第五十手「海へ」
なんと…ネット小説大賞九、選考突破してしまいました…。
お、驚きです…2年連続通過に見間違いじゃないかと何度も目を細めますが、やはり私の名前と竜の横歩の作品名が…
本当にありがとうございます、皆様の応援のおかげです。
これからも竜の横歩を沢山更新していけるように頑張りますね…!
前回の答え合わせ及び解説。
ep8【龍馬見参】
正解は
▲2八金、△1九玉、▲2九金、△同玉、▲3八馬、△1九玉、▲2八馬!
馬の効きを通すために▲2八金、▲2九金としてあえて金を捨てる手!これが見えたら優秀です。
今回のような『入玉型』は実践でも非常に詰みづらいとされていて難解な局面になりやすいです。特に将棋の駒というのは基本前に行くように出来ているので後ろ(自陣側)を攻めるには向いてないのです。
なので龍や馬と言った"前も後ろも平等に効きがある駒"というのはこういう『入玉型』の時に重宝されます。
覚えておくと便利ですね!
ベトナムで捕まった20歳男性の日本人、無職ニート。現在は将棋団体を運営する怪しげなハゲオヤジから金を渡され、それを生活資金に一軒家で暮らしている模様。罪状は未成年女子中学生に対してのわいせつな行為。
──なるほど、これは地獄だ。
連行されるように連れ去られ、意気消沈しながら車に乗り込んだ俺はこれから述べられるであろう罪状を真っ青な顔で思い浮かべていた。
男とはとてもつまらないところで人生の終わりを迎えるものである。誠に遺憾である。
「……」
まぁ、そう思っているのはどうやら俺だけのようで。
「~~♪」
俺の隣に座っている麗奈は、鼻歌を歌いながら三脚カメラの組み立てを行っていた。
「段々見えてくるわね。師匠、窓の外を見てみなさい」
「ん? 窓の外……?」
眩しい太陽の光に目を細めながら窓の外に目を移す。
空洞のような長いトンネルを抜けた先、眩しい光が額を直射する。そこで見えてきたのは光り輝く水色の世界だった。
「これは、海か……!」
何もない、青と白の美しき世界。大地と海の果てしない境界線。
陽の反射によって星のように煌く海に、俺の目は釘付けだった。
「どう? すごいでしょう?」
「ああ。これはなんというか、言葉を失うレベルの綺麗さだな……」
ブルーサファイアというのだろうか、若干緑がかった水色の海にまるで映画でも見ているかのような感動を覚える。
海に行った経験もほとんどない俺からしてみれば、その水面に浮かぶ光の反射によるキラキラはまるで宝石のようだった。
「……ていうか、俺逮捕されるんじゃなかったのか」
「え、逮捕? 師匠また何やらかしたの? まさかお腹の空きすぎで盗み食いしたとか?」
またってなんだよまたって、一度もやらかしてないわ。あと盗み食いもしたことないわ。
しかも若干吹き出しそうになりながら笑いを我慢してやがる。まさか麗奈のやつ、ワザと俺を騙すような真似をしやがったな。クッソ、あとで絶対泣くほどからかってやる。
口元を抑えてニヤケ顔をする麗奈に対し、俺はそう心に決めたのだった。
それからすぐに、なんで車に乗ってからずっと顔真っ青にして黙ったままなのかと、そう心配になっていた黒ずくめの男達に顔を真っ赤にしながら事情を話したら、大笑いされて肩を組まれた。
ずっと緊迫した空気が流れていたのも、体調が悪いのかと俺を心配していて強ばった表情をしてしまっていたらしい。麗奈は真横でお腹を抱えながら笑い転げていた。
どうやらこの黒ずくめの男達は警察というわけではなく、麗奈の知り合いで親戚の家系に連なる身内の方々らしい。
男達は体付きこそ2m近い大男だが、根は優しく気遣いもできる良い人達。なので麗奈には罰として移動中はずっと通訳をしてもらい、現地の大男達からここベトナムの風習や歴史など様々なことを教えて貰いつつ、車での移動を楽しんだのでしたとさ。めでたしめでたし。
というかこれだけ頼りになる大人たちが知り合いにいるのなら、なんでわざわざホテルを取ったんだよ。いや、そもそも麗奈は俺を襲うのが目的だったんだっけ……。
「麗奈のそういう無意味なまでの行動力を見習いたいよ……」
「?」
なんのことかと天然顔を見せる麗奈に俺はため息をつき、再び海の方を眺めた。
「うおおお……」
本当に綺麗な海だ、それにもう10月だというのに寒さすら感じない。
「tạm biệt Reina quý bà(では、また)」
「はーい」
言葉が通じなくても優しい大男達に別れを告げ、俺と麗奈はベトナムでも端の端、東に広がる大海へと到着した。
「ウェミダー!」
アホみたいな奇声を発して俺は大海原へと駆け出す。そして子供のように恥ずかしげもなく砂浜に足を付けた。
周りには一切人の気配がないし、麗奈の前で取り繕っても大して意味はないので精一杯楽しもう。うん、もうプライドねぇや。
「それにしても、この季節に海に入れるなんて思わなかったな」
「ここは10月でも暑いからね、このくらいの時期に海に入るのがベストなのよ」
なるほどなぁ。日本の感覚と違って秋頃がベストな国もあるということか、町並みといい食事といい、異国の体験はそれだけで勉強になるものだな。
「はい、これ師匠の」
麗奈はそう言って、まるで当然とばかりに俺のために買ってきたであろう俺のメンズ水着を俺に渡してきた。
「お前は俺のお母さんか、なんでサイズ知ってんだよ……」
「はっ、本気のお母さん力舐めんじゃないわよ」
「なんでキレ気味なんだよ」
観察眼や洞察力というのは若い頃が一番というが、麗奈は俺のことなんでも知ってそうだな。ここまで来るともう色々とヤバイ秘密もバレてるんじゃなかろうか。
てかこれ弱み握られてね?
「もしかして俺は麗奈の手のひらで転がされているのか……!?」
「あんまり転がらないけどね、回転力が足りないわ」
「うっせ」
茶番めいたやり取りを済ませ、俺は目の前に広がる広大な海を眺めた。
「それにしてもこんな天気の良い日に誰もいないなんて、随分と運がいいな」
「そりゃそうよ、ここ私の所有地だし」
「……え?」
海に連れてこられたことでさえ驚愕に頭が追い付いていないのに、この中学生今なんて言った? 所有地? 所有地って言ったのか?
「なんでそんなドン引きしてるのよ」
まるでお偉いさんの令嬢でも見るかのような目で、俺は麗奈から距離を取る。
「麗奈、お前やっぱ金持ちだったんだな……」
「働かなくても生きていけるお金はあるって言わなかったかしら」
「いや想像の上を突き抜けてふん反り返るレベルなんだが」
もしかして麗奈は本当にどこかのお嬢様なのか? 作法もやけに上品だし、性格はたまに小悪魔っぽいけど無駄に気品さがある。
個人的には鈴木会長の財力もどうなってるのか気になるんだけど、麗奈もとい舞蝶家の方から手回ししている可能性を考えると、麗奈がお金持ちというのも分からなくはない。
ともかく、海外に一飛びできて、現地にSPのような知り合いがいて、こんな広大な海辺を持っている。これ相当な財政を為しているんじゃないか? その気になったら俺の首簡単に飛んだりするんじゃなかろうか。
「まぁ所有地というと語弊があるけどね、契約上そうなっているだけでただの貸し切りみたいなものよ」
貸し切り、という単語を聞いて錯綜していた思考が僅かながら現実感を取り戻した。
「そ、そうだよな、貸し切りだよな。それならまだ分かる、うん、分かるぞ。大丈夫、俺はまだ話についていける……」
そう言って平常心を保とうと、続けて麗奈に質問した。
「因みにどのくらい貸し切ってるんだ? 数時間くらい?」
「数週間くらいね」
「……ん"っ?」
喉になんか詰まった。
今回で竜の横歩は50話を迎える事が出来ました。
これからも是非楽しんで行ってくださいね!
ここまであなたは3手、5手、7手と詰将棋を解いてきました。
簡単でしたか? 大変でしたか? 今回は7手詰でも高難度の問題、いわば最終試験です。
この問題が解ければあなたは7手詰めをマスターしたといってもいいでしょう。
詰将棋の基本が詰め込まれたこの問題、解けるものなら──!
ep9【逆鱗に触れない仕留め方】
難易度:2級
ヒント:7手詰め
麗奈「詰将棋の基本は『捨てること』と『取らないこと』よ」
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