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祓音学園


 隙間風が入って来て布団から出たくねえと布団に包まっていると、馬鹿でかくおっはようと静瑠っちの声が聞こえる。まじで耳痛んだとばっと起き上がり隣ではまだ寝ている遥。

 ズカズカと玄関へと行ってみるも静瑠っちの姿はなくはてなマークが出来上がる。夢だったのかと思いきや段々と声が大きくなり始めて遥が目を擦りながら起きて来た。


「おはよう、奏汰。今のって静瑠っち?」

「おはよう、遥。静瑠っちの声聞こえたんだけどいねえな」


 数秒後静瑠っちの姿が見えおはよう諸君とやって来たのだ。


「すでに起きているね。よろしい」

「よろしいじゃねえよ。今何時だと思ってんだ?」

「朝の五時」

「まだ寝かせろよ」

「いやいや、これが祓音師の起床時間」


 はあとブチ切れそうになるも静瑠っちが朝ご飯を持って来たらしく居間で食べ始める。

 まさかコンビニの残り物だなんて腹が立つ。もっと朝食っぽいのを期待していた俺が馬鹿だった。おにぎりを頬張りつつ静瑠っちに聞いた。

「コンビニってどうなるの?」

「あれは潰すよ。目的は果たしたし後は撤収作業が入るぐらいかな」

「バイトしてた子もう一人いたじゃねえか」

「その子は奏汰と仲良くしてもらうために連れて来た生徒というか僕の姪っ子だよ」


 何もかも俺のためにやっていたことは理解したがコンビニに通ってくれていた人たちに申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 

 グビグビと紙パック牛乳を飲み干しご馳走さんと言うとドンっと箱が二つ置かれる。


「じゃあこれに着替えてさっさと学校に行こうか」

 

 俺と遥は制服に着替えて筆記用具等はコンビニに売っていた物をくれた。鞄に筆記用具を入れていつの間にか靴が用意されそれに履き替える。

 ドキドキが止まんねえとそういや伊達メガネはと探しているとほいっと静瑠っちが渡してくれた。それをかけ頭はボサボサにしていると静瑠っちに質問がくる。


「別にそんなことしなくてもいい顔してるのに」

「母さんと約束したんだよ。喧嘩は買わない、売らない。だからあまり目立たないようにしてんの」

「なるほどね。まあどちらにせよ、音神と関係しているとは言わないからね。遥は聞いちゃったけど、このことは誰にも言わないこと」

「はい。奏汰はいい人だもん。何も言わないしだって僕のヒーローだから」


 満面な笑みで俺をみてきて照れるじゃねえかとわしゃわしゃと頭を撫でてあげる。


「もし友達にいじめられたら俺のところに来ていいからな」

「うん!」


 遥と仲を深めているとちらほらと生徒が登校している姿にどんな生徒がいるのかな。気になりながらまず職員室へと連れてってもらった。


 職員室では俺が入った瞬間威圧感を出し、遥が入るといらっしゃいと笑顔で歓迎してくれる。なんだこの差はと俺は涙目で静瑠っちを見るも、いつものハイテンションで遥の担当先生を呼び教室へと先へ行ってしまわれた。

 遥がいなくなったことで静瑠っちの顔色が一変し無表情になって喋り出す。


「奏汰を傷つけたら容赦はしない。それとそういう態度をいつも取られるなら今すぐここから退散してもらおうか?」


 静瑠っち、俺はこういうの慣れてるから平気だよと言おうとしたら、先生たちはさっさと出席簿を取って退散してしまった。先生たちは俺が音神の子だと知っているからあんな態度を取るのは当たり前だ。

 きっと先生の中で音神によって家族が奪われてしまったからなんだと思う。

 先生と仲良く慣れると思ってたのになと落ち込んでいたら、背中をバシバシ静瑠っちが叩き、僕らも行こうかとあのハイテンションに戻ってる。よしっと気合を入れて静瑠っちに教室を教えてもらった。


 いろんな友達できるといいなって教室に到着し先に静瑠っちが入ってクラスメイトに説明をしている。あまり目立たずでも友達は必要だ。

 入って来ていいよと言われたから教室に入ってみると今でも泣きそうな勢い。殺気を感じるんですけどと足が震えそうだよ。

 静瑠っちの横に立ち笑顔がない教室に喜べるわけないじゃん。仲良くなれるもんなのかと静瑠っちが紹介をしてくれた。


「昨日、緊急に現れた階級二を音撃し見事撃破した音峰奏汰おとみねかなた。家の事情により保護させてもらった。それで今回任務に行く班はA班とC班。それ以外の班は奏汰に学園の案内とか色々教えてあげてほしい。僕からは以上だ。奏汰」

「はい」


 なんか緊張するなと思いながらクラスメイトの顔を一人ずつ見ていき自己紹介をする。


「音峰奏汰です。趣味はピアノです。こんなことが初めてで色々と教えてください」


 お辞儀をすると静瑠っちがハイ拍手と言われ拍手の音が聞こえた。これでいいのかなと顔を上げるとそれぞれスマホをいじったり友達同士で話していて、静瑠っちはホームルーム終了と即座に教室を出て行ってしまった。

 俺の机はどこだよと聞きたくてもすでにいなく、どうしようと教室を見たらバイトにいた子を発見する。


静香しずか

「席は窓側の列の一番後ろだよ。さっきは変な空気だったよね」

「まあな。なんかあったのか?」

「みんな、静瑠っちが連れて来た子でね。助けた代わりにこき使われているから静瑠っちが段々と嫌いになっているみたい」


 そういうことなのかと俺の席に座り教科書とか貰ってないけどいいのかな。筆記用具のみしかないし、俺スマホ持ってないから話題にのれるかわからん。

 スマホは中学の卒業式に捨てたし、母さんは俺が帰る頃にいたから気にしていなかった。ここでもスマホを見ながらお喋りしたりするもんだよな。

 A班とC班の子達はいろんな武器を持って行ってしまい、静香に学園を案内してもらおうかな。でも今、友達と談笑しているからと俺は机に突っ伏す。


 助けて、助けて


 はっと微かに聞こえ席から立ち窓を開け耳を澄ました。


 誰か、誰か!ネオールショッピングから出られない!


 咄嗟に身体が動き窓から飛び降り、警備員に待ちなさいと言われるも、学園から飛び出してネオールショッピングモールへと向かう。ネオールショッピングモールに近くにつれて助けを求める声と雑音のような音が聞こえる。ネオールショッピングモールは俺が昔住んでいた思い出の家の付近。


 急いでくれと懐かしい家を通過し、ネオールショッピングモールに着くと、バケモンがうじゃうじゃいた。それでも普通に入っていく人たちで見えていないからなんだ。なんとかして救わなくちゃと何かないのか周囲を探しても見つからない。

 突っ込んで行くしかないらしく、自慢の足で中に入ろうと走った直後のことだった。耳に鈴をつけ俺と同じ瞳を持つ人が現れる。

 鼓動が早くなり近づくなと脳が警報を出していた。あれが音神災人。急がなくちゃ、一般人が食われちまう。


「やあ息子、久しぶりの再会にそんな顔はないだろう」

「母さんをどこへやった?」

「実の母か?それとも育ての母か?」

「どちらもだ!何を考えているのかわからねえけど、俺はあんたを止めてみせる!」


 音神はせせ笑い何がおかしいと殴ろうとしても静瑠っちと同じように殴れねえ。


「この俺が息子にやられるわけがない。こんな風に殴ることもできない可愛い息子。近づきの印にこれを与えよう」


 音神の顔が近づき距離を離せねえし身体がびくともしない。音神は俺の耳たぶを触れ死人のように冷てえ。にっこりと微笑む音神が離れ、何をしたと耳たぶを触れるとチリンと音が鳴った。


「息子には俺と同類になってもらう。その鈴は俺しか外せない。外してほしければ祓音師を辞めて俺の元に来い」

「てめえ。息子息子って言ってるけど、俺はもうあんたの息子じゃねえ!俺は旋律と音美の子だ!」

「じゃあ実母は殺していいってことだな?可哀想でも育て親の方が大事なら美味しくいただくとしようか」

「待て待てそういう意味じゃねえ」

「ん?本当の母親に会いたくなって来たのか?」


 やばい誘惑されていて俺はどうすりゃあいいんだと耳たぶを触る。なんて答えりゃあいいんだと悩んでいたら、全く世話の焼ける子だと目の前に静瑠っちが来た。


「息子との再会を邪魔して悪かったね、音神」

「邪魔はしないでもらえるか?」

奏恵かなえと音美を返してもらおうか?ここはもうすでに封鎖した。今すぐ手渡せ」

「残念にすぎない。今回ばかりは息子との再会に満足したから餌をいただいて帰る。また会おう、奏汰。大丈夫、実母も育ての母も俺は殺したりしない」


 そう言って音神はバケモンと一緒に撤収し、俺は静瑠っちの平手打ちを食らう。


「この馬鹿!なぜ学園を出た?一歩遅かったら今頃音神の手に入っていた!旋律と音美が必死に守ってきた思いを全て台無しにすることになってたんだぞ!」


 静瑠っちが叱るのは父さんと母さんの思いを尊重しているからだと知る。俺は二人の思いを捨てるところだったんだと、じわじわ来ちゃった。


「ごめん、静瑠っち……」

「わかったならいい。後の処理を頼む」





 静瑠っちと一緒に来た人に指示を出した静瑠っちは俺を学園へと戻した後、再び現場へと戻って行く。静瑠っちの平手打ちまだ痛えと、頬を押さえながらとぼとぼと教室に戻った。

 静香に心配されながらも席に戻ってふて寝し、ごめんなさいという気持ちが一気に溢れ出す。

 俺を守るためにやって来たのにあっさりと接触して鈴までつけられた。この鈴になんの意味があるのかわからずとも、申し訳ない思いがとても強い。

 ショッピングモールにいた人たちは全員いなくなっちゃったのかな。助けられた命はあったはずなのにと、ズンとしていたらバコンと叩かれる。


「痛えよ」

「負のオーラ出さないでもらえる?」


 頭を押さえながら前を向くと前に座っている男子で名前そういや覚えてなかった。なんて言えばいいんだろうと考えていたら名前を教えてくれる。


「僕は符時陽介ふときようすけ。静瑠さんに叱れて落ち込むのはわかる。僕も静瑠さんに叱られてばかりだから」

「静瑠っちが?あんなハイテンションでいるのに?」


 質問すると俺に背を向けてしまった陽介で聞かれたくなかったのかと悟る。静香が言っていたな。静瑠っちの生徒は静瑠っちが連れて来た子たちだって。みんなも色々と抱えているものがあるんだなと暇だし音楽室に行きてえ。


「なあなあ、陽介。音楽室ってどこにあんの?学園広すぎて場所あんま覚えてなくてさ」

「二階に第一音楽室がある」

「やりい。昼休み使わせてもらおうっと。あっ授業ってどんなもん?」

「午前中は音について。午後はずっと体育で体力を高めたり、武器で体力勝負する」

 へえ、一般の授業じゃないから楽しそうと思い先生がやって来て、午前中の授業を二時間目から参加した。




 地獄だと俺は第一音楽室へと入りため息が零れちまう。訳のわからんことばかりでついていけず、三時間目をほったらかしにして、陽介が教えてくれた第一音楽室へと逃げてしまった。

 二時間目の授業で脱落するぐらい理解度が低い。種別やバケモンの能力など。みんなは教科書を持って答えているが、俺はなんも渡されていないから答えられなかった。

 俺は音神の息子だから教科書は渡さなかったのかなと静瑠っちの顔が浮かぶ。うん、あの顔をみると忘れてたとか言いそうだな。

 先生も俺が音神の息子だから全て把握しているだろうという雰囲気だったから何度も当てて来やがって。俺は初心者だっつうの。

 

 一曲弾いたら教室に戻るかとピアノの上にある布を畳み久々のピアノに触れた。離婚してからバイトをするまではピアノに一切触れてはいなかったな。けどピアノ弾ける人募集中という張り紙を見つけて見事合格。夜のバイトはピアノに触れることが嬉しくて、そのバイトが大好きだった。だけど俺がバイトをして一年後、その店が潰れてしまい、それ以来ピアノには触れてはいなかったな。

 

 音を確認し母さんが大好きだったヨハン・パッヘルベルのカノンを弾く。母さんに届いてほしいという思いを寄せて、あの頃に戻りてえな。家にピアノがあった時、父さんと母さんがソファーでくつろぎながら耳を澄まして俺の演奏を聴いていた記憶。

 

 母さん、殺されないように俺、頑張るから見ててねと最後の最後できゃっと声が聞こえたからピタッと止まってしまった。誰と扉のほうを向くと女子たちが集まってしかも女性の先生方も聴いていらっしゃったのだ。

 これは観客に失礼だと俺は最後の最後まで弾き終わったけれど、もう一曲弾こうかなとそうだな。これにしようと音を奏でていく。父さんが一番好きな曲、ヨハン・ゼバスティアン・バッハ『主よ、人の望みの喜びよ』。


 父さんがこの学校にいるのか別の任務でいるのかは知らないけど、父さん俺はここにいるよと伝えたい。弾いているとざわざわと女子や先生が理事長と言う声が聞こえるも、俺はそのまま弾き続けるとヴァイオリンの音色が聞こえる。この音色まさかと横をみると懐かしい背中に父さんって言いたかった。

 それでも静瑠っちに言われていることがあった。例え父さんや妹に会ったとしても一緒に暮らしていたことは、他の生徒たちは知らない。だから赤の他人として振る舞えと言われた。

 あの七年間は俺にとって大切な思い出となったことを誇りに思う。ありがとう、父さんと終わり一斉に拍手が鳴り響いたから俺はペコッとお辞儀した。


「大きくなったな、奏汰。また演奏しよう」


 そう父さんは言葉を残し父さんが音楽室から出て行ったことで女子たちに囲まれ、リクエストがじゃんじゃんと来てしまう。先生が授業と手を叩きまた聞かせてねと撤収していった。

 父さんは理事長だなんて思わなかったけど、会いに行ってもいいのかなとピアノに布を引いて第一音楽室を出る。


 理事長室に行けば父さんと話せるよなと理事長室はどこだっけと廊下をうろちょろしていたら誰かに腕を掴まれた。んとよくみると女子がぷうっと頬を膨らませている。どこかで会いましたっけと固まっていると妹の幼い姿が浮かんだ。

うたなのか?」

「私も参加したかったよ、お兄ちゃん」

「しー!一緒に暮らしていたことは秘密って言われてんだよ。だから奏汰でいい」

「じゃあお母さんがよく言っていた奏ちゃんって呼んでもいい?」

「うん。そっちがしっくりくる。てか授業サボるな」

「奏ちゃんだってサボってるじゃん。私、もう奏ちゃんから離れたくないよ」

 あんま近づくなよと引き離そうとしても唄は離れてはくれず、寂しかったよなと昔みたいに頭を撫でてあげる。


「奏ちゃん」

「ん?」

「私ね、お母さんがいなくなる前、お母さんと会ってたの。昔みたいにおしゃれして可愛い鞄持って一緒にお買い物してた。それで別れ際に音神がお母さんを奪って、お母さんを返してほしければ奏汰を差し出せって言われたの。でもっでもっ奏ちゃんは私にとってお兄ちゃん。だから失いたくない。お母さんも失いたくはないよ」

「ありがとな、唄。俺はどこにも行かない。もう唄からいなくなったりしないよ。大丈夫、母さんは俺が必ず救うから、唄は唄にしかできないことをして」

「私も手伝う。だって家族だもん!」

「わかったよ。一緒に救おう。だからもう俺から離れよう。男子に変な目で見られたら嫌だし」


 また頬を膨らませる唄でもしょうがないなと俺から離れてくれて、また聴かせてねと言いながら自分の教室へと戻った。父さんと話したかったけど、いろんなことを覚えなくちゃと俺も教室へと戻り授業に励む。


 午前中の授業が終わり全然わからないとダウンしていたら、陽介が机を逆にし向かい合い一から説明をしてくれた。


 バケモン全てを音霊おんれいと呼ぶらしい。それで音霊には階級があるそうで七段階があるそうだ。ピラミット形式を見せてくれる。


 階級七は主に駅のホームや自販機にいる小さな音霊で一番祓いやすい音霊。階級六は乗り物類にへばりついている音霊でも剣では傷つけてしまうため、階級六は弓か銃でやるべし。階級五から階級一には人や動物が関係しているらしく、音霊が人を食べた数によって振り分けられるらしい。

 階級五は一人から十人、階級四は十人から五十人以下、階級三は五十から百以下、階級二は百から千以下、階級一は千以上。  

 食べる数によって大きな姿になるため音撃者や祓音師にも見つかりやすいこともあり、あまり階級一から階級二は見ないそうだ。

 遥の家にいたのは階級二って言ってたよな。てことは百から千以下をあの音霊は食べていたってことになる。


「ちょっと悪い。小等部に知り合いがいるんだ。ちょっと行ってくる」


 あんな大きい音霊がずっといただなんておかしすぎるだろと遥がいる教室に行ってみると遥の姿がなかった。まさか消されたとかじゃねえよなと小等部の子に聞く。


「今日転校してきた子ってどこにいるかな?」

「遥くんのこと?それならできた友達を連れてさっき食堂に行ったよ」


 ありがとうと告げて食堂の矢印の方角へ走っていると遥ができた友達と話しながら歩いている。


「遥!」

「奏汰」

「あのバケモンはいつからいた?」

「音霊?えっと生まれた時からずっといたよ。それがどうかしたの?」


 遥が言っていることが本当ならばご両親やじいちゃんやばあちゃんはきっと殺人者。音霊が見えていながら殺した人を与えていた。それを知らないまま生活していたってことになる。遥は何も知らなさそうだし今は伏せておくべきかもしれない。


「ありがとう、教えてくれて。また後でな」

「うん!」

 

 何も知らないまま生活させておくべきだよなと見届けていると僕の隣に来た陽介。


「陽介、どうしよう。ちゃんと言うべきなのかな」

「わからない。音霊が成長していく姿をまじかであの子は見ていた。ご両親も音撃者でありながら、音霊を飼っていたなら違法行為と見做し、音霊と共に祓わなければならない。あの子は正義を持ってご両親を祓ったつもりでも、音霊が倒せなかった。そう考えるしかない。お腹空いた、僕たちもご飯食べよう」


 あの時、遥の決意の中に本当は言いたくないことがあったから嘘をついたんだろうな。

 俺も腹が減りそうだなと俺たちも食堂へと行き俺はAランチを頼み、陽介はBランチを頼んで食べながら続きを教えてもらう。

 今度は音式を教えてくれた。音式は四種類あるらしい。高音、低音、微音、そして限られた人しか使えない静音があるそうだ。


「静瑠っちも静音?」

「そう、静瑠さんは静音だけを使う凄腕の人なんだ。一緒に任務行ったことあるけど、音霊が来たとしても音も立てずあっという間に灰となる。みんなも静音を試してみるもいつも微音の音になるんだ」


 俺はとんでもない人に拾われたんだなとパクッと食べていると、何々といつの間にか俺の隣に静瑠っちがいる。

 思わず食べたものを静瑠っちにかけそうになり口元を抑えた。


「僕を褒めている陽介の声が聞こえたから来ちゃった」

「僕は別に褒めてはないです」

「照れちゃって可愛いな。そうだ。音神につけられた鈴よく見せて」

「音神に会ったの?」

「そうなの。ちゃんとお留守番していると思ったら現場に来た挙句、音神に出会したから叱ったのさ」


 だからかと納得したらしい陽介で鈴を確認し始める静瑠っち。

 鈴になんかあるのかなとじっとしていると何もなさそうだと買ってきたらしいカフェオレを飲み始めた。


「ただの飾りみたい。上の者がさ、つけられた鈴を確認せよって言われて超ビビったわ。もし何らかの音が込められていたら即奏汰と僕はこれだから」


 殺されるポーズをとりそりゃあそうだよねと今後は気をつけなくちゃとパクッと食べる。


「んで音神と出会ってどうだった?」

「どうだったって言われてもなんともないです」


 ここでは言えない。だって俺の顔が音神似、つまり父親似だったことでちょっとショックがでかい。だからなのか初対面であった先生たちが音神じゃねえのと威圧感を出していたのはそういうことだったのか。


「陽介は音神に会ったことないの?」

「僕ら生徒たちは一度も出会したことがないよ。先生たちはしょっちゅう見かけるみたいだけどね」

「僕は任務に出る度に会ってるよ。息子は返してもらうってね」


 そこ言うか普通と食べていると陽介がこんなことを言い出した。


「息子がどんな人生を歩んでるか知らない。だけど息子だからってなんなの?音神は音神で息子は息子。例え音神の息子がこの学園にいたとしても、僕は普通に接する。息子が悪さをしようとしたら僕がこの手で止める。だから安心していいから、奏汰」

「なんで」


 箸が止まって話してもいいですかと静瑠っちに聞くと、静瑠っちが指を二本立たせると凄いうるさかったのがとても静かになる。みんなは口が動いているのになんも聞こえない。これが静音の音式。


「これでいいかい?」

「感謝します、静瑠さん。それでみんなには階級下三級って言ってるけど、実際は違うんだ。僕の階級は特級二級の音が聞こえる。世界の半分まで音を拾えちゃう。それでつい、奏汰が急に学園を出たから何かあるんじゃないかって耳を澄ましちゃった。ごめん」


 いきなり謝れてなぜ謝れたのか最初理解できなかったが、よくよく考えてみたらここは音撃者が集まった場所。いろんな音や声が聞こえるのは当たり前だ。

 俺が音神と接触したことで何人かの生徒に気づかれた。そしてその一人が陽介だってこと。


「謝らなくていいよ」

「謝らせて。奏汰と会うまで僕は勘違いしてた。音神のように息子も悪いことしているんだって思ってたから。でも実際は違った。音神の存在をあまり知っていなかったし、子供にも優しい姿を見せていたから、奏汰はいい奴なんだって理解ができた。だから僕は例え音神の息子だとしても奏汰に話しかけてみたいって思ったんだ」

「そう、だったんだな。いやーびっくりした。特級を持つ子って他にもいるの?」

「今のところ陽介のみだ。ちなみに奏汰は特級一級だよ。全ての音を把握できるっしょ?」

「そりゃあ集中すれば聞こえるよってこれもあいつと関係してるの?」

「そう言うこと。んじゃ僕は上に報告しにいくから午後の授業に遅れないように。今日は特別授業だからね」


 その言葉でげっと顔をする陽介であり、静瑠っちはじゃあまた後でと手を振りながら食堂を後にした。

 昼食を終え特別授業ってどんなもんと聞くと地獄だよと陽介が言う。

 地獄ねえと教室に戻ると俺の机に新品の体育着があり、それに着替えて第二体育館へと行ってみると普段とは違う体育館。いろんな岩がたくさんありクラスメイトはとても暗い表情をしていた。

 みんな来たねとジャージ姿の静瑠っちが来てやることを説明してくれる。

 十キロのアンクルウェイトをつけ、岩を音霊と例えて岩が砕けるまで授業は終わらないらしい。この岩はとても頑丈に作られているらしくそう簡単に砕けないんだそう。へえ楽勝じゃねえ。

 それぞれ武器を持っているがそういや武器持ってねえと静瑠っちと叫ぶ。

「どうした奏汰」

「俺の武器は?」

「これを使って」


 遠くから投げてきたのをキャッチするとナイフが入ったケースだ。それぞれ班となりさっき聞いたところ俺の班は陽介と同じD班らしい。

 よしやるぞと両足にアンクルウェイトをつけて立ち上がる。しかしみんなはよろよろとよろけてどうしたんだろうか。普通じゃねえとスタスタ歩いて岩の前に立つ。

 音式を歩きながら陽介が教えてくれた一つをやろうかな。二本指をナイフにつけて音を込める。


高音砕一線こうおんさいいっせん


 刃の色が変わりこれでいいのかなとナイフを構え、空中に浮き頂点をぶっ刺すと高音が鳴り響く。するとパッカーンと真っ二つに開き、よっしゃーと喜ぶとみんながえーと驚愕の表情をしていた。

 どうしたみんなと見ていたら、静瑠っちが大笑いする。そんなに面白いもんかと照れ臭いなと頭を掻いていたら、陽介がこっちに来て耳元で言った言葉。


「異常すぎ。これそう簡単に壊せないように静瑠さんが仕掛けた静音を後も簡単に壊した。いつかは静瑠さんを超える日が来るかもね」


 それまじかと静瑠っちをみるといいねいいねと拍手してD班はもう終わったから自由時間ねと静瑠っちが言う。


「さすがは僕が引き取った子だ。やればできる子を待ってたんだよー。今日はご褒美だ。何が食べたい?」

「肉!」

「じゃあ授業が終わったら食べに行こう。さっ他の班も負けないようにファイト!」


 よっしゃ久々の肉だとウキウキしながらアンクルウェイトを外して第二体育館へと出た。

 そしたら同じ班だったまだ名前も覚えてない女子二人に感謝される。


「ありがとう、音峰くん。あれあたしたちの力を協力し合ってもいつもビリだったの」

「うん。それなのに一人で静瑠さんの音を解除できるだなんて凄いな」

「他の班は四人体制。でも僕らはいつも三人だったからちょうどよかったのかもね」

「言われてみれば他の班も四人ずつだったな。これからは一緒にやろうぜ」


 仲を深めたことで俺が音式みたいと言ったら三人がじゃあと校庭の端っこで得意のやつを披露してくれた。

 一番最初は陽介で得意音は低音。


低音氷百花ていおんひょうひゃっか!」


 低音の音が鳴り響き、地面が凍りあちこちに氷の花が出来上がった。


「花に触れた音霊は凍りとなって灰となるようになっている」

「こうやってみるとめちゃくちゃ綺麗だな。人は触っても平気か?」

「やめといたほうがいいかも」


 何となくわかり俺は少し離れるとじゃあ次あたしと、最初に声をかけてくれた竹笛未佳たけぶえみかが披露してくれる。


高音炎矢吹こうおんえんやぶき!」


 せっかく作ってくれた氷の花に向けて矢を放つと一本だったのが複数に増え炎がぼっと花に当たっていく。これも凄いもんだなと興奮していると、じゃあと弱々しい声で前に立つのは弦谷皐月げんたにさつき


 どんなのを見せてくれるのかなと取り出した武器はライフルだった。こんなか弱そうな子がライフルを使うとはねえ。身体を低くしてどこを狙うんやらと音を込める。


微音風疾風びおんふうはやて!」

 

 撃つと風が素早く吹き葉っぱが激しく揺れた。見せてもらったけどどれもかっこよくていい。俺も早くいろんな音覚えてやってみよう。


「三人ともいいな。俺も早く全ての音できるように頑張るよ」

「実は言わなくちゃって思ってたことがある」

「なんだ陽介?」

「静瑠さんから聞いてないっぽいね。あの人すぐ忘れっぽいから」

「実はね授業や実践で使える音は一つって決められているの。私は微音、未佳ちゃんは高音、陽介くんは低音。他のみんなも三種類のどれかを使ってる」

「まじで?」

 三人は同時に頷いて嘘だろと相当ショックを受け、自分にあった音じゃないと発揮ができないっぽい。

 

 今回は気まぐれで、できたことだと思うって陽介言ってたしな。自分にあった音かと放課後、再び第一音楽室で鍵盤にあるドを奏でる。俺は幼少期ピアノをやっていたからどれも似合うよな気がしてきた。

 高音、低音、微音、そして限られた人しかできないとされている静音。

 班としてやるとしたらやっぱり静音しか残ってなさそうだ。

「奏ちゃん」

「唄、どうした?」

「放課後はやっぱり音楽室にいるかなーって思って来たらやっぱりいた。思い詰めた顔してどうかしたの?」

「今日、初めての授業で色々学んだけど、俺がどの音でやったほうがいいのかいまいちわかんない。唄はどの音でいつも倒してる?」

「私は静音かな。静かな音が私にしっくりきてたからそれをずっと使ってる。でも申請すればいつでも音は切り替えられるよ。実際に使ってみてこれじゃ合わないって思ったら、変えてみたらいいんじゃないかな。みんなそうやってやってると思うし」

「そうなの?」

「うん。音にはいろんな音があるからね。学校が終えたら隊員になることで自由自在に使えるみたいだよ」


 ふうんそういうことかならまずは高音の技を磨いて行こうと高音の音を奏でる。


「一曲、付き合ってくれる?」

「久々だな。いいぜ」


 ピアノの椅子に座り音を奏でていくと唄が歌い出す。相変わらず声が良すぎだよ。唄が歌う歌詞に合わせながらピアノを弾いていると懐かしいと父さんの声が聞こえた。

 父さんも聴こえるんだと楽しくやっていたら、静瑠っちと陽介たちがやって来て唄が歌うのをやめる。


「続けててもよかったのに」

「静瑠っち、邪魔しないでよ」

「ごめんごめん。これから焼肉屋行くけど唄も来るかい?」

「うーん、今回はいいや。お父さん一人にするとやばそうだもん。陽介先輩、奏ちゃんをよろしくね。奏ちゃん、またやろう」


 唄は俺に手を振りながら第一音楽室を出て行き、静瑠っちがよく行く焼肉屋さんへと連れてってもらった。

 俺たちの班だけっぽいけどいいのかなと念のため静瑠っちに確認すると、まだ砕けていないから置いて来たらしい。みんなどんまいと思いつつ、到着して俺らはご褒美をいただいていった。   

 


 焼肉、お父さんも連れて行けばよかったかなって思いながら、ノックをしてお父さんがいる理事長室へと入った。静瑠っちが言っていたようにずっと外を見つめている。

 本当のことなんだとお父さんを揺さぶっても、手を振っても反応をしてくれない。この前、音神災人がお父さんの目の前に現れたらしく、この時間帯を動かさないように音をかけた。

 だからこの時間帯になるたびに理事長室に引きこもり、外を眺めているうちにかかって動かなくなっちゃう。

 その場にいた静瑠っちは静音をかけていたこともあり、音神の音にはかからなかったと言っていた。お父さんは今、過去の記憶を見ている。

 私もどうせならあの頃に戻りたいよと私はそっと扉を閉めて、自分の寮へと帰ることにした。

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