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【竜の横歩】地区大会すら勝てない俺が美少女を弟子に取りプロを目指すなんてそんなうまい話あるわけが…  作者: 依依恋恋
来襲・二人の出会い編

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第十二手「苦難の末」

さて、前回の問題の答え合わせです。


挿絵(By みてみん)


この局面で先手が指すべき次の一手でしたね。

正解は──7七飛打!


挿絵(By みてみん)


この一手です、この一手しかないです。

7七銀や7七桂は全て角を切られて3枚替えとなってしまいますし、4八玉や6八飛などは8八角成とされてしまいます。

7七飛打に同角成は同銀と取って先手指しやすいです。形が整ったこちらとバランスの崩れた相手の陣形では隙の差が大きいですからね。

飛車は攻める駒として認識が多いですが受ける駒としても優秀です、局面を見極め一番使うべきポイントで使っていきましょう。


それでは本編、どうぞ!


 

 麗奈が俺の弟子になってから2か月。

 師匠とは名ばかりの俺は毎日のように麗奈の振り飛車にしごかれ、余った時間で今度は俺が麗奈に横歩取りを教え込む。


 そんな日々が続いていた。

 だがある時俺は、ふと大事な事に気が付く。いや、逆にどうして今まで気が付かなかったのか。


「……なぁ麗奈、ひとつ聞いていいか?」

「何かしら」


 今は9月の後半、もうすぐ10月に差し掛かる頃だ。

 そして麗奈は中学生。……学生だ。

 最初は夏休みだと思って気にしていなかったが、一向に俺の家から出ようとしない麗奈に疑問が浮かび上がる。


「……学校は?」


 俺の問いに麗奈は心底興味無さそうに答えた。


「行ってないわ」

「え、マジで?」


 平然と答えられて動揺した。

 高校ならまだしも、中学校は義務教育の範疇だ。

 麗奈は見るからに虐められるような体質ではない、頭が悪くて授業についていけないということもないだろう。

 ということはやはり……本気でプロを目指すからか。


「それを家族は了承したのか」

「ええ。それに私の家は財政的にも恵まれているし、下手すれば一生働かなくても問題ないしね」

「うわぁ、羨ましいな。俺もそんな人生送ってみたかったわ」


 思えばプロを目指すわけでも無いのに将棋から離れる事が出来なかった俺は、この歳でバイトをしてるような落ちこぼれだ。

 鈴木会長が金銭面の助力してくれなかったら、今でも必死に毎晩レジを打っていただろうな。


「いつから行ってないんだ?」

「小学校卒業した後ね。将棋自体は小学生の時から始めていたけれど、一応区切りはつけようと思って」

「なるほどな」


 詰将棋の問題を解きながら朝食を食べている麗奈だったが、パタンと本を閉じて苦笑する。


「……ごめんなさい、本当はただの強がり、余裕のない状況に焦っているだけよ。私は勉学と両立できるほど優れているわけじゃない。月を見て満足している人達と違って、私は月に手を伸ばそうとしている。その代償はきっと大きいものよね」

「否定はしない、だがきっと叶うさ。いや、絶対叶えるんだったな」

「そうね、絶対に叶えるわ」


 麗奈の瞳は最初に出会った頃から変わっていない、夢を叶えようとしている目だ。そしてその信念は、誰かの言葉によって曲げられるものじゃない。

 麗奈が自ら考え切り捨てた道というのなら、俺からどうこう言うものじゃないな。


「ごちそうさま」


 食事を終えると、麗奈が宣伝やら選挙やらのチラシの中から一枚、将棋関連のチラシを取って渡された。


「そういえば大会のチラシが届いてたわよ」


 チラシの内容は、地区の将棋大会についての案内だった。


「もう大会か? 前回からまだそんなに経ってないのに」

「主催者が違うんじゃない? 将棋の大会は種目を問わなければ年に数十回以上あるし」

「そりゃそうだけど……って主催者鈴木会長じゃないか」


 一番見えづらい所に『主催者:鈴木哲郎』と書かれた文字を見つける。


「大会開催日は10月下旬か」

「まだ時間あるわね」


 時間がある。それはまだまだ特訓しなければならないということ。

 将棋に限界はない、人類の英知程度じゃ断片も将棋の真理には追いつけない。だからこそ積み重ねる事に意味を見出せる。

 俺はこの大会にもちろん出るつもりだ、だが麗奈はどうなのだろうか。


「麗奈はこの大会、出るのか?」

「この大会は地区大会のみで県大会に続いていないわ、だから今回は不参加ね」


 その答えにほんの少しだけ安心した。

 麗奈が大会に出るとなると俺と当たる可能性も出てくるわけだし、正直それは勘弁だ。


「それじゃ、今日も対局始めるわよ」

「ああ!」


 ◇◇◇


 それから1ヵ月が経った。

 秋の寒さが押し寄せ、駒を掴む手が段々と冷えてくる時期。

 正直限界までやりきった。

 1日15時間、食事と睡眠以外の全ての時間を将棋に費やした。麗奈との対局数は300局を越えただろう。


 その間に何度も対振り飛車の形を叩き込まれた、何度も対抗型を経験させられた。

 トラウマにトラウマをぶつける荒治療、正直自分の棋力が上がっているのかどうかはまだ実感がない。

 だけどこの大会は絶対に勝たなければならない。麗奈の為にも、俺自身の為にもだ。


 大会の会場へ着くと、大勢の参加者が試合前のウォーミングアップを始めていた。

 本を読んで定跡を叩き込む者、練習将棋でわざと隙を見せ心理戦を誘う者、その将棋を傍からずっと観察する者。


 会場内は開始前から既にピリピリとした空気が張り詰めている。


 勝負はもう始まっているのだと、理解させられる。

 そしてこの大会は地区大会とはいえ有段者クラス、稀に有名大学卒のような天才も出てくる。

 そんな中で自分は本当に勝ち上がれるのか、一勝でも勝ち取ることが出来るのだろうか。そんな事を考え始めたら自然と右手が震え始めてしまう。


「怖い?」

「少しな」


 麗奈が隣に寄って、震えている俺の手をそっと握る。


「大丈夫よ、きっと勝てる。信じなさい、自分の力を」


 (かじか)んだ手を包むように暖かい感触が伝わる。

 俺はゆっくりと深呼吸して緊張をほぐした。


「ありがとな、麗奈」

「応援してる」


 暖かいその手を離し、受付へと向かう。勝負師の瞳へと入れ替える。

 受け付けの周りには雁首揃えて群がっている地区大会常連の面子。その柔らかな表情とは裏腹に、みな確固たる自信をもって臨んでいるのが分かる。


 俺はその中へ割り込むように入って行った。

 さあ、始めよう──。地区大会すら勝てなかった男による、一歩目の逆襲を。

次回から『地区大会編』に突入するため問題は一旦お休みです。

その分図面は沢山入れていきたいと思います。

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