涼しいと思うことすら、久しぶりな気がする。
前までの僕だったら眠れない夜にタバコを吸いがてら散歩をするなんて考えられなくて、眠れないのは今日の夜にご飯を沢山食べたからか、それとも十二時頃に沢山寝てしまったからなのか分からないけれども、とにかく僕が眠れずに夜散歩をしてしまったのは事実だ。
大学の友達が「小説の始まりはみんなが共感できるような文章で始まる」と言っていたけれど、僕のこの文章は誰にも当てはまらないような気がする。さっき焚いた金木犀のお香の残り香が凄くいい匂いで、外から吹いてくる涼しい風と相まって僕の気持ちをいつもよりも幾分かセンチメンタルにさせる。
涼しい、と思うことすら久しぶりな気がする。
君と別れて、自分の中の好きという気持ちの正体を確かめる時間が増えた。君が僕に注いでくれた好きは間違いなく百点に近いものだったけど、僕が君に注いであげた好きは三十点くらいだった気がする。いや、百点に近い時もあったし、〇点に近い時もあったというのが正しいかもしれない。僕は君に対して一定の好きを注ぐことができなかったけれども、それを愛だなんだという言葉でごまかして、最後の最後になるまで君と向き合わなかった。
君はよく「私のことそんなに好きじゃないでしょ」と言って僕を困らせた。僕は変なところで正直な人間だったから、君が冗談めかして質問するときも、目を涙で濡らせて質問するときも、必ずいつも同じ答えを言った。
君と別れて自分がこんなに感情的になるとは思ってもいなかった。それも一時の感情だってことを僕は知っている。君は初めての恋愛だから、この気持ちが薄れてしまうことを悲しがるかもしれない。だけど二人で過ごした時間は、同じだけの時間が過ぎれば殆ど無くなってしまうんだよ。今はつらいかもしれないけど、それぞれがまた同じように誰かを好きになって、幸せになれる日は絶対来るんだ。
でも、それが悲しくて、いま泣いてる。