばかりにやめてと静凪ちゃんが思いっきり蹴りを入れたことによって音霊が吐いた。
俺と陽介は理解する。まだ四歳でありながらもその威力を発揮することで、葉言家の後継者に相応しいからと家を出た静瑠っちから娘を養子として迎え入れた。
やっぱり静瑠っちの娘だなと俺と陽介は静凪ちゃんの援護をしながら音霊を倒すため武器に音を込める。
「高音炎弾雨!」
炎の雨が降り音霊が焼かれ音霊に飲み込まれた子供と親の安否確認をとる。息はしているが火傷のようなものが残っていた。遥は音霊の液体で何度か火傷を負ったと言っていたな。手当は医務室でやってもらうことにしてまだ雑音が聞こえる。
未佳と皐月とも合流し一般人の方は避難してもらうようスタッフさんに伝えた後、雑音が強く感じるお化け屋敷の方角へと急ぐ。さっきは異常がなかったけれどこの感じやっぱりいる。
お化け屋敷の中に入るとさすがに不気味だなとどっから出てきてもおかしくはなさそうだ。静凪ちゃんは怖がらずこともせず堂々と歩いている。逆に未佳は強がっているものの大きな音が出ると騒ぐし、皐月は震えながら陽介の服を掴んでいた。
「串足野郎はいると思う?」
「まだわからない。ただ音霊がいるだけなのかもしれないけど注意して」
音神の仲間も知られないようにとなんらかの音は使っているらしく、俺たちは音でどこにいるのか把握できないようになっている。さてどこにいるんだかと進んでいたら音霊の言葉、ダゲヅミと聞こえ静瑠っちが防御して俺らを守ってくれた。
煙とお化け屋敷の中だから全然見れねえと煙が徐々に消えていき、確認すると階級五の音霊と背後には階級四がいる。
「挟み撃ちされちゃったね。どうしようか」
「全て倒せばいいんだろ?だったら」
「目的はこれじゃない。その先に雑音が強すぎる。まずそれを最初に倒さないと無理かもしれない」
「そうは言っても暗いし不気味すぎる」
「私も無理。お化け屋敷は絶対に行きたくなかったよ」
「静凪は平気だよ。だってお父様がいるもん」
考えている暇はねえよと近づいてくる音霊をぶっ飛ばす。静瑠っちの指示を待っているとドスンドスンと足音が聞こえた。なんだ身体がびくともしねえ。この感じはと静凪ちゃんがさっきまで元気だったのがとても恐怖に怯えている。
天井を剥がしながらこっちに来た音霊は逃げ遅れたらしいスタッフを鷲掴みしていた。
「階級一。これは奏汰たちには無理だよ。一旦撤退しようか。静音無空間!」
壁が空き俺らはそこから撤退するとそこに待っていたのは嫌太郎が串足を食っている。
「どうだ?」
「どうだじゃない。大切な一日を台無しにするだなんて卑怯だ!」
「卑怯?卑怯は静瑠のほうだよ、奏汰。まだ教えてもらってないらしいな。さっさと奏汰に教えてやれよ。うじうじしているから、こうして邪魔してるってわけ」
「は?何言って……静瑠っち?」
俺の肩に静瑠っちの手が乗っかり静瑠っちが俺の盾となる。
「大切な時間を奪われるのは承知してたよ。ただ奏汰に話すのは全てが終えてからだ」
「へえ。そう言ってるけど、お前の娘がどうなっても知らねえぞ」
えっとさっきまで俺の隣にいた静凪ちゃんがいなく、静凪ちゃんの叫びに俺らは後ろを振り向く。
そこに階級一が静凪ちゃんを掴んでいた。これはまずいと静瑠っちを怒らせたと息を呑む。静瑠っちはサングラスを胸ポケットにしまい嫌太郎に向かって攻撃をした。
「静音無閉門!」
扉が現れ開き特定した人物を吸収しているも何も起きず、平気で串足を食べながら静瑠っちを見ている嫌太郎。違う音で静瑠っちが嫌太郎に攻撃しても一向に当たらなかった。
「静瑠は全然変わってねえなぁ。これだから何も守れねえんだよ。雑音毒烏賊!」
紫のイカが現れ俺たちに向かって墨がこっちにやって来る。しまったと俺は未佳を、陽介は皐月を守りながら避け目を瞑った。ただ何も痛みが発しないのはなぜだと目を開けると静瑠っちの音の中にいることに気づく。
「僕が変わってないだって?まあ嫌太郎は頭がこれ、だから理解していないだけだと思うけどな。そもそもここを選んだのには訳がある」
「何を言ってるんだ?ここは俺が見つけた場所。音霊に餌を与えていたのも俺だ。それをのこのこやって来たのは静瑠のほうじゃねえのかよ」
「チッチッチ。それは違う。この遊園地全体は僕の音が込められている。奏汰、姫が落ちるからお願いできるかな」
お父様と叫び声が聞こえ俺は指示通りに静凪ちゃんをキャッチすると、同時に階級一がバラバラになり散りとなって消えていった。
嫌太郎は悔しそうに瓶に入っていた串足を食べ音霊を生み出す。
「そうかよ。だったら」
いきなり嫌太郎の動きが止まり何が起きたんだと思えば音神が現れた。
「嫌太郎、静瑠の休日を邪魔はするなと言ったはずだ。なぜこうなっている?」
「俺はただ」
「言い訳は聞かない。またイカになりたいのならばそうしてやるがどうする?俺の許可なしに静瑠をやろうとしたらどうなるか教えただろ?それを守れないなら焼きイカにもなってもらおうか」
「それはやめてくれ!悪かった、悪かったよ!」
「わかっているならそれでいい。音霊、嫌太郎を連れて行け」
やめてくれと言いながら音霊に拉致られ連れて行かれる。
「さてと俺も帰って嫌太郎に処罰を与えなければ」
「なんで止めてくれたんだよ」
「俺もわからない。ただ親同士だからとも言えるのかもしれないな。奏汰は処分されるはずだったのに、静瑠は俺の子を守ってくれたようなもの。その仮はもう返したからな。次はない」
鈴を鳴らして消えてしまいどう言うことだよと言いたくても、今は静凪ちゃんがいるから聞くに聞けない。陽介たちはもう大丈夫ですと言う知らせをしに行ってもらい、俺はお化け屋敷へと入り後始末をする。
静瑠っちの情報によると、このお化け屋敷で遊びに来ていたお客さんやスタッフが続々と消える現象が起こったらしい。それで封鎖をし調査に当たっても音霊が見当たらなかったそうだ。しかし音霊はどこかに現れると判断した静瑠っちはこの件を引き取り今日訪れたってことになる。
全て明るくなったというか階級一が天井を壊してくれたおかげで明るく全てが見えた。音霊はどこにいたんだと歩いていくと小さな雑音が聞こえる。
まだ音霊いんのかよと聞こえる方角へと進み奥まった扉に到着した。ここに音霊がいるのかと開けた瞬間のことだ。
見たことがない音霊が人を食わずに抱いている。これは見なかったことにしようと音霊を倒し一般人を支えるとぬるんとした。げっあの音霊のよだれかよと思うもまだいるし、ゆっくり寝かせ他の人たちも助ける。
これでよしと静瑠っちに連絡をとり救急隊が来るのを待った。助けた人は祓恩師と連携している病院へと運んでもらい空を見上げるともう夕方になっている。
せっかくの休日無駄になっちまったなって思うも、静瑠っちと会えただけで満足している静凪ちゃんは葉言家へと帰った。
「よかったの?」
「いい。また会えるからね。それじゃあ僕らも帰ろうか」
俺らも祓音学園へと帰り、早速風呂へと入って身体をゴシゴシ洗う。音霊のよだれは臭えしちゃんと洗わなくちゃと三回頭も身体も洗い流し風呂から出た。
すっきりとリビングに入ったら静瑠っちが深刻そうな顔をして俺を待っていたのだ。
「奏汰、座って」
「おっおう」
さっき音神が言っていたのを教えてくれるのかなと向かいの椅子に座る。いつもの顔じゃないけれどなんか緊張するなと、言葉を待っていたら静瑠っちの口が開いた。
「奏汰、誕生日まで後三日だ。何が欲しい?」
へ?それと目が点になりそうなんだがと静瑠っちはいつもの顔で、ニコニコしながらほらほらと急かされる。俺が欲しいものねえと考えた結果、こうなる。
「じゃあグランドピアノが欲しい」
「グランドピアノねえってそんな額は与えられないよ。多額な金額は姫だけに使うって決めてるんだ。せいぜい一万円以内」
「けち」
「けちじゃありません」
まあそりゃあそうだと冗談で言ったつもりだからな。一万円以内かと改めて考え直すと、前にある店のショーウィンドウで一目惚れしたやつがちょうど九千円ぐらいだったはずだ。
「ここに入る前、貧乏生活だったときにある店で一目惚れした時計があるんだ。それが欲しい」
「ある店ねえ。店の名前は?」
「えっと確かクローウィスだったかな」
「よし、じゃあ誕生日に買いに行こう」
「よっしゃ。ありがとう、静瑠っち」
本当は貯金してコツコツ貯めたお金で買うつもりでも我慢してた。それは母さんを喜ばせたくて我慢してたこと。苦しい生活にさせちゃったのは俺だったし、その分母さんを昔のように明るくなってほしかった思いがあったからだ。
俺のご褒美はいつも後回しで、いつの間にか売り切れたりもう販売しておりませんってなったりだったからな。
早くあの腕時計つけたいと喜んでいるとそれとと言い出してあの件かと体勢を戻す。
「さっき音神が言っていたこと覚えている?」
「俺を処分しようとしていたってことだよな?」
「そう。奏汰は災いを齎す子として本当は入るのではなくあの時点で処分されるはずだった。会議ではほとんどの人が処分を望んでいたんだよ。それでも旋律は一番上の者に何度も頭を下げて自分の息子を奪わないでほしいと言った。もちろん、僕も奏汰を失いたくはなくて反論したよ。ただ兄の言葉で会議に出席していたものは賛同してしまった。どうせ成長し覚醒したら、この世界は崩壊し失いたくないものが失われる。そうならないために生け贄が必要だろうと」
そんなことがあっただなんて知らなかった。じゃあどうして俺は今も生かされれているのだろうかと、考えていたら静瑠っちがその続きを教えてくれた。
「兄の言葉で決定したとも思えたよ。僕も旋律も受け入れるしかなかった。そんな時に一番上の者が出した結論。奏汰を処分したいのならば、音神のように災いを齎したと判断した場合に処分すれば良い。処分と共に僕と旋律にも処罰が下される条件としてね。僕も旋律もそれを承知した。それでこの前話したように大楽家が匿っていたことがばれないようにと、僕が奏汰を引き取ることになった」
「そう、だったんだな。衝撃すぎて頭が追いつかないけど、その一番偉い人ってどんな人なの?」
「とても穏やかな人で誰もが好かれている。まあ僕は昔っからの付き合いだし、僕の言葉を一番に信じてくれる人だから止めてくれたんだと思うよ」
お偉い人が俺の命を守ってくれているだなんてびっくりだ。
「それとこの前のスマホの件はその人に報告せず、僕に渡したらしくて結構兄たち反省してた。あの人は例え奏汰が音神の子だとしても命を粗末にはさせない人だから普通に暮らして構わない。もし何か困ったら僕が直接その人に言ってあげるから安心していいよ」
てっきり上の人たちは俺のことを処分したくて堪らないんじゃないかって思ってたけれど違ったんだ。俺は生きてていいんだと安堵を感じる。
お礼がしたいと静瑠っちに聞いたらお礼は音霊を祓う祓音師として任務をこなせばいいらしい。
そのためにもまずは今度行う合宿で体力を倍以上につけることが最優先。音神はこれからもいろんな音霊を生み出し進化させているからこっちもやれるべきことはするんだそう。
その夜、自室でスマホ画面を開き一番上の人を調べていた。学園アプリには理事長である父さんしか載ってない。調べられるかなって思ったけど、そう簡単に調べられるものじゃねえか。
ふわあと欠伸が出てしまい今日はなんだかんだで疲れたとベッドに寝っ転がりそのまま寝てしまう。
⁑
静瑠っちの娘さんと遊園地に行ってきた奏ちゃんたち。私も本当は奏ちゃんと一緒に行きたかったけれど、お父さんの付き添いである商談に行って来た。
でも商談といってもお見合いのようなものだったのかもしれない。名門校に通いながら独断で祓音師をやっている家系、曲詞家。
私より二個上である曲詞薫と初対面しても、私はそんなに興味がない。薫さんは私に好意を抱いているのは理解した。それは商談が始まる前に歌っていたのをどこかで聞いたからなんだろう。商談が終えた後、薫さんに連絡先交換しようよと言われ仕方なく連絡先を交換してしまった。
まあ薫さんは俳優さんでもあるし友達が大ファンだからつい交換してしまったけどスマホが鳴り止まない。今何してるとか今度ドラマやるから観て感想聞かせてとかそんなことを送ってくる。
若干引きながらドラマ、楽しみにしてますと返信すると陽ちゃんから連絡が来て私はすぐ応答した。
「もしもし」
『唄ちゃん、三日後奏汰の誕生日らしいんだ。プレゼント用意しようって考えてるんだけど、どんなものあげたらいいのかわからなくて。それで明日って予定ある?』
「全然平気だよ。私も奏ちゃんの誕生日プレゼントまだ用意してなかったから一緒に行こう」
『よかった。それじゃあ放課後正門前で。おやすみ』
「うん。おやすみ、陽ちゃん」
切られてしまい明日ってもしかしたらと私はクローゼットから洋服を全て取り出して、洋服を選んでいった。