大晦日
とりゃあとここ最近は高音を習いつつ実際に高音を使ったり、未佳に高音の使い方を教わっていた。ただなぜか俺の班だけ任務に行かせてくれず、もしや音神に接触する可能性が高いからってことなのかな。
もうクリスマスが過ぎて大晦日になり俺たちは神社に訪れていた。しかも静瑠っち付き。
何でいるんですかと陽介が嫌そうな顔で言うもんで、静瑠っちは寂しいことは言うなよとはぐらかす。
どうせ俺を監視するために来たのは確かだ。俺はてっきり焼肉屋でお肉をたっぷりいただき、寮は男子寮だよなと思いきや俺は別格枠で静瑠っちの家に住む羽目になった。
なぜなら俺は音神の息子でもあるため常に誰かが見張っていないとここにいさせないという上の者が言ったんだと。
まあその代わり屋台では好きなもの食べていいからねと言うもんだから女子二名は屋台で食べ放題をしている。
「あの人がいるとなんかやる気失せる」
「悪い。俺が家で喋っちまったせいでついて来ちゃった」
「別にいいけどさ、いつかは未佳と皐月には言いなよ?」
「もちろん。それよりまたまたごめん」
「はあ。てっきり班だけで来るのかと思ったよ。プラス女子二人にガキが一人。僕、人と接するの上手くない。これわかってるよね?」
「わかってる。まさか俺が一番最初に助けた遥が来るだなんて思わなくてさ。小等部の子達がみんな帰省しちゃったし、家族を失ったことで一人ぼっちは可哀想だよって静瑠っちが言ってて。そんで理事長の娘である唄に、静瑠っちの姪っ子でありながらクラスメイトである静香も来るとは思わなかったな」
楽しくしているのはいいけど、ここに音霊の気配を感じさっきから雑音のような音が近づいている。
それを察ししている俺らは武器を持って来ているから安心だ。
「ずっと気になってたんだけど、唄ちゃんとどういう関係?」
「急に何だよ」
「別に。でもいつも唄ちゃん、僕のこと陽介先輩じゃなくて、陽ちゃんって呼んでくれてた。だからちょっぴり呼び方が変わると寂しい」
何この子って、なぜいつも陽介が可愛いと静瑠っちが言っている言葉に理解ができたかもしれない。あまり笑顔を見せない陽介でも、実際は恥ずかしくて照れていることに気づき俺は思いっきり唄を呼んだ。
やめろと陽介が俺の服を引っ張るも唄が反応して屋台から俺たちのところに来た。
「どうかしたの奏ちゃん。何か買ってこようか?」
「そうじゃねえよ。あのさ、陽介が言いたいことがあるらしいよ」
なあにと笑顔で聞いてくる唄で、陽介は赤くなりながらそのと唄から目を離した。ったくしょうもねえなと唄に教えてあげる。
「どうして陽介のこと先輩になったんだってよ。今までは陽ちゃんだったんだろ?陽ちゃんって呼ばれるのが嬉しかったのに先輩に変わったから、ちょっぴり寂しくなったんだってさ」
パーカーのフードを深く被って俺の後ろに隠れる陽介。本当に照れ屋さんだなと唄の返答を待つと、唄もそれはとほおを染めて教えてくれる。
「昔みたいに接していいのかわからなくなっちゃって。陽ちゃんがいいなら昔のように陽ちゃんって呼ぶよ」
「陽ちゃんがいいんだろ?」
うんうんと俺の裾を引っ張りながら頷いて自分で言えよなってパコンと軽く殴る。
「じゃあ陽ちゃんって呼ぶね。あっ忘れてた。お会計」
あんず飴の屋台へと戻って行き、すでに顔赤くなってそうだな陽介はとそのまま列が進んでいく。
陽介と唄の関係性は聞いたことがねえな。後で昔話聞かせてもらおうと腕時計を見たらもうすぐ十二時になる。俺は静瑠っちたちを呼びカウントダウンをしてゴーンという音が鳴り俺たちは新年を迎えた。
お願い事はこれっしょと礼拝しお願いしようとしたら、静瑠っちが声にしてお願いしたんだ。
「生徒の健康に奏汰が悪さしませんように!」
おいおい余計なこと言わんでよろしいとやっぱりこれにしようと目を瞑ってお願いする。
母さんと実の母が無事でいますように。
一礼して階段を降りているとダゲヅミと声が聞こえ逃げろと大声で叫ぼうとした瞬間、悲鳴が上がっていく。
神社の上から音霊が現れ、一般人は見慣れてないから逃げて行った。
「静瑠っち一般人には見えないはずじゃねえの?」
「さあ。ただこの仕業はきっと音神だよ。気配は消しているだろうけど近くにいるかもしれない。注意をして、みんな」
「ダゲヅミ、ダゲヅミ!グイデレヅ、ダナガ!」
思いっきり俺狙いじゃねえかよと音霊が神社から降りて来て俺目掛けてこっちに来る。清めの場所なのに穢れさちゃ困るな。俺が逃げれば神社は守れるけど、出たらもっと大騒ぎになる。
こいつめっちゃ早いし術を込められねえじゃねえかと、参道をぐるぐる回っていたらみんなが音霊に攻撃を当てて行く。
音霊に当たったと喜んでいたら穴が空いた部分が修復し始めた。どういうことだよと、いいから音込めさせてと走りながら剣を握る。修復し始めたなんて聞いたことがねえぞ。俺の場合だとあの時一発パイプで殴っただけで灰となったのによ。
余計にわからんしこいつのサイズ感だと級三ぐらいだろう。それに音霊から聞こえる雑音は人の声。
助けて、殺して、倒して、解放してとさまざまな声が合わさり雑音のように聞こえる。早く助けてやりたいと足を急停止させ、俺は指二本を作り剣に音を込めた。
「高音砕一線!」
俺は空中に飛び音霊の頭をぶっ刺した。初めての体育でやったやつならいけるだろと思いきやなかなか砕けない。何でだよと危険を感じ剣を抜いて距離を離す。
「静瑠っち、俺いけたよな?」
「本来ならあれで倒せたはずだよ。ちょっと待って」
静瑠っちはサングラスを外し音霊を観察し始めながら、俺に指示してくる。
「音霊をおまわりさせてくれる?」
「おまわりって犬がやる芸のやつですか?」
「そうそう。それ。僕が見破るから奏汰は囮。僕が合図したらみんな攻撃を開始だ。いいね?」
俺らは返事をしてこっちだと俺は大回りしながら音霊をおまわりさせると、今だよとみんなが攻撃を開始した。するとダレラヤと言いながら音霊は灰となって消えていく。
やったなと陽介とハイタッチして、僕もハイタッチしたいと遥が言うもんだから遥もやった。
「お見事お見事。いやー新年初日から音霊と出会すとわね」
「どうしてなかなか倒せなかったの?」
唄が聞くとお昼話してあげるから静瑠っちのお家に来てねとスキップしながら先に帰っちまう静瑠っち。
余計に気になるのだがきっと上の者に報告しに行ったんだろう。この神社はもう大丈夫だよなと一応神様に音霊を祓いましたのでご安心くださいとお伝えをし祓音学園に帰還した。
今日の朝、ふわあと欠伸しながら夜中に出た音霊について教えてくれるんだったよな。ただリビングに入るとなぜか唄と父さんまでがいてびっくりした。
「おめでとう」
「あっあけおめ、父さん。って何で静瑠っちの家にいるの?」
「唄のおせちを一緒に食べたくてな。それにほとんどの子供たちは帰省しているから気づかれないだろうからと思ってな。ちゃんと話そう、奏汰」
父さんの本音が聞けるんだと椅子に座り唄が作ったおせちが豪華すぎてよだれが出そうになる。
唄が父さんの隣に座ったことで打ち明けられた。
「まずはそうだな。今まで苦労させてすまなかった」
「父さんやめてよ。今更謝れても困る。最初は静瑠っちに色々言われて、そうだったんだって結構落ち込んだよ。だけどさ、父さんと母さんに育ててくれたことには感謝してるしこれからもだよ。俺は父さんの子供でいるためにも音神と決着したい」
「そうか。嬉しい言葉をありがとう。お母さんにも聞かせてあげたかったよ」
父さん泣かせちゃったとハンカチ、ハンカチと慌てていたら唄が父さんにハンカチを渡してそれで拭う。
「実はな、父さんと母さんは離婚なんてしていないんだ」
「え?」
「びっくりでしょ?私も聞いた時は本当に驚いたよ。それで会おうってお母さんに聞いたら普通に会ってくれたしね」
「それは初耳だ。じゃあ不倫は俺の思い込みだったのかよ。俺のせいじゃなかったんだ。問題児だからてっきり心底愛想尽かされたのかと思ったよ」
「そんな風に思っていただなんてすまない。私は奏汰を引き取り母さんを唄に託したかったんだ。ただ上がそうしなければ処罰が重くなると言われてな。従うしかなかった」
誤解が解けて本当によかった。これからは普通に会える喜びが隠しきれない。
「そうだ。父さん、子供の頃、父さんが大事にしてる楽器壊しちゃってごめんなさい」
「いいんだよ。奏汰が悪いんじゃない。私がうっかりリビングに置きっぱなしにしてしまったせいでもある。気にしなくて平気だ。それでなんだが、静瑠、いい加減耳を立てずに入ってくればどうだ?」
「あっはーバレちゃったか。あけおめ旋律」
「相変わらずお前はハイテンションが高いな」
そうと俺の隣に座って唄が作ったおせちを先に食べ始める静瑠っちで、父さんが話を進めていく。
「生徒たちには私たちの関係性を知られてはならない。そこは静瑠から聞いただろう」
「なんとなく。でもどうして?」
「大楽家では代々一番多く音神に遭遇しているからだ。なぜなのかはわからない。ただ生徒の噂で音神に息子がいるという情報が漏れてしまってな。それによって大楽家が息子を匿っているんじゃないかという噂が広まってしまった。上からの指示で母さんとよく話し合い、指示に従ったということだ」
大楽家が一番多く音神と遭遇しているだなんて信じられない。そこで唄がこんなことを言う。
「私も注意はしてた。それなのに音神と簡単に遭遇しちゃったことでお母さんが奪われちゃったの」
「そういうことか。関係性は誰にも話さねえよ。こうやって唄や父さんに会えるだけで俺は十分。これからは父さんじゃなく理事長って言うから安心して」
「誰もいない場所では父さんと」
「お父さん、誰かが聞いてたらアウトでしょ?今は静瑠っちが音をかけてくれてるおかげで、こうやって話せてるんじゃん。お父さんも奏ちゃんに会えるだけで充分って思わなくちゃ。私だって普通にお兄ちゃんって呼びたいの我慢してるんだよ。全てが終えたら今度はちゃんと家族になろう。ね?」
「そうだな。今は我慢しよう。さっ冷めないうちに唄が作ったおせち食べようか」
コップを持って父さんが仕切るのかと思いきや静瑠っちが仕切る。
「去年は色々ありましたが、今年もヨロ!乾杯!」
乾杯と朝からおせちはないと思うがいいかと、唄が作ってくれたおせちを食べながら昔話で盛り上がった。
おせちを食べた後、父さんと唄はこれから大楽家の本家という場所にご挨拶をしに行き、和室で待っていてくれと静瑠っちが言うもんだから正座をして待っている。
なんかさっきみたいに真剣な話を持ちかけられるのかなとドキドキしながら待つこと数分。全然戻って来ねえじゃんと足が痺れてきたと、足を崩そうとしたら静瑠っちがお待たーと紙袋を持って来た。
「さて本当はお年玉とかのほうが喜ぶかなーって思ったんだけど、スマホ持ってないっしょ?だからお年玉の代わりに、ほいスマホをプレゼントします」
「静瑠っち、ありがたくいただきます!」
紙袋をいただこうとしたら待てと静瑠っちの手が乗っかり、どうしたんだろうかと静瑠っちの顔をみる。
「これはただのスマホじゃない。本当は言いたくない。だが言わせてもらう。これは上から渡されたスマホだ。僕がわざわざ買いに行ってはいない。本当は好きなスマホを選ばせてあげたかったのが本音。僕が言っている言葉は理解できるね?」
「えっとこうだろ?このスマホにはGPSがついており常に寝る時も風呂に入っている時も持っていなくちゃならない」
「まあそういうこと。それに一般のGPSより特殊なGPS。音神を確保する目的で音神が嫌いな音が入っているんだ。実の息子にそれを持たせ、接触したら発動するように音が込められている。まあもちろん、音神の息子だから奏汰も気絶する可能性が高い。それでもスマホを持ちたいか確認しておきたいんだよ」
「別に構わねえよ。それで今まで捕まえることも倒すこともできなかった音神を、捕まえられるなら上の人の道具になっても平気。音神が消えれば他の人たちは幸せに暮らし生きていける。俺は覚悟の上でここにいるんだ。どうってことねえよ」
「わかった。ただ僕は奏汰を失いたくはない。他のみんなの気持ちもわかっていてほしいことは忘れないこと。これ絶対。約束できるね?」
「もちろん、静瑠っち」
静瑠っちの手が離れスマホだと箱からスマホを取り出し早速起動させた。新品のスマホにはなんも連絡先も入っていなく静瑠ちとまず連絡先を交換する。後は関わりのある人たちにあったら連絡先交換してもらおうと、陽介たちが来るまでソファーでスマホをいじっていた。
その間、静瑠っちは和室の部屋でパソコンをカタカタと何か作成している。何作ってんのかなと思いつつも、さっき静瑠っちが待ち受けにしていいよと送ってくれた写真は母さんと実の母が写っている写真。この人が俺の母さん。
母親を待ち受けにするのはなんか照れ臭いから後で陽介たちと撮ったやつにしよう。早く来ねえかなとスマホ画面を見ているとピンポンと来た。
やっと来たと確認すると知らないおっさんが押したようだ。
「静瑠っち誰か来たけど出ちゃって平気か?ごついおっさん」
「平気平気」
普通にはーいと言いながら玄関に出るとごついおっさんが可愛らしい女の子を連れていた。おじちゃん誰と女の子が俺に聞いてくる。俺の方こそ聞きたいわと、固まっているとごついおっさんが喋り出す。
「音峰奏汰だな。ここに葉言静瑠がいると聞いたんだがいるか?」
「それならいます。どうぞ」
スリッパを出して俺はリビングに案内するとお父様と、その子はごついおっさんを蹴飛ばし自分から降りて、静瑠っちに飛びついた。大丈夫すかと聞くといつものことなのでとお腹を押さえている。
「やあ僕の姫。お年玉だよ」
やったーとお年玉を受け取った子は和室をぐるぐると駆け回りあのと俺は挙手をした。
「静瑠っち、その子は?」
「僕の娘だよ。後藤、娘を頼むね。奏汰に説明しておかなくちゃならないことがあるから奏汰の部屋で話そうか」
さっさと行くと言われてしまい二階へと上がり自分の部屋で、やれやれと静瑠っちは逆座りをして俺はベッドに座る。静瑠っちはサングラスを頭に乗せて人差し指を立てた。
「もう一つ、奏汰に僕の思いを知っておいてもらいたい。僕はある女性に恋をしていた。それは今も変わらない特別な女性でね。でもその女性は突然と姿を消してしまったこともあるけど、僕の家柄はちょっと複雑な関係。家柄は今度教えてあげるとして、僕は政略結婚をせざる得なかった。親の縛りに嫌と言うほど味わいながら、ごく普通にここで仕事をして幸せに暮らして、愛娘にも恵まれていた頃。僕の妻は音神によって目の前で惨殺された。そしたらさ両親がなんて言ったと思う?」
とても悲しい声に俺が予想する言葉をそのまま静瑠っちが喋った。
「お前がいながらなぜ音神を殺さなかった。なぜ救わなかったのかってさ。その言葉に怒りしかなかった。僕は親の道具じゃない。自分の道を縛った親が憎くて憎くて僕は親に見つからないよう、自分に音をかけ愛娘を置いて葉言家を出た。最低な父親でしょ?それでも愛娘には罪がないから新年の時ぐらい会ってあげようかなって。愛娘の護衛をしてもらっている後藤に内緒で連れて来てもらってるからこのことは葉言家には内緒ね」
「ちょっと待った。ここで働いていたら気づかれるんじゃねえの?」
「大丈夫。例えここで働いていようとも家族と縁を切ったこともあり、連れ戻されることは一切ないよ。まあ愛娘に会っているってバレたら殺されるかもね。そんじゃちょっくら愛娘と遊んでくるから、奏汰は陽介たちが来たらちょっと外で待っててほしい」
「おう」
椅子を元に戻し静瑠っちはサングラスをかけながら一階へと降りて、俺はそのままベッドに寝っ転がる。静瑠っちの過去を知ったことで、どうして俺を引き取ったのかなんとなく実感してしまった。
奥さんの仇をとるために俺を利用としていること。そうすれば両親に認められ、娘さんと一緒にいられる。
そこに小さな嘘が含まれていたとしても、絶対に音神を倒さなくちゃ静瑠っちは解放されないんだ。俺ができることならいつでも協力したい。そのためにもっと力をつけなきゃな。頑張ろ、俺。
一階では楽しそうに遊んでいる静瑠っちと娘さん。護衛である後藤さんという方も遊んで面白い絵ができそうだよ。
冷蔵庫から飲み物を取り出しコップに注いで飲んでいると、未佳と皐月の声が聞こえ静瑠っちに合図を送り玄関を出た。相変わらず未佳は元気がいいなとおーいと声をかけると俺に気づく。
「あれ静瑠さんは?」
「今パパ中だから外で待ってろってさ」
「え?静瑠さんってお子さんいたの?」
「あのパリピーな人がお子さんいるだなんてびっくり」
「いる。僕はずっと静瑠さんにお世話になってたし、結婚式強制的に参加させられたよ。しかも奥さんが妊娠中の時もなぜか呼ばれてさ。意味わかんなかったけどね。ただ奥さんが亡くなって葉言家から出たって本人から聞いた。よっぽど嫌な暴言吐かれたからだと思う。静瑠さんがありとあらゆる場所で行き場所を無くした子を引き取り始めたのはそれがあった後だったから」
陽介は一番最初に引き取られたから静瑠っちのいろんなことを知っていて、尚且つ静瑠っちを誰よりも尊敬しているんだと感じた。
今は家族の時間を大切にしてもらうべく、俺らは学園から出てすぐの喫茶店でくつろぐ。学園の中に静瑠っちの家があるから音霊に会うこともなく安心だから平気だよな。
陽介たちの連絡先をゲットした俺はルンルン気分になりながら新学期について話し合っていた。
「三学期到来になるけど、あたしたち四月から三年になるよね。どっちにするか決めてる?」
「んー私は家柄とかもあるし、そのまま隊員志望で動くかな。陽介くんは?」
「僕は静瑠さんのそばで働けるならそのまま隊員志望。静瑠さんは僕を育ててくれた恩を返せる場所といったらそこだ」
「二人ともやっぱ隊員だよね。あたし、ちょっと迷ってさ。静瑠さんには恩があるよ。でもあたしに務まるか不安が大きいし、一般人として大学に進もうかなって最近思い始めたんだよね。奏汰はどっち志望?隊員志望か一般志望二つ選択肢があるの」
「選べるのか?」
俺はどちらにせよ音神の子には変わりがねえし、上の人が許してくれないよって静瑠っちが言うはずだ。隊員志望で行くしかねえ。
「うん。俺も隊員志望かな。未佳はさもし一般に戻ってやりたいこととかあるの?」
「静瑠さん見てたらさ、私も教師になって子供たちに教えてあげたい。しいて言うなら音楽の先生とかかな。私、一応ピアノ弾けるの。小さい頃、ピアノコンクールでずっと銀賞だった。金賞はもちろん大楽奏汰っていう子。でもライバルだった大楽くんは七歳のコンクールから来なくなって私が一番だった。お母さんに聞いたら大楽くんは事故で亡くなったのよと言われた時、どれだけ泣いたかはっきり覚えてる。それ以来あたしはピアノから離れたことで、お母さん激怒しちゃって追い出されてから音霊が見え始めた。音霊に怯えるあたしを救ってくれたのは静瑠さん」
ごめん、それ多分大楽奏汰は俺だよと突っ込みたくても、関係性は言わない約束だからそこは突っ込まないであげよう。
「静瑠さんの背中を見て私も子供達にいろんなことを教えてあげたいなっていう夢ができた。まだ時間はあるからもう少し考えるよ。あっピアノあるね。ちょっと弾かせてもらおうかな」
未佳は店員さんにピアノを借りていいか聞いており、OKが出たっぽく未佳のピアノを聴いた。他のお客さんも未佳に注目しスマホで動画を撮る人が出てくる。
まさかあの未佳ちゃんだとは思わなかったけど、この音色を出せるのは未佳ちゃんのみだ。てっきり音楽系の高校とかに行ってると思ってた。でもこうやって巡り会えた奇跡は大きいのかもしれないと、席から立ち未佳の隣に座って一緒に弾く。
例え未佳に気づかれたとしても未佳とこうやってピアノを弾けることに感謝しなくちゃね。未佳が俺に向ける笑顔は昔、見せてくれた笑顔だと俺も笑顔になりながら演奏していった。
演奏し終わると観客の人たちが拍手して俺と未佳は軽く会釈するとうちで働かないと店長らしい人に誘われる。俺と未佳は遠慮しておきますと伝えお会計を済まし学園と戻った。
静瑠っち=俺の家に戻ってみると娘さんと後藤さんはいなく、帰って来たねとお汁粉を作っていたらしい。それを食べながら夜中で見た音霊について静瑠っちから資料を見せてくれる。
これをさっき作っていたのかと見ながら説明してくれた。
「普段生徒たちに戦わせている音霊。それで神社で見かけた音霊は左の音霊になる。さあどうしてすぐに倒せなかったのか見極められるかな」
クイズ形式ねえと俺らは二つを見比べて同じのをコピペして貼り付けたようにしか見えない。何が違うんだと見ていたら一番最初に気づいたのは、陽介だった。
「印のようなものがある」
「正解。陽介に一ポイント。そう、印があるかどうかなんだ」
「印があるとなんかあるのか?」
「印があるのはね、音神が作り出した音霊。だから普段は生徒には絶対に行かせず、先生や隊員たちが退治しているもの」
「今回はどうしてあたしたちの前に、音神が作り上げた音霊が出たの?」
「あ!音霊が言ってた言葉。奏汰くんを連れて行くとか言ってたよね。それと関係してるのかな」
ぎくっと俺はお茶を吐きそうになり咽せる。言っちゃっていいのかな。まだ言わないほうがいいか。どっちだと悩んでいると静瑠っちが喋る。
「実はね」
喋っちまうのか俺の正体と静瑠っちが喋ろうとした時だった。誰かのスマホが鳴り始めて誰だと俺のを確認するも鳴ってはいない。僕かと静瑠っちのスマホだったらしく応答しながらリビングを後にした。
「なんて言おうとしてたのかな」
「どうせ、ふざけたことじゃないの」
皐月と未佳がそんなことを言いなぜか俺の足をぐいぐいと踏みつける陽介。あぁもう言いますよ言えばいいんでしょ陽介。
「皐月、未佳。他のみんなには言わないって約束できるか?」
「急にどうしたの?」
「変だよ、奏汰くん」
「実はさ」
俺は伊達メガネを外し髪の毛を直して二人に伝えた。
「俺が狙われている理由はただ一つ、音神災人の息子だからなんだ。静瑠っちの家に住んでるのも俺を監視するため。でも音神に会ったのは転校した初日。それまではずっと……」
最後まで言っちゃっていいのかなと迷っていたら電話を終えた静瑠っちが話してしまった。
「大楽の子として育てられた。しかし上の判断により娘を守るのが最優先となってしまい、奏汰は母親に育てられ、母親から随時報告を受けていてね。奏汰は優しい子に育っているから安心してほしいと。僕もずっと奏汰を見ていたからわかるよ。まあ喧嘩を買ったり売ったりしていた頃は、本当に上から消して来いって言われるんじゃないかって冷や冷やさせられていた」
バシバシと叩かれ言っちゃったよと二人の反応は固まってるってことは相当驚いているってことでいいんだよな。なんて言われるんだかと思いきや未佳がやっぱりと言い出した。
「さっきのピアノといい、第一音楽室でピアノ弾いてたのあの奏ちゃんだったんだ。もうそれならそうと早く言ってよ」
「久々のその名前で呼ばれると恥ずかしいんだけどな未佳ちゃん」
「二人知り合いだったの?」
静瑠っちに聞かれて未佳が鞄から取り出した手帳の中にある写真を見せてきた。持ってたんだその写真と懐かしいな。コンクールで母さんが撮り、後日未佳の家に送ったもの。
「へえ奏汰と未佳にこんな過去があっただなんて知らなかったよ。まあ旋律はとても褒めていたのは覚えてるな」
「眼鏡取って今の髪の毛の方がいいと思うよ。なのにどうしてボサボサにこれ伊達メガネだよね」
「それはちょっと苦い思い出があってあまり目立ちたくはねえからだよ」
「そうは言っても、もうすでに目立ちすぎだと思うよ、奏汰」
そうなのかと陽介に聞いたらそりゃあそうだよと一斉に言い出す。初日の体育で披露したことで目立ってしまったらしい。やらかした俺としょんぼりするも未佳も皐月も誰にも言わないよと言ってくれたことで安堵を感じる。
「てなわけで音神が音霊を放っているのは奏汰を奪うため。何をするのかはまだこちらでは把握しきれてないけれど、常にこの子は狙われる対象となる。だから三人には申し訳ないけど、僕が不在な時は」
肩を組まれ俺の頬をぐりぐりやりながらお願いを頼む。
「奏汰を守ってほしい。上は多分ガーガー言って来るかもしれない。だけど僕にとって奏汰は大切な子なんだ。もちろん、僕が引き取った陽介も、未佳も、皐月も、他の子達も僕の大切な子。お願いできる?」
「俺はもう子供じゃねえぞ」
「僕はいいよ。静瑠さんの頼みなら尚更」
「まあ班になったからにはその責任は果たすよ」
「うん。静瑠さんのためなら私は平気」
「じゃあよろしくね」
俺は納得してないけどなとお汁粉を食べ、その後はなぜかカルタやろうと静瑠っちが出してきたもんでそれで遊ぶことになった。
⁑
都会にある廃墟ビル。
新年の挨拶と思って会いに行きたかったけれど、俺の嫌いな音を奏汰に持たせるとは祓音師たちもよくやる。だったらこちらも動くとしようか。
「嫌太郎」
「新年早々、俺を呼ぶってことは息子と直接会えないようにさせられたんだな。笑えてくるぜ。まあ報酬はそうだな」
串足を食いながら俺の隣に立ち報酬を述べてくる。
「串足一年分で連れて来てやるよ」
「わかった。連れてくるとき息子が持っているスマホを壊してくれれば俺は動ける」
「了解。スマホ壊せばいいんだな。楽勝。そんじゃあ行ってくる」
嫌太郎に行ってくれたから後は合図が来たら動く。廃墟ビルの地下一階に封鎖をしている部屋へと入り、さて尋問といきますかと音霊がずっと離さないでいる人物に問いかける。
「俺が言う質問に答えてもらおうか、音美」
「災人に話すつもりはない」
「ふうん。質問に答えないとそいつに食われるよ。今餌が足りてないから腹ペコなんだってさ。殺さないでって息子が言うから今は生かしてあげてるけど、生意気になったら即そいつが食べる。その前に俺の質問に答えれば奏恵に会わせてやるよ。会いたかったんだろ?俺の子供を託されたせいで人生を奪われた。相当憎んでいるんじゃない?」
俺から目を離したってことは図星ってことか。俺の息子は気づいていないだろうけど、音美は心底腹を立てていたってことをな。これは見ものだな。息子には聞こえないように音はかけているから本音を俺にぶつけてみろ。
「えぇそうよ!私は普通の生活を望んでた!それなのに悪魔の子を私に託した奏恵が悪い!成長していくたびにあの子は手をつけられない状態まで陥り、私はずっと謝ってばっか!精神的に無理になった時、娘ができた喜び。なのに私は私の意思で選んだんじゃない!娘と過ごす時間を奏汰が全て奪った!あんたがいなければ、奏汰がいなければ、私は幸せに暮らせてたの!」
これが音美の本音。奏恵はあいつの妹だから仕方なく義理の姉である音美に託したのはわかった。
「じゃあさ、取引しないか?」
「何よ」
「俺の仲間が奏汰を連れて来ようとする。まあやられるかはわからないけど奏汰をここに連れてくれば、大楽家の前からもう一切現れないことを誓う。どうだ?奏汰を連れてくれば娘と一緒に住める。いい案だと思わないか?」
「わかった」
俺の音にかかってくれてどうもありがとさん。
離してやれと逆語で伝えると音美が倒れる。しゃがみ印がちゃんとついているか確認した。うん、ちゃんと見えないところに印ができている。ちゃんとやってくれよ、音美。そうじゃなきゃ音美の夫、旋律が死すからな。
「災人」
「こらこら、家で待っててって言ったじゃん」
「でも奏人が風邪を出しちゃったの。お薬買いに行きたくても誰もいなかったから……誰?」
奏恵は奏汰が奪われたという音をかけ自分が祓音師だということも消してある。だから音美に託したとかは覚えていない。それと奏恵と関わっていた人物も消しているからな。
「俺も知らない。さっお薬買って帰ろう。その女を祓音学園の正門に置いとけば餌を与える。行け」
音霊は音美を運んでもらい、俺は奏恵と一緒に薬局へと向かう。
俺がなぜ奏汰を必要としているのか。そろそろ気づけよ、静瑠。