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縁を切った親友

 新学期が始まり期末テストも近くなって俺は遅れてこの祓音学園に転入してきたら、みんなよりもう勉強しなくちゃならない。一般人と同じような授業ならついていけるけど、ここ特殊な授業だから全然わからん。

 丁寧に陽介が教えてくれるも頭に全く入ってこない。普通の音楽ならまだいける自信があるも、ほぼ音や音霊についてだ。


「手止まってる」

「陽介先生、休憩しません?」

「奏汰は遅れてるんだから休む暇ないって言ったよね。ほらここ間違ってる」

「すみません」


 間違っているところを消し教科書をよく読み直しているとやってると唄が図書室へと入ってきた。


「陽ちゃん、私も教えてほしいところがあるの。いいかな?」

「いいよ、唄ちゃん。奏汰、逃げないでやらないと静瑠さんにちくるよ」


 それは勘弁と陽介が作ってくれた問題を解いていく。

 一度陽介から逃げた時、静瑠っちにバレて鬼の仮面を被ったようにめちゃくちゃ怒られたことが頭から離れん。音神の子なんだから理解しておかないと後で後悔するよと、叱られたもんでやるしかない。

 実施試験もあるからそっちは未佳と皐月に教えてもらっているがあの二人も鬼だ。でも指導してくれることでどこが駄目なのか指摘してくれるからいい。

 それに比べて陽介は筆記試験が全て満点という優秀な生徒なのだ。そのせいでもあるのかこんな難しい問題まで作れてしまう。


「やってるねー」

「静瑠っち」

「陽介ちょいと二人借りてもいいかい?」

「どうかされたんですか」

「いやーまあね。すぐ終わるから新しい問題、作ってあげといて」


 了解ですと敬礼してまだ問題解かせるつもりかと言いたくても、俺と唄を連れて行くってことはなんかあったのかと感じる。 


 学校から出て学園の中にある本部へと入った。入ったことがなかったからちょっと興奮しつつエレベーターに乗り動く。到着しエレベータから降りるとここは病棟のフロアか。看護師や医者がたくさんいた。

 病室の一室に入りそこにはなんと母さんが寝ていたのだ。父さんも無事でよかったと母さんの手を握っている。


「お母さん。ごめんなさい」


 唄はもう片方の手を握りよかったと安心できたし、母さんの鞄多少汚れてるけど何もされていなくてよかった。


「正門の前で倒れていたところ警備員が発見した。音も確認したけど音にかけられたような痕跡はない。ただ妙なんだよ。あの時点で音神は音美を奪ったことは確定していた。それなのに後も簡単に音美を解放するとは思えない。今は上が会議を行っていてどう結論が出るかを待ってるってところかな」

「それでも無事に帰ってきてくれたことには変わりはない。今は家族の時間にしてもらえるか?」

「お好きにどうぞ。奏汰も一応家族なんだし、たっぷりそこにいていい。但し試験が近いこと忘れないようにね」 


 ぽんぽんと俺の肩を叩き病室の扉が閉まる。母さんごめんなと唄の隣へと行き、いつ目を覚ますのかは知らねえけど奇跡しかない。

 母さんの仇を取るためにも頑張らなくちゃな。母さんがここにいるならもう安心だし、後は音神を倒すことだけを考えよう。


「奏ちゃん?」

「母さんの顔見れたから、俺戻るよ。もう勉強して音神を倒す方法を探す。母さんが起きたら教えて、父さん」

「頑張れ、奏汰」


 それじゃあと扉を閉めて学校に戻る前、スマホが鳴り非通知からだった。

 静瑠っちから非通知の電話が来たら無視すること。これ絶対って言われてたな。

 無視して図書室に行こうとしたらまたかかってきやがって俺をイライラさせんなってポチッと押してしまった。やべえと切ろうとする前に、懐かしい声が聞こえたから耳に当てる。


『助けてくれ、奏汰!』

「どうして俺の連絡先知ってんだよ、剣雅」


 一宮剣雅いちみやけんがは中学の時連んでいた奴で、ちょっとした喧嘩の原因であっちから縁を切った奴だ。それにこの連絡先は上からいただいたものだから情報は漏れないはず。もしや音神の内通者がいるのだとしたらやばくねえか。


「剣雅、落ち着け。今どこにいる?」

『使われていない廃工場覚えてるか?そこに今隠れて』

「剣雅?剣雅返事しろ!」


 剣雅の声が途絶え俺は一度切り静瑠っちに連絡をしながらあの思い出の廃工場へと急ぐ。静瑠っち出ろよとスマホをぶら下げたまま俺は全力で走った。


 縁を切ったけど失いたくねえだちだ。間に合ってくれと走っていたらバイクが俺の前に来てヘルメットをくれる。誰かと思えば静瑠っちで後ろに乗り廃工場へと向かってくれた。

 殺さないでくれと剣雅の声が聞こえまさか音神がいるのかと焦る。接触したらこのスマホが起動するようになってるんだ。


 到着しバイクから降りて剣雅の声と雑音の音がする工場へと入った。そこに見たのは剣雅の他にも剣雅と同じ制服を着ている男子が捕まっている。


「剣雅!」

「ひっあっ助けてくれ!」

「今助ける!」


 俺は鞘から剣を抜き二本指を立てる。縄で縛られているからここは未佳が教えてくれた炎でやるしかねえな。


高音炎桜蘭こうおんえんおうらん!」


 刃が赤い色に染まり集中して縄を切った瞬間、地面から音霊が口を開けてきて、しまったと思ったその時。


静音防岩山せいおんぼうがんざん!」


 静瑠っちが音をかけてくれたことで口に入ることはなく助かった。しかし岩が砕け始めて俺は剣雅を引っ張り後二人は静瑠っちが助けてくれる。

 

「なんだよあれ」

「音霊だよ。それよりなんで俺の番号を知った?誰から聞いた?」

「首に鈴をつけたやつが俺宛の手紙だってくれたんだよ。その手紙の送り主が奏汰だった」

「それ今も持ってる?」


 おうと制服のポケットから取り出して静瑠っちが確認をし始め、ここで待ってろと剣雅たちに伝えて俺は音霊を祓う。

 まだ高音炎桜蘭の術が切れてないからそのまま倒すかと俺は斬る。倒せたかとみると修復し始め印がついているのか。

 印を消さないと無理らしくどこにあるんだ。神社の時は陽介たちがいたし総攻撃だったからすぐ消えたけど、今回は俺と静瑠っちだ。二人で倒せるものなのか。階級は三だぞ。


「奏汰、ここは撤退した方がいい」

「だけど音霊を見逃すわけにはいかないだろ?」

「いや、一般人を守るのが最優先だ。それにちょっと厄介ごとも増やされたしね」

「ナルゲニ、ナルゲニ!ダナガ、ゲデイオ、ゲデイオ!」

「こう言ってるし敵意はなさそうだ。ほら立って。攻撃してこないうちに逃げるよ」


 なんか納得いかねえけど一般人を救うのも俺たちの役目らしいから廃工場から脱出した。

 剣雅以外二名は音霊の存在を見ていなかったこともあり、二人は先に帰ってもらう。そして今回音撃者となった剣雅は祓音学園に連行された。


 本部にある取調室で取り調べを受けている剣雅は静瑠っちにどういうことだよと訴えている。なぜ剣雅だけが音撃者になったのかそれがまだ特定できていない。

 普通なら生まれつきか音楽関係をしている家庭ではないと音撃者にはならないんだそうだ。遥の家もそういやピアノが置いてあったのを思い出す。

 しかし剣雅は音楽に一切関係なくバスケ部一本でやってきた男だ。音楽を聴いたりはするだろうけどそんなに関わってはいないはず。それなのに音撃者となった原因の一つはきっと俺との関係で音撃者となった可能性が高いとみていい。

 それを伝えたいのだが絶対に入るなと言われてただ隣の部屋で見ていることしかできなかった。まれに音神の仲間として動いている人も少なからずいるからあまり俺と接触させたくないらしい。見ていると陽介が入って来た。

 

「奏汰の友達って聞いたけど、運動部系の友達。てっきり文学部の子かと思ったよ」

「なんつうかピアノ離れできるかなってバスケを少し教えてもらってたことがあってさ。でも結局、俺はピアノが大好きなんだって改めて感じで、部活には入らず放課後はずっと音楽室でピアノ弾かせてもらってた。それからかな。剣雅が部活忙しくなったことで、剣雅の方から縁を切られた」

「縁を切ったんじゃないと思う」

「え?」

「あいつ本当は部活が忙しくても、奏汰と遊んだりしたかったんじゃない?私物品見させてもらったけど、そこにボロボロになった音楽についての本があったよ。随分と読み込んでたっぽい」


 その本、俺があげた本。ずっと持っていただなんて思ってもみなかった。


「だからなんでも言ってるけど、鈴男の協力者じゃねえって言ってんだろ!」

「まあまあ、カツ丼食べる?」

「いらねえ!てか奏汰呼べ!いるんだろ!」


 立ち上がってこっちみてきたけれど向こうからは、俺がいることは見えていない。どうするの静瑠っちと様子を伺っていたら手を組んで座りたまえと剣雅に言っている。渋々と剣雅は座り静瑠っちの質問を聞いた。


「本当に奏汰とは中学以来会っていないってことでいいんだね?」

「あぁそうだよ!それ同じ質問だろ!いい加減信じろよ!」

「ふむふむ。やはりこの手紙には音が込められてる。ちなみにこの四人の誰に会ったかはっきり覚えているかな?」

「一番左のやつが奏汰と知り合いで俺にその手紙くれて、指定された場所に行ったらあのバケモンが出たんだよ。それで一瞬で紐で吊るされた」


 ありがとう、少し待っててと静瑠っちは写真を集め席を外し取調室から出た。そして俺が入っている部屋に入ってきてこの人物に見覚えはと聞かれる。

 短髪に首には鈴がついている男で俺は一度も会ったことがないと首を横に振った。


「彼は真実をただ言っているだけだから釈放してあげることもできる。ただ音撃者となってしまった以上どうすることもできないんだ。音霊ともう関わりたくなければ、十八歳まではここにいなければならない音法律が存在してね。奏汰の言葉なら彼は受け入れてくれると思うから伝えといてもらえる?」

「俺と関わったせいで剣雅が音撃者になったってことでいいんだよな」

「そこはまだわからない部分があるけど、とにかく伝えて。僕は上に報告してくるからさ」


 静瑠っちは上に報告しに行ってしまい、ちゃんと向き合うべきだよなと俺は剣雅がいる取調室へと入った。


「やっぱりいるんじゃねえかよ。……奏汰、俺」


 パイプ椅子に座りなんか緊張するなって感じながら仲直りをちゃんとしよう。


「ずっと避けてて悪かった」

「俺こそごめん。音楽室にずっと引きこもって剣雅の気持ち知ろうとしなかった。俺があげた本ずっと持っててくれてたんだな」

「まあな。でも奏汰と向き合いたくても向き合えなかったのは本当だ。部活で忙しかったのもそうだし、ほら名門校の子を殴った件で、部活の子達が奏汰を攻めた。俺は奏汰のだちなのに相談に乗ってあげられなかったし、部活の奴らと一緒で俺も関わるのはもうやめようって思い込んじゃって。だけど心のどこかでは謝りたくて、いつもスマホを取り出して奏汰に連絡しようか迷ってたんだよ」

「悪い。スマホ高校入る前に捨てたんだよ。これ以上傷つけたくはなかったからさ」

「だろうなって思ったよ。それで今こんなところで何やってんだ?」


 やっぱりそうなるよなと全ての打ち明けていいものなのかなと考えていると陽介の声が俺の耳に聞こえる。大丈夫と言ってくれたことで俺は全て打ち明けることにした。 

 俺が打ち明けている間、何も言わずちゃんと聞いてくれることに有り難みを感じながら静瑠っちが言っていたことも伝える。


「それで申し訳ないんだけど、祓音学園に転入してもらわなくちゃならない」


 そのことを伝えると剣雅は下を向いてしまいやっぱりバスケは手放したくないよな。ずっと小学校からバスケをやっていたって言ってた。


「目には見えないものが実際に見えるだなんてな。まあなんとなく理解はしたよ。ただバスケができなくなるのも、もう勉強して合格した学校を辞めたくはない」


 そりゃあそうだよな。誰だってせっかく合格した学校を辞めることになるんだ。俺だったらごめんだよ。

 ここは静瑠っちと交渉するしかないか。そう思った時だった。顔を上げて懐かしい笑顔を見せながら俺に言ってくれた言葉がぐさっと刺さる。


「それでも奏汰とちゃんと向き合いたい。だって俺たち親友だろ?それにこっちの方が楽しそうだしな。別にいいよ」

「剣雅、ありがとう」


 剣雅がそんなこと言ってくれるとは思わず、喜びが溢れながら剣雅は祓音学園に転入することが決まった。

 手続きを済ませ一度荷物を取りに家へと帰る剣雅。よりもっと楽しい学校生活になりそうだなと夜空を見ながら陽介と夜遅くまで試験勉強していった。


 その翌朝、傷を負った隊員が俺の家を訪ね、転校するはずだった剣雅が遺体で発見されたそうだ。場所はあの廃工場。俺は思わず家を飛び出して廃工場へと行こうとしたが正門のところに静瑠っちが立っている。


「行かせないよ、奏汰」

「行かせろよ!あの時、音霊を倒せていれば剣雅は死なずに済んだ!そうだろ!」


 咄嗟に俺は静瑠っちの胸ぐらを掴みなんとか言えよと怒鳴ると、やめなよと陽介の手が俺の腕に乗っかた。

 失いたくはなかった。よりによって音霊がいた場所に遺体があっただなんて信じたくはねえよと立ち崩す。

 これからいっぱい剣雅や陽介たちと楽しく思い出を作れると信じてた。それなのに剣雅はもうこの世にはいない。あの時点で音霊を祓っていればこうはならなかったはずだ。

 俺と会っていなければ今も生きて、大好きなバスケをしていたんだろうな。静瑠っちがしゃがんで俺の頭に静瑠っちの手が乗っかる。


「ご遺族には不慮の事故として処理をさせてもらったよ。葬式は明日行われるそうだから一緒に行こう。陽介、奏汰を頼む」


 静瑠っちまてよと手を取りたくても足が動かず、静瑠っちは本部へと向かってしまう。陽介が俺の服を引っ張りながら俺の家へと戻した。


 家の周辺には陽介たちがいて俺があの廃工場へと行かせないために見張っている。

 俺は自分の部屋にあるベッドに寝っ転がり昨日撮った写真を見ていた。剣雅が再出発する前に写真を撮ろうぜって撮ったものだ。連絡先も交換してまた明日なってあんな明るく俺に見せた笑顔が今だに忘れられない。

 なんとしてでも抜け出して廃工場へと行かなくちゃならねえ。仇をとるとかじゃない。ただどうして剣雅はまたあそこへと行ったのか知りたい。


 トントンとノックが聞こえ俺は布団に潜ると同時に扉が開いた。ベッドが沈み唄の声がする。


「聞いたよ。音撃者となった奏ちゃんの友達が亡くなったって。辛かったね」

「唄……。あの時倒していれば助かったと思うか?」

「うーん。それはわからないよ。倒したとしても倒さなくても変わらないと思う。ただまだ奏ちゃんに言うなって言われてるんだけど、もやもやは消したいでしょ?」

「なんだよ」

「音神の下で動いている人たちの誰かがやったことらしいの。静瑠っちはその人たちをいつも追ってる。なぜだかわかる?」


 その人たちを追っている理由……。よくわかんねえけど音神と会った時、なんか久しそうな声だった。でもそれとこれとは別に追っているとしたら。


「静瑠っちの奥さんを音神のところに連れてったのがその人たちなんだって。静瑠っちが留守にしている時に葉言家の本家が襲撃されたらしいの。なぜ奥さんだけを奪ったのかはまだはっきりしていないから聞き出すとか言ってたよ」


 俺はなんも静瑠っちのこと教えてはくれなかったけど、俺は聞こうともしなかったのもある。いつもヘラヘラしてるけど実際は結構考えて行動していること。

 それと俺は人と向き合わないせいで相手がどんな気持ちでいるのか知ろうとしなかった。そのせいで俺は剣雅を死なせちゃったのかもしれない。ちゃんと向き合っていれば、剣雅の人生は終わらなかったはずだ。

 ごめん、ごめんな剣雅。シーツを強く握り後悔の涙を流している間、唄は子守唄のように俺の声をかき消してくれた。


 お通夜、俺は目が腫れながらも静瑠っちに連れてってもらい剣雅のお葬式へと出席した。ちらほらと中学の同級生やバスケ部の先輩後輩、高校の同級生などいる中、俺と静瑠っちは隅っこにいる。

 昨日、泣き止んだ後、静瑠っちにある程度の情報を教えてくれた。あの時点で剣雅と一緒に吊るされていた生徒も剣雅と同時刻に亡くなったそうだ。音によって殺された人は結構いるそうで警察も見抜けないこともあり、不慮の事故として処理が行われるんだそう。

 しかし祓音師である人は音がかかっているか、かかっていないか、見抜けるらしく依頼が来た場合は遺体を確認する。

 今回引き取るはずだった剣雅の遺体を確認した際に音がかかっていることが判明。その後、他二名の自宅に隊員が訪れたが、首を吊って亡くなっていたそうだ。

 どんな手口の音かはまだ断定はできないけれど、静瑠っちが剣雅に聞いていた人物を捜索に当たる。もちろん、葬式を終えたら俺も参加させてもらうことになった。


 ひそひそと悲しい声が響いており耳を塞ぎたくても我慢しなくてはならない。クラスメイトを失うのは辛いよなと遺影の写真を見る。剣雅の仇は俺が必ずとるよ。だから安らかに眠ってくれな。


〝ダゲヅミ〟


「静瑠っち」

「来ちゃったね。僕らはお暇しよう。ここを汚されたくないからね」


 お通夜が行われている最中でも俺と静瑠っちは会場を出て、雑音を頼りに走ると駐車場にこの前倒さなかった音霊がいた。

 

「ダナガ、ダゲヅミ!」

「俺を見つけてどうすんだよ、音霊。お前は消えてもらう!」


 鞘から剣を抜き二本の指をつけて、術を込める。柔らかい音霊のようだからいつもの技は出せないだろうと思い、炎系で仕留めてみせようじゃん。

 

高音炎弾雨こうおんえんだんう!」


 赤い刀になり集中して刃を縦に振ると高音が鳴り炎の雨が降り注いだ。音霊がダレラヤと言いながら灰となって消えていく。けれどこれで終わりではなく階級四の音霊が数体出現した。 

 階級四が数体出るだなんてなともう一回刀を縦に振り、周りの数体も炎によって焼かれる。これでと思いきや炎を吸収しやがった。なんでだと思考を膨らませていると串足を加えながら現れた人物がいる。


「よっ静瑠。元気そうだな」

「嫌太郎の音に早く気づけばあの子たちは助かった」

「俺の音に気づかないだなんて幼稚園児かよ。まあいつもお前は俺の音に見抜けないで、他人が簡単に死ぬ姿が面白すぎて泣けるわ」


 お前が殺したのかよと怒りが強く出てしまい、そのまま音を変えずにその男をやろうと攻撃をした。だが弾かれてしまい呑気に串足を食っていやがる。なんか腹が立ちムカついているといつの間にか音霊が来てしまい倒していく。


「嫌太郎、お前に聞きたい。なぜ美静みしずだけ攫った?」

「あーあの女?それはだな。くっはははははは」


 嫌太郎と言う奴がいきなり思い出し笑いしやがって隣にいる静瑠っちの怒りが伝わってくる。


「お前には教えねえよバーカ!奏汰、スマホ貸してくれねえ?それを渡せば教えてやるよ、どうしてその女だけを攫ったのかをな。知りたいだろ?知りたいよな。だってお前の妻なんだからさ」


 また大声で笑いして静瑠っち怒らせると鬼以上に怖えんだよ。だからあまり怒らせるんじゃねえ。それにこのスマホは絶対に渡すもんか。だってこの中には剣雅と撮った、たった一つの画像がある。

 バックアップは取ってるけどこれは唯一、音神を捕まえる武器。そう簡単に渡すかよとスマホを握った。

 それを察していたであろう嫌太郎は腰につけている串足が入った瓶から、一本取り出し食べ始めながら食べ終わった串で音霊が出てくる。


「なんなら俺の音で作った音霊を倒してみろよ。そうすりゃあ答えてあげてもいいぜ。その代わり倒せなかったら奏汰をあの女のように連れていく。どちらにせよお前は俺の音霊を倒せないけどな」


 静瑠っちどうすりゃあいいと階級四を倒しながら階級が不明な音霊に当てていく。丸焦げになっても素早く動き、俺ではなく静瑠っちに攻撃をしていた。

 静瑠っちはただ指を二本立たせて交わしているだけ。そう言えば静瑠っちは武器を持たずにいるのはどうしてだろうか。この前、術を使っていたとしても何も持たずにただ言葉だけ発していた。

 音を変えて倒してみるかなと動きを判別しながら俺は二本の指を立たせ剣に向ける。


高音砕撒菱こうおんさいまきびし


 剣で砕いた石ころが宙に浮き俺が動くと音霊の足元に撒き散らいて高音が響いた。すると音によって階級四の音霊の身体が破裂し灰となって消えていく。


「おー見事じゃねえか、奏汰。だけど俺が作った音霊はそんなんじゃ倒せねえぜ」

「串足野郎に言われたくねえよ!」


 どんなに倒しても次の音霊が現れてしまう。静瑠っちの援護が全然できてねえし、嫌太郎の音霊に一味たりとも俺の攻撃が全く当たらない。

 早く、早くと倒していたら背後からくる音霊に気づかず捕まってしまう。やべえと離れようとも腕がたくさんあるせいで剣も取られちまうし離れることができねえ。


「ほらほら静瑠が手こずっているせいでもう奏汰ゲットしたぜ」

「奏汰!」

「俺のことは気にすんな!串足野郎の音霊をやれ!」


 静瑠っちは絶対に倒せるはずだ。だって俺の恩師のようなものじゃねえかよ。よく考えろ。音霊を倒す方法。俺を捕まえている音霊はただの階級四だ。剣がなくても肘でアタックすれば離してくれる。

 思いっきり肘でアタックしてみたら、えっと俺は固まってしまった。背後から抱きつかれた時に効果的な肘アタックで、俺の場合は離してくれる。

 しかしながら音霊はびくともせずそこが口だったのか肘をしゃぶってきた。俺は変な悲鳴をあげながら肘を戻そうとするも戻せずにいるし嫌太郎がぷっと笑い出す。


「マジでウケる。これ災人に見せびらかそう」


 パシャリと撮られ、なっと消去しやがれ。暴れたらもっとしゃぶりだしお前は赤ちゃんかって言いそうになった。もっと暴れたらこいつの口の中に身体が全部入っちまう。それは避けてえからどうすっかな。

 静瑠っちはまだ戦っているし、俺はただみているだけでいいのか。それともこのスマホを嫌太郎に渡せば解放される?いやいや、そしたら壊されて音神と接触するだけだ。俺は何に迷っているんだよ、こんな階級如くに迷いだなんて必要ねえじゃんか。


「なあ」

「どうした?」

「スマホ渡すからさ、こいつどかしてくれない?」

「それは無理な話だし、スマホはもう回収させてもらう」


 へえ近くに来てくれてどうもありがとうな。嫌太郎が近づいてきて裾に忍ばせていた音入りのナイフを取り出す。目の前に来た瞬間にナイフを振るい脱出して、嫌太郎を倒そうとしたが保護音がかかっていた。


「だと思ったな。でも残念。これは没収」

「俺のスマホ返せ!」


 嫌だ。やめろ、やめてくれと手を伸ばした瞬間、目の前でスマホが破壊され耳が痛くなるほどの音が聞こえる。それにより俺は暗闇へと落ちた。


 暗闇の中に剣雅がいて何を言っているのかわからず、追いかけても剣雅は消えてしまう。どれだけ探しても剣雅の姿はなく、ただ静瑠っちの声が聞こえ光に包まれた。ゆっくり目を開けると静瑠っちの顔が見える。


「奏汰、大丈夫か?」

「頭痛え……。あれ串足野郎は?」

「スマホを壊した直後に応援が入っていなくなったよ」

「怒られちまうよな……。ごめん」

「いい。とにかく音神が来る前に早く帰ろう」

 身体を起こすのを手伝ってもらい、まだあの音が残っているような感覚があるも家で休むことにした。


 ⁑


 奏汰のスマホを奪われた瞬間、音霊たちは灰となり消えたことで一時回避できたがそれによって奏汰が倒れた。

 壊される時も奏汰の命を奪うつもりなのか。それはまだ知らないけどなんか許せない。てっきり音神が来た時点で発動するだけだと思っていた僕は大きな間違いをしたようだ。所詮奏汰は音神の子として結局、上は排除すると確信した。  

 奏汰が寝たのを確認後、心配で来てくれた陽介に指示をする。


「陽介、上に報告してくるから奏汰のそばにいてほしい。それと奏汰にもしものことがあったら僕は奏汰を連れて身を隠す。陽介も考えてくれ」

「僕はどこでも静瑠さんについて行きますよ」

「嬉しいことを言ってくれるね。じゃあ頼む」


 陽介の頭を撫でて僕は大っ嫌いな上に報告しに本部へと行った。

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